周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
今週の「札幌弁護士会の知恵袋」は相続問題の4週目です。今週は先週と同じく千崎史晴弁護士に、遺言について引き続きお話を頂きます。
ご親族が亡くなった場合には、当事者は相続人として遺産を相続することがありますが、亡くなった方が「遺言」を残していた場合、相続の手続きはどうなるのでしょうか。また、「遺言」を発見した場合、どうすれば良いのでしょうか。
今週は、遺言がある場合の遺産分割について解説していきます。
放送日 | 2015年10月27日 |
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ゲスト | 千崎史晴 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
相続、遺言、遺言書、遺言書の検認、遺言無効、遺留分、遺留分減殺請求、遺留分減殺請求の消滅時効 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
今回は前回に引き続き、遺言について取り上げることになります。
ゲストは前回に続いて今回も札幌弁護士会に所属の千崎史晴(センザキフミハル)さんです。
千崎:今週もどうぞよろしくお願いします。
第1、共同事務所の名前の決め方
— 先週聞き忘れたのですが,千崎さんの所属している事務所は相続の分野でお話しいただいた平田弁護士,阿部弁護士と同じ事務所ということですが,事務所名が「阿部・千崎・平田法律事務所」という順番なのはどうしてですか。
千崎:自己主張が強い順とか,顔面がイケイメン順だとか,いろんな人に言われています。
— イケメンの順ですか(笑い)
千崎:いえ,イケメンではなく,異形と書いて「イケイメン」です。
まあ,それは冗談ですが,単純に名前のあいうえお順で決めました。一番波風が立たない決め方だったと思います。
— そうだったんですか。ご自身のお名前を事務所名にする弁護士の方は多いのですか。
千崎:多いですね。他の事務所でも事務所名を所属している弁護士の連名にしているところは多いのですが,どうやって順番を決めたのかは興味深いところです。
あと,地名やその地方にゆかりのある植物やモノなどを事務所名にしているところも多いですね。
— なるほど。弁護士事務所のお名前も個性があって面白いですね。
それでは,今週も遺言をテーマにお話をお伺いしていきます。
千崎:お願いします!
第2、遺言書が見つかったらどうするのか
— 本日の質問です。「先日私の父が亡くなりました。私と弟は父の先妻の子供なのですが,父は母が亡くなった後に再婚して後妻さんとその連れ子である娘さんがいます。父は連れ子と養子縁組していました。父とは最近は疎遠だったのですが,父親の葬儀の際に後妻さんから,父には遺言書があるという話を聞きました。どうやらその内容は後妻さんとその娘さんに遺産を全て渡すという内容のようです。確かに父親とは疎遠でしたが,実の親子ですし,遺言によって一切遺産の相続ができないというのは納得がいきません。後妻さんが父に無理やり書かせた遺言ではないでしょうか。そうでなくても少しでも父の遺産を受け取ることはできないのでしょうか。」というものです。
内容は結構ドロドロしていそうです。
千崎:ドロドロですね。ただ,このような相続での争いというのは珍しいことではありません。異母兄弟間での争いのみならず,父母共に同じ兄弟間で争うことも多いです。相続ならぬ争族ということばができてしまうくらいですからね。
— 争族ですか・・・いやな言葉ですね。
千崎:本来は,このような相続での争いごとが起こらないようにするために遺言書を作成すべきなのですが,今回のご質問のように,遺言が本人の真意にしたがって作成されたかどうかという点や,遺言に全く遺産を受け取れないと書かれてしまった相続人が相続財産を渡すように主張するというケースは遺言書があってももめてしまう典型例ですね。
— 遺言書があってももめてしまうこともあるのですね。
千崎:そうなんです。ところで,亡くなった方の遺言書を見つけた場合,どうすればよいと思いますか。
— まず,中身を確認する,ということですかね?
千崎:そうなんですが,遺言書に封印がされている場合,勝手に開けると場合によっては5万円以下の過料という制裁に処せられてしまうことがありますので,注意が必要です。
遺言書は,見つけ次第速やかに家庭裁判所で「検認」の手続を取る必要があります。
— どのような手続なのですか。
千崎:簡単にいえば,遺言書の内容を裁判所で確認し,その写しを取って内容を確定させる手続きとなります。遺言書の保管者は家庭裁判所に遺言書の検認の請求を行う義務がありますので,必ず検認を受ける必要があります。ただし,前回お話した遺言書の種類のうち,公正証書遺言だけは,検認の手続は不要とされています。公証役場でしっかり作ったものですから,偽造や改ざんの恐れがなく,家庭裁判所が確認するまでもないということですね。
第3、遺言の有効・無効
— その検認を受ければ,遺言書の内容が裁判所から間違いないというふうに認められるわけですね。
千崎:いえ,実は検認の手続は遺言書の内容を確認,確定するだけで,検認後の偽造,変造を防止する手続に過ぎません。なので,そもそもその遺言書自体が本物だとか,本人の意思に基づいて作成されたものだということが決まるわけではないのです。
— あくまでも検認の時点での内容を確定させるものなのですね。
千崎:その通りです。なので,検認を受けた遺言書であっても,後に偽造だとか,本人の意思に基づいてないといった主張がなされると,それをめぐって裁判になったりすることもあります。
— なかなかややこしいですね。争いにならないための遺言書なのに・・・
千崎:そうですね。ただ,明らかに筆跡が違うとか,押してある印鑑がいつも使っていた印鑑とは違うとか、遺言書が前回お話した遺言作成のルールにのっとっていない,などの事実がないと,そう簡単には遺言書が無効とされることはないですね。
— なるほど。少し安心しました。
さて,先ほどのご質問では,後妻さんが父親に無理やり書かせた遺言だから無効ではないか,というお話が出てきましたが,その点はどうなんでしょうか。
千崎:うーん,後妻さんに強く言われたとしても,お父さんが自分の意思で作成したものであれば,それは有効な遺言ということになります。脅迫したり,無理やり手を掴まれて書かされた,という事実がないと難しいでしょうね。または,認知症などでお父さんの判断能力がない状態で後妻さんの言うがままに遺言書を作成したというケースであれば,遺言書が無効とされる可能性は高いと思います。
第4、遺留分とは
— なかなかハードルが高そうですね。そうすると,それらの事情がなければ,相談者は遺産を全く受け取ることができないということになってしまうのでしょうか。
千崎:仮に遺言が有効に成立していたとしても、相談者である息子さんには遺言によっても侵害されない遺留分という権利があります。この遺留分を主張すれば、一定の遺産を受け取ることができます。
— 遺留分、あまり聞きなれない言葉ですが、具体的にはどんなものなのですか。
千崎:簡単に言うと、一定の範囲の相続人に、一定の割合の相続財産を保証する制度ということになります。前回もお話したように、自分の財産を誰に渡すかというのは自由なはずですが、相続という制度は遺族の生活保障の側面を持っていますし、家族の間では、たまたま特定の人の名義の財産になっていても、じつは別の家族の財産でもあるということもありえます。
わかりやすい例では、自宅が夫の単独の所有だったとしても、住宅ローンの返済には妻の内助の功が必要不可欠だったというように、財産が全て名義を持っている人のものであるとは言えない側面があるのです。
そこで、自分勝手な遺言から、遺族の生活や財産の保護を図るために、遺留分という制度を置いたのです。
— なるほど。確かに、自宅を夫の名義にしていても、実際は家族みんなの協力でローンを返済したということは多いですよね。そんな時に全然関係ない人に自宅をあげますと遺言で書かれたら遺族は生活ができなくなりますよね。
千崎:そういうことです。遺留分は、相続人のうち、配偶者、子、親に認められており、兄弟姉妹には認められていません。
兄弟姉妹は、それぞれ独立して生活をしているのが普通ですから、別の兄弟姉妹が亡くなったとしてもその財産に依存して生活することを期待することはほぼないからと言われています。
また、主張できる遺留分の割合も決められています。親のみが相続人になる場合には本来の相続分の三分の一、それ以外は二分の一です。
今回のご質問の場合には、相談者とその弟さんが本来の相続分である六分の一のさらに二分の一、つまり全相続財産の十二分の一の割合を遺留分として主張できます。
— 本来もらえる分の半分が保証されているわけですね。思いのほか多い印象を受けます。
千崎:そうですね。それだけ日本が相続という制度に重きを置いているということだと思います。
第5、遺留分が侵害されたときにはどうすれば良いか
— 遺留分の権利を持っている相続人は、どうすれば良いのでしょうか。相続人の遺留分を侵害している遺言は無効になるのでしょうか。
千崎:特定の相続人の遺留分を侵害している遺言があったとしても、その遺言は無効にはなりません。遺留分を主張するかどうかは、その相続人の自由であり、遺留分を主張しないということもありうるからです。
遺留分が侵害されており、その権利を主張したい場合には自分の遺留分を侵害している相続人や遺贈を受けた人に対して、「遺留分減殺請求」(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)をします。いかつい字面なのですが、要するに「あなたは私の遺留分を侵害していますから、その分を私に返してくださいね」という請求をするわけです。
たまに「いりゅうぶんめっさつせいきゅう」と間違って覚えている人が居るようですが、滅(めつ)という字ではなく、減(へらす)という字ですので、めっさつではありません。遺留分をあなたの相続分から減らしてもらいますよ、ということです。
— 遺留分の主張をする場合、相手に請求するだけで良いのですか。
千崎:はい、基本的には相手に請求をすれば良いのですが、後でいったいわないという争いにならないように、証拠が残る形で内容証明郵便を利用して請求したほうが良いでしょう。
また、遺留分を侵害している相手が任意に遺留分の返還に応じない場合には、調停や裁判を行う必要が出てきます。
遺留分の主張で気をつけなければならないのは、行使できる期間です。
民法では、遺留分減殺請求は、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年で消滅する、とされています。つまり、遺言をした人が亡くなったことを知り、さらにその遺言内容が分かって自分の遺留分を侵害されていることを知った時点から、1年間何もしないと、もう主張できなくなってしまうのです。
— 1年といえば、それなりの期間があるように思いますが・・・
千崎:確かに1年もあれば十分と思うかもしれませんが、自分の親が亡くなってから一周忌まであっと言う間だったという方は多いと思います。亡くなった直後に相続人で相続の話をせず、遺産相続はひと段落してから、と思っていると直ぐに1年経過してしまいかねません。
気がついたときに手遅れになっていた、ということにならないようにお早めに弁護士に相談されたほうが良いでしょう。
— そう聞くと1年は短いような気がしてきました。どうして1年で主張できなくなってしまうという制度にしたのでしょうか。
千崎:遺留分を侵害している遺言も基本的には有効なので、遺言で相続財産を受け取る権利がある人の立場に立つと、いつまでも遺留分減殺請求ができるとしてしまうと、全てが自分の財産になるのか、はたまた遺留分を主張する相続人に一部を持って行かれてしまうのか、いつまでたっても確定しないことになってしまいます。
そうすると、自分の財産だと安心して使ったり、売ったりすることができなくなってしまいますので、そのバランスを考えて、1年という短めの行使期間を設けたとされています。
— 遺留分とのバランスということですね。法律はいろんな側面から考えられているのですね。
さて、2回に渡ってお話いただきました遺言のお話も、そろそろお時間が来てしまいました。最後に遺言について一言お願いします。
千崎:今日お話したように、遺言によっても自分の財産を自由にできない遺留分という権利がありますので、遺言を作成する際には遺留分に注意して内容を決めると後の紛争を未然に防ぐことができます。
また、前回と今回でお話できなかった細かいルールや決まりもありますので、遺言の作成を考えている人、亡くなった方の遺言を発見した人、遺言をめぐって問題が生じている人は、遠慮なく弁護士に相談してください。札幌弁護士会の法律相談は無料となっていますので、是非活用してください。
— 相続、遺言の分野は今回で終了となります。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士千崎史晴(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士千崎史晴(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年10月27日