声明・意見書

死刑執行に関する会長声明

 2016年11月11日,福岡拘置所において,1名に対して死刑が執行された。金田勝年法務大臣による初めての死刑執行であり,本年3月25日に2名の死刑執行がなされてから,7か月あまりでの執行となる。第2次安倍内閣以降の死刑執行は10回目であり,合計で17名に対し,死刑が執行されたことになる。
 死刑は生命を奪う不可逆的な刑罰であり,誤判の場合,事後的回復が不可能であるという問題を内包している。死刑再審4事件は死刑の問題点を浮き彫りにするとともに,袴田事件再審開始決定は誤判・えん罪の危険は現実のものであり,誤って死刑を執行するおそれが否定できないことを明らかにした。
 国際社会においても,死刑廃止に向かう潮流が主流であり,死刑を廃止又は停止している国は140か国に及び,世界の3分の2以上の国において死刑の執行はなされていない。2014年7月23日には,国連人権(自由権)規約委員会が日本政府に対し,「死刑の廃止を十分に考慮すること」との勧告を行い,同年12月18日に開催された国際連合総会において,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117か国の賛成により採択されている。
 2014年11月に内閣府が実施した死刑制度に関する世論調査では,「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの,そのうち,40.5%は「状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよい」とし,さらに,仮釈放のない終身刑が導入されるならば「死刑を廃止する方がよい」との回答が37.7%に及んでおり,国民の死刑制度に対する意見も変化している。
 このような死刑廃止を巡る議論状況と情勢を踏まえ,日本弁護士連合会は,本年10月7日,第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,その中で,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言した。同宣言は,犯罪により生命を奪われた被害者遺族への支援の拡充を求める一方,人権を尊重する民主主義社会における刑罰制度は,犯罪への応報にとどまらず,社会復帰の達成に資するものでなければならないとの観点から,死刑制度を含む刑罰制度全体の抜本的見直しを要請するものである。
 今回の死刑執行は,このような国内外の情勢の変化及び人権擁護大会における「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を無視するものであり,極めて遺憾である。
 当会は,政府に対し,直ちに死刑の執行を停止し,2020年までに死刑制度を廃止することを求め,今回の死刑執行に対し強く抗議するものである。

2016年(平成28年)11月24日
札幌弁護士会
会長 愛須 一史

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