執筆:浦河ひまわり基金法律事務所
小荒谷 勝 弁護士
旅行会社で、野球のメジャーリーグ観戦に加えてロサンゼルスなど現地観光が付いた内容の旅行を契約しました。しかし、出発日の2日前になって「野球の観戦チケットが手配できなかったので催行中止となる。野球観戦を除いた他は同じ内容の旅行を、代金を通常よりも相当減額して催行するがどうするか。」と旅行会社から連絡がきました。私は休みをとっていたため「行く」旨返答しました。旅行はそれなりに楽しめたし、旅行代金の差額分の返還を受けてはいるのですが、最も楽しみにしていたメジャーリーグの試合を観戦できなかったことに納得できません。旅行会社に損害賠償を請求することは可能でしょうか。
このようなスポーツ観戦ツアーで、旅行会社が観戦チケットを手配できず裁判になった事例があります(名古屋地裁平成11年9月22日判決)。
この裁判例は、旅行会社がワールドカップサッカーフランス大会での日本代表戦の入場券を手配できず、試合を観戦できなかった方が、旅行後、旅行会社に対して慰謝料等を請求した事案です。裁判所は、旅行会社による、「入場券の確保ができない」ので旅行を中止する、「観戦を除いて同じ行程」の「旅行を割安の新価格で催行する」がどうするかとの問い合わせに対して、旅行者が「参加する」と答えたやりとりついて、もともとの旅行契約が合意解除され、新たな旅行契約が締結されていると判断しました。次に、合意解除に至ったことが、旅行会社の責めに帰することができない事由によるか否かの判断では、旅行会社の責任を認めています。もっとも、旅行代金残額が新規旅行契約の代金に全額充当されていること、慰謝料について、お詫び料の趣旨を含めて割安に設定された新規旅行代金との差額を返還していること、旅行契約の総額と入場券の手配代金の割合、合意解除前後の対応の誠実性などを総合考慮して、返還された旅行代金の差額以上の慰謝料請求は認めませんでした。
この裁判例を参考に今回の事案をみると、もともとの契約は、メジャーリーグ観戦に加えてロサンゼルスなど現地観光が付いた内容の旅行でしたが、双方の合意によりその契約が解除され、新たに、ロサンゼルスなどを観光する内容の旅行契約が締結されたと考えられます。そして、実際、新規に契約した旅行に行っていること、旅行代金の差額として相当額が返還されていることからすると、旅行会社に対する損害賠償請求が認められる見込みは低いと思われます。
以上