声明・意見書

日本国憲法の価値を再確認するとともに、現行の憲法改正国民投票法のもとで憲法改正を行うことに反対する会長声明

 本日、日本国憲法は、施行から71年を迎えました。
 日本国憲法は、立憲主義に立脚し、わが国が、平和で基本的人権を尊重する社会をつくり上げていくために重要な役割を果たしてきました。改めていうまでもなく、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義をはじめとする日本国憲法の価値は、これを護り続けていかなければなりません。

 しかしながらここ数年、特定秘密保護法、安保法制、いわゆる共謀罪等に関する国会審議において、法案の内容に憲法上の疑義・懸念があると多くの指摘がなされているにも拘らず、それらが払拭・解決されないままに強行採決により成立するなど、手続的にも問題のある手法が目立っています。また、昨年来、本来国民に開示され丁寧な説明がなされるべき行政文書に関し改ざん等の問題が多数発生しております。こうした状況を踏まえると、立憲主義、国民主権が揺らいでいるといっても過言ではありません。今ここで改めて、日本国憲法の価値を再確認し、現実のものとして堅持していくことが必要です。
 このような状況下で、与党である自由民主党を中心に、憲法9条に自衛隊を明記する、大規模災害時等に政府に特別の権限を認める(緊急事態条項の創設)などの憲法改正案が検討されており、今年中に憲法改正案が国会に提出される可能性があるとの報道もなされています。当会は、集団的自衛権の行使を容認する安保法制は憲法違反であるとの立場を表明してきましたが、その問題点を正面から問うことなく憲法改正がなされてしまうことは、憲法9条を中心とする日本国憲法の恒久平和主義を本質的に変質させる可能性が否定できず、この点を強く懸念します。また、緊急事態条項については、基本的人権の尊重に対する大きな脅威となる危険性が非常に高いばかりでなく、そもそもその必要性も認められないものとして当会はこれに強く反対してきました(2017年1月24日付「緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設することに反対する会長声明」)。
 日本国憲法は、いわゆる硬性憲法として、その改正には慎重な判断を求めています。したがって日本国憲法の改正に際しては、主権者である国民に対し、改正の必要性、利点や問題点等が明確に示され、それらを検討するための充分な情報が提供された上で、充実した議論がなされ、国民の意思が正確に反映されなければなりません。しかし、強行採決や多方面での情報の隠ぺいという最近の行政、国会をめぐる状況に照らすと、これら充実した議論がなされうるのか大きな疑念を持たざるを得ません。
 そもそも、日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)は、国民の間の充分な議論と、それに基づく国民の意思が正確に反映されるものとはなっていません。たとえば、同法には、以下のような問題があります。

  • 最低投票率を定めていないため、ごく少数の国民だけの賛成による憲法改正がなされかねない。
  • 国民投票運動のための有料広告放送が投票期日15日前まで自由にできることとなっており、一方的、扇情的かつ大量の有料広告が放送されると、国民の冷静な判断が阻害され、歪められた民意が投票結果に反映されかねない。
  • 国会で発議されてから国民投票までの期間は60日以後180日以内とされているが、これだけ重要であり大きな問題について国民が充分な議論を重ねるためには、あまりに短かすぎる。
  • 「内容において関連する事項ごとに」投票できるとしているが、国民の正確な意思を反映させるため、条文ごとに投票できる個別投票を原則とすべきである。
  • 公務員・教育者の国民投票運動が曖昧な文言で制限されている。

 同法成立時、参議院では、これらの問題点を含めた18項目について対応を求める附帯決議がなされましたが、充分な対応がなされないまま現在に至っています。

 当会は、憲法改正国民投票法について、国民主権の原理に合致するよう抜本的見直しを強く求めてきました(2007年5月9日付「憲法改正国民投票法の見直しを求める声明」など)。国のあり方に大きく影響する憲法改正は、内容的にも手続的にも曇りのない、正統性を有するものでなければなりませんが、現在の憲法改正国民投票法はそのような姿にはなっていません。

 当会は、憲法記念日にあたり、日本国憲法の価値やこれまで果たしてきた役割を再確認し、そうした憲法の価値を損ないかねない事態が生じていることを懸念するとともに、憲法改正国民投票法の問題点を解消する抜本的な改正を求め、かかる改正を行わずに憲法改正を行うことに反対します。

2018年(平成30年)5月3日
札幌弁護士会
会長 八木 宏樹

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