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声明・意見書2007年度

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死刑執行に関する会長声明

2007年9月7日

札幌弁護士会 会長 向井 諭

本年、8月23日,東京拘置所において2名,名古屋拘置所において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。

今回の死刑執行は、昨年12月の4名,今年4月の3名に続くもので,ここ約8か月の間に合計10名となった。1993年に死刑の執行が再開されて以来、執行された者は57名に達している。当会は,これまで、死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう要請し,声明を発表してきた。にもかかわらず行なわれた今回の執行は誠に遺憾である。

死刑については,1989年12月の国連総会で採択され1991年発効した死刑廃止条約に基づき,1997年4月以降毎年,国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い,その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに,死刑の完全な廃止を視野に入れ,死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行ってきた。それに伴い,死刑廃止国は着実に増加している。1990年当時、死刑存置国96か国,死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)だったものが,2007年8月8日現在,死刑存置国67か国,死刑廃止国130か国となっている。しかもアメリカ合衆国の死刑存置州でも、死刑の宣告数、処刑数が減少しており、アジアにおいてもフィリピンは1994年に一旦復活させた死刑を再び廃止し、韓国、台湾などでも死刑制度の廃止や執行の停止が検討されている。欧州連合(EU)は、8月22日、アメリカテキサス州での死刑の執行についてその停止の呼びかけを行なうなど、死刑廃止や執行停止が国際的な潮流となっていることは明らかである。

そして、国際人権規約委員会は、1993年11月と1998年11月の2回にわたり、日本政府に対して、死刑廃止に向けた措置をとるように勧告している。さらに2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題を指摘した上で,死刑の執行を速やかに停止するべきことが勧告されている。今回の死刑の執行は,この最終見解・勧告にもかかわらずなされたものであって,我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言する行為に等しい。

我が国の死刑制度については、4つの死刑冤罪(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。このような誤判を生じるに至った制度上,運用上の問題点について,抜本的な改善が図られておらず,死刑誤判の危険性は依然存在する。また,死刑と無期の量刑について明確な判断基準が存在せず,量刑誤判の虞れも指摘されている。死刑の抑止効に実証もないまま重罰化の傾向も顕著であり、昨年1年間に死刑を言い渡された数は全国で44人に上り、最高裁で確認できる1980年以降では最多であった。このような重罰化の中で死刑確定者は100名を数え、大量の死刑執行が危惧される中での今回の執行であった。

日本弁護士連合会は,2002年11月「死刑制度問題に関する提言」を発表し,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし,また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。

特に、裁判員制度による裁判が始まろうとしている現在において、死刑制度の存廃について国民的議論を尽くすことは極めて重要な課題である。
当会は,改めて政府に対し,死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑の執行を停止するよう,重ねて強く要請するものである。

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