現在の位置: ホーム > 札幌弁護士会とは > 声明・意見書(2009年度) > 2009/11/30

声明・意見書2009年度

前の声明へ 一覧へ戻る 次の声明へ

岩見沢拘置支所の月形刑務所敷地内への移転に反対する意見書

法務大臣
会 長  千葉 景子 殿

平成21年11月25日
札幌弁護士会 会長  高崎 暢

第1 意見の趣旨

  1. 岩見沢拘置支所の月形刑務所敷地内への移転に断固反対する。
  2. 岩見沢拘置支所は、現在の建物を解体しその跡地に建設すべきである。

第2 意見の理由

  1.  平成20年秋、札幌矯正管区長及び月形刑務所長から、当会に対し、岩見沢拘置支所を月形刑務所内に移転すること(以下、「月形移転」と総称する)につき協力をするよう申し入れがあった。移転の理由は、

    ① 岩見沢拘置支所が老朽化し、未決拘禁者の防御権の確保及び生活水準の保障並びに職員の執務環境を確保することが著しく困難な状況である

    ② 拘置支所の適正な収容・執務環境を確保するため、拘置支所機能を月形刑務所敷地内に移転・整備し、業務の効率化を図る以外にない

      とのことであった。
  2.  この申し入れに対し、当会は、平成20年12月15日、月形移転は、被疑者・被告人の接見交通権の重大な侵害になることから絶対に承認できないこと、実質的な協議の継続を強く求める旨の意見書を、札幌矯正管区長及び月形刑務所長に提出した。

    ① 月形町と岩見沢市、札幌市を結ぶ交通機関の便は劣悪である。月形町と岩見沢市の降雪量は非常に多く、冬期間、交通が遮断されることがあり、接見が不可能となる。交通事情を理由にやむなく月形刑務所内での接見を中断したという事態も発生している。弁護人接見の機会の保障は、弁護人選任権を定める憲法上の要請である。

    ② 被疑者国選弁護制度が大幅に拡大された後は、この弊害は顕著である。特に否認事件において、弁護人は、冤罪を防止するため、被疑者・被告人の身柄を代用監獄から拘置支所へ移監させた上で頻繁に接見を重ねなければならない。

    ③ 弁護人接見の機会を奪う方向での施策は実質的な接見妨害といわざるを得ず、憲法違反の疑いを払拭できない。

    ④ 現在の岩見沢拘置支所は、岩見沢市の中心部に所在し、JR岩見沢駅にも近接しており、同拘置支所に収容される被疑者・被告人の刑事弁護の大半は岩見沢市または札幌市に事務所を有する弁護士が担当している。

    ⑤ 総人件費抑制のため業務の効率化を図るという理由は、被告人の接見交通権の侵害、憲法上の弁護人選任権を犠牲にするだけの合理性はない。
  3.  平成21年3月4日、札幌矯正管区長及び月形刑務所長名で補足説明書が提出された。
     同書面には、道内に所在する未決拘禁施設7施設と管轄地方裁判所間の平均距離を割り出し、月形に移転しても距離的に他の施設と比較しても接見が容易であるように書かれているが、そもそも接見交通権の保障という観点からは大いに問題がある184キロメートルも離れている地点を含めた比較であり、意図的な数字の操作と言わざるを得ない。また、同書面には、地裁滝川支部との距離は、岩見沢拘置支所が49キロメートルであるのに対し、月形町であれば40キロメートルとなり距離的には近くなるとの記述もある。しかし、滝川市と月形刑務所との間に定期路線はない。岩見沢市までの移動後、更に、月形町までの移動時間が加わわる。その上、降雪問題も全く変わらない。岩見沢市・月形町ともに、年8~12メートル近い降雪量があり,日本有数の豪雪地帯として、国から特別豪雪地帯の指定を受けている。
     当会は、これらの問題点を指摘した上、改めて、月形移転は実質上の接見妨害であって到底納得できないことを伝えた。
  4.  ところが、この間の札幌矯正管区及び月形刑務所の対応は、協議と称しながら、実質的に交渉権限のある担当者を臨席させることもなく、月形移転という既定の方針を弁護士会に押しつけるものであると言わざるを得ないような対応であった。
     例えば、平成21年6月12日、当会会員が岩見沢拘置支所及び月形刑務所の視察を行った際、前記補足説明書に記載されていた「現在地(岩見沢)建替えのため、支所に収容されている被収容者を、月形刑務所に一時的に収容するとした場合(中略)、相応の改修工事が必要となり、多額の経費を要することとなる」という点について、多額の経費とは具体的にどのくらいのものであるか質問したところ、「一切回答はできない。月形刑務所に一時的に収容することは考えていない」との対応であった。
     また、月形刑務所では、拘置支所建築予定地は既に整地済みであり、新築工事に向け、刑務所の外塀も一部は何時でも壊せるような暫定的構築物となっていた。
     このように、月形移転ありきとの姿勢は明らかであった。
     なお、岩見沢において現建物を解体しその跡地に新建物を建てることの期間・費用と、月形に一時的に収容した場合にかかる改修費用を比較検討することなしに、月形に全ての支所の機能を移転・整備させることが妥当であると判断することはできないはずである。ちなみに、その費用に関する参考資料が、遅まきながら、同年8月31日付で提出されている。
  5.  法務省は月形移転は業務の効率化を図ることにあるとするが、そもそも、経済効率性だけで考えるべき問題ではない。
     既述したとおり、月形への移転は、被疑者・被告人の憲法上保障された権利を侵害するものである。弁護人接見の機会を奪う施策は憲法違反というべきである。
     月形刑務所への移転が憲法上保障された被疑者・被告人の権利を侵害しないと言うのであれば、法務省がその合理性や必要性を説明すべきである。
     しかも、これまでの法務省矯正局の姿勢を見ると、極めて遺憾なことに、「単に弁護人が多少不便になるだけではないか」といった程度の問題意識しか看取できない。
     繰り返すが、月形刑務所への移転は、弁護人の接見交通権を実質的に侵害するという憲法にかかわるものであり、国家賠償請求訴訟の対象にさえなり得るほどの、深刻且つ重大な問題であるという点を認識されたい。
  6.  なお、福岡においては、平成7年2月、福岡矯正管区から小倉刑務所敷地に、医療刑務所・小倉少年鑑別所・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想」が発表され、これに対し、福岡県弁護士会・同会北九州部会は、矯正施設である刑務所、鑑別施設である少年鑑別所、無罪の推定の働く未決者の拘置施設である拘置所を併設することの問題点を指摘し、経済的合理主義ばかりが優先されてはならないとして反対運動を展開してきた。特に、裁判員裁判が開始されてからは、矯正施設である刑務所敷地内から被告人が護送されること自体、既決と未決との相違も知らないであろう裁判員に対し、無罪推定の原則を揺るがしかねない。
     以上の理由があってか、法務省は、本年6月、福岡矯正管区は福岡拘置所小倉支所の移転を断念した。
     無罪の推定の働く未決者の拘置施設である岩見沢拘置所を月形刑務所内に移転することの問題点は、北九州矯正センター構想と何ら変わるものではない。
     また、平成16年、久留米拘置所が建て替えられたとき、宇美刑務所敷地に建てられたプレハブに一時拘置所を移転した実例がある。
     当会が要求するのもこれと同様の方法であり、久留米拘置所でできたことが本件でできないというのは納得しがたいことである。

第3 まとめ

 よって、被疑者・被告人の弁護人との接見の機会保障という憲法上の権利を事実上侵害する岩見沢拘置支所の月形刑務所敷地内への移転には断固反対する次第である。岩見沢拘置支所は、現在の建物を解体しその跡地に建設すべきである。

以 上

前の声明へ 一覧へ戻る 次の声明へ

このページのトップへ