俳優やタレントの芸名がいつの間にか変わっていることがよくあります。芸名を変えて心機一転したいという場合が多いようですが,一般の人が戸籍上の氏名を自由に変更することはできるのでしょうか。
まず,氏(姓)の変更について,一般的には結婚や養子縁組によって氏が変わることを思い浮かべますが,ここでは離婚によって氏が変わる場合を考えてみましょう。離婚した場合,妻は,離婚の日から3カ月以内に役所に届出をすれば,婚姻中の氏を名乗ることができますが,届出をしない限り婚姻前の旧姓に戻るのが原則です。
子どもの親権者を妻と定め,妻が旧姓に戻った場合,当然に子どもの氏も母親と同じ氏になる訳ではなく,子どもの戸籍は筆頭者(一般的には父親)の戸籍に残ったままです。しかし,母親と子どもが生活をともにしていく際に,母子で氏が異なると社会生活上の不都合が生じる場合があります。そこで,旧姓に戻った母親は,家庭裁判所に子どもの氏の変更許可の審判を申し立てることができます。この手続きを行うことにより,短時間で比較的簡単に子どもの氏を母親と同じ氏に変更することが可能です。
さて,このような身分上の関係の変更がないのに,自分の氏や名を変えたいと思ったときに自由に変えることはできるのでしょうか。まず,氏は戸籍編成の基礎であり,名とともに人の同一性を表す称号ですから,軽々しく変更されるべきではなく,やむを得ない事由によって家庭裁判所の許可を得た場合にのみ,その変更が認められています。やむを得ない事由と認められるには,当人にとって社会生活上,氏を変更しなければならない事情があり,その事情が社会的,客観的に見ても是認されるものであることを要します。具体的には,通姓を長期間継続使用していたため戸籍上の氏ではその人を識別することが困難な場合,珍奇であるため人格を傷付けられ,客観的にも珍奇と考えられる場合や読み方が難解な場合などが考えられます。
名については,正当な事由があって家庭裁判所の許可を得た場合にのみ変更できます。正当な事由とは,単に個人の趣味や感情,希望のみでは足りず,例えば,同姓同名の人がいて社会生活上甚だしく支障のある場合,営業上の目的で襲名する必要がある場合,通名を長期間継続使用し社会的にその名が通用している場合などです。
いずれにしても,戸籍上の氏名を勝手に変更することはできないのです。