周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
「札幌弁護士会の知恵袋」、今月は離婚問題をテーマにお届けしています。
前回は女性弁護士ペアによる掛け合いで離婚問題のアウトラインをお話ししましたが、今回からは具体的にトラブルになりやすい問題を取り上げます。
第10回は離婚に伴うお子さんの問題について、ゲストの伊藤絢子さんが語ります。
今回からはゲストも一人でちょっと寂しい?と思いきや、具体的な問題になるとますますトークに熱が入ります。
時折飛び出す難解な法律用語にもたじろがず、MC田島美穂さんがソフトに切り込みます。
夫婦が離婚する場合の親権はどのように決めるの? 離婚の原因は親権に影響するの? 親権をもたないこととなった親は子どもに会えるの? あなたの疑問にお答えします。
放送日 | 2015年9月8日 |
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ゲスト | 伊藤絢子 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
親権、親権の考慮要素、面会交流、離婚の方法、離婚原因、協議離婚、調停・審判・裁判、履行勧告、強制執行(間接強制) |
— 今日も始まりました「札幌弁護士会の知恵袋」。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に、今日も弁護士がズバリお答えします。今月のテーマは「離婚」です。
今日のゲストは伊藤絢子(いとうあやこ)さんです。
よろしくお願いします。
伊藤:こんにちは。伊藤絢子です。今日もよろしくお願いします。
第1 親権とは?
— 前回は、離婚の方法や離婚原因についてお話ししていただきました。
今回から4回に分けてより具体的に、トラブルになりやすいポイントを取り上げます。
今日は、親権と面会交流のお話です。
具体的にみてみましょう。
婚姻生活10年の夫婦がいます。夫妻の間には小学校1年生の長女と、4歳の長男がいます。夫は勤務先の同僚の女性と不貞関係にあることが発覚しました。専業主婦の妻は夫との別居を決意し、長女と長男を連れて実家で暮らしています。別居から1年以上が過ぎ、妻は離婚したいと考えています。夫は、離婚はやむをえないと考えていますが、2人の子は自分が育てたいと主張して譲りません。
このケースでは、お子さんをめぐるトラブルが起きているようですね。
伊藤:そうですね、離婚事件では、お子さんをめぐるトラブルも多くなっています。
まずは親権の問題ですね。
未成年の子がいる夫婦が離婚する場合には、夫婦の一方を親権者として指定することが必要になります。
夫婦間で離婚の合意ができていたとしても親権者指定の合意ができなければ協議離婚の届出ができません。
協議によって親権者を決めることができなければ、家庭裁判所での調停や審判、裁判で解決することになります。
— そもそも、親権とは何ですか。
伊藤:親権とは、父母が未成年の子を監護、教育するために認められた権利義務の総称です。具体的には、①子に対して監護教育を行う権利義務と、②子の財産上の管理処分の権利義務の2つがあります。
父母は共同で親権者となるのが原則ですが、離婚した場合には父母いずれかの単独親権となります。
— 親権者は、どのように決められるのですか。
伊藤:当事者の協議によって親権者が決まらない場合には、裁判所は、様々な要素を考慮して親権者を決めることになります。
まず、親の事情としては、子を養育する能力、これには経済状態だとか、居住環境とか教育環境とか様々ありますね、それから心身の健全性、子に対する愛情の程度、最近だと子の養育に対する、祖父母などの親族の援助の可能性も考慮されたりします。
そして、子の側の事情。子の年齢や心身の状況がまず考慮されます。お子さんが小さいと母親が親権者となることが多いといえますが、あくまでもひとつのファクターですから、これだけで親権が決まるわけではありません。お子さんが大きくなってきますと、本人の意思も尊重されます。15歳以上になると裁判所はお子さんの意見を聴かなければならないとされています。
そしてそれまでの子の養育環境はなるべく変えないことが望ましいと考えられる傾向にあります。先ほどのケースですと、すでにお子さんはお母さんのもとで生活しているのですから、なるべく環境を変えない方がいいのでは、という考慮が働くわけですね。
ご紹介のケースのように兄弟がいる場合には、なるべく兄弟が離れ離れにならないようにする傾向にあります。
— さきほど、経済状態も考慮要素になるというお話がありましたね。
そうすると、専業主婦は親権の面で不利ということになってしまいませんか?
伊藤:先ほどご説明した考慮要素は、あくまでも総合判断のひとつの要素です。
経済状態だけで決められるわけではありません。また回を改めてお話ししたいと思いますが、離婚に際して養育費を請求することができますし、公的給付を受給することも考えられますから、公的給付や養育費も考慮すれば子の養育に支障がない場合には、それほど重要な要素とはされない傾向にあります。
第2 離婚の原因と親権の関係は?
— なるほど。
先ほどのケースの離婚原因は夫の不倫ですよね。離婚原因は親権者を決めるときの要素にはならないのですか。
伊藤:鋭いご指摘ですね。
一般的には、親権者の考慮要素として、離婚原因は重視されません。例えば、妻に暴力を振るう夫が、子供に対しても暴力を振るったり、子の目の前で妻に暴力を振るうことが常態化していたりするなど、離婚原因そのものが子の養育状況に悪影響を及ぼしているような事情がない場合には、離婚原因は親権の判断に影響しにくいといっていいでしょう。
— 親権者をめぐってお父さんお母さんが争うことは、お子さんにとっては辛いことですね。
伊藤:ええ。
親権者の決定に際しては、まずは「子の利益」が基準とされるべきと考えられています。
ご指摘の通り、お子さんが両親の板挟みになって苦しい思いをするということは、現実的に起こり得ることです。
弁護士が代理人として活動するとき、親権者の決定については、お子さんにとって何が幸せなのかを考えることになります。
第3 面会交流とは?
— 子の利益ですね。わかりました。
さて、先ほどのケースで親権者を妻にするとします。
そうすると、夫としては自分も可愛いお子さんに会いたい、と考えますよね。
夫はどうしたらいいのですか。
伊藤:そこで、面会交流のお話が出てきます。
— 面会交流ですか。
伊藤:少し前までは「面接交渉」ともいわれていました。今では「面会交流」といわれるようになっています。どちらも意味は同じです。親権者とならなかった親や子を監護養育していない親が子に会うことです。
近年では面会交流をめぐるトラブルも増えています。
— 親権者にならなかった親にも、子に会う権利があるのですね。
伊藤:親権者とならなかった親の権利であるとともに、子の権利でもあると考えられています。
子は両親と接触をもちながら育つ権利があり、両親が離婚したことにより、離れ離れになってしまった他方の親にも会うことは、基本的に子の利益になると考えられるのです。
— なるほど。
でも、冒頭のケースのように、夫の浮気が原因で離婚せざるを得なくなったような場合には、妻としては子を夫に会わせたくないと考えることもあるのではないでしょうか。
伊藤:そうですね。
夫婦が離婚するときには、もう顔も見たくない、というところまでいってしまうことがありますから、親権者となった側としては、自分が育てている子に元配偶者を会わせたくないという気持ちをもつことも理解できないではありません。
ですが、そこはお子さんの利益、ということを忘れないでもらいたいと思うのです。
面会交流を制限することができるのは、面会交流を認めることが子の最善の利益に反するような場合に限られるとされています。
第4 面会交流の方法は?
— 具体的に、面会交流の方法などはどのように決めるのですか。
伊藤:調停で面会交流を定めるときには、面会交流の頻度を合意し、面会の日時や場所、方法などは子の福祉を考慮して双方が協議するとされることが多いですね。
頻度としては月1回と定められることが多いといえます。
— 調停で合意したのに、面会交流の実施がうまくいかない場合にはどうしたらいいのですか。
伊藤:方法としては、①家庭裁判所に履行勧告の申出をし、裁判所から履行義務者に対して調停で合意した内容を履行するよう勧告してもらう、②再度面会交流の調停の申立をし、合意が整わない場合には、裁判所の審判を求めることが考えられるほか、③調停条項の内容によっては強制執行の申立てが可能なこともあります。この場合でも強制的にお子さんを連れてきて面会交流をさせることはできませんから、間接強制といって、面会交流がなされなければ金銭の支払を命じることによって義務を履行させようとすることになります。
まずは、家庭裁判所に履行勧告の申出を行うことを検討しましょう。
— 今日はお子さんをめぐるお話でしたが、実際に、お子さんをめぐってトラブルになるケースは多いのですか。
伊藤:残念ながら親権者をどちらにするとか、面会交流はどうするとかで争いが激化してしまうケースはあります。
離婚する当事者はつい、熱くなってしまいがちですが、お子さんの気持ちにもぜひ配慮してほしいと思っています。
お子さんはお父さんとお母さんの板挟みになって、ご両親の顔色を伺いながら辛い思いをしているかもしれません。
お子さんにとってはお父さんもお母さんもどちらも大切なお父さんとお母さんです。
しつこいようですが、ぜひ「子の利益」ということを十分に考えてほしいと思います。
— そうですね。お子さんがなるべく辛い思いをしないようにしてほしいですね。
今日はありがとうございました。
次回も引き続き離婚第3弾です。
段林君子さんをお迎えして財産分与や年金分割のお話をしていただきます。
次回もお楽しみに。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士伊藤絢子、弁護士段林君子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士伊藤絢子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年9月8日