周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
今週の「札幌弁護士会の知恵袋」は相続問題の3週目です。今週と来週は千崎史晴弁護士を迎え、遺言(ゆいごん、又は、いごん)について語っていただきます。
自分の愛する家族がお金や土地のことで争いになったりすることは誰もが避けたいところです。そんなトラブルを避けるために「遺言」の作成を検討されてみてはいかがでしょうか?
今週は、遺言の種類や作成費用等について解説していきますよ。
放送日 | 2015年10月20日 |
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ゲスト | 千崎史晴 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
相続、遺言、遺言書、遺贈、相続分、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
今回から2週連続で、遺言について取り上げることになります。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の千崎史晴(センザキフミハル)さんです。
千崎:どうも、よろしくお願いします。
— 先週の阿部さん,先々週の平田さんとは同じ事務所に所属していると聞いています。
千崎:はい。先々週の平田弁護士,先週の阿部弁護士と共に,3人の弁護士で共同の法律事務所を立ち上げ,仕事をしています。司法修習も同期なので,まあ,腐れ縁と言うやつですね。
第1、遺言はどのような人が書くべきか
— 先週までは相続をテーマにお話をいただきましたが,今週のテーマである遺言は相続と関連したテーマと言うことになりそうですね。
千崎:そうですね,遺言は相続の時に問題となりますので,もちろん関連したテーマと言うことになります。さらに言いますと,遺言書を作成するのは相続,つまり死亡よりも前,ということになりますので,相続が問題となる前段階で遺言が問題となるともいえます。
— 遺言を書く人,というと資産家の方や会社の経営者というイメージがあると思うのですが,遺言は一般の方にも関係してくるものなのでしょうか。
千崎:もちろんです。人間だれでも財産をもっています。自分が亡なった後に財産を誰に託すのか,という点で遺言は最後の意思表示ですから,誰でも関係してくるものなのです。
— なるほど。それでは,今日のテーマに入っていきましょう。
千崎:お願いします!
第2、遺言書を書くべきタイミング
— 本日の質問です。「私は先日大きな病気を患ってしばらく入院をしました。今は完治しましたが,仕事も定年退職してしばらく経ち,今後どうなるかもわかりませんので遺言を作成して自分の亡きあとのけじめをつけたいと思いますが,どのようにすればよいかわかりません。遺言を作成するのにどのようなことに注意すればよいか教えてほしいです」と言うものです。
遺言というと,死ぬ直前に残すもの,というイメージがあると思いますが,今回の相談のように元気なうちに遺言を残しておく方が良いのでしょうか。
千崎:そうですね。どのタイミングで遺言を作成すべきかというのは,それぞれの個別の事情があるので一概には言えませんが,亡くなる直前になってからでは遺言を残すこともできなくなる可能性もありますし,早めに作成しておく方が望ましいといえます。今回のご相談のように,大きな病気をしたとか,退職をしたというのは,タイミングとして良いかもしれません。実は,遺言は15歳以上であれば誰でも作成することができます。
— 15歳ですか! さすがに高校生で遺言を作るのは早すぎですよね。
千崎:現実的に15歳で遺言を残す人はほとんどいないとは思いますが,そのくらいの年齢になれば自分の財産についてどのように処分するかの判断ができるというのが法律の建前のようですね。
第3、遺言でどのように財産を分けるか
— 遺言はどのような内容にすればよいのでしょうか。やはり自分の財産を誰に渡すか,ということを記載することになるのでしょうか。
千崎:もちろん,遺言を作成する大きな目的は,自分の死後に自分の財産をどのように分配するかを指示する,というものですから,財産についての記載は当然メインになってきます。また,それだけではなく子や配偶者といった相続人へのメッセージを残すことも可能です。
— 亡くなった方からの最後のメッセージになるということですね。財産の分け方というと,具体的にはどのような記載になるのでしょうか。
千崎:財産の分け方というと,大きく分けて二通りがあります。前々回の平田弁護士が触れていますが,相続の際には亡くなった方の財産を受け取る人,つまり相続人にはそれぞれ相続分という取り分の割合が民法で決まっており,例えば亡くなった方に配偶者と子供が一人いるとすると,それぞれ半分ずつということになっています。この相続の取り分を変えることを遺言で指定することができます。これが財産の分け方の一つということになります。
配偶者と子供が一人,という先ほどの例の場合,配偶者に三分の二,子どもに三分の一,というように,本来の民法の取り分とは異なる割合を指定する,というような遺言の内容がこれにあたります。
— なるほど。法律で決まっている取り分の割合を変えられるということですね。自分勝手に変更してしまって大丈夫なんでしょうか。
千崎:自分の財産を誰にどのように相続させるか,ということは,そもそもその人の自由なはずですからね。相続人ではない,全く関係のない第三者に自分の財産を渡すことも可能です。法律上は「遺贈」と言っています。
— 自分の財産だから,自由に誰に渡すかを決められるということですね。財産の分け方のもう一つはどのような方法でしょうか。
千崎:もう一つは,複数の財産がある場合,誰にどの財産を渡すか,というものです。たとえば預金と自宅の土地建物があるとすると,配偶者に土地建物,子どもに預金というように,どの財産を渡すか指定することもできます。
— 財産の取り分の割合と,どの財産を誰に渡すかの指定,この二つができるということなんですね。
千崎:そうですね,他にも遺言でできるとされている事項はありますが,メインはその二つになると思います。
第4、遺言書のルール
— 遺言を実際に作るとなると,弁護士さんにお願いしなくてはいけないのでしょうか。自分で作成することもできるのですか。
千崎:遺言は自分で作成することもできます。但し,民法では遺言を実際に作成する上でルールを定めており,このルールを守らないと遺言は効力がない,とされていますので,その点に注意しなければなりません。
— そうなんですか。なぜそんな厳しいルールを作っているのでしょうか。
千崎:遺言は,作成者が生きているうちには効力は生じません。亡くなってから初めて問題となります。そうすると,何のルールもなく,日記とか,個人宛の手紙などで財産の分け方とか,取り分を決めてもいいということにするとその内容が亡くなった方本人の意思であるかどうかという争いが生じてしまいます。
そのような事態にならないように,自分の財産の処分については,民法で定めたルールにのっとった遺言でないとダメですよ,ということにしたのです。
— たしかに,特定の人あての手紙で財産の処分の方法を決められるということになると混乱してしまいますよね。具体的にはどのようなルールが定められているのでしょうか。
第5、自筆証書遺言
千崎:もっとも簡単な遺言は自筆証書(じひつしょうしょ)遺言というもので,自分で手書きして作るというものです。その際に守らないといけないルールとしては,全文を自分で手書きする,必ず作成した日付を記載し,名前を書く,ハンコを押す,つまり署名押印するということです。
— 意外と簡単ですね! ルールはそれだけなのですか?
千崎:そうなんです。意外と簡単なんです。ただ,注意しなければならない点がいくつかあります。全文を手書きで作成する必要があるので,パソコンなどで作成して印刷するというのはダメですし,一部でも印刷部分があると効力が無くなってしまいます。
また,日付は何年何月何日,と,必ず特定できないといけません。「平成27年10月」だけで日にちがないとか,「平成27年10月吉日」と記載されているだけの場合には,日にちの特定ができないので無効ということになってしまいます。
— それさえ守ればよいということですね。これならほとんどの方は作成できますね。
千崎:自筆証書遺言は,誰でも費用をほとんどかけずに作成できること,内容を誰にも知られずに作成できることがメリットといえます。これに対して決められたルールを守っていないと無効となってしまうこと,自分だけで作成できるので,後から改竄をされたり,偽造される恐れがありうること,遺言書が自分の死後に発見されない可能性があることなどのデメリットがあります。
— 発見されないというのは悲しいですね。遺言書が発見されなかったらどうなるのでしょうか。
千崎:遺言書が誰にも見つけてもらえなかった場合には遺言がないのと同じ扱いとなり,相続人の間で通常の遺産分割をすることになります。せっかく遺言を作ったのにそうなるのはもったいないというか,つらいですね。
— そうならないためにはどうすればよいでしょうか。
千崎:通常,人が亡くなったら遺品の整理とか,形見分けをするでしょうから,その時に発見してもらえそうな場所に保管するしかないと思います。ただ,生きているときに他人に発見されるのが恥ずかしいと考える方もいらっしゃいますので,難しいところですね。貸金庫に遺言書を預ける方もいるようですが,亡くなった後に貸金庫を開けるには相続人全員の同意が必要だったり,面倒な手続があるようなので,あまりお勧めできないですね。
第6、公正証書遺言
— なるほど。遺言の内容を確実に相続人に伝えたい場合や,自分だけで作るのが不安だから専門家の力を借りたいという方はどのようにすればよいでしょうか。
千崎:その場合には,公正証書遺言か秘密証書遺言を作成するのが良いと思います。
公正証書遺言とは,公証役場の公証人という方の下で作成する遺言です。公証役場は全国に約300か所あり,札幌圏だと札幌以外にも小樽,岩見沢,室蘭,苫小牧,滝川にあります。
ルールとしては,遺言を作成したい人が証人2名と共に公証役場に赴き,公証人と立会いの証人2名に遺言の内容を伝え,公証人がその内容を記載して本人に確認し,本人と証人,公証人がそれぞれ署名,押印して作成するというものになります。
公証人の目の前で作り,公証役場で保管してもらえますので,偽造や改ざんの恐れはなく,証人も立ち会いますので発見されないという心配もないでしょう。
ただ,遺言の内容は公証人や証人が聞きますので分かってしまいますし,公証役場にお支払いする費用が発生します。これらはデメリットとなるかもしれません。
— 証人は誰に頼めばよいのでしょうか。
千崎:相続人になりそうな人と遺贈を受ける人,その配偶者や子などは証人にはなれませんので,相続人にはならない親族や友人,弁護士などにお願いすることが多いようですね。
— 公正証書にすると費用もかかってしまいますよね。だいたいどの位なんでしょう。
千崎:遺言の内容で決まってきますので,一概には言えませんが,仮に財産が1500万円あり,配偶者に1000万円,子どもに500万円それぞれ分けるという内容の遺言の場合,3万9000円の手数料が必要となります。
第7、秘密証書遺言
— もうひとつ,秘密証書遺言というものもあるのですか。
千崎:はい,秘密証書遺言は公正証書遺言と同じく公証役場で作成してもらうのですが,その名のとおり遺言の内容は秘密にできるというものです。
ルールとしては,遺言を作成したい人が自分で遺言書を作成して署名,押印し,その遺言書を封筒などに入れて封をして,遺言書に押印したのと同じ印鑑を使って封筒に封印をします。
そのあとその遺言書を公証役場に持って行って公証人と証人2名に立ち会ってもらい,自分の遺言書であることと自分の名前,住所を公証人に伝えます。公証人は遺言書が提出された日と遺言者の氏名,住所などを記載して最後に遺言を作成する人,公証人,証人が署名,押印して完成となります。
— 遺言の内容は公証人や証人にも秘密にできるのですね。
千崎:はい。このように作成することで遺言の内容を秘密にしつつ,公正証書遺言に近い遺言書を作成することができます。
また,秘密証書遺言は自筆証書遺言と違って手書きで作成することは求められていませんので,パソコンで作成したものでも有効です。
ただし,遺言書自体に署名,押印がないなど,遺言書に不備があると無効になってしまうおそれがあります。誰にも内容を知られない代わりに,不備があっても誰もそれを指摘できないですからね。
また,費用がかかることもデメリットといえるかもしれませんが,公正証書遺言と違って遺言の内容がわかりませんので,費用は一律1万1000円と決まっています。
— 自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言それぞれに特徴やメリット,デメリットがありますね。
千崎:それぞれのメリットデメリットをよく考え,自分に合った方式の遺言を作成すればよいと思います。ただし,ルールにはちゃんと従って下さいね。
これ以外にも,特別方式の遺言というのがありますが,めったに使われることはないのであまり気にしなくても大丈夫です。大まかに言うと,今お話した3種類の遺言を作成することができない緊急事態になったときに使われるものです。
— できればそのような事態にはなりたくないですね。
千崎:人間は誰でもいつかは亡くなります。そして,それはいつ起きるかは誰にもわかりません。なので,ご健康なうちに自分の財産を誰に託すのかよく考え,遺言を残していただきたいと思います。
— 本日は遺言書を作成する上での注意点を中心にお話しいただきました。
次回も遺言をテーマにお話しいただく予定ですが,次回はどのようなお話になりそうですか。
千崎:次回は,実際に遺言書を相続人が発見した場合,どうするのかという点を中心にお話したいと思います。
— それでは,次回もお願いします。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士千崎史晴(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士千崎史晴(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年10月20日