周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
「札幌弁護士会の知恵袋」、今回からは、2回にわたって相続をテーマにお届けします。
ここで、ちょっと考えてみましょう。仮にあなたのご家族が亡くなったとして、その方の財産をどのように分けることになるのか、想像できますか?
あまり考えたくないことかもしれませんが、相続はときに「争続」と言われるように、争いになることも多いです。
万が一のときに慌てないために、また、争いになるのを避けるために、相続の基本的な知識を、ゲストの平田唯史さんと確認しましょう。
イメージがしやすいかと思いますので、某国民的アニメを想像しながら、お聞きください。
放送日 | 2015年10月6日 |
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ゲスト | 平田唯史 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
相続、法定相続人、相続分、限定承認、相続放棄、特別受益、家庭裁判所 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回から、テーマが変わりまして、相続について2回にわたってお話しいただく予定です。
テーマが変わり、ゲストも新しい方になります。紹介します。
札幌弁護士会に所属されている、弁護士の平田唯史(ヒラタ タダフミ)さんです。
平田:平田と申します。よろしくお願いします。
— さて、内容に入る前に、どうして今回、平田さんがお話しされることになったのですか。
平田:はい。私は、この番組のプロデューサーを務めている北山弁護士と同期なのですが、先日、北山弁護士がうちの事務所に遊びに来たときに、この番組の話になったんです。そこで、まあ、いろいろありまして、この度、お話しさせていただくことになりました。
— いろいろあったんですか。
平田:いろいろあったんです。何しろほら、北山プロデューサーですから。
— あとで平田さんの身に何かあってもアレですし、深くは聞かないことにします。ちなみに、今週・来週と、2週にわたって相続がテーマになっていますが、来週も平田さんがお話しされるのですか。
平田:いえ、来週は、私と一緒に事務所を経営している阿部という弁護士が担当させていただく予定です。
— そうなんですね。阿部さんとお2人でゲスト出演してもよかったのに。以前、女性の弁護士が、お2人でゲスト出演されたこともありましたけれども。
平田:2人どころか、もう1人、一緒に事務所を経営している千崎という弁護士も含めて3人で出演させていただくということも考えたのですが、私たち3人が並ぶとむさ苦しいのと、掛け合いがコントみたいになってしまうような気もしたので、とりあえず1人ずつという形にさせていただきました。
— コントですか。3人で、トリオみたいにして出ていただくというのも面白そうですけれども。
平田:では、もしまた出させていただくことがあれば、そのときは、3人でやらせていただきます。
第1 相続とは
— 楽しみにしています。
それでは、本日のお話に入ろうと思いますが、本日のテーマは、最初にもお話ししましたように、相続です。相続というと、最近、新聞やテレビ、雑誌などでも特集が組まれるようになった印象がありますが、実際、相続の相談って多いんですか。
平田:多いですね。例えば、最高裁判所の出している司法統計、1番新しいもので平成26年のものが裁判所のウェブサイトで公開されていますが、それを見ると、家庭裁判所における相続関係の事件数が、ここ数年で増加傾向にあることが分かります。また、私自身の感覚としても、個人の方からご相談をお受けするのは、相続に関するものが多いように思います。
— 相続のトラブルと聞くと、財産をめぐる骨肉の争いというイメージが強いですが、そもそも、相続って、法律的にはどのような制度なんでしょうか。
平田:ざっくり言うと、亡くなった方の財産を一定の人にあげるための制度といったところでしょうか。
亡くなった方の財産を誰かのものにさせる方法としては、大きく2つの方法があります。1つは、亡くなった方が「ゆいごん」、私たち法律家は「いごん」と言いますけれども、遺言(以下、読み方は「ゆいごん」で統一します。)をして、その内容に従って分けるというものです。もう1つは、法律に従って、分けるというものです。
基本的には、遺言がない場合に、法律に従って分けることになると考えておいていただければと思います。
— なるほど。遺言については、次々回に、トリオのお1人である千崎弁護士にお話しいただく予定になっていますので、今回はひとまずおいておきたいと思います。
それで、今のお話だと、遺言がない場合、法律に従って分けることになるとのことですが、法律は財産の分け方をどのように規定しているのですか。
平田:まず、規定している法律ですが、民法になります。そのうえで、相続のルールを理解するためには「いつ」、「誰が」、「何を」、「どのくらい」相続するのかといった観点を持つとよいと思います。
第2 いつ相続するのか
— では、まず「いつ」という点ですが、亡くなった方の財産を、いつ相続することになるのでしょう。
平田:民法では、被相続人が死亡したときと定められています。被相続人というのは、亡くなった方とお考えください。
ここで、言葉では、分かりにくいので、サザエさん一家のようなご家族を想像していただくとしましょうか。おじいちゃん、おばあちゃん、おかあさん、おとうさん、おかあさんのきょうだいが2人、おかあさんとおとうさんの子供が1人、という状況をイメージしてください。あ、おじいちゃん、おばあちゃんは、おかあさんの御両親ということで。
— ・・・はい。イメージできました。
平田:それでは、「いつ」という点についてですが、例えば、今、おかあさんがお亡くなりになったとします。民法の規定に従えば、このとき、おかあさんの相続が開始することになります。
第3 誰が相続するのか~相続人
— おかあさん、お亡くなりになってしまいました・・・。何だか早速切ないお話ですね・・・。まあ設例ですけれど。
では、おかあさんの相続が開始するとどうなるのでしょうか。
平田:それでは、「誰が」という問題を考えましょうか。この点を正確に理解するには、代襲者という言葉を理解しなくてはいけないのですが、時間がないので、今日のところは、それについては触れないでおきます。
そのうえでですが、民法は、まず、子供を相続人として定めています。今の設例でいえば、おかあさんとおとうさんの子供が、おかあさんを相続するわけですね。
— 今、「まず」と言われましたけれど、どういうことでしょうか。
平田:子供がいないときには、直系尊属という言い方を法律はしていますけれども、基本的には両親が相続人となります。設例でいえば、おとうさんとおかあさんに子供がいないときには、おかあさんの両親である、おじいちゃんとおばあちゃんが相続人になります。
— そうなんですね。もし、おじいちゃんもおばあちゃんもいないときはどうなるのですか。
平田:子供もいないし、両親もいないというケースですね。そのようなときには、きょうだいが相続人になります。
— 設例でいうと・・・、おかあさんのきょうだい2人が相続人になるということでしょうか。
平田:そうですね。
— ところで、おとうさんが出てきていませんが?
平田:おとうさんは、おかあさんの夫、法律では配偶者という言い方をしますが、そういう立場にあります。配偶者は常に相続人になります。これにはいろいろと長い歴史があったわけですけれど、とにかく夫だとか妻だとか、配偶者は常に相続人になります。
話をまとめますと、亡くなった方に子供がいるケースであれば子供と配偶者が、子供がおらず両親がいるケースであれば両親と配偶者が、子供も両親もおらずきょうだいがいるケースであればきょうだいと配偶者が、相続人になるということです。
— ちなみに、ドロドロした話になりますが、おかあさんに愛人がいた場合はどうなるのでしょう。愛人が、亡くなった方の財産を手に入れることってあるのでしょうか。何か昼ドラとかでそういう話があったような気もするのですが。
平田:愛人だとか、内縁関係だとか、そういった方々に相続する権利は認められていません。これは、例えば、仮に、家族よりも、そういった方々と生活するようになっていたという事実があったとしても同じです。
しかし、おかあさんに愛人がいたとしたら、何だか辛いですね。
第4 何を相続するのか
— おとうさんがかわいそうになってきました・・・。段林先生にお話ししてもらった不貞慰謝料の問題が出てきそうです。
ともかく、次の点に行きましょうか。
「何を」相続するのかという点ですが、これは、財産ですよね。
平田:そうですね。もう少し正確に言うと、民法は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。
— 権利義務とはまた難しい言葉ですね。
平田:分かりやすいところでいえば、預金とか、土地や建物といった不動産の所有権とかがありますし、売買代金を支払いなさいという権利や損害賠償を払いなさいという権利とか、そういったものが挙げられますね。あとは、家を借りる権利とかもイメージを持ちやすいと思います。父、母、子供の3人家族で、父の名義で大家さんからマンションを借りているとして、父が亡くなったときに、母と子供が、大家さんから出ていけと言われるかというと、父の家を借りる権利を相続しているので、大丈夫とかですかね。
— 義務というのはどういうものがありますか。
平田:まあ、分かりやすいものでいえば、借金。たまに、借金は相続しないですよねといった趣旨のご質問を受けることがありますが、借金も相続の対象です。
第5 借金がある場合の対処方法~限定承認,相続放棄
— 亡くなった人を悪く言うのはアレかもしれませんが、その人がつくった借金なんだから、何で自分が払わなきゃいけないんだという気持ちになる方もいらっしゃると思うのですけれど。
平田:そういう方々のために、限定承認、相続放棄といった制度があります。これまた小難しいことばですが、簡単に説明させていただきますね。
まず、限定承認。これは、相続の対象になる財産の中にプラスの財産もあることにはあるのだけれど、借金も多くて全体ではマイナスになってしまうとか、財産の全体像がよく分からんとかいうときに、借金を相続財産限りで清算して、その結果、プラスとなれば相続するというものです。
— それならば、借金を背負わされることもないし、安心ですね。
平田:ただ、家庭裁判所に限定承認の申述というものをしなくてはならないのですが、これについては、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続人全員が一緒に行う必要があります。
— 「相続の開始があったことを知ったとき」というのは、「相続の開始」が、被相続人が亡くなったときというお話だったから・・・要は、亡くなったことを知ったときということですか。
平田:そうですね。
— 亡くなったことを知って、3か月以内に、相続人全員で家庭裁判所に申述しなくてはならないと。
平田:はい。
— ちなみに、家庭裁判所はどこの家庭裁判所でもよいのですか。
平田:いえ、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にする必要があります。
— どこでもよいわけではないんですね。
平田:そうです。しかも、限定承認の申述が受理されると、官報というものに公告の手続をとらなくてはいけなかったり、お金を貸した人に返したり、財産をお金に代えたりといった清算手続をしなくてはいけなかったりで、結構大変です。手続を間違うと損害賠償を受けるおそれもありますし、率直に言って、使い勝手の悪い制度だとは思います。
— うーん、そうなんですね。もう1つの相続放棄というのは、どういう制度なんですか。
平田:相続放棄というのは、亡くなった方の権利や義務を全く受け継がないというもので、これも、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にする必要があります。
— これも、相続人全員でしなくてはいけないのですか。
平田:いえ、相続放棄は、相続人それぞれが行うことができます。
ただ、必要書類がたくさんありますので、相続放棄を考えるようであれば、早目に準備されるとよいと思います。最近は、家庭裁判所も親切なので、いろいろ教えてくれることもあるようですが、場合によっては、弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。相続放棄の手続がうまくできなくて、たくさんの借金を背負わされるよりは、費用をかけてでも放棄できたほうがよいかと思いますので。
第6 どのくらい相続するのか~相続分
— 確かに、そうですね。
では、最後「どのくらい」相続するのかについてお聞きしたいのですが、これはどうですか。
平田:これは、なかなか言葉だと分かりにくいかもしれませんが、まず、子供と妻や夫といった配偶者が相続人となるときは、子供が2分の1、配偶者が2分の1です。子供が複数いるときは、2分の1を、さらに子供の人数で頭割りします。
先ほどの例でいうと、おかあさんが亡くなったときは、子供が2分の1、おとうさんが2分の1ということになりますね。
— 両親が相続人になるときはどうですか。
平田:配偶者と両親が相続人となるケースだと、配偶者が3分の2、両親が3分の1です。両親も、父母双方が健在のときは、頭割りします。
先ほどの例でいうと、おとうさんが3分の2、おじいちゃんとおばあちゃんが6分の1ずつですね。
— では、きょうだいが相続人になるときはどうでしょう。
平田:配偶者ときょうだいが相続人となるときは、配偶者が4分の3、きょうだいが4分の1です。きょうだいが複数のときは、やはり頭割りすることになります。
先ほどの例でいうと、おとうさんが4分の3、おかあさんのきょうだいが8分の1ずつですね。
— なるほど。でも、この相続分って必ず同じになるのでしょうか。たとえば、おかあさんとおとうさんに子供が2人いたとすると、今のお話だと、おとうさんが2分の1、2人の子供がそれぞれ4分の1ずつということになりますよね。
平田:そうですね。
第7 相続分が不公平な場合に~特別受益
— そういったケースで、もし、例えば、おかあさんが、生前、子供のうち1人についてはたくさんお小遣いをあげていたけれど、もう1人については全然お小遣いをあげたことがないというときなどには、お小遣いをもらっていなかった子供のほうは、なんでお小遣いをたくさんもらっていたアイツと同じ相続分なんだと納得がいかない気がするのですが・・・。
平田:相続人の中に、亡くなった方から生前に、たくさんお金をもらったことがあるという人がいる場合、その利益を考慮して、相続分を算定することがあります。これを特別受益の持戻しといいます。その人がもらった利益をいわばフィクションの相続財産として考えて、これをみなし相続財産といいますが、それをベースに具体的な相続分を算定していくことになります。ですから、今お話しされたようなケースでは、生前のお小遣いを特別受益として持ち戻して、具体的な相続分を算定することもできる可能性があると思います。
何が特別受益に当たるのかとか、どういう計算をするのかとか、具体的なケースによっても変わってきますので、もし、特別受益についてもっと知りたいということであれば、弁護士にご相談されることをおすすめします。
— なかなか難しそうですね・・・。特別受益についての具体的な判断は、弁護士さんにしてもらったほうがよさそうです。
平田:そうですね。今までの事例から、これは特別受益に当たる、当たらないとか、特別受益に当たるとすると、相続分はそれぞれこのくらいになりますよとか、そういったアドバイスをさせていただくことが可能かと思います。
— 自分で勝手に判断して、親族関係をこじらせるよりも、早目に一度、弁護士さんに相談してみて、見通しを聞いてみるというのもよいかもしれません。
と、ここで、お時間が来てしまいました。
平田:15分ってあっという間ですね。確かに、今、田島さんがおっしゃったように、こじれてしまう前に一度弁護士のところにご相談にいらしたほうが、その後の話合いもスムースに進めやすくなるといったこともあろうかと思います。札幌弁護士会の法律相談は無料ですから、お気軽に利用されてみてもよいのではないでしょうか。
また、今お話ししたことをご理解いただければ、少なくとも、相続の概要くらいはわかるようになるかと思います。ただ、繰返しになりますが、今日のお話は、遺言がない場合の法定相続についてのものですので、遺言がある場合はまた違ったお話になりますから、そこはご注意ください。
— 駆け足になりましたが、本日はこのあたりで終わりたいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士平田唯史(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士平田唯史(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年10月6日