自分がこの世からいなくなったあと,妻はどうなる?夫はどうなる?子どもたちは?土地は?家は?店は?預金は・・・?
人の死後のトラブルのほとんどは,遺産分割に関することです。大切な人たちに争いなく幸せに過ごしてほしい,という願いを実現するための有効な方法は「遺言」です。遺言では,自分の財産をどうしたいかという思いを明確に伝えておくことが重要ですが,気をつけなければならない点があります。
例えば,不動産を所有している場合,「遺贈する」か「相続させる」かでは,遺言者が亡くなってからの取扱いが異なるので注意が必要です。お父さんがすでに亡くなっていて,お母さんが不動産の名義人となっていて,お母さんが遺言をする場合を例にして説明します。お母さんには長男と次男がいます。
ある土地を長男に「遺贈する」という遺言の場合,お母さんが亡くなった場合,長男がその土地の名義を変更するには,登記の申請を長男と次男が共同でしなければなりません。次男が遺言の内容に不満を持ち,長男の名義変更に協力しない場合,遺言で遺言執行者を定めていなければ,家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立て,その遺言執行者と共同申請するという方法などによらない限り名義変更ができないのです。これでは,遺言をした意味がありません。他方,「相続させる」という遺言の場合,長男は次男に協力を求めることなく,単独で登記の申請をすることができるのです。
土地の地目が農地の場合,「遺贈する」という遺言の場合,名義の移転についての知事又は農業委員会の許可が必要となりますが,「相続させる」という遺言なら知事の許可は不要です。このため,農業に常時従事していない者に農地を「遺贈する」場合,所有権移転登記ができなくなるおそれがあります。
このように「遺贈する」と「相続させる」のどちらの表現を用いるかによって,その後の取扱いが異なります。その他にも注意すべき点はいくつかありますので,遺言書を作成する際には,弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。