執筆:高田 耕平 弁護士
- とある夫婦の話です。甲野太郎と花子は結婚20年を迎える円満な夫婦でした。しかしある日突然、太郎は職場の同僚と不倫関係を持ち家を出て行きました。花子は怒りが収まらず、弁護士に依頼をして離婚調停を申し立てました。その後離婚が成立し、太郎から慰謝料や財産分与も支払われ、花子は第2の人生をスタートしようとしていました。そんな最中、花子のもとに、太郎が勝手に購入した最新型掃除機購入代金3万円の請求書、②太郎の行きつけの飲み屋から30万円の請求書、③貸金業者から太郎がギャンブルのために借りた300万円の請求書、④太郎が契約をした放送受信契約の未払受信料10万円の請求書が届きました。花子は、「太郎とはもう夫婦じゃないし、私は連帯保証人でもないんだから1円も支払わない」と言っています。①~④は結婚中夫婦円満だったころに太郎が行った契約ですが、果たして花子は支払う必要がないのでしょうか。
- 民法761条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う」と規定しています。つまり、夫婦の一方が、日常生活に必要なものを購入したり、購入資金を借金したときは夫婦の他方にも支払義務(「連帯債務」といいます)が生じることになるのです。そして、この「日常家事」とは、「夫婦と未成熟子が日常の家庭生活を営む上で通常必要とされる一切の事項」とされ、たとえば、食品の購入費用、衣類や家具・家電などの生活必需品の購入費用、夫婦が暮らすアパートの賃料、家族の医療費、子どもの教育費用などが該当します。
- 話を甲野元夫婦に戻りましょう。まず、太郎が無断で行った最新型掃除機の購入は、生活必需品の購入として「日常家事」に該当します。そして、日常家事債務は、離婚によって免れることはできませんので、花子は購入代金の支払義務を負うという結論になります。次に、お店での飲酒やギャンブル目的での金銭の借入れですが、これはさすがに夫婦生活に必要な事項とはいえず、花子が支払義務を負うこともないでしょう。では、放送受信契約はどうでしょうか。最近の判決ですが、カラーテレビの普及率が極めて高いことや、当時の衛星カラー契約の受信料額は月額2340円であることなどをあげて、「日常家事」に該当すると判断したものがあります。従って、花子が未払受信料の支払義務を負う可能性は高いと考えられます。
- 離婚には、慰謝料や養育費、財産分与といった夫婦間の問題の他に、「日常家事債務」という第三者間の問題が浮上することもあり、法律問題を多様に含みます。