周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が平成27年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
第5回から第8回にかけては,労働問題(労働者の視点から)を取り上げます。労働問題の記念すべき第1回は,働いている人なら誰もが関係する「残業代について」です。
ゲストは、今回から,札幌弁護士会で「広報委員会」と「雇用と労働委員会」をかけもちしている桑島良彰氏。同氏が、よくわからない残業代の請求について,懇切丁寧に語ります。
働いているのにまっとうな給料が出ない!なんだか勤めている会社がブラック企業のような気がする!という方には必聴・必読のコンテンツです。
放送日 | 2015年8月4日 |
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ゲスト | 桑島良彰 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
残業代,労働時間,指揮監督命令,時間単価,タイムカード,サービス残業,時間外手当,時効,労働審判 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回から,テーマを変更し,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の第1回目の今回は,残業代についてお話いただきたいと思います。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の桑島良彰(クワシマ ヨシアキ)さんです。
桑島:よろしくお願いします。
— では、早速,今週のテーマに行ってみましょうか?
桑島:行きましょう!
第1 残業代の基本
— では,本日の質問です。
「私は,最近毎日,会社で夜中の12時まで仕事をしています。仕事の量が多くて,この時間までやらないと仕事がおわりません。正直きつくてもっと楽にならないかと思っているところです。
でも,どれだけ仕事をしても,ぜんぜん給料が増えないんです。長く働くと残業代がもらえると聞いたことがあります。私は残業代はもらえないんでしょうか?」
毎晩午前様とは大変ですねぇ。さて,質問者さんは,残業代ってもらえるんでしょうか。
桑島:質問者さんの場合,法律通りに残業代が支払われていない可能性が高いです。
ですから,会社に請求すれば,支払ってもらえる可能性が十分にありますね。
— そうなんですね。そもそも,残業代ってどんな時にもらえるものなんでしょうか?
桑島:残業代については,労働基準法で支払うべき時が決められています。基本的には,1日8時間以上働いた場合,または,1週間に40時間以上働いた場合には,残業代がもらえることになっています。
— その二つって同じことじゃないですか?1週間の平日が5日ですよね?
桑島:いえ,二つ定められていることに意味があるんですよ。たとえ,1日8時間しか働かなかったとしても,1週間に6日働いたら,1週間の労働時間は48時間になりますから,6日目の8時間は残業代支払いの対象になります。つまり,一般的な話をすれば,土曜日も働く条件だったら残業代の支払いがされる可能性が高いということですね。
例外的に支払いをしなくてよいこともあるのですが,まずは,自分が働いている時間が,この時間を越えているかを計算してみてください。
— なるほど,二つで違っていることもあるんですね。
あ,そういえば,残業代って普通より多めのお金がもらえるって聞いたことがあります。もらえる金額はいくらになるんでしょうか?
桑島:残業代の金額は,残業した時間と,1時間あたりの給料額によって決まります。
まずは,1時間あたりの給料額を計算して,これを1.25倍した金額が1時間あたりの残業代になります。最後に,残業時間をかければ,支払われる残業代がわかることになります。
1.25倍の部分は,1.25倍から1.5倍の間で変更することができるんですが,ほとんどの会社では1.25倍です。なので,あまり気にせずに,この金額で計算してください。
— へぇ~そんな計算方法なんですね。あれ,そうすると,会社に長くいればいるほどたくさん給料がもらえるということになるんですか?
第2 残業になる時間とは?
桑島:いえ,そうともいいきれません。会社にいればいいというものではなくて,ちゃんと働いているときだけが残業時間になります。仕事が終わった後,会社で遊んでいても,残業代はでないということです。
— それはそうですよね。でも,ちゃんと働いている,ってどんな時なんでしょうか。
桑島:裁判上では,「指揮監督命令」を受けているときが「労働時間」にあたり,残業代がもらえる時間とされています。
具体的にいうと,上司にこの仕事をするように,といわれた仕事をきちんとやっている時間が,残業代支払いの対象となります。
まぁ,普通は仕事終わったらみなさんすぐに家に帰りますから,よっぽどのことが無い限りは,会社にいる時間が労働時間になると思いますが。
ちょっと変わったところでは,作業服に着替えなさい!と命令されているときには,その着替えの時間も労働時間と認められたりすることがあるんですよ。
— 着替えの時間もお給料がもらえたりするんですね~。
ところで,さきほど1時間あたりの給料を計算するっておっしゃってましたよね?
桑島:はい。
第3 残業代の計算方法
— 1時間あたりの給料って,どうやって計算すればいいんですか?単純にもらった金額を時間で割ればいいのかな。
桑島:そうですね。原則は給与明細上の額面の金額を毎月の労働時間で割って計算します。額面の金額ですから,税金や年金を引く前の金額ですね。ときどき,基本給だけを割って金額を出そうとする会社もありますが,それ以外にも固定的に支払われているもののほとんどは,全部含めて時間単価を計算しなければなりません。
また,毎月の労働時間というのは,「残業にならない時間」ということです。会社によりますが,大抵のところでは173時間ほどで割ることになります。
時給制のところなどは,時給がそのまま単価になりますね。
第4 残業代請求の可能性の判別方法
— なるほど,ところで,話はかわりますが,残業代がもらえてるかどうかって,どうやったらわかるんでしょうか。
桑島:最終的には,給与明細を見て,これまでお話してきた計算方法で計算できる残業代が記載されているかを確かめるしかありません。
— うーん,これまでお聞きしてきて,計算するの結構大変そうだったんですよね・・・。なにか,簡単な方法はありませんか?
桑島:正確にわかるわけではありませんが,これからいう点に注目するとわかりやすいかもしれません。
まず,会社があなたが働いている時間を把握しているかどうかを確認してください。タイムカードなどが一切なく,日報の提出もない場合には,会社が残業時間を知るすべがありません。そうすると,残業代が支払われていない可能性が高いと言えます。
あまりこういう例はないと思いますが,退勤のタイムカードを押してからもずっと働け!なーんて言われている場合には,サービス残業が明らかですから,残業代がちゃんと払われてないと判断できます。
まぁ,これはあからさまですし,こんなことはあまり多くないと思いますが。
— なるほど,まずはタイムカードなんかの確認ですね。
桑島:次に,1日8時間以上働いている方であれば,自分が会社からもらっている給与明細を見て,「時間外手当」という記載があるかを確認するという方法があります。一般的には残業代は給与明細にこの名前で記載されています。この費目がなければ,残業代が支払われていないことを疑うべきです。
あ,給与明細がもらえない,という場合も残業代が支払われていないことを疑う根拠になりますね。
— そんな会社あるんですか?
桑島:残念ながら,我々の仕事をしているとそんな会社もときどきあるんですよね。いわゆるブラック企業というやつになるんでしょうが。
さて,最後は,給与明細の時間外手当がずーっと同じ金額になっている場合です。本来,残業時間が毎月違うので金額が変わるはずです。変わらないということは,なにか誤魔化されている可能性が高いといえます。
ただ,これは給与体系によっては問題ないこともありますので,最終的な判断は弁護士等に相談して確認してください。
— 3つとも,実際に計算するよりはだいぶ簡単ですね。
まずは,それで判断して見て,怪しかったらちゃんと計算してみればいいか。
第5 残業代請求で気を付けるべき点
桑島:はい,そうしてもらえれば,少し判断がしやすいと思います。
あと,残業代については,今からさかのぼって2年分しか請求ができませんので気をつけてください。
— そうなんですか?なんで2年なんでしょうか。
桑島:残業代については,時効が2年と定められているんです。ですから,払われていないとわかったら,早めに請求する必要があります。ほおっておいたら,ほんとはもらえたはずの残業代が全部時効でなくなっちゃったということもありえますので。
— それは気をつけないとだめですね。他に気をつけるべきところはありますか?
桑島:残業代の請求をする際には,最終的には自分が働いた時間を証明することができるかどうかが大事になります。
会社でタイムカードが使われているなら,タイムカードを写真で取っておくとか,メモでもいいので,いつからいつまで会社で働いたかを示すことのできる証拠を作っておくことが大事になりますね。
— やっぱり証拠が必要になるんですね。自分で書いたメモでもいいんですか?
桑島:タイムカードに比べればだいぶ証拠としての価値は下がってしまうのですが,毎日日記形式で付けていれば,有力な証拠になります。帰るタイミングを奥さんにメールして保存しておくなどもよい方法かと思います。
時間がわかれば,どんな証拠でもいいので,いろいろ考えてみてください。
第6 残業代請求の手続き
— 証拠が必要ということは,やっぱり裁判になるんでしょうか。前の交通事故の回でも,裁判なんかをするととっても時間がかかるとお聞きしたんですが・・・。
桑島:残業代についても,裁判までしないで会社との交渉で終わることもあります。ただ,裁判までしなければならないことも少なくありませんね。
会社がどうしても残業代を支払いたくないということになってくると,実際にもらえるまで1年以上かかることも少なくありません。この点は,裁判になってしまった場合の宿命ですので,なかなか短くはなりませんね。
— なにか,早く終わる方法ってないんですかね。
桑島:今日から始まる労働問題については,労働審判という手続きを利用することができます。労働審判は,原則,3回の期日で結論を出す制度ですので,裁判所での手続きが早めに終わる可能性があります。労働審判で終わるのであれば,半年以内に終わることが多いのではないでしょうか。
ただ,労働審判は,裁判とは違うので,若干もらえる金額がさがったりすることもあります。若干ですけどね。
— やっぱり変わった手続きがあったりするんですね・・・。
桑島:ええ,労働事件には,少しだけ特殊な部分があります。そのあたりについては,法律相談をしていただいて,確認していただきたいと思います。
さて,これで本日予定していた残業代についてのお話は終わりになります!基本的な部分ですが,頭の片隅にとどめておいていただければと思います。
気になる部分があった方は,これから確認してみてください。
— 本日は,どうもありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年8月4日