現在の位置: ホーム > 札幌弁護士会とは > 声明・意見書(2007年度) > 2007/07/31

声明・意見書2007年度

前の意見書へ 一覧へ戻る 次の意見書へ

「産業構造審議会消費経済部会特定商取引小委員会中間とりまとめ」
に対する意見書

2007年(平成19年)7月31日

経済産業省商務情報政策局商務流通グループ消費経済政策課
パブリックコメント担当 御中

札幌弁護士会
会長 向井 諭

産業構造審議会消費経済部会特定商取引小委員会が2007年6月に公表した中間とりまとめ(以下「中間とりまとめ」という。)に対し、当会は、以下のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

  1. 訪問販売について
  2. (1) 個品割賦購入あっせんの方法による訪問販売業者を登録制にすべきである。

    (2) クレジットを利用した訪問販売に関しては、勧誘を開始する前に消費者側の勧誘を受ける意思の確認を求めなければならないとすべきである。

    (3) 個別的拒絶者に対する勧誘を禁止すべきである。

    (4) 事業者が消費者の判断力不足に乗じて契約を締結した場合や、適合性原則に反して勧誘を行い契約を締結した場合は、消費者に取消権を与えるべきである。

  3. インターネット通信販売を中心とした通信販売関係について
  4. (1) 広告メールを送付することについて承諾を得た場合以外には広告メールの送付を禁止する、いわゆるオプトイン規制を導入すべきである。

    (2) インターネットを利用した通信販売に関しては、返品ができることを原則とすべきである。

    (3) インターネットを利用した通信販売においては、販売者に対し、事業者か、個人かという属性を明確に表示させるべきである。

  5. 消費者団体訴権制度について
  6. 特定商取引法にも、消費者契約法と同様に消費者団体訴訟制度を早期に導入すべきである。

  7. 指定商品制・指定役務制について
  8. 訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売における指定商品制・指定役務制を廃止し、原則として全ての商品・権利・役務に関する契約を適用対象とすべきである。

第2 意見の理由

  1. はじめに
  2. 国民生活センターのPIO-NETに登録された特定商取引法の対象取引にかかる消費者相談のうち、訪問販売については高齢者被害の比率が年々高くなり、平成17年度においては、訪問販売に関する相談のうち60歳以上の相談者が占める割合は40パーセントを超えた。
    また、個品割賦購入あっせんを用いた訪問販売は、訪問販売に対する消費者相談の過半数を占めるなど、特に問題が多い。
    当会では、2005年9月に高齢者の次々被害に対する面談相談、10月に過剰与信に関する電話相談、12月には高齢者被害に関する電話相談をそれぞれ実施し、計27件という多数の事例が寄せられた。寄せられた相談についてはさらに調査を行ったところ、多数の特定商取引法に違反する事例が散見されたが、その中でも、高齢者を狙うリフォームなどの悪質訪問販売等の被害に遭った高齢者6名のケースが際だっていた。特定商取引法に違反する行為があっても、取消や無効にするなどの民事効がなく、あるいは悪質業者は離散、集合を繰り返し、実際に被害者の救済には結びついていなかった点が重大な問題であった。(それら特定商取引法違反が認められた案件については、当該事件を引き継いだ弁護士らが2005年12月5日、北海道に対し、特定商取引の公正、購入者等の利益が害されるおそれがあるとして、特定商取引法第60条1項に基づき、業者の指導を求める旨の申出を行っている。)
    また、「営業のために若しくは営業として」訪問販売で契約を締結した場合は特定商取引法の適用が除外されるところ(同法第26条1項1号)、かかる点を悪用し、個人事業主を狙った悪質な電話機リースの訪問販売にかかわるトラブルが急増したことから、経済産業省は、2005年12月に通達の改正を行い、「例えば、一見事業者名で契約を行っていても、購入商品や役務が、事業用というよりも主として個人用・家庭用に使用するためのものであった場合は、原則として本法は適用される。特に実質的に廃業していたり、事業実態がほとんどない零細事業者の場合には、本法が適用される可能性が高い」として、特定商取引法の適用範囲を明確化したが、悪質な電話機リースの訪問販売を撲滅するまでには至っていない。
    電話機リース被害の現状把握と被害救済を目的として、当会と北海道立消費生活センターとの共催で、2007年7月7日に電話機リース110番を実施したところ、30件近くの相談が寄せられたが、ほとんどが零細の個人事業者であり、電話機リースなど必要としないにもかかわらず、高額の契約をさせられりたり、次々とリース契約を締結させられるなどの被害の実態が浮き彫りとなった。
    これらの被害・トラブルを実効的に防止し、被害を救済するための方策を講じることは急務であり、そのためには特定商取引法について、以下のような法改正を早急に行う必要がある。

  3. クレジットを利用するなどの悪質訪問販売による被害の防止
  4. (1) 現行法において、訪問販売業者については登録制となっておらず、参入規制がされていない。
    この点、前述したとおり、国民生活センターのPIO-NETに登録された特定商取引法の対象取引にかかる消費者相談のうち、訪問販売については高齢者被害の比率が年々高くなっているが、我が国では少子高齢化が急速に進行していることからも考えると、このままの状態が続けば、かかる比率はますます高まるであろう。訪問販売等については、特定商取引法の前身である訪問販売法の立法当時から、規制を行っても減らないどころか、増えるという経過を辿っているのであり、「悪質商法の被害に遭わないためには、訪問販売に関わるな」という啓蒙をせざるを得ない状態にまで達していると言えよう。
    特に悪質な訪問販売業者が高齢者にクレジットを組ませることによって高額商品を購入させる案件での被害が著しい。

    (2) かかる現状に鑑みるならば、「中間取りまとめ」が指摘しているように、個品割賦購入あっせんの方法による訪問販売業者は全て登録制として、行政規制権限を強化することも必要と考えられる。
    この点、参入の条件が形式的なものであったり、中途半端なものであれば、逆に悪質事業者に対し登録業者であるとのお墨付きを与えるようなことにもなりかねないので、参入規制の導入に際しては、実効性あるものにするための制度設計を考えなければならない。
    また、この参入規制が、本来自ら加盟店を管理し、悪質事業者を排除する責任を負うクレジット会社にとって、登録業者であるが故に加盟店契約を締結したなどと、その責任を回避するための口実を与えることになってしまうのではないかという懸念もある。したがって、同時に、割賦販売法を改正して、クレジット会社に対し、与信対象となる加盟店の取引につき、その締結過程、内容、履行可能性などについて必要な調査を行い、不適正な取引にクレジット契約が使われることを防止すべき義務(不適正与信防止義務)や、それを怠った場合は行政処分の対象とするとともに請求権制限や損害賠償義務といった民事的効果を定めることを大前提とした上で、この参入規制についての検討を進めていくべきである。

    (3) また、訪問販売においては、勧誘規制として、公衆の出入りしない場所の勧誘(特定商取引法第6条4項)や迷惑な勧誘(特定商取引法施行規則第7条1項)を禁止しているが、実効性が図られておらず、訪問販売、特に高齢者の被害では、威迫困惑等に該当しなくても、次々と販売されるケースは往々にしてあるため、未然防止の観点が必要である。
    この点、不招請勧誘規制については、都道府県の条例で定める例も出てきており、消費者被害の未然防止を図るということから、国民的なコンセンサスが形成されつつあると言えよう。
    よって、少なくともクレジットを利用した訪問販売に関しては、勧誘を開始する前に消費者側の勧誘を受ける意思の確認を求めなければならず、個別的拒絶者(「訪問販売お断り」というステッカー等を自宅の表札の横に掲げておくこと等でも足りるものとすべきである。)に対する勧誘を禁止すべきであり、実効性確保のため、禁止した場合は行政処分や直接刑罰が課されるのは勿論のこと、契約を無効にする等の民事的効果を定める必要がある。

    (4) さらに、特定商取引法第9条の2第1項は、同法第6条1項の規定に違反して不実のことを告げ、消費者が告げられた内容が事実であると誤認して契約の意思表示をしたとき、又は同法第6条2項の規定に違反して故意に事実を告げず、消費者が事実が存在しないと誤認して契約の意思表示をしたときには契約の取消しができるとして、消費者に取消権を認めている。
    しかし、高齢者の被害では、記憶力や表現力が十分でないために取引状況の再現が難しく、かかる取消の主張をすることが困難な場合も少なくない。また、高齢者の場合は、上記のような場合に限らず、判断力の不足に乗じて契約を締結させられる場合や、知識・経験・財産の状況に照らして不適当であるにもかかわらず、業者の口車に乗せられて契約を締結させられる場合も多く、上記取消権のみではその保護が不十分である。現行法でも、判断力不足に乗じた販売の禁止(特定商取引法第7条3号、同法施行規則第7条2号)や、適合性に違反して勧誘を行うことの禁止(同法施行規則第7条3号)が規定されているが、違反しても行政処分が課されるにとどまり、取消権などの民事的効力は認められていない。
    そこで、高齢者の被害救済の実効性を高めるべく、業者がこれらの禁止事項に違反して契約を締結させた場合にも、消費者に取消権を認めるべきである。そして、前述のとおり、判断能力の不十分な高齢者は、記憶力も十分ではなく、証言も明確にならないことが多いことから、取消を主張しやすい規定にするために、客観的な基準を多く定立する等の工夫が必要である。

  5. インターネットを利用した通信販売における利用者保護のための方策
  6. (1) 特定商取引法の対象となる取引類型の中で、近年最も成長しているのが通信販売であり、その市場規模は年率10パーセント近い割合で急速に拡大しているところ、インターネットを利用した通信販売が、自宅からでも簡単にアクセスすることができることもあり、特に市場規模を拡大している。
    ただ、それに伴い、インターネットを利用した通信販売におけるトラブルも増加している。

    (2) この点、特定商取引法では,事業者は、電子メールにより広告するときは、受信者がメールにより広告の受け取りを希望しない旨を事業者に連絡するための方法を表示しなけらばならないこととなっているが(同法第11条2項)、かかる表示に対応して消費者が返信メールを送付すると、逆に迷惑広告等の集中を招いてしまうという実態がある。
    そこで、広告メールを送付することについて承諾を得た場合以外には広告メールの送付を禁止する、いわゆるオプトイン規制を設けるべきである。

    (3) また、特定商取引法では、商品引渡し・権利の移転後におけるその引取り・返還についての特約に関する事項(いわゆる返品特約)を表示しなければならないこととなっているが(同法第11条1項4号)、現行の特約のみを表示する返品制度は、返品が可能か不可能か、消費者に分かりにくいという指摘がある。
    そこで、返品ルールとしては、記載の有無を問わず原則返品を可能とし、その上で事業者が送料を負担するのか、返品が可能な場合の返品期間はいつまでか等の事項については事業者が選択できるようにして、これを表示するものとすべきである。

    (4) さらに、インターネット取引、特にインターネット・オークションにおいては、相手の姿が見えず、相手方が事業者か個人か分かりにくい。
    出品者が事業者であれば特定商取引法の規制を受けるが、出品者が事業者でなければ消費者間売買となり、特定商取引法の規制は受けないことから、相手方が事業者か個人かという点は重要である。しかし、実際の取引では、出品者が事業者か個人かが分かりにくい上に、個人資格でオークションサイトに登録しているが、反復継続して事業所得を得ている、いわゆる「隠れ事業者」がかなり存在していることから、本来であれば特定商取引法の規制を受けるべき取引が、その規制を免れているという事態も生じている。
    そこで、インターネットによる通信販売においては、販売者に対し、事業者か、個人かという属性を明確に表示させることが最低限の規制として必要ではある。

  7. 消費者団体訴訟制度の導入
  8. 消費者全体の利益を擁護するため、一定の消費者団体に事業者の不当な行為に対し差止請求権を認めた消費者団体訴訟制度が、「消費者契約法の一部を改正する法律案」として第164回通常国会に提出され、2006年5月31日に成立し、2007年6月7日から施行されている。
    従来、苦情相談の総件数に対して行政処分の件数が著しく少なかったことから、こうした状況に対応するための一つの手段として、消費者団体訴訟が市場の監視役として機能することが求められている。
    この点、特定商取引法の規制を受ける取引についても、行政処分や民事ルールによる是正・被害救済が十分に行われているとは言い難く、特に少額の被害においてはそうした傾向が顕著である。よって、特定商取引法にも消費者団体訴訟制度を可及的速やかに導入すべきである。
    その際、特定商取引法には消費者契約法とは異なり、行政処分についても規定されていることから、行政処分と消費者団体訴訟制度との調整が問題となるが、差止請求権の行使の前には消費者団体から経済産業省に通知することを義務づけるなど必要最小限度の調整に止め、消費者団体による監視・是正機能を尊重すべきである。

  9. 指定商品制・指定役務制の廃止
  10. (1) 現行特定商取引法は、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売においては政令指定商品・権利・役務制を採用しているため、同法の規制対象となるのは政令で定めた指定商品・権利・役務に関する取引に限られている。

    (2) そもそも、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に対する規制は、これら取引の形態に着目したものであるから、取引対象品目により適用の有無に差を設けることには合理性がない。

    (3) したがって、政令による指定制は廃止すべきであり、仮に法規制が不適切な取引品目があるとすれば逆に適用除外品目(ネガティブリスト)として規定すべきである。
    特に、近時は各種の分野において新しい商品やサービスが次々と出現しており、トラブルの未然防止が強く要請されるところであるから、指定商品・権利・役務制の廃止は速やかに行うべきである。

以上

前の意見書へ 一覧へ戻る 次の意見書へ

このページのトップへ