ある医療事故に関する講演会での出来事です。医療訴訟の実際を市民向けにお話をするという企画の講演会でした。一通りの講演を終えて、質疑応答の時間に入ったときのことです。ある参加者の方が、自分自身の医療事故の経験談をお話になり、医療過誤と言えるだろうかという質問をされました。その内容は明らかに医療過誤であると思われたので、すぐに弁護士に相談をするようにお答えしたところ、男性の方は「でも、もう20年以上も前のことなのです。」と話されました。
医療訴訟は、医療訴訟で勝訴するのは難しく、時間がかかるという考えがよぎり、また、裁判沙汰にしたくはないという考えで、弁護士の所に行くのを躊躇してしまったという方が多いようですが、なかなかあきらめきれず、未だに心にわだかまりをもっているという方が大半だと思います。
最新の医事関係訴訟の司法統計によると、平均審理期間は25ヶ月程度だそうです。審理期間は一般事件が約7ヶ月ですから約4倍程度時間がかかっています。また、判決で患者側の訴えの一部でも認容された確率は25.4%ですが、一般事件の認容率が84%程度です。一般事件で、証人尋問などを経たケースでも認容率は67%程度になっていますから、如何に医療訴訟の勝訴率が低いかがわかります。
しかし、このような厳しい状況下であっても、現実に訴訟を提起する人は数多くいらっしゃいます。自分の妻が、子が、親が医療事故で突然死亡したり、大きな後遺障害を負ったりした場合、医療の内容に疑問を感じたまま、やり過ごしてしまって、後で、悔いを残すことがないのかどうかを基準に考えてもらえればと思っています。
事故から時間が経過すればするほど、カルテが保存期間の壁や時効の壁があり、医療事故として立件するのは非常に難しくなります。医療事故ではないかと思ったら、そして、後悔したくないと思ったら、まず、あれこれ考えず、弁護士に相談することをお奨めしています。