自分が弁護士だと言うと、よくされる質問の一つが、「責任能力がない人が犯罪を犯したら、無罪になるのはなぜ?納得できない。」というものです。特に、世の中で話題になる事件が起きた直後は、よく聞かれます。これは、結構、答えるのが難しい質問だなぁと、いつも思います。
重度の精神障害者や知的障害者の刑事事件で、無罪になるということは、件数は少ないですが、実際にあります。もっとも、無罪にはならず、能力が低下していたということで、減刑されるに留まるという事件のほうが、圧倒的に多いでしょう。
なお、その場合、心神喪失者等医療観察法によって、精神科病院への入院や、通院治療を義務づけられることもあります。
被害者や遺族の心情を考えると、犯人が実際に悪いことをしたのになぜ無罪なのか、というのが、釈然としない理由なのかなと思います。
しかし、「責任なければ刑罰なし」は、近代刑法の大原則です。善悪の区別が付くか、自らをコントロールする力があるかなどを考慮し、本人を非難できる場合でなければ処罰できないとされています。
という真面目な話をしても、まず、納得は得られないので、私は、このような、たとえ話をしています。
「あなたが、朝起きると、血の付いたナイフが傍に落ちていました。寝ている間に夢遊病になって、人を刺して死なせてしまったことがわかりました。でも、あなたは、全く何も覚えていないのです。この件で、死刑にされるなど、処罰されても構わないと思いますか。」
(※実際には、夢遊病で殺人事件が起きることは、普通はないと思いますが。)
そうすると、あ、たしかに、それで死刑にされるのはおかしいですね、などと言われます。「責任なければ刑罰なし」の理由が、感覚的に、なんとなくわかってもらえたかな?と思います。