2017/05/12

共謀罪に関する4.5市民集会のご報告及び集会の際に頂戴したご質問へのご回答

広報委員会

はじめに
 2017年4月5日(水),札幌市教育文化会館において,札幌弁護士会は,日本弁護士連合会,北海道弁護士会連合会との共催で,「STOP! 共謀罪 札幌市民集会」を開催しました。集会の模様のご報告と集会の際に頂戴したご質問へのご回答をさせていただきます。

会長挨拶
 市民集会の冒頭では,札幌弁護士会の大川哲也会長が挨拶し,「共謀罪法案」の危険性を訴えました。
 大川会長は,現行法では「何かの事件が起こってから」捜査が始まるが,「共謀罪」では「何も事件が起きていなくても」共謀して準備をすればそれだけで犯罪になる,と指摘しました。
 刑事ドラマの例を挙げながらの問題提起は,具体的でわかりやすく,会場の皆さんもよく頷いていました。

基調報告
 続く基調報告では,桝井妙子弁護士が,「共謀罪法案」の問題点について説明しました。
 桝井弁護士は,①「共謀罪」は刑法の基本的なルールに反すること,②「共謀罪」の「組織的犯罪集団」や「準備行為」の対象があいまいであること,③政府による監視が強まるおそれがあることなどを解説しました。
 図や表を豊富に用いたスライド資料を使いながら,ゆっくりと語りかける桝井弁護士の話に,会場の皆さんは真剣に聞き入っていました。

パネルディスカッション
 集会のメインとなったパネルディスカッションでは,北海道大学法科大学院教授の上田信太郎さん,元朝日新聞記者でジャーナリストの外岡秀俊さん,元北海道警察本部の原田宏二さんが,「共謀罪法案」の問題点について議論を行いました。
 上田信太郎さんは,「共謀罪法案」の内容には理論的な整合性がなく,極めて杜撰であるとの見解を示しました。上田さんは,「共謀罪」の対象犯罪には,これまで未遂を処罰していなかった犯罪も数多く含まれていることを挙げて,未遂を処罰しないのになぜその前段階の共謀や準備行為が処罰されることになるのか,といった指摘をしていました。
 外岡秀俊さんは,戦前の治安維持法と対比しながら,「共謀罪」の危険性を訴えていました。外岡さんによれば,「共謀罪」は,過去にいくつもの冤罪事件を生み出した治安維持法と良く似ているとのことです。外岡さんは,過去をきちんと振り返らなければ,将来またえん罪が生まれかねないとの危機感を繰り返し表明していました。
 原田宏二さんは,元警察幹部としての立場から,「共謀罪法案」が成立した場合には警察の監視が強まるおそれがあるとの懸念を示しました。原田さんは,ここ10年ほどで警察の通信傍受等の捜査が拡大していることなどを指摘し,「共謀罪」ができれば,警察の捜査が野放しになる可能性があると訴えました。
 パネルディスカッションの最後では,コーディネーターの川上有弁護士が,討論の内容を総括したうえで,札幌弁護士会として「共謀罪」に反対していく姿勢を明確に示しました。
 パネリストの方々は,それぞれの立場から,豊富な具体例を挙げつつ,「共謀罪法案」の問題点を明らかにしていきました。会場の皆さんも,熱心に聞き入っていました。

閉会の挨拶
 集会の最後には,北海道弁護士会連合会の小笠原至常務理事が,パネリストの方々やご来場の方々への感謝を述べ,市民集会は幕を閉じました。

参加者からのご質問と回答
 集会に参加された方々からは,多くのご質問が寄せられました。
 集会では時間の関係でお答えできなかったところもありますが,集会後パネリストの皆様に改めて質問のご検討をお願い,また札幌弁護士会共謀罪法案対策本部でも回答を検討させていただきました。
 以下では,ご質問への回答を掲載させていただきます(なお,多くの質問を頂戴したことから,すべての質問にはご回答できませんでした。ご了承ください)。

 パネリストへのご質問
 (パネリスト3名への共通のご質問)


【質問】
 特定秘密保護法,安保法制関連法は,いずれも反対の声が多かったにもかかわらず,国会を通過してしまいました。
 反対の声を実現するためにはどうすればよいのかをパネリストそれぞれの方の経験を踏まえて教えて下さい。
 私達は何をすればよいのか,弁護士会は何をすればよいのか。集会を開くだけでよいのかを教えて下さい。
 今日の集会の成果を市民にどれだけ広げられるかの工夫を教えて下さい。

【外岡秀俊さんの回答】
 おっしゃる通り,特定秘密保護法も,安保法制も,あれだけ多くの反対や批判がありながら,国会で十分に議論されることなく成立してしまいました。デモや集会が多かっただけではなく,世論調査を見ても,一貫して反対や疑問が多かったように思います。それだけでなく,原発再稼働についても,世論調査では「反対」が多いのに,現実には早々と実施に向けて動き始めています。つまり,「世論」が政治の世界に反映されていない。それが現実だと思います。
 「一強多弱」国会における「数の力」による横暴 - そう批判するだけでは,現実を変えることは難しいでしょう。今の第二次安倍政権は2度の総選挙,2度の参院選を経ており,その都度,形式的には「信任」を受ける結果になっています。
 問題は,二つあると思います。第一は,国民の多くが経済の「安定」や「成長」を期待して投票しているのに,政権がそれを白紙委任のように見なして,安全保障や秘密保全システムといった国の根幹にかかわる問題を,国民に信を問うことなく,変えていっている点です。第二は,こうした論点について問題意識を持つ中高年層が多いのに,投票行動としては,「経済」や「実利」を重視しがちな点です。投票権が広がった若年層は,こうした問題への関心が薄く,あるいは「選挙で社会のありようを変える」ということ自体への期待が乏しいように見えます。
 その閉塞感を打破する方法には,二つの道があると思います。一つ目は,自公の国会議員,地方議員の中にも,今のやり方に批判や不満を抱く人々は多いように思われますので,そういった議員への働きかけです。政権支持者であっても,今のやり方に疑問を抱く人は,直接選挙区の議員と話し合い,意見を伝えることができるでしょう。共謀罪についても,すでに36県市町村議会から,反対ないしは慎重な審議を求める意見書が出ていると伝えられます(4月6日現在)。国会審議が行われている最中に,地方の声を反映させることが大切だと思います。
 二つ目は,若い世代への働きかけです。若い世代は,非正規労働や奨学金返済などで厳しい現実を抱え,社会問題に関心を深めることすら難しいのが現実でしょう。さまざまな集会や討論会を見ても,参加者の多くは中高年層で,若い世代はあまり見かけません。
 身の周りの若い人々と少しでも多く話し合い,こうした問題に関心をもってもらう。対話を重ね,若い世代どうしが話し合う場を後押しする。迂遠なように見えますが,そうした働きかけを地道に積み重ねることが,大切なように思えます。

【原田宏二さんの回答】
 私はこれまでも,道内だけではなく全国各地のこうした集会で講演などを続けてきました。今回の札幌弁護士会の集会は会場がほぼ満席状態になっていましたが,多くの会場では空席が目立ちます。そして参加者の多くは中高年層で,若い人の姿が少ないです。
警察問題に限って言えば,多くの国民が警察の実態を知りませんし,関心もありません。えん罪などの被害者も警察による違法捜査の矛先が自分に向けられてはじめて警察の実態に気が付きます。国民の多くは,権力は腐敗し暴走し自己増殖するということを認識し,日ごろから警察をはじめ権力の実態にもっと関心を持つべきでしょう。そのためには,マスコミの協力も必要ですが,最近のマスコミは,どちらかと言えば警察批判には消極的です。
 今回の札幌弁護士会主催の集会では,桝井妙子弁護士の基調報告は分かりやすく,法律の素人にも理解できる内容でした。若い人たちにこうした集会に参加してもらうためには,難しい法律論だけではなく主催者側の工夫が必要です。先般の「共謀罪」に反対する札幌市内の集会では,札幌弁護士会の神保大地弁護士がスライドを使って,参加者を対象にクイズ形式で共謀罪の説明をしていました。福岡県弁護士会の集会では,九州大学の学生3人が「共謀罪」に関する研究結果を発表していました。日本国民救援会京都本部の集会では,弁護士による寸劇が行われていました。大阪弁護士会主催のこうした集会にも何回か参加したことがありますが,土地柄なのかもしれませんが,必ず弁護士によるお笑いコントが行われる等の工夫がなされていました。

【上田信太郎さんの回答】
 今回の法案は,政治マターとなっているので,国会で政権党が圧倒的な数を占めている以上,このままいけば成立してしまう可能性が高いです。ただ,政治の世界は魑魅魍魎で方程式は複雑ですから,まだ何があるかわかりません。法案の価値をさんざん吊り上げておいて最後はドタキャンということもひょっとしたらあるかもしれません(ないかもしれません)。
 「弁護士会は何ができるか,シンポジウムをするだけでいいのか」というご質問は,この問題について,真摯にまた真剣に考えておられる表れだと思います。シンポジウムの際に申し上げましたが,今回,この会合に参加して,多数の人がお忙しい中,会場に足を運ばれ,真剣に耳を傾けている様子を見て,大変素晴らしいと感じました。反対の意思表示をする方法は人それぞれ,千差万別だと思いますし,それでよいと思います。大事なのは,「自分たちは反対だ」という意思表示をするために,たとえば今回のようなシンポジウムを札幌で行った,という事実をきちんと残しておくことだと思います。民主主義,自由主義を是とする日本国なのですから,ある事柄を決めるとき,説得と納得のプロセスを軽んじてはいけないと思います。それが,国民の権利や利益に対し,重大かつ深刻な影響を与えるようなことがらであればあるほど,このことが求められます。

【外岡秀俊さんへの質問】
 報道機関が政府の意向を「忖度(そんたく)」する状況が多くなっている昨今ですが,共謀罪の実相をわかりやすく国民に知らせるようにするため報道機関がどうあればよいと思いますか?

【外岡秀俊さんの回答】
 既成メディアが世論形成にあたって影響力を失う原因は二つあると思います。一つは,政権に対する「忖度」,裏を返せば「自粛」の動きが広がっているのではないか,という疑問です。政権に有利な報道をするというのではなく,ハレーションが生ずることを恐れて,問題そのものを取り上げなくなる傾向です。
 第二は,SNSの台頭によって,新聞もテレビも,その影響力と経営基盤を蚕食されているということです。若い世代は新聞を購読せず,テレビも,自分の好む番組を再生するだけという人が増えています。アメリカ大統領選では,ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト,CNNといった報道機関が,トランプ候補に多くの疑問をぶつけましたが,それを頭から打ち消す候補のツイッターの一言が,支持者の間に拡散し,十分な追及を受けることがありませんでした。
 ただ,新聞の総発行部数で見ると,日本の方が,人口3億以上の米国よりも多い。まだ影響力はあります。視聴率が減ったとはいえ,テレビも身近なメディアとして,まだまだ大きな影響力を持っています。
 問題は,「共謀罪」のように込み入った論点について,テレビには取り上げにくく,敬遠する傾向にある,ということです。新聞は,論点をきちんと押さえていることが多いと思いますが,これも一読しただけで理解するのが難しいように思えます。もっとわかりやすく,粘り強く,この問題を取り上げていってほしいと思います。
 第一点について,新聞社で働いた経験から言うと,読者の声や投書は,一般の方が想像する以上に,大きな意味を持っています。私たちは,「一つの投書の裏には十万人の声がある」と教えられてきました。実際に投書してくださる方は,十万人のうちのたった一人だ,だから,おろそかにすべきではない,という教えです。新聞やテレビに共感や批判の声を届けることは,とても意味があることだと思います。
 第二の点について,既成メディアは,今以上に,SNSなどのニュー・メディアに対し,コミュニケーションの回路を広げるべきだと思います。SNSの動向を紹介する。あるいはSNSでも積極的に発信する。テレビの登場で新聞の影響力は低下しましたが,その後,新聞が模索することで,共存や棲み分けが定着しました。既成メディアは,新しいメディアを否定するのではなく,積極的な対話を図ることで,共存を目指すべきだろうと思います。

【原田宏二さんへの質問】
 違法捜査を取り締まる法律,機関はないのでしょうか?立派な法律を作っても運用の仕方次第ということでしょうか?あるいは法律に書いていないことは何をやってもいいでしょうか?

【原田宏二さんの回答】
 制度上,警察を管理したり,法の執行をチエックしたりする機関があります。例えば,警察を管理する公安委員会(警察法),強制捜査の令状を審査する裁判官(刑訴法),警察から送致された事件を起訴する検察官(刑訴法),知事の予算編成権,条例提出権(地方自治法),警察の予算施行をチエックする監査委員,会計検査院,権力の監視を標榜するマスコミ等,数多くの機関が存在します。
 しかし,かつて,北海道警をはじめとする多くの都道府県警察で発覚した警察の裏金疑惑では,こうした機関の多くは沈黙し,あるいは消極的な対応に終始しました。こうした傾向は現在も続いていますし,その傾向は一層顕著になっているように見えます。
 拙書「警察捜査の正体」(講談社現代新書)でも指摘しましたが,法的な根拠を欠く「デジタル捜査」や任意捜査の範囲を逸脱する「グレーゾーン捜査」が,当然のことのようにして横行しています。恐ろしいことに,法の執行機関である警察にコンプライアンスが欠如していることは明らかです。
 共謀罪は警察の「権力強化法」です。こうした警察に,これ以上の権力強化を容認するような共謀罪は一層危険です。

【上田信太郎さんへの質問(その1)】
 かつて北海道でも道庁爆破テロが起きたように,日本でもテロがありました。最近ヨーロッパでテロが起きており,今後日本でもテロが起きる可能性があるにもかかわらず,日本の対応は遅れている,という意見を聴きますが,本当でしょうか? テロ対策として何をしなければならないのでしょうか?

【上田信太郎さんの回答(質問その1について)】
 日本でもテロが起きる可能性がないとは言えません。しかし,テロ対応が「遅れている」かどうかは,単純に比較できないと思います。日本には刑法の他,今,問題となっている組織的犯罪処罰法,テロ資金提供処罰法,銃刀法,ハイジャック防止法,破壊活動防止法,爆発物取締罰則などの法律があり,「既にテロ行為に対する様々な法整備はなされている」と言われています。その意味で,他の先進国と比べて遅れているとか,進んでいるとか簡単には言えないと思います。
ただ,テロ対策として法律を整備することは必要ですが,既存の法律に加えて,政府の言う「テロ等準備罪」を新設しても,テロ行為を完全に防ぐことは難しいと思います。特に,駅,空港,繁華街,デパートやショッピングモールといった多数の人が集まる公共空間などでは,テロを未然に防ぐことは極めて困難でしょう。これはアメリカ,フランス,ドイツ,トルコ,ロシアなど,他の国々で生じたテロ事件を見てもわかるとおりです。むしろ,シンポジウムの議論でも出ていたように,今回の法案は,憲法上,刑法上の基本原則に照らして,人権を侵害する危険が非常に高いのです。ある法律に対して期待される効果・効用(テロ防止)より,その法律がもたらす副作用の危険の方が高いのであれば,採るべき施策として得策とは言えません。
テロ行為とそれによる惨劇を避ける次善の策として考えられるのは,そうした公共空間などでは,これまで以上に「警戒を厳にする」ことだと思います。昨年,新千歳空港で飛行機に乗り遅れそうになった搭乗客が,保安検査場をすり抜けるということがありました。空港の保安態勢,警備態勢はどうなっているのか,不安に感じた人も多かったのではないでしょうか。安全と利便性・快適性のバランスを上手くとる必要はありますが,安全に対するコストや手間を惜しんではいけないと思います。テロ対策として「法律は万能ではない」のですから。

【上田信太郎さんへの質問(その2)】
 ディスカッションの事例に,「居酒屋で嫌いな上司を殺そうという話をした」というのは可罰的違法性がないというお話しでした。これは,①通常会社は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」に当たらない,または,②居酒屋での世間話であるため法益侵害の危険性が乏しい故該当しないのでしょうか?
 ①について同集団か否かの判断基準は,普段生活する上で所属する集団の性質を見るのでしょうか。居酒屋で相談した時点で同集団が結成されたとみることはないのでしょうか。②について殺人その他諸々の犯罪を思いつくのは居酒屋でもどこでもありうるので,ふざけた話と真剣な話の区別は付きにくいと思います。
 そこで「集団」を結成し,仲間で当該上司の会社での生活パターンを監視して,把握し始めたりしたら,計画を超えて準備行為に当たるのではないでしょうか。つまり,何故,上記事例が同罪に当然に当たらないのかわかりません。不勉強で恐縮ですが,教えていただけると嬉しいです。

【上田信太郎さんの回答(質問その2について)】
 居酒屋で会社員2人が嫌な上司を殺してやろうかと相談する・・・それが酔った勢いでの冗談話なら,これを相手にするほど北海道警もヒマではないと思います。したがって,誰かがこのことを警察にたれ込んだとしても,「すわ一大事,組織的殺人の共謀か」などと,どんな警察官も思わないでしょう。また,普段,生活する上で所属するごく普通の団体が,「一変して」組織的犯罪集団に変容する,というのも,頭の中では観念できても,実際問題としてはあまり想定できません。新橋や有楽町のガード下で,会社員が酔いに任せて上司の悪口で盛り上がり,「東京湾に沈めてやろうか」などと話した瞬間,「組織的犯罪集団に一変」したと考えるのは無理があります。その程度のことは,プロの警察官なら区別してほしいし,多分区別します。
ご質問にあった①と②に対応させると,①については,テロリズム集団に当たらないし,そうした集団に「一変」したわけでもない,②については,居酒屋での世間話,冗談話には法益侵害の危険性がそもそもない,と思われます。その会社員らが,実は上司殺害を真に意図して相談し,何らかの凶器を調達し,実行に移そうとしたのであれば,通常の刑法犯として対処すれば足りることです。その意味で,法務省が組織的犯罪の共謀に当たらない,として挙げるケース,たとえば,今挙げた「会社の同僚数名が,居酒屋で上司の悪口で盛り上がり,殺してやろう,と意気投合」とか,「近所の主婦同士が,井戸端会議で仲の悪い主婦の話題になり…」とかいった例は,そもそも組織的犯罪の共謀に「当たらない」のであって,そもそも「当たらない」ケースを引き合いに出して,「当たらないから大丈夫」などというのは,ちゃんとした説明になっていないと思います。
 ただ,これは一般論であって,次のような場合は事情が異なってくるように思われます。私が危惧するのは,シンポジウムでも申し上げたように,組織的犯罪に当たるかどうか微妙なケースです。それまで通常の企業活動を行ってきた会社が,その赤字決算を隠ぺいするため,内容虚偽の財務諸表を作成しようと幹部間で相談・計画した,というような場合,これを把握しようとすれば,捜査機関は,相当早い段階から,その会社の動向を秘密裏に(場合により通信傍受などの手法を用いて)調査・内偵をしなければならないでしょう。この場合,ごく普通の活動を行っていた会社が,犯罪組織に「一変」したわけでなく,徐々にそのような組織に変容していくのだと考えられます。団体,組織の性質の変化は流動的で判然としません。だからこそこれを認識しようとすれば,内偵やタレコミなどから情報を得て目星をつけ,機器を駆使して,電話,電子メール,ラインなどを利用した関係者のやり取りを傍受する必要が出てくるのでしょう。
しかし,この会社が組織的犯罪処罰法の想定する団体に当たるかどうかそもそも疑問ですし(これに関する判例が既にあります),捜査も違法か違法すれすれの手法を採らないと会社(団体)の実態を正確に把握することはできないと思います。人の内心,心の領域に捜査機関が手を突っ込んで「何を企んでいるか」知ろうとすれば,必然的に秘密裏の捜査(通信,会話の傍受など)が必要になってきます。
また今回の法案には,テロ防止などとは違う,別のところに目的があるのではないか,すなわち,予め目星をつけていた捜査対象者を狙い打ちして逮捕・勾留するとか,国民監視の道具に利用するとか,本来の趣旨とは異なるところに目的があるのではないか,といった点も危惧されます。たとえば,エネルギー政策,安全保障政策など国の基本政策に反対する団体活動などが監視の対象となることが考えられます。しかし,それは,合法的な活動に対して委縮効果をもたらし,憲法が保障する集会・結社の自由や表現の自由といった民主主義の基盤・根幹を揺るがせにしてしまう危険があります。先に述べた会社員2名が,国の基本政策に反対する運動に何らかの形で関わっており,捜査機関に目を付けられている者だとすれば,場合により,犯罪の「共謀あり」とされ,さらに逮捕される可能性も否定できないと思います。
 今回の法案では,「組織的」犯罪で絞りをかけたとはいえ,収賄罪も対象犯罪に入っています。公務員たちは潜在的な組織的犯罪集団(テロ集団)なの?と思わず突っ込みを入れたくなります。国際組織犯罪防止条約が締結国に求める対象犯罪の法定刑が,「長期4年以上」の自由刑となっており,これを杓子定規に当て嵌めた結果,こうしたことが起きます。対象犯罪の絞り込みの問題をはじめ,今回の法案が想定する「組織」「団体」とか,「テロリズム集団」とか,「準備行為」とか,様々な文言の意味をはっきりさせておく必要があります。どのような法律であれ,いわば「一人歩き」し,立法当初の想定から徐々に拡大して解釈される危険を内包するからです。
 結局,この法案に無理があるのは,国境を越えた経済犯罪などを念頭に置く,国際組織犯罪防止条約の締結をテロ防止と結びつけた点にあると思います。条約締結を法案提出の理由にすれば,「あれ?テロ対策じゃなかったの?」と突っ込まれ,他方,テロ対策を強調すればするほど,「キノコ狩りとテロとどんな関係があるの?」とまた突っ込まれます。異なる目的を一つの法律の中に無理やり押し込めようとしたことがそもそも間違いなのであって,これでは「羊頭を掲げて狗肉を売る」ようなものだと思います。

札幌弁護士会への質問と回答
(回答は,札幌弁護士会共謀罪法案対策本部による回答です。)

【質問その1】
 なぜこのような共謀罪法案が提出されるようになったのか。社会経済情勢や政府与党の真の狙いを分析してほしい。

【質問その1への回答】
 政府は,「共謀罪法案」を提出する理由について,日本が越境組織犯罪防止条約(パレルモ条約)に2000年12月に署名しており,この条約の締結のために共謀罪を作らなければならないと説明しています。しかし,「重大な犯罪」全てについて「共謀罪」の新設が必要とする政府の主張の裏付けは十分になく,この条約を締結するために新たに共謀罪を設けた国は,外務省によればノルウェーとブルガリアの2か国にとどまっています。つまり,この条約を締結するために「共謀罪」が必要という説明には説得力がないのです。
 それでも「共謀罪」の導入にこだわる政府与党の「真の狙い」がどのようなものかを知ることは難しいところですが,間違いなく言えることは,「共謀罪法案」が成立した世の中は,今までとは比べものにならないくらい「時の政府,権力者にとって都合のよい世の中」になるということです。
 2000年以降,官舎の敷地内でビラ配布をしただけで住居侵入罪として逮捕・処罰されるといった事例が発生し,最近では労働組合の出入口に警察が監視カメラを設置していたことが明らかとなっています。また,沖縄の米軍基地反対運動に関わっていたリーダーが逮捕・起訴された事例では,リーダーが行っていたメールやラインなど会員制交流サイト(SNS)での長期間にわたる通信記録が全て詳細に解析され,警察,防衛局等の「撮影班」がそのリーダーの一挙手一投足を,小型ビデオカメラ20台以上を使用して撮影していたことが明らかとなっています。
 このように,最近はこれまで国民が普通に行ってきた行動・活動が,処罰・監視の対象となることが増えていますが,「共謀罪法案」の成立により,さらに国民の生活や行動が日常的に監視される世の中となることが危惧されます。


【質問その2】
 何も悪いことをしていない一般人が犯罪人にされることについてもっと具体的な事例をあげてほしい。


【質問その2への回答】
 「共謀罪」は,犯罪についての合意をしていることが条件ですので,何も犯罪について話し合っていないのであれば,犯罪とされることは,ありません。
しかし,政府に反対する市民運動をしていた一般人が標的にされる恐れがあります。
例えば,ビル建設に対して,市民運動を行っている団体のメンバーが,数人でビルの前で座り込みをすることを計画したとします。その際,事前に「建築会社の担当者から制止されても,座り込みを続けよう。」と打ち合わせをしたとします。
そして,この打ち合わせに基づいて,その中の一人でも何らかの準備行為を行った場合,その時点で,市民運動の前日,すなわち,座り込み行為をしておらず,当然ながら,建築会社から制止もされていない段階で,組織的な威力業務妨害(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制に関する法律3条1項11号,刑法233条)の共謀罪に該当するとして,逮捕されてしまう恐れがあります。


【質問その3】
 他の先進国でもこういう「共謀罪」のようなものはあるのですか。


【質問その3への回答】
 国際組織犯罪防止条約の締結に当たっては,加盟しようとする国は,今回問題になっている「共謀罪」を導入するか,「参加罪」(重大犯罪を実行することを目的とする組織的犯罪集団の行為に,自らの参加が犯罪の成就に貢献するものであることを認識して,「参加」することを処罰の対象にする)を導入するかを選択することができます。
札幌弁護士会として,条約に加盟している国(2017年1月28日時点で187か国)の全ての情勢を把握しているわけではありませんが,既にこの条約を締結している主要国のうち,アメリカの一部の州,イギリスには「共謀罪」の規定(今回問題になっている「共謀罪」と同じ内容ではありません)があると言われております。
また,ドイツやフランスには,「参加罪」の規定があると言われています。
ただし,注意していただきたいのは,これらの国は,元々「共謀罪」や「参加罪」が国内法として規定されていた国(つまり,「共謀罪」や「参加罪」が,これらの国の刑法の原則には反しない形で定められていた,ということ)であって,条約を締結したために国内法を整備したわけではないということです。
現に,「共謀罪」の規定を有しないアメリカの州(アラスカ州,オハイオ州,バーモンド州)については,一般的な共謀罪の規定を有しないことを理由に,条約締結後も法律の整備をしておりません。
そもそも,この条約には,「共謀罪」や「参加罪」の導入に当たっては,「締約国の国内の法律の基本原則と合致した方法で行う」ことが認められています(条約34条1項等)。市民集会で述べさせていただいたとおり,今回の「共謀罪」は,罪刑法定主義,行為主義,既遂処罰の原則といった,我が国の刑法の基本原則に抵触する危険性が高いものですし,日本はテロ対策の法整備に関しては,世界の中でもかなり充実している国と言われております。
このことからも,我が国に「共謀罪」が必要ないことはおわかりいただけると思います。


【質問その4】
 裁判では共謀についてどのように事実認定するのでしょうか。証拠は?計画書のような物がない場合には?「共謀罪」が制定されることで,えん罪は増えませんか。


【質問その4への回答】
 計画書があれば,共謀の証拠になるでしょう。また,捜査機関によって収集されたメールやSNSのやりとりや,録音も証拠とされることがありえます。
 ただ,そのような計画書がある場合は稀でしょう。また,メール・SNSのやりとり,録音がない場合,あるいはあっても証拠としては十分でない場合も多いと考えられます。そのような場合は,捜査機関,裁判所ともに身柄拘束をした上での自白や関係者の証言などの供述証拠を重視し,この供述証拠に基づいた事実認定が行われる危険があります。
 市民集会の最後に,パネリストであった外岡秀俊さんが「松川事件を忘れてはならない。」と話されていました。
 松川事件では,最初に別件で捕まった1人の自白によって,共犯者とされる者が次々検挙されました。そして,全員が死刑判決や無期懲役などの有罪となりました。しかし,その後,アリバイを示すメモが見つかり,最高裁で全員が無罪となりました。
 供述証拠の重視は,このように,自白や,第三者からやってもいないことをやったように引っ張り込みの供述による,えん罪を生むことがあるのです。
 「共謀罪」の制定は,このようなえん罪を増加させる危険性があると言えます。


【質問その5】
 共謀罪は,憲法の基本的人権のうちの思想・良心の自由との関係からいっても認められないと思いますが,憲法違反ではないですか。


【質問その5への回答】
 憲法は,19条で「思想及び良心の自由は,これを侵してはならない」として,思想・良心の自由を保障しています。「共謀罪」は,組織的犯罪集団の構成員により犯罪の共謀がなされ,その1名でも準備行為があったとされる場合に犯罪が成立しますが,先に述べたとおり準備行為の定義は極めてあいまい曖昧です。そのため,実質的には共謀,すなわち内心を外部に表明したことだけが根拠となって,処罰されることになりかねない危険があり,その意味で「共謀罪」は思想・良心の自由を侵害するおそれが強いと言えます。
 また,札幌弁護士会は,「共謀罪」は思想・良心の自由のみならず,憲法の保障する集会・結社の自由,表現の自由等の基本的人権を侵害するおそれが強いものである旨,会長声明などで意見表明を行っています(2017年3月24日会長声明など)。


【質問その6】
 警察のインターネット監視はどのように行われていますか。警察にそのような部署はありますか。


【質問その6への回答】
 各都道府県警察は,いわゆるサイバーパトロールにより,インターネット上の違法情報や有害情報等を監視しています。
 また,警察庁は,2016年4月,インターネット上に公開される国際テロやサイバー攻撃に関連する情報を自動的に収集し,分析する「インターネット・オシントセンター」を発足させました。SNSや掲示板からテロ関連情報を体系的に収集するものとされています。

以上