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2012/10/10

第55回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム 「どうなる どうする 北海道の教育~子どもの学習権と教育の自由を,学校現場と憲法から考える」

広報委員会

2012年9月1日午後1時30分から,国際ホール(札幌国際ビル8階)において,札幌弁護士会主催(日弁連,北海道弁護士会連合会共催)による,第55回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「どうなる どうする 北海道の教育~子どもの学習権と教育の自由を,学校現場と憲法から考える」が開催されました。当日は,定員いっぱいの約220名が参加する大盛況でした。


今回の記事では,このシンポジウムの様子をレポートします。

プレシンポジウムの概要 2012年10月4日、5日に第55回日弁連人権擁護大会が開催され、そのシンポジウム第1分科会において,「どうなる どうする 日本の教育~子どもたちの尊厳と学習権を確保するための教育のあり方を問う~」と題して,日本の学校と教育のあり方をテーマにパネルディスカッション等が行われる予定となっています。本プレシンポジウムは,この日弁連人権擁護大会に先立ち、北海道の教育の現状と未来を考えるために企画されたものです。

プレシンポでは、はじめに札幌弁護士会憲法委員会の田中健太郎弁護士から,「北海道の学校現場で何が起きているか」と題し,道教委の通知,措置(処分)等を中心にその問題点等について報告されました。

次に、北海道の教育現場に様々な立場で関っている方々によるリレートークが行われました。リレートークの参加者は、2002年に札幌弁護士会に対し人権救済申し立て行った札幌南高校の卒業生、札幌市子どもの権利救済機関子どもアシストセンター代表救済委員市川啓子氏、社会福祉法人常徳会児童養護施設興正学園施設長,札幌市児童養護施設協議会会長秦直樹氏、前稚内東小学校校長,前宗谷校長会会長加藤良平氏でした。

札幌南高校の卒業生が語った「思い」 札幌南高校は自由な校風で知られ,特に卒業式では,卒業生が様々な仮装やパフォーマンスを行うことで有名でしたが,2001年度の卒業式で,校長が「君が代」を実施することを生徒に告知したことに端を発し,2001年12月,3年生10名が札幌弁護士会へ人権救済の申立てをするに至りました。

それを受けて,札幌弁護士会は,2002年2月14日,札幌南高校長に対し,学校行事に関する意見表明権及び参加権を侵害し,子どもの権利条約12条に違反するとして勧告を行いました。

今回お話しされたのは,この人権救済の申立てを行った2001年度の札幌南高校の卒業生2名でした。

まず,当時,「卒業式で君が代を実施することによって,生徒それぞれが君が代についてどのような考え方を持っているのか,意見を表明させられる場になってしまう」,「君が代の実施に際しては,校長と2回の意見交換が行われたが,『意見交換』や『話し合い』の雰囲気ではなく,一方的に告知されてしまった印象があった」ことに何ら異議をとどめなくてもよいのか,という疑問が人権救済申立ての原動力となったと話されていました。

また、「君が代そのものに反対していたわけではない。人権救済の申立てに至る経緯において,君が代について賛成,反対の意見があること,その理由も様々であることを知った」,「賛成,反対いろいろな意見があるが,納得いくまで十分議論することが大事であることを学んだ」とのお話は印象的でした。

子どもアシストセンターの活動
市川啓子氏が代表を務める子どもアシストセンターは,「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例(子どもの権利条例)」に基づいて設置された子どもの権利救済機関です。

同センターは,子ども自身が相談をすることができる数少ない機関であり,主な活動は,子どもの権利侵害に関する相談に対する助言や救済申立て等に対応して調査,調整,勧告等を行うことです。電子メールによる相談も受け付けているのも特徴です。

特に印象的だったのは,「子どもには子どもたち自身で解決できる力がある」とおっしゃっていたことです。大人の考える問題解決=よい環境には必ずしもならない可能性がある,子どもの相談に真摯に耳を傾け,自ら問題を解決できるよう援助するという姿勢が,子どもの権利を考えていくうえで必要だと改めて考えさせられました。

児童養護施設の現状と課題
児童養護施設の施設長である秦直樹氏は,児童養護施設の現状と課題についてお話されました。

秦氏によれば,児童養護施設の入所者のうち,8割は被虐待児(身体的虐待,精神的虐待,ネグレクト)であり,知的障害,愛着障害,発達障害等の障害を抱えている児童が多いとのことでした。

入所者の家族構成の6割は,母子家庭であり、生活保護世帯及び非課税世帯も全体として7割を超え,また,保護者が何らかの心の病気(うつ病等精神疾患,薬物中毒,知的障害等)を抱えている例がほとんどであり,社会的擁護を必要としている家庭の児童が多く入所しているという現状とのことでありました。

施設は常に満員の状況で,最近では育児疲れ,育児不安を理由とするショートステイも増えているようです。

宗谷の教育~「教育合意」から「力合せ」「子育て支援」へ 宗谷においては,「貧困」をいち早く教育問題と捉え,校長会,教頭会,教育委員会及び教職員組合が手を携え,教育活動に取り組んできたことに特徴があります。校長会,教頭会,教育委員会連絡協議会教育長部会,教職員組合の管内4団体で、1978年11月8日,「教育活動と学校運営の基本方向についての合意」(教育合意)が締結されました。また,上記合意については,保護者に対しても広報し,管内のすべての市町村で有権者の過半数となるまで署名活動を続け,地域ぐるみで教育活動に従事していく素地が作られたとのことでした。

そして,教育改革のためには,外から内への改革ではなく,内から外への改革,すなわち,教師,教職員組合の側から家庭や地域,専門機関(民生委員,児童委員等)や行政と積極的に関わり,理解を求めていく姿勢が重要であると強調されていたのが印象的でした。

世取山教授基調講演「憲法・教育法と新自由主義的教育改革」 第55回日弁連人権擁護大会第1分科会においてもパネリストを務められる新潟大学准教授の世取山洋介先生から,「憲法・教育法と新自由主義的教育改革」と題する基調講演がありました。

新自由主義的教育改革の意義と台頭してきた歴史的背景,そして,教育現場に与えた影響と問題点を批判的観点で憲法と旧教育基本法の理念からわかりやすく解説され,あるべき教育の姿として,宗谷の経験を全国に広める必要があるということで本プレシンポジウムを総括されていました。

本プレシンポは、予定されていた3時間を大幅に超える長丁場でしたが,6名の方々のお話しがそれぞれ興味深く,時間を感じさせない内容でした。

上記のとおり,道教委が服務規律等実態調査を実施し,また,情報通報制度が創設されてから,北海道弁護士会連合会と札幌弁護士会が北海道の教育問題について取り上げるのは2回目です。本プレシンポジウムを開催したことに止まらず,今後も北海道の教育の現状を注視しつつ,活動していく必要があると思います。