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2012/09/28

北海道弁護士会連合会定期大会 記念シンポジウム 再生可能エネルギー基地 北海道 基調報告

弁護士 髙杉 眞

公害対策・環境保全委員会

第3 木材や家畜の糞尿を利用した,バイオマス利用の取り組み
さて,話題を変えて,家畜の糞尿や,森林の木材を利用する,バイオマスの事例をご紹介しましょう。

1 木質バイオマス

木質チップ/木質ペレット

北海道には,足寄町や津別町,下川町など,林業や製材業が盛んな町がいくつかあります。 木材を切り出したときの残材や,製材時の端材・おがくずを,木質チップにしてストーブやボイラーで利用したり,あるいは木質ペレットまで加工して販売し,公共施設を中心に利用する取り組みが広がっています。

写真は,左が残材を破砕してできた木質チップで,水分をまだ多く含んでいます。

中央が,製材所で製材をカットするときに発生する,おが粉です。

右が,木質チップやおが粉を乾燥・圧縮して作られる,木質ペレットです。

集積された残材

山で材木を切り出したときに発生する根などの残材が,一カ所に集められます。

残材の破砕・ペレット製造

残材は機械で破砕され,乾燥・圧縮して木質ペレットに加工し,製品化されます。

役場へのペレットボイラー導入

木質ペレットは,規模の大きな給湯設備や暖房設備に適しているとされ,津別町では町役場など公共施設にペレットボイラーが導入されています。

足寄町役場の木質ペレットボイラー<br />カラマツ追い上げ材を木質ペレットに加工・利用。

足寄町でも,木質ペレットの製造プラントが作られ,町役場にペレットのボイラーが導入されています。

以上のような木質バイオマス利用の取り組みは,地元にある木質資源を使って石油など化石燃料を代替するので,それまで化石燃料に支払っていた分のお金が地元に回ることになりますし,化石燃料の消費量を抑制できてCO2排出量を減らせるというメリットもあります。

また,チップやペレットを加工するプラントを地元に作ることで,地域内で新たな雇用の場を増やすことができるという期待も寄せられています。

畜産バイオマスの例

製造・売電・地域給湯

こちらの図は,畜産バイオマスのながれを大まかに説明したものです。

家畜の糞尿に,牧草をまぜて発酵させ,バイオガスと呼ばれるメタンガスをとりだし,それを燃料に発電機を回して電気を作り,さらにその過程で発生する熱で温水を作って活用します。

ドイツ フライアムト村での取り組み

ドイツ視察では,再生可能エネルギーの自給自足を推進している村を視察しました。ドイツ南部のシュバルツバルトと呼ばれる一帯にある,フライアムトという村です。

ラインボルト家 畜産バイオガス発電・温水供給

フライアムト村ではまず,写真のラインボルト家を訪問しました。中央の赤い建物に,さきほど説明した,バイオガスを作って発電に利用するための施設が作られています。

ラインボルト家のサイロ 自家生産の牧草を貯蔵・乾燥・発酵させる。

ラインボルト家では,BSEの影響や乳価の低迷を受けて牛の飼育を断念し,現在ではバイオガス原料として使うための牧草やとうもろこしを生産しています。このサイロで,牧草やトウモロコシを発酵させながら保管しています。

バイオガス発生設備の屎尿投入口

発酵後の液肥の貯留槽

ラインボルト家には,他の農家から牛の糞尿が運び込まれ,サイロで発酵させておいた牧草やトウモロコシを刻んだものを少しずつ加えてじっくり発酵させます。

メタンガスを発生させたあとの糞尿は,液肥として貯めておき,もとの農家に回収してもらいます。農家から運ばれる糞尿は,液肥に変わって元の農家が引き取るので,糞尿は,廃棄物として処理されるのではなく,各農家の中で循環していることになります。

バイオガス発電機 汎用のエンジンを利用している

これは,バイオガスで動いている発電機です。発電した電気は,固定価格買取制度を利用して電力会社に販売しています。発電機のエンジンは,どこにでもあるトラックのエンジンを使用しています。

バイオガスエンジン 排気熱で70℃の温水を作り地域に供給

さらに,こちらでは,エンジンや排気から出る熱も,熱交換機を使って,温水を作るのに利用しています。

温水の配管 近隣の14世帯及び学校施設に地下パイプで70℃強の温水を供給。 30℃で温水が戻ってくる。温水の利用料がラインボルト家の収入となる。

作った温水は,地下に敷設した循環パイプを通って近隣の住宅に温水熱として販売します。

温水を通すためのパイプは,ウレタンでビニールホースを2本くるんだような大変シンプルな構造です。少し遠くにある学校へは,ステンレスパイプを使って供給しています。温水は70℃強の温度で提供され,各家庭で利用されたあと,ラインボルト家に戻ってくるときには30℃程度にまで温度が下がっています。温水熱を購入する側からみれば,ラインボルト家から温水熱を購入することで,その分,よその町から石油やガスを買わないで済み,節約につながっています。

シュナイダー家

酪農・林業・風車発電を営むシュナイダー家

続いて,私たちはシュナイダー家という,もう一軒の農家を訪問しました。

シュナイダー家では,乳牛を飼い,林業を営む傍ら,風力発電事業にも積極的に参加しています。

後に見えている風車は,シュナイダー家の土地を借りて建設されています。そのため,シュナイダー家には,風車の地代も定期収入となります。

風車の建設時には,近隣住民に共同出資を募り,固定価格買取制度を使って売った電気の量に応じて各住民が収益を上げています。これにより,風車建設には消極的だった住民からも理解が得られるようになったという経緯が,大変興味深いと思いました。もちろん,土地を貸しているシュナイダー家も,共同出資者の一人です。

シュナイダー家 木質チップを暖房,温水ボイラー,蒸留酒製造に利用している。

この農家では,風力発電以外にも,林業で出る端材を集めて砕き,木質チップにして貯蔵し,自宅の暖房や温水,蒸留酒の製造に利用しています。

牛乳タンク・牛乳の熱も回収

牛から絞った牛乳についても,冷ます過程で熱交換機を通して温水をつくり,毎日,牛乳を出荷して空になったこの牛乳タンクを清掃するときに,利用しています。

以上のように,フライアムトでは2軒のお宅を訪問しましたが,エネルギーとして使えるものは何でも使う,という姿勢が徹底しており,さまざまな再生可能エネルギーの選択肢を,上手に組み合わせて利用している様子が,非常に参考になりました。

シュナイダー家の土地に建つ風車

これはシュナイダー家の土地に建つ風車です。

建設とメンテナンスのために,風車まできちんと道路が整備されています。(少し時間をスライドさせて)風車を前に,私たちに説明をしてくださっているのが,フライブルクでの通訳をお願いした村上さんと,フライアムト村のラインボルト家やシュナイダー家をご案内くださったシュルツ氏です。

村上さんとシュルツさん

村上さんは,長年ドイツに住んで環境政策や都市計画の研究に携わり,私たちにフライブルクの都市計画やフライアムト村の取り組みについて,具体的に,さまざまな施策や考え方を紹介してくださいました。シュルツさんは,地元でヴィール原子力発電所の建設反対運動を率いた経験をお持ちの方です。その後,地元の住民に再生可能エネルギー導入に関するさまざまなアイディアを持ちかけ,現在では,再生可能エネルギーの導入の推進のため熱心に活動されています。フライアムト村で,シュルツさんが見学者と地元の農家の方の両方によく気を配りながら地元の人と,再生可能エネルギーに関心を寄せている見学者との間を橋渡しされている姿が,とても印象的でした。

この地域で,ここまで再生可能エネルギーによるエネルギーの自給自足が推進できたのには,シュルツさんら専門家やコーディネーターの力が大変大きかったと思います。

こうした方々が,知識や情報を,常に抱負に提供し,後押しをしたことで,再生可能エネルギーという新しい分野にもかかわらず,多くの地域住民が積極的に,かつ,多角的に事業に参入することができたのではないでしょうか。

わが北海道でも,研究を進める専門家と,地域の人々とをつなぐことのできる,橋渡し約の人材確保が重要ではないかと考えます。

第4 最後に 今回,2国の再生可能エネルギー事情をめぐる視察を終えて強く感じたのは,スペインと同一における,住民参加と意識の違いでした。

スペインでも,ドイツでも,日本に比べて,再生可能エネルギーの導入がはるかに進んでいて,スペインは再生可能エネルギー由来の電力を,送電網に上手に取り入れる制御で大きな実績をあげていることが分かりました。

スペインのように,大企業主導で再生可能エネルギーが進められてきたところでも,数字として十分な成果を達成しているのですが,地域住民には,参加の余地が無く,利益も落ちてこないため,地域の活性化も見込めませんし,したがって住民のエネルギー問題に対する意識も高まっていないと感じます。

かたや,フライアムトやダルデスハイムなど,地域住民が専門家の手を借りて自ら事業に参加していくシステムでは,疲弊した過疎の地域にも,利益を生み出して活性化を促すうえ,直接参加により,住民のエネルギー問題への意識もおのずと高まります。

北海道では,今後是非,ドイツで見てきたような,住民参加型の再生可能エネルギー事業を進めていくべきだと私たちは考えます。

我が国でも昨年の東日本大震災を経験して,エネルギー問題の見直し,とりわけ再生可能エネルギーのさらなる必要性は,国民の共通認識となりつつあります。

しかし,各地の具体的導入となると,震災後もそれほどめざましい親展がないのが現状です。

私たちは,今回の視察を通じて,ここ北海道でも生かせる具体的な導入のヒントを多く得ることができました。

これをもとに,再生可能エネルギーの効果的な導入に向け,道内でもより具体的な議論ができるように,今後ともさらなる情報提供や論点の整理を進めていきたいと思います。

本日はご静聴ありがとうございました。(以上)