周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会の新企画「札幌弁護士会の知恵袋」。
第4回テーマは「交通事故」の中から「人身事故」を取り上げます。
ゲストは、第3回に引き続いて、広田拓郎氏。進行役の田島美穂さんに「(体型のわりに)意外に声が高いですね。」と言われて、バリトンボイスへの憧れをいよいよ強くした同氏ですが、前回から引き続き、人身事故について語ります。
今回は、いよいよ損害賠償に関するイロハのイ、もしものときのための知識を整理しておきましょう!自動車のドライバーのみならず、全ての方に何度も聴いていただきたい内容となっています。知って得する知恵袋、今回も乞うご期待!
放送日 | 2015年7月28日 |
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ゲスト | 広田拓郎 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
むち打ち・頚椎捻挫、賠償金、内心の自由、治療費、賠償上の治療期間・症状固定、休業損害、主婦(主夫)の休業損害、有給休暇と休業損害、過失相殺、遅延損害金、後遺症、損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所、後遺障害等級、労働能力喪失率、逸失利益、後遺症の慰謝料、自覚症状と後遺症、MRI画像 |
— さて、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回も引き続き、交通事故のうち、人身事故をテーマとして取り上げることになります。
ゲストも先週に引き続き、札幌弁護士会に所属の広田拓郎(ヒロタ タクロウ)さんです。
広田:はい、よろしくお願いします!
第1 交通事故の被害に遭ったときの賠償金
— 早速、今回の質問に行きます。「私は、追突事故によりむち打ちのケガをしました。頚椎捻挫と診断され、6か月くらい通院しましたが、まだ首の痛みが少し残っています。相手の保険会社からは、『賠償金をお支払しますので、終結しましょう。』という様なことを言われています。この場合、私が気を付けなければならないことがあるとすれば、どの様なことでしょうか?」というものです。
広田:はい、今回は、このご質問を受けまして、交通事故に巻き込まれてしまった場合の最終的な解決の方法、つまり、被害に応じて相手から賠償金を支払ってもらうことについて中心にお話します。
— そもそも、事故で被害を受けた場合、お金より先に、まず相手に謝って欲しいですよね(笑)。
広田:いやー、その通りですよね(笑)。お金なんかいいから、相手に謝って欲しいとおっしゃる相談者の方も大勢いらっしゃいます。
しかし、「悪かった」と相手が思うか思わないか、その気持ちを謝罪という形で示すか示さないかは、相手にも内心の自由があるので、裁判をもってしても強制できないんですね。法律では、被害に応じた賠償金を支払ってもらうしかできないんです。
— 被害に応じた賠償金というと、どの様なものがありますか?
第2 賠償金の種類
広田:はい、まず、損害賠償の考え方がどの様なものかというと、「被害者が事故で受けた被害をお金で穴埋めして、事故前に戻す。」という原則があります。ここから、治療費や通院交通費を支払ったら、お金を支払って穴埋めしてあげなければいけないし、精神的苦痛を受けた分も、やはり何らかの形でお金に換算して、支払って穴埋めしてあげなければいけない。
その様な考え方から、交通事故の賠償の対象としてどの様な損害があって、どの様に金額を算定していくのか、大体決まっています。逆にいうと、それ以外の損害の賠償を求めるのは難しく、弁護士が頭を悩ませるところです。
今回のケース、すなわち、赤信号待ちをしていた皆さんの車に、後ろから来た車がゴツンと追突してきたというケースでいえば、治療費、通院交通費、休業損害、ケガの慰謝料、後遺症が残ってしまった場合には、追加で逸失利益と後遺症の慰謝料というものが挙げられます。
— 聞いて何となくイメージはわきますが、詳しくはよく分からないので、解説お願いします(笑)!
第3 治療費
広田:はい、もちろんです(笑)。今回はお時間も限られていますので、治療費、休業損害、ケガの慰謝料、逸失利益、後遺症の慰謝料に絞ってお話します。
まず、治療費ですね。これは、相手に保険会社が付いているのであれば、通常、保険会社から直接、病院や整骨院に対して支払われることになります。ですので、賠償の話合いの中で、改めて支払ってもらうことはありません。
ただ、保険会社が支払を打ち切った後も、自費で治療を続けていた場合は、支払を請求することになります。つまり、賠償上の治療期間として、保険会社が支払を打ち切ったときまでとするのが妥当なのか、あるいは自費でその後も支払い続けた期間も含めるのが妥当なのかは、保険会社との話合い、あるいは裁判を起こして、裁判官に決めてもらう、ということになります。
— 保険会社も、一度支払を打ち切った手前、なかなか打切後の治療費を損害として認めることは少ない、というのが前回の話でしたね。
広田:そうなんです。ただ、後で説明するケガの慰謝料の金額で調整するということは、ありますけどね。
第4 休業損害
— 次に休業損害はどうでしょうか?
広田:休業損害は、事故のケガの痛みのためですとか、通院する時間を確保するために、仕事を休まざるを得なかった場合で、実際に収入が減ってしまったとき、その減った分を1日いくらと計算して、支払ってもらうものです。
その1日いくらの部分については、お給料をもらって仕事をしている方であれば、勤務先から発行される給与明細書や源泉徴収票、又自営業をされている方であれば、主に確定申告書をもとにして、計算することになります。
— 確か、収入がない専業主婦(主夫)であっても、休業損害を請求できると聞いたことがありますが、本当ですか?
広田:はい、本当です。専業主婦(主夫)、私達の言葉では家事従事者といいますが、そのお仕事は、家族という他人のために家事をすることで、本来は、一定の報酬を支払うべきものと考えられます。このことから、交通事故賠償の考え方として、事故で家事が出来なくなれば、その分、家事従事者には休業損害が発生したとします。具体的な金額は、国で毎年、性別や年齢別、学歴別などで賃金の統計をしたデータがありますので、それに基づいて算定します。
ただ、1日家事全部休むというよりも、この家事はしたけど、これは出来なかったという様なことが多いものですから、治療期間中の休業したパーセンテージで計算することが多いです。
— あと、身体が痛くて仕事が出来ないとか、病院へ通院するために、有給休暇をとった場合にも、補償の対象になりますか?
広田:はい、事故がなければとる必要がなかったものですから、休業損害として補償の対象として取り扱うことが通例です。
第5 慰謝料
— ケガの慰謝料も請求できるとの話ですが、これって、どうやって、お金に換算するんですか?ケガの痛みとか、ケガでしたいことが出来ないつらさなんて、人により千差万別ですよね?
広田:そうですよね。ですので、入院日数や通院日数といった明確なものが基準の中心とはなりますが、それにケガの診断名やケガした身体の部位、どの様な事故だったかなど色々考慮に入れて、金額を算定することになります。
— そういえば、慰謝料って、当初、相手の保険会社から支払います、と言われた金額と、その後に弁護士さんに依頼して裁判をして決まった金額とでは、かなり差が出るような話を聞いたことがあります。
広田:そうですね。当初に相手の保険会社が支払います、と言ってくる慰謝料の金額は、裁判をして最終的に決まる金額よりも、低く抑えられていることが通常です。保険会社の立場からすれば、話合いですぐに終わらせて、弁護士に頼んでお金をかけたり、裁判をして時間をかけたりせずに済んだのだから、ちょっと低めの金額でお願いします、というところでしょうか。
— なるほど、そこは、支払を求める方法による、ということなんですね。
それで、最終的に、自分の手元に来る損害賠償額の計算は、どの様に行うのですか?
第6 損害賠償額の計算方法
広田:はい。まず、第一に、今お話してきた様な、治療費、通院交通費、休業損害、ケガの慰謝料額などの金額を、全て足して、損害額の総額を決定します。
第二に、事故が起きたことに、自分にも過失があるという場合、自分の過失で発生した分は、相手の責任ではないので賠償金を受け取れませんから、その分の金額を損害額の総額から差し引きます。
今回の赤信号待ちの追突ケースでは、こちらの過失はゼロと考えて良いので、差し引く金額はありません。ですが、例えば、損害額の総額が100万円で、自分にも過失が20%ありますよ、ということで解決する場合、20万円分を100万円から差し引いて、80万円を相手に請求することになります。
そして第三に、相手の保険会社から既に支払ってもらっている治療費や休業損害に対する補償などのお金、これを既払金といいますが、それを更に差し引きます。
基本の考え方は以上の様なものですが、事故発生からかなり時間が経っていて利息(法律上、正確にいうと、遅延損害金といいます。)が発生している、労災から給付金を受け取っている、人身傷害保険金を受け取っているなどなど、事故によって得られるお金は賠償金以外にも様々なものがありますので、そのうち、何をどの様に差し引くのか、差し引かなくていいのか、その続きは、札幌弁護士会の法律相談センターで弁護士さんに相談してみて下さい(笑)。
— なるほど、大体の流れは分かりました。で、これは、症状が幸いにも全て消えて、ケガが治ったといえる場合ですよね?
そこで、前回のお話にあった様な、症状が残ってしまったという様な場合だと、どうなりますか?
第7 後遺症が残った場合の損害賠償額
広田:はい、後遺症が残ってしまった場合、これからも残った症状と付き合っていかなければならないのですから、その分被害が大きく、更に上乗せの賠償金を支払ってもらわなければなりません。この場合、大きくいうと二つの上乗せがあります。
一つは、逸失利益というものです。「逸」は機会を逃すなどの意味がある「いつ」、「失」は失うという字を充てます。
症状が残ってしまうと、その症状によって、事故前の様に十分に働くことが出来なくなることがあります。その場合、首や腰が痛くて同じ姿勢を取り続けられない、急に後ろを向けないなど、事故前にはなかった支障が生じます。これについて、働いてお金を得る能力が下がったと考えて、事故がなければ将来得られたはずの稼ぎを逃してしまったということで、事故を起こした人に賠償してもらうことになる。これを逸失利益といいます。
— なるほど、字のとおり、将来、事故がなければ得られたはずの収入を、事故の賠償の話をする際に、まとめてお話をして、先取りして支払ってもらうということですね。
でも、その逸失利益というんですか、将来のことですし、計算が難しそうですよね…。
広田:はい、そうなんです。そこで、この様な計算を簡単にするため、専らこの様な方法がとられます。それは、後遺症が残ってしまった場合、自賠責から「これは後遺症として私達が認めますよ。」というお墨付きをもらうんです。正確にいうと、「自賠責」ではなくて、「損害保険料率算出機構」という特殊な民間団体の中の、「自賠責損害調査事務所」というところですが、名前が難しいので、ここでは簡単に「自賠責」と言ってしまいます。
そのとき、「あなたの後遺症は、ランクとしては、これこれです。」と後遺症のランク分けをされます。この後遺症のランクには、それに対応する形で、「これこれの後遺症では、このランクになって、何パーセントの働く能力が下がるものとします。」というのが予め決められているんです。後は、認定されたランクに対応した、働く能力の低下分のパーセンテージを使って、逸失利益を計算していくのです。この後遺症のランクを、後遺障害等級といいます。
ただ、働く能力の低下分のパーセンテージ、すなわち「労働能力喪失率」は示談交渉や実際の裁判の中で、職業の種類などによってアップダウンが争われることも多いです。
— あ、なるほど、後遺障害等級という枠組みが予め決まっていて、あなたの後遺症がそこに当てはまりますよ、と自賠責が認めてくれれば、その等級というものがもらえるという訳ですね。
広田:その通りです。
— 自賠責でないと、その後遺症の等級って、もらえないのですか?
広田:はい、その通りです。ですが、後遺障害等級は、逸失利益などを算定するための道具ですから、最終的には、逸失利益などの算定が出来ればそれで良い。だから、裁判所に損害賠償の訴訟を起こした上で、裁判官に直接、逸失利益を計算してもらう、という方法もあります。
しかし、裁判官も、とりあえず自賠責で後遺障害等級として認められている後遺症なのかを、まず第一に見ます。裁判官も、色々な事件を扱っていますから、いきなり資料を渡されて、「これって、逸失利益いくらですか?」と言われても、すぐにはよく分からないのです。やはり、専門機関である自賠責の判断を第一に参考にする。
特に、自賠責で等級を認めないという結果が出ている後遺症を、裁判官に賠償の対象として認めてもらうのは、かなり難しいと思った方が良いです。
— 分かりました。あと、後遺症が残ってしまった場合、もう一つ上乗せ分があるんですよね?
広田:はい、もう一つは、後遺症の分の慰謝料です。
後遺症が残ってしまうと、ケガをしたときと同じか、それ以上に精神的に落ち込むと思います。「この痛みとずっと付き合っていかなければならないのか…。」考えるだけで気が重くなって、将来が不安になります。この後遺症が残ってしまったことによる精神的苦痛については、後遺症の分の慰謝料ということで、ケガの分の慰謝料とは別に支払ってもらうことが可能です。
これも、逸失利益と同様に、自賠責が認めた等級に応じて、大体金額も決まってきます。
— なるほど、残念ながら後遺症が残ってしまった場合でも、相手からその分賠償金を多く支払ってもらえることが出来るんですね。
広田:はい、その通りです。自賠責から後遺障害等級を認められるかどうかは、後遺症が残ってしまった場合の損害賠償にとって、決定的と言って良いほど重要なんです。症状固定となり、具体的な損害賠償の話合いを進める前に、一度弁護士さんに相談されて、今後の見通しについて聞いてみる、という方が良いと思います。
— 痛みが残っているのに、自賠責で後遺障害等級を認めてくれなかった、ということもあるんですか?実際に痛いんだから、認めてくれないのはおかしいですよね?
広田:はい、痛みがあるのに、自賠責で後遺障害等級が付かない、ということはあります。特に、今回の様な、むち打ちで首にケガをした場合ですと、意外なほど多いです。というのも、この様なケガの場合、「痛い」というのは、本人しか分からないことが多い。レントゲンをとっても、骨には異常がないし、MRIをとっても、明らかに事故の原因だと分かる様な首の異常は見当たらない、いわゆる自覚症状しかない、ということですね。本人にしか分からないなら、自賠責でも分かりようがない。そこで、自賠責では、「痛みがある」という状態が誰の目にも明らかなものでない限り、後遺症があるとは認めてくれないのです。一番良いのは、MRI画像などで、「これが事故で生じたケガで、ここが悪さして痛いんですよ。」ということがはっきり分かることですが、特に、むち打ちで首にケガをした様な場合だと、その様な資料はないことがほとんどです。
— その様な場合、後遺症が痛いのに、まさに泣き寝入りしかないのでしょうか?
広田:いえいえ、その場合も、何とか一番低い後遺障害等級を獲得出来る様に頑張ってみる、ということになります。一番低いとはいっても、逸失利益と後遺症の慰謝料という上乗せがあるので、賠償金はどんと多くなります。
ただ、全然病院に通院していなかったとか、どうしたって等級が付かないものと、もうちょっと弁護士が、専門的知識や経験に基づいて、資料を揃えるなどの工夫をすれば等級が付きそうなもの、など事案によってバラバラなので、やはり弁護士に相談されて、アタリを付けてもらうのが良いと思いますよ。
— なるほど、諦めないことが大事なんですね!
広田:そうです。交通事故の賠償は、ある程度、損害賠償の対象となるものとならないものとが決まっています。だから、諦めることは簡単といえば簡単です。
ただ、何とか頑張って、少しでも多く賠償金を相手から支払ってもらう、これが私達の仕事です。完全に事故前の身体の状態に戻らないこともありますし、完全に事故前の生活を取り戻せないこともあります。だとすれば、少しでも事故前の状態に戻るため、賠償金という形で、少しでも多く支払ってもらうしかないと思っています。
とはいえ、事故は起きない、起こさないに越したことはありません。交通事故は、誰もが、被害者となり得ますし、加害者にもなり得ます。みなさんも、くれぐれも交通安全に気を付けて、この夏を楽しくお過ごし下さい。
— はい、という訳で、いい感じで決まりましたので(笑)、今週の札幌弁護士会の知恵袋、この辺で終わりたいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士広田拓郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士広田拓郎(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年7月28日