昨年秋、医療事故に取り組む全国各地の弁護士や大学の研究者の方々と、春から韓国で運用が開始された医療紛争調停仲裁院を中心とする韓国における医療紛争解決システムを視察して来ました。
私自身は2008年にイギリス・フランスの医療紛争解決システムを、2010年にはドイツ・オランダの医療紛争解決システムを、それぞれ現地にて視察して来た経験を持っており、これで5カ国目となります。
韓国医療紛争調停仲裁院(Korea Medical Dispute Mediation and Arbitration Agency)は昨年4月8日に創設された新しい組織です。調停前置主義などはとられておらず、仲裁調停院は、訴訟制度とは連動しておりません。制度趣旨としては、短期間の間で鑑定によって有責無責任の判断をして、迅速に結論を出して、紛争を解決しようというものです。
調停仲裁院はソウル駅前の新しいオフィスビルの20階に入居しています。内部の様子も拝見させてもらいましたが、受付はホテルのフロントのようなスタイルで応対も親切、待合室なども綺麗に整備されていました。この制度が一般市民の利用を前提にしていることを十分知ることができました。
仲裁調院設立の背景事情としては医療サービスの向上に対する国民のニーズが大きくなったことや訴訟するのに時間(26.3ヶ月)とお金(弁護士着手金500万ウォン、成功報酬20%程度)がかかること、また、韓国に特殊な事情として患者による医師に対する暴力事件が多いという問題があることなどがあげられます。韓国では、1988年から国会で議論が始まり2011に法整備されましたと言いますから、長年の課題だったと言うことになります。
この手続の一番のメリットは、何と言っても、90日以内で結果が分かることです。費用も節約ができて公正な調査ができることも大きいようです。各調停委員会は5名、鑑定団も5人で構成されており、その割合は医師2名,法曹2名,消費者団体1名です。鑑定書は60日以内に作成することになっていますが、例外的に30日延長可となっており、全体で90日以内に(但し、30日間延長することができるので最大120日以内)結論はでるとのことです。
翻ってみると、我が国では、医療事故紛争の解決手段を数多く持っている訳ではありません。訴訟などの本格的な紛争解決手段をとるまでもなく、解決できるような小規模な医療事故、医療紛争も沢山あるはずです。そのような紛争を示談交渉で長々と時間をかけて解決するよりも、韓国のような手続きで短期間に公正な結論がでるシステムを構築することが日本でも必要と思います。
札幌弁護士会では、医療紛争に関して、弁護士の委員(患者側訴訟代理人経験者・医療側訴訟代理人経験者各1名)で構成される委員会が中心となって、示談を斡旋する手続を準備していますので、是非、利用していただきたいと思います。詳しくは紛争解決センターhttp://www.satsuben.or.jp/center/by_content/detail02.htmlをご覧ください。