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声明・意見書2011年度

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地方消費者行政の充実・強化に対する国の支援に関する意見書

第1 意見の趣旨

  1. 消費者委員会は、地方消費者行政専門調査会報告書の内容にとどまることなく、地方消費者行政の充実・強化に向けた国の財政支援について、消費者庁関連3法成立の際に定められた附則及び附帯決議を尊重して、具体的な提言を行うべきである。
  2. 消費者庁は、上記附則及び附帯決議を尊重して、地方消費者行政の充実・強化にとって実効的な財政措置と施策を講ずべきである。
  3. 地方消費者行政に対する国の財政措置の具体的なあり方を検討する場合には、これまでの「地方交付税の基準財政需要額倍増措置」、「地方消費者行政活性化交付金」、「住民生活に光をそそぐ交付金」等の財政措置の効果や問題点を十分検討したうえで、地方自治体が消費者行政の充実・強化を着実に推進できるような財政措置を講ずべきである。
  4. 国は、地方自治体の消費生活相談員について、その専門性に見合った待遇のもとで安定的に勤務することができるようにするための制度を整備するとともに、雇止め回避の名のもとに消費生活相談業務を安易に民間委託する方向に流れることがないよう、慎重な施策を講ずべきである。

第2 意見の理由

  1. 地方消費者行政専門調査会等の報告書
    内閣府消費者委員会の地方消費者行政専門調査会は、2011年(平成23年)4月、「地方消費者行政専門調査会報告書」(以下「調査会報告書」という。)を取りまとめた。また、消費者庁の地方消費者行政推進本部のもとに設置された制度ワーキング・グループ(以下「制度WG」という。)は、同年1月、「地方消費者行政の充実・強化に向けた課題」(以下「制度WG報告書」という。)を公表している。
    調査会報告書及び制度WG報告書は、地方消費者行政の充実・強化に対する国の財政支援や政策の提案について、いずれも甚だ不十分な内容にとどまっている。
    すなわち、調査会報告書は、「広域連携については…消費者安全法の理念実現の観点から、国としても一定のひな形を示す必要。また併せて、財政上の負担の在り方を検討する必要」があるとするものの、国の財政負担の具体策については、「『地方消費者行政活性化基金』や『住民生活に光をそそぐ交付金』のように、地方公共団体の創意工夫に基づく裁量を発揮できるような財政措置を活用する方向で、具体的な在り方について検討する必要がある」と述べるにとどまっている。つまり、国による財政負担の具体的な内容には触れておらず、また、これまでの「地方消費者行政活性化交付金」や「住民生活に光をそそぐ交付金」のような方式で構わないとの意味に読める。他方、制度WG報告書は、「現在、政府においては、『地域主権改革』の取組が進められ、自治事務に対する『義務付け・枠付け』の廃止・縮小が進められ」ていることから、「仮に、何らかのメルクマールを示す必要があるのであれば、『地方公共団体への期待』、『事例紹介』といったものとすることが適切ではないか」と述べているにすぎない。
    また、消費生活相談員の処遇改善や雇い止めの回避についても、調査会報告書は、「消費者庁としては、各地方公共団体の長にあてて…具体的な指針を示すことにより、消費生活相談員の適切な処遇・研修機会の確保を図る必要がある」としているものの、その指針を実現するための国による財政措置の具体策は示されていない。制度WG報告書は、「国としては、『雇い止め』を行わず、長期的な観点から相談員の育成に取り組み、消費生活相談体制の充実を図っている事例を積極的に情報提供していきます」と述べるにとどまっている。
    そして、消費者委員会は、2011年(平成23年)4月15日付「地方消費者行政の活性化に向けた対応策についての建議」において、「内閣府特命担当大臣(消費者)、総務大臣等関係各大臣に対して、本報告書(引用者注:調査会報告書)の内容のとおり建議し、報告書において記載された各種施策の実施に向けて、早急な対応を求める」、「消費者行政の司令塔たる消費者庁において、関係省庁の対応を取りまとめ、本報告書に記載された各種施策を実施するための詳細な工程表を作成し、本年7月までに報告することを求める」としている。
    こうした内容については、消費者庁関連3法の約90時間に及ぶ国会での審議経過、それを経て成立した消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項及びこれに関連する附帯決議への認識が不十分であるとともに、ナショナル・ミニマムの確保の観点が不十分であると言わざるを得ない。
  2. 消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項及び附帯決議
    消費者庁及び消費者委員会設置法附則第4項は、「政府は、消費者庁関連三法の施行後三年以内に、消費生活センター(消費者安全法第十条第三項に規定する消費生活センターをいう。)の法制上の位置付け並びにその適正な配置及び人員の確保、消費生活相談員の待遇の改善その他の地方公共団体の消費者政策の実施に対し国が行う支援の在り方について所要の法改正を含む全般的な検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。」と定めている。
    その趣旨については、参議院の消費者問題に関する特別委員会において、学校教員や警察官などを最初は国が財源を持って全国に配置し、その後に自治事務とした経過があることを参考に、消費者行政についても相談員の配置基準や処遇などを国が定めて財源を保障する形にしてほしいとの指摘や、国から地方自治体への支援のあり方については、地方財政法の改正も視野に入れて検討し必要な措置を講じるべきであることなどが指摘されている。
    消費者庁関連3法案の審議は、その質疑の相当部分が地方消費者行政の充実・強化の問題にあてられた経緯があり、こうした議論を踏まえて、衆議院及び参議院の消費者問題に関する特別委員会附帯決議では、地方消費者行政に関連する数多くの項目が挙げられている。その主なものは、次のとおりである。

    「今後三年程度の集中育成・強化期間後の国による支援の在り方や、消費生活センターの設置、相談員の配置・処遇等の望ましい姿について、その工程表も含め消費者委員会で検討を行うこと。」(衆議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第19項)

    「今後三年程度の集中育成・強化期間後の国による支援の在り方や、消費生活センターの設置、相談員の配置・処遇等の望ましい姿について、実態調査等を行うとともに、集中育成・強化期間の取組を踏まえ、その後も適切な対応が講じられるよう配意し、工程表も含め消費者委員会で検討すること。なお、検討に当たっては、広域的な設置を含め地域の実情に応じた消費生活センターの設置、PIO-NETの整備、相談員の資格の在り方についても十分配意すること。」(参議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第24項)

    「地方公共団体の消費者行政の実施に対し国が行う支援の在り方について所要の法改正を含む全般的な検討を加えるに当たっては、消費者、生活者が主役となる社会を実現する国民本位の行政への転換を目指す消費者庁設置の趣旨にかんがみ、国と地方の役割分担など消費者行政の在り方についても併せて検討すること。」(参議院消費者問題に関する特別委員会附帯決議第30項)

    以上のとおり、前記附則及び附帯決議に照らせば、国会が消費者委員会に託したものは、法改正を含めて検討したうえ、財政支援を含めた具体的な施策を提言することである。施策の細部については消費者庁に委ねるとしても、骨格は消費者委員会が具体的に提示する必要がある。 したがって、消費者委員会は、調査会報告書を踏まえつつ、前記附則及び附帯決議を尊重して、地方消費者行政の充実・強化に向けた国の財政支援についての具体的な提言を行うべきである。
  3. 地方分権・地域主権改革との関係
    調査会報告書及び制度WG報告書が前記のような取りまとめにとどまったのは、政府が推進している地方分権・地域主権改革を重視したためと考えられる。
    しかし、政府の地方分権改革推進委員会は、2008年(平成20年)5月28日付「第1次勧告~生活者の視点に立つ『地方政府』の確立~」において、地方消費者行政の強化について、次のように提言している。

    「当委員会は、消費者行政推進会議の検討結果について聴取した結果、生活者の視点に立って消費者の安全・安心を確保する消費者行政を強化するためには、国の国民生活センターと地方自治体の消費生活センターを結ぶ迅速な情報収集ネットワークを早急に整備するとともに、事業所への立入検査や改善命令等の規制権限を生活者・消費者に身近な地方自治体に積極的に移譲する必要があると考えるに至ったので、ここに以下のとおり緊急提言する。国は、地方自治体の消費生活センターを法的に明確に位置付けその設置を促進するとともに、消費生活センターの設置と運営体制の強化に協力する意思のある地方自治体の取組みに対し、思い切った支援措置を行うべきである。」

    また、消費者庁関連3法案の国会審議においても、地方分権・地域主権改革の推進と地方消費者行政への財政支援との関係について、繰り返し議論されたうえで、前記附則や附帯決議が採択されている。
    地方消費者行政の充実・強化においては、ナショナル・ミニマムの確保の観点から、どこの地域の消費者であっても、いつでも専門的な相談を受ける機会が保障されるなど、消費者の権利が擁護されることが必要であり、そのために国が最低基準の設定やその実現のための財政支援策を講ずるべきである。
    とりわけ、北海道は、広大な面積を有しており、人口密度の低い地域がとても多い。道内の全市町村において、消費生活相談窓口が一応設けられてはいるものの、専任相談員が設置されている市町村は未だ5割強であり、担当者が他の業務を兼任していたり、比較的短期間で入れ替わるために知識や経験の蓄積が困難であるなどといった事情から、相談処理を十分に行えていない地域も少なくない。
  4. 地方消費者行政に対する国の支援のあり方
    ところで、地域主権改革を重視する見解によれば、特定の政策に向けて財政支援をするような従来型の施策が地方自治体の自主性を阻害してきたのであり、地方自治体の自主性を尊重する一括交付金化を促進することによって、真に地方自治体の総合的・主体的な消費者行政が推進できるものとされている。
    しかしながら、地方消費者行政は、これまで財政支援もほとんどなく、地方自治体が当該地域の社会的、経済的状況に応じた施策を実施すべきものとされてきた分野で、ようやく国をあげての充実・強化が図られ始めたばかりであり、地方財政の縮小・悪化の中で、地方消費者行政のために確実に活用される財政支援がなされなければ、その充実・強化にはつながらないことは目に見えている。
    そもそも消費者行政の役割は、現に存在する被害者を一日でも早く救済し、新たな被害をこれ以上繰り返さないことにある。1700余の地方自治体が主体的に消費者行政の体制を整備するのに任せていたのでは、その充実・強化にどれだけの年月を要するかは見当も付かず、その間も深刻な被害が発生し続けることになる。それだからこそ、ナショナル・ミニマムを確保するために必要な施策を最優先で講ずべきであり、こうした考え方が、国会においても前記附則及び附帯決議により確認されたのである。
    よって、消費者庁は、前記附則及び附帯決議を尊重して、地方自治体が消費者行政の充実・強化を着実に推進できるような財政措置と施策を講ずべきである。
  5. これまでの財政措置の検証と今後のあり方
    地方消費者行政の充実・強化の施策を決定するにあたっては、これまでに講じられた「地方交付税の基準財政需要額倍増措置」、「地方消費者行政活性化交付金」、「住民生活に光をそそぐ交付金」等の財政措置の効果を検証したうえで、地方自治体が今後の消費者行政の充実・強化を着実に推進できるような実効性ある財政措置を講ずることが不可欠である。
    まず、地方交付税の消費者行政に関する基準財政需要額は、2008年度(平成20年度)が総額約90億円であったのに対し、2009年度(平成21年度)は総額約180億円に倍増し、消費生活相談員の報酬単価基準についても、年額約150万円から約300万円へと倍増された。しかし、現実には、2009年度(平成21年度)の消費者行政予算(基金を除く自主財源)は総額約129億円にとどまり、2010年度(平成22年度)には総額約125億円に減少している。また、消費生活相談員の報酬が引き上げられた地方自治体は、2年間で180程度となる見込みであり、全国の地方自治体数の約1割にすぎない。つまり、使途自由な地方交付税について配分の目安となる基準財政需要額を倍増しても、ほとんど実効性がなかったことが明らかである。
    次に、「地方消費者行政活性化交付金」による基金について、2009年度(平成21年度)及び2010年度(平成22年度)の2年間の実績を見ると、消費生活センター・窓口設置事業、消費者教育・啓発事業、消費生活相談員養成事業・レベルアップ研修事業、商品テスト機能強化事業などに活用されたことは評価できる。しかし、消費生活相談員の配置・増員等(人件費)への活用は2010年度(平成22年度)の見込みで13.9%であり、相談員の増員は全国において、2年間で550名程度にとどまる見込みである。また、相談員の処遇改善についても、報酬の引き上げが実施される見込みとなっている地方自治体は、前述のとおり2年間で180程度にすぎない。つまり、利用期間が3年間に限定された交付金(基金)では、4年目以降に財政負担を残すような人員増加や処遇改善には活用しにくいのが実情といえる。
    さらに、2010年度(平成22年度)補正予算において創設された「住民生活に光をそそぐ交付金」についても、地方消費者行政のほかに、DV対策・自殺予防等の弱者対策・自立支援、知の地域づくりなどが対象分野に挙げられていることや、利用期間が2年に限られていることから、やはり地方消費者行政の人的体制整備にはつながらないのではないかという指摘がなされている。
    このように、国がこれまでに実施した財政支援措置は、いずれも所期の目的を達したとは言い難い。
    今後の財政措置のあり方としては、地方自治体において継続的・計画的な施策を実施できるように、例えば、地方財政法第10条に消費者事故情報収集業務・消費生活相談業務等に要する経費の規定を加えるなどして、相当程度の期間にわたり継続することを前提にしたものとする必要がある。そして、「地方消費者行政活性化交付金」の方式であれば、基金活用の条件があるために利用しにくいという批判を踏まえて、その条件をさらに緩和すべきである。また、「住民生活に光をそそぐ交付金」の方式であれば、対象分野を一層限定して住民生活の安心・安全の確保に関連する事業分野に確実に利用できるような範囲に絞った財政措置とすべきである。
  6. 相談員の雇い止めと民間委託の問題
    調査会報告書は、「消費生活相談員が行う事務は、多岐にわたり、また、それぞれの事務を的確に処理するためには、専門的知見やスキルを要するほか、継続的な研修と経験の積み重ねによる知識、能力の維持・向上が不可欠。その点でいわゆる雇止めは適当ではない」、「相談員の多様な働き方に応じて、非常勤職員以外の制度的な選択肢を充実する必要がある」としており、これを踏まえ、国は、相談員がその専門性に見合った待遇のもとで、安定的に継続して勤務することができるような制度を整備すべきである。
    この点に関し、消費者庁は、2011年(平成23年)2月10日、「消費生活相談員に対するいわゆる『雇止め』について(お願い)」と題する文書を、各都道府県及び市町村に送付した。
    しかし、同文書は、雇い止めを行うことなく処遇の改善を図る地方自治体の事例を紹介しつつ、各地方自治体の配慮を求めるという内容にとどまり、このような文書によって、果たして消費生活相談員の雇い止めの回避が実現されるのか、その実効性には極めて疑問がある。
    のみならず、同文書が紹介する地方自治体の取組事例4件のうち2件が、相談業務を民間団体に委託した事例であり、今後の地方消費者行政のあり方について重大な問題を生ずるおそれがある。すなわち、指定管理者制度による業務の民間委託は、指定管理者となった団体内部の雇用関係により個々の相談員の雇い止めは回避できるように見えるが、指定管理者の指定は期間を定めて行うことが必要であり(地方自治法第244条の2第5項)、3年から5年で委託期間が満了したときは改めて公募選考により議会の議決を経ることとなるため、同一団体が継続的に受託できる保障はない。つまり、受託団体の相談員全体について雇い止めと同様の不安定さが生じるのであり、管理者が変更された場合には地方自治体の相談窓口の体制自体に混乱が生じるおそれがある。加えて、指定管理者制度は、もともと地方自治体の管理運営費の削減の狙いが強いため、その後の委託事業費の削減により相談員の処遇が一層悪化するおそれもある。
    そもそも消費生活相談員による相談処理業務は、単に相談者に対する助言等のサービス提供にとどまらず、苦情事案を分析して事業者規制部門に結び付けたり、福祉や高齢者等の関連部局の対応を求めたりするなど、職員と相談員の密接な連携によって実施する業務であり、指定管理者への業務委託は本質的になじまないものというべきである。消費者啓発事業等の一部を民間団体に委託することによって、地域の消費者団体の活力を引き出すことは適切であろうが、消費者行政の中核的業務であり、かつ、専門性と継続性の確保が不可欠な相談処理業務を民間委託することは適切ではない。
    よって、国は地方自治体に対し、相談員の雇い止め回避の名のもとに消費生活相談業務を安易に民間委託する方向に流れることがないように、慎重な施策を講ずべきである。

以上

2011年6月29日

札幌弁護士会 会長 山﨑 博

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