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2017/05/12

STOP! 共謀罪

広報委員会

 札幌弁護士会は,平成29年度通常国会で審議されている,「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」(以下「共謀罪」といいます)を作ることに強く反対しています。
 共謀罪を作る必要性がないばかりか,共謀罪を作ることによって一般市民の生活に大きな弊害をもたらすからです。これらの点について詳しくご説明します。
 また,Q&Aを作成し,問題点をまとめましたので,ご参照ください。

第1 共謀罪を作る必要性はないこと
   政府は,これまでテロ対策のためには共謀罪を作る必要があるとか,国連越境組織犯罪防止条約(以下「本件条約」といいます。)に批准するためには共謀罪を作らねばならない等という説明をしています。
   しかし,これらの説明は誤っています。
1 テロ防止関連条約の批准及び国内法の整備がなされていること
   日本は,これまで13のテロ防止関連条約に全て批准しております。
   また,重大犯罪については予備・陰謀段階での処罰が可能であり,テロ対策を含む特別法も制定されていることから,テロ対策として十分な国内法の整備がなされております。
さらに,仮に,現行法で対処できない個別の事案が想定されるのであれば,個別の犯罪として立法することも可能です。
そのため,テロ対策のために277もの犯罪について共謀罪を作る必要性は全くありません。
2 本件条約の批准のために共謀罪を作る必要性はないこと
  本件条約第5条には「重大な犯罪」を共謀罪の対象犯罪とすることを義務付けておりますが,本件条約の批准にあたり277もの犯罪について共謀罪を作る必要性はありません。
すなわち,上記第1の1に記載のとおり,日本では重大な犯罪について予備・陰謀段階を処罰する法整備がなされており,予備行為の謀議に加わった者を共謀共同正犯として処罰することも可能です。
そのため,共謀罪を作らなくとも,本件条約の趣旨及び目的と両立するため,本件条約に留保を付けて批准することは可能といえます。
3 したがって,共謀罪の必要性に関する政府の説明は誤っており,共謀罪を作る必要性はありません。

第2 共謀罪を作ることは一般市民の生活に大きな弊害をもたらすこと
政府は,共謀罪を作ったとしても一般市民が対象となることはない等という説明をしています。
しかし,共謀罪の内容からするとこの説明を信用することはできません。
1 テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の定義が曖昧であること
政府は,テロリズム集団その他の組織的犯罪集団が共謀罪の対象であって,一般市民は対象ではないと説明しています。
しかし,テロリズム集団の定義はなく,組織的犯罪集団の定義も曖昧です。実際,政府は一般市民による団体であっても活動内容によっては組織的犯罪集団となる等と説明していることから,組織的犯罪集団となる基準が曖昧であることは明らかです。
そのため,捜査機関の恣意的な判断によって一般市民による団体が共謀罪の捜査対象となる危険性は十分にあります。
2 対象犯罪が277もあること
  政府は,共謀罪の対象犯罪をテロ対策として必要なものとして277に絞り込んだと説明しています。
しかし,277という数自体が大きい数字ですし,横領罪,収賄罪や偽証罪など,テロとは無縁な犯罪も多数対象とされています。
そのため,共謀罪は,テロ対策のためのものではなく,捜査機関が都合の良いように捜査活動をできるようにするための犯罪であるといえます。
3 犯罪と無関係な行為も準備行為に含まれること
  政府は,共謀だけでなく,計画に基づく準備行為をした段階で処罰対象となるため,処罰範囲が限定されている等と説明しています。
しかし,政府は,準備行為それ自体が法益侵害行為である必要はないとも説明しています。
そのため,たとえば生活費としてATMから金銭を引き出す等の行為も準備行為とされる危険性は十分にあり,処罰範囲が限定されているとはいえませんし,捜査機関の恣意的な判断の抑制にも繋がりません。
4 捜査機関による監視・盗聴がなされること
  共謀罪が作られた場合には,共謀段階で取り締まりを行うことになりますが,そのための捜査機関の捜査手法としては,会話や通信内容を確認する以外に考えられません。
  具体的には,電話の盗聴,メールやLINE等のSNSの確認になりますが,これらのことが捜査機関の恣意的な判断により秘密裡に行われることになります。
  すなわち,捜査機関によって一般市民の生活が監視・盗聴されることになります。
5 したがって,共謀罪を作ることは,捜査機関の恣意的な判断によって一般市民による団体が捜査対象とされ,一般市民の生活が捜査機関によって監視・盗聴されるという大きな弊害をもたらすものといえます。

第3 結語
   札幌弁護士会は,以上の理由から共謀罪制定に強く反対しており,今後も,市民の皆さんに共謀罪の危険性を訴え,共謀罪法案の廃案に向けて活動を続けて参ります。

共謀罪Q&A

Q1 共謀罪,いわゆる「テロ等準備罪」とはどんな法律ですか?

A1 簡単にいうと,2人以上が犯罪の計画を相談して,準備行為を行ったら,
その相談自体を処罰する,という法律です。実際に犯罪が実行されなくても,処罰がされます。

Q2 対象者は私たち一般市民も含まれるのでしょうか?政府は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」が対象で,一般市民には適用されない説明をしていますが…。

A2 テロリズム集団の定義はなく,組織的犯罪集団の定義も曖昧です。現に,政府は一般市民による団体であっても,活動内容によっては組織的犯罪集団となる,などと説明をしています。テロリズム集団や組織的犯罪集団かどうかをまず判断するのは,他でもなく捜査機関側(政府側)です。そうだとすれば,捜査機関の判断によって,私たち一般市民の団体や集まりも,「組織的犯罪集団」とされてしまうことは,十分にありえます。

Q3 政府は,対象犯罪を277に絞り込んだと説明しています。絞り込んでいるので,大丈夫だといえるのではありませんか。

A3 政府が絞り込んだとする277もの犯罪の中には,著作権法,民事再生法,労働基準法,モーターボート競争法など,明らかにテロと無関係なものが多く含まれています。絞り込んだなどと言えないことは,明らかです。

Q4 この法案では,共謀罪が適用されるためには,準備行為が必要とあります。準備行為さえ行わなければ問題ないのではないですか。

A4 「準備行為」の定義は非常に曖昧です。このような曖昧な定義では,
ATMからの現金引出し = テロの資金準備
犬の散歩 = 現場の下見
  とされてしまうことも,十分に考えられます。
私たちが日常で当たり前にしていることも,捜査機関の判断でテロの準備行為であるとの解釈が可能になってしまうのです。
さらに付け加えるならば,準備行為とは犯罪が成立する要件ではなく,処罰する要件にすぎません。すなわち,準備行為がなくても犯罪は成立するので,共謀の時点で捜査の対象となってしまうのです。

Q5 そうはいっても,テロを防ぐためには共謀罪の制定は必要なのではないですか。

A5 テロを防ぐためには,共謀罪を制定する必要はありません。
   政府はハイジャック犯人が航空券を買ったり,危険な化学物質の原料を調達したりしても処罰ができないので,テロ等準備罪(共謀罪)が必要であると説明しました。しかし,いずれも現行法の予備罪で処罰が可能です。
   その後も,政府は現行法のテロ対策が不十分であるとの具体的事例を示すことはできていません。

Q6 もし共謀罪が制定された場合,どのような社会になるのでしょうか。

A6 これまでは,犯罪の実行があって初めて犯罪の捜査が行われていましたが,共謀罪が制定されれば,犯罪が実行されることは必要なく,共謀(相談)の段階で取り締まろうとすることになります。そうすると,捜査機関による会話の盗聴や電話の傍受,LINEなどのSNSやメール,ツイッターの盗み見が行われることになります。プライバシーも,言論の自由も侵される危険があります。

Q7 共謀罪が制定されると,いわゆる密告社会になると聞いたことがありますが,これはどういうことでしょうか。

A7 共謀罪法案では,犯罪の実行前に自首した場合には刑の減免がされることになっています。すなわち,密告が奨励されているといえます。さらに,これが悪用された場合,政府にとって都合の良くない市民団体に対して捜査機関がスパイを送り込み,なんらかの犯罪を持ちかけた上,会話を録音して警察に届け出る…捜査機関や政府により,多くの人が罪に陥れられることもありえるのです。
「そんなことはあり得ないのでは? 警察や政府がそんなことまでするとは考えられない。」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし,北海道では,警官が外国人に違法なおとり捜査を行って,拳銃所持の罪に陥らせ,服役させたのちに再審無罪になった例があります(2017年3月7日,札幌地裁で再審無罪判決がされ,確定)。

Q8 共謀罪を制定させないためにはどうしたら良いでしょうか。

A8 一人でも多くの市民の方に共謀罪の問題点(危険性)を理解していただき,多くの国民が不安を抱いていることを世論に伝えることが大切です。