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声明・意見書2006年度

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高金利の引き下げ等を求める意見書

衆議院議長 河野 洋平 殿
参議院議長 扇  千景 殿
内閣総理大臣 小泉 純一郎 殿
自由民主 総裁 小泉 純一郎 殿
民主党代表 小沢 一郎 殿
公明党代表 神崎 武法 殿
日本共産党委員長 志位 和夫 殿
社会民主党党首 福島 瑞穂 殿
国民新党代  綿貫 民輔 殿

2005年(平成18年)5月16日

札幌弁護士会会長 藤本 明

意 見 の 趣 旨

札幌弁護士会は,下記事項の実現を強く求める。

  1. 出資法所定の金銭の貸し付けを行う者が契約できる利息の割合の上限をすべて利息制限法所定の年15ないし20%の利率まで引き下げること
  2. 貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止すること
  3. 日賦貸金業者,電話担保金融及び質屋営業に認められている特例金利を撤廃するとともに,保証料を徴求して,出資法及び利息制限法を潜脱することへの規制を行うこと

意 見 の 理 由

1 はじめに

 2003(平成15)年7月成立した,ヤミ金対策法(貸金業規正法及び出資法の一部改正)附則12条は,その施行後3年を目途として,貸金業制度及び出資法の上限金利等の見直しを行うこと定めており,本年中に,出資法の上限金利等の見直しに向けて,法案が国会に上程される見通しとなっている。

 当会は,同法案上程に当たり,次項以下に記載する深刻な金融被害の解消のため,意見の趣旨記載の内容の法改正が不可欠であると判断し,その実現を強く要望するものである。

2 現在の被害の状況

(1)借入者の実態

 消費者金融からの利用者は,消費者金融系の信用情報センターの登録件数から推計すると約2000万人にも達し,日本の就業人口の3~4人に1人が利用していることになる。ほとんどの借主は,消費者金融の貸付金利年25~292%の高金利が利息制限法に違反し,支払う必要のない金利であることを理解しないまま返済を継続している。業界の発表でも平均借入期間65年,利用者の3割が10年間以上利用しているとされている。

 我々弁護士の経験的な理解によれば,借主の返済金から利息制限法所定の上限利率を超過した部分を元本に組み入れて正しく計算しなおすと,6年間程度の利用 期間でほとんどが完済され,それ以上の長期間にわたり返済を継続すれば,債務が消滅しているにもかかわらず,それを知らないまま,貸付金への返済という名目で支払いをしてことになる。すなわち,2000万人の利用者の3割に当たる600万人は支払義務がないことを知らずに,支払いを継続していることになる。

(2)深刻な被害

 多重債務問題は近年ますます深刻化している。個人破産申立件数は,2004年までの過去4年間に各年20万人を超え,昨年でも約18万人余,過去5年間の累計は約100万人に上り,潜在的な破産予備軍も150万~200万人と言われている。さらに,2004年の経済・生活苦による自殺者は約8,000人にも達し,その中には,既に支払済みの事実を知らないまま返済に追われて自殺に追い込まれた悲惨な例も相当数含まれているものと考えられる。また,約30,000人にも及ぶ路上生活者の大半は多重債務が原因で,自宅に戻れず路上等で生活するようになったという調査報告もあり,離婚・児童虐待等の背景にも多重債務問題があることが指摘されている。

 多重債務問題は,もはや一個人の問題ではなく,社会問題の性格を持つに至っている。

3 多重債務問題の発生構造

(1)多重債務問題の発生原因

 多重債務者の増加は,貸金業者による利息制限法所定の金利を大きく上回る年25~292%の高金利での営業と無人契約機や大量のテレビコマーシャルなどにより,借金に対する抵抗感を失わせ,借り手の支払能力を精査せずに行う過剰融資に原因があることは明らかであるが,より根本的には,わが国の金利規制がかかる高金利の横行を許す構造になっている点に大きな問題がある。すなわち,利息制限法は,同法所定の制限利率を超える利息部分は民事上無効として支払義務を否定しているものの,出資法は,上限金利を超える利息の約定にのみ刑事罰を定め,その間の利息は,いわゆる「グレーゾーン金利」とされ,支払義務はないとされるが,貸金業規制法第43条は,登録貸金業者には「任意の支払い」など一定の厳格な要件を満たせば,グレーゾーン金利の取得を認めており,この2重構造こそが高金利を許容・助長する原因となっている。

 しかも,借主は,利息制限法所定の制限利率の超過部分につき,支払義務がないことを知らないまま,支払いを続けており,「消費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供され」ることを消費者の基本的権利と定めた消費者基本法第2条は,かかる高金利の金融取引の場面には実効性がまったく確保されていない現状にある。

(2)みなし弁済規定に対する司法判断と同規定廃止の必要性

 最高裁は,平成16年2月20日第二小法廷判決において,みなし弁済規定は厳格に解釈すべきであるとの判断を示し,利息制限法の厳守と,みなし弁済規定の厳格適用という大きな流れをもたらした。

 さらに,最高裁は,本年1月13日第二小法廷判決,同月19日第一小法廷判決,同月24日第三小法廷判決と,相次ぐ同旨の判決をもって,「債務者が制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,当然に期限の利益を失い,一時に元利金全額を支払わなければならない」との期限の利益喪失特約の存在は,債務者に対し,制限超過部分の利息を支払うよう事実上強制するものであるから,「原則として任意の支払とはいえない」という画期的な判断を下した。ここに,みなし弁済規定は,ほとんど適用場面がない状況となったといえる。

 最高裁の上記判決の意義は,利息制限法こそが高金利禁止の原則であって,支払義務のない制限超過の高金利の取得は容易には許容できないという原則を表明し,事実上,みなし弁済規定を死文化した点にある。みなし弁済規定は,支払義務のない利息を人の誤解等のもとに事実上支払いを強制し,実質的に利息制限法の違反を許容する機能を果たして来たことが白日の下になったが,貸金業者は,上記一連の最高裁判所判決後も,依然として同様の高金利での営業を続けており,同規定の廃止は急務の課題である。

(3)特例金利の撤廃の必要性

 現行法は,貸金業者のうち,質屋・日賦貸金業者・電話担保金融につき特例を設け,刑罰対象利率を,質屋につき年1095%(閏年は年1098%),

 日賦貸金業者・電話担保金融につき年5475%(閏年は年549%)としたうえで,上記利率をみなし弁済規定の上限利率としている(質屋営業法36条,出資法附則第10条8項,同条14項)。しかし,いずれも,特例を認めるだけの立法事実は存在せず,かえって,高金利徴求の隠れ蓑として脱法行為が横行しており,もはや特例金利を残すことは許されない。従って,これら例外措置は撤廃されるべきである。

(4)脱法的に徴収される保証料に対する法的規制の必要性

 約定利息以外に徴収される保証料が出資法及び利息制限法の脱法として利用されているケースも多く,これを法的に規制する必要性は高い。

4 まとめ

 札幌弁士会は,これまで多重債務問題解決のために鋭意努力を続けてきたが,利息制限法の規制に違反する違法な高金利の横行を根絶するためには,貸金業規制法第43条のみなし弁済規定を廃止し,利息制限法所定の制限利率を超過する利息の約定に刑事罰を科すために出資法の上限金利を利息制限法所定の制限金利まで引き下げ,特例金利の撤廃すること,さらに,約定利息以外に徴収される保証料が出資法及び利息制限法の脱法として利用されていることについて規制する行うことは,もはや緊急かつ必要不可欠であると判断した。

 そこで,札幌弁護士会は,緊急の課題として,出資法の上限金利を現行の利息制限法所定の制限利率まで引き下げることなどを内容とする当意見書を採択し,国に対して,高金利引き下げ等の具体的実現を求めるものである。

 札幌弁護士会は,市民とともにこの要求を実現するために全力を尽くす所存である。

以上

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