周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
「札幌弁護士会の知恵袋」、引き続き相続問題シリーズです。
今回は、前回登場の平田唯史弁護士の同僚である阿部重成弁護士をお招きして相続の具体的なケースで起こりうるいろいろな問題についてお話しいただきます。
この放送を聴いておけば、急な相続のトラブルに巻き込まれても慌てなくて済みますヨ。
放送日 | 2015年10月13日 |
---|---|
ゲスト | 阿部重成 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
相続、遺産分割、遺言、生前贈与、死因贈与、寄与分、遺留分、廃除、相続欠格、贈与税・相続税 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今回も引き続き、テーマとして相続を取り上げていきます。
今回のゲストは札幌弁護士会に所属の阿部重成(アベ シゲナリ)さんです。
阿部:よろしくお願いします。
— 先週は平田さんにお越しいただいたのですが、平田さんとは同じ事務所を経営されているんですね。
阿部:そうなんです。阿部千崎平田法律事務所を設立したのが一昨年の12月で、そろそろ2年になるところです。とりあえず、いまのところは仲良くやっています。
— なるほど。事務所の弁護士3人で事件を共同受任することもあるのですか。
阿部:難しい事件や手間のかかる大きな事件については、複数の弁護士が共同で受任することもあります。それから、共同で受任していない事件についても、事件を進めるにあたって判断に迷うような場合には、簡単に事案を説明して助言を求めたりすることはよくありますね。
— なるほど。今回のテーマは相続なのですが、阿部千崎平田法律事務所では相続の事件の依頼もよくありますか。
阿部:そうですね。3人あわせますと、だいたい年に10件から20件程度は依頼をお受けしているかと思います。相続といっても、比較的争いが少ない事案から恨みにも近いような激しい親族間の対立がある事案まであって、事案や当事者の気質などをよく考えた上で、臨機応変に対応する必要がありますね。
第1 遺言がない場合,どうなる?
— なるほど、それでは、本日の質問にいってみましょうか。「母が数年前に認知症になったことから、長男である私のうちに引き取って介護をしていましたが、この間、老衰で亡くなりました。父はすでに他界しており、相続人は私と弟の2人だけです。母の財産としては預貯金が2000万円ほどあり、生前、母は、介護をしてくれているお礼として私にその全額をくれるといっていました。しかし、弟はその半分をよこせといって納得しません。私としては、まったく母の面倒をみようとしなかった弟の要求には応じたくありません」というものです。
阿部:なるほど。こういったトラブルはよくありますね。こういった場合、相談者に全部相続させるという内容の遺言をお母さんがしてくれていれば、遺言を根拠として弟の要求を拒絶することができます。ただ、多くの場合、遺言が作られていないのでトラブルになるんですよね。遺言がない場合には、どうなると思いますか。
— それでも、お母さんが全部あげるといっていたのだから、全部もらっていい のではないですか。
阿部:そうですね。遺言がなくても、死んだらあなたにあげるよという約束、こういった約束を死因贈与というのですが、死因贈与の約束があった場合には、全部もらうことができるということにはなります。ただ、弟さんがどうしても納得しないで裁判になった場合には、死因贈与の約束があったことを証明する必要が出てきてしまいます。
— どうやって証明することになるんでしょうか。
阿部:そういった内容が記載されたメモ書きや手紙、最近のものでいうとメールやラインなどのメッセージがあれば、証明があったと裁判所が判断してくれる可能性がないわけではありません。しかし、全部あげるとはっきりと書いてなければ難しいでしょうね。
— 私が死んだら全部あげようとおもっている、というような書き方だとどうですか。
阿部:ほかの事情にもよりますが、それだけだとちょっと厳しいですね。あげたい、というのは、あくまでもそのときの気持ちであって、あげます、というのとは、ちょっと違いますからね。
— なるほど。なかなか厳しいですね。
阿部:基本的には遺言がない以上は難しいということになりますね。
第2 相続の不公平を是正する制度~寄与分
— 遺言もなくて、死因贈与も認められないとなると、弟さんの要求に応じざるを得ないということになってしまうのですか。それだと、お母さんの面倒をみたお兄さんがかわいそうじゃないですか。
阿部:そういった不公平をなくすための制度としては、寄与分という制度があります。
— なんだ、ちゃんと制度があるんですね。じゃあ、お兄さんは弟さんの要求を拒めるんですね。
阿部:実は、そう単純にはいかないんです。寄与分の制度は、亡くなった方の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人がいる場合に、その貢献の度合いに応じた相続を認める制度なのですが、今の裁判においては、なかなかこれが認めてもらえません。
— そうなんですか。
阿部:さきほど述べたとおり、亡くなった方の財産の維持または増加に特別の貢献をしたといえることが必要になりますので、単に介護をしたというだけでは足りないとされています。
— どういった事情があれば認めてもらえるんでしょうか。
阿部:たとえば、お母さんはもともと賃貸マンションで生活していたけれども、引き取って介護することにしたことにより、賃料を払わなくてよくなったとか、もともと利用料を払って介護サービスを利用していたけれども、引き取って介護することにしたことにより、介護サービスの利用料を払わなくてすんだというような事情がある場合には、支出を免れた金額を明確に特定することができるので、そういった場合には寄与分が認められやすいと思います。
— なるほど。具体的にこれだけのお金がかかりませんでしたということがいえれば、その分は考慮してもらえるということになるんですね。
阿部:そういうことですね。
— それでは、たとえば支払わなくて良くなった金額が500万円だったとして、どういったふうに考慮してもらえるんですか。
阿部:その場合、相続財産2000万円のうち500万円はお兄さんが作り出したものと考えて、この分についてはお兄さんが取得し、残りの1500万円について、お兄さんと弟さんがそれぞれ750万円ずつ分けるということになります。
— そうすると、お兄さんが1250万円、弟さんが750万円を取得することになるわけですか。
阿部:そうなります。
第3 生前の預金引き出しが問題となる場合も
— でも、やっぱり、全部あげるとお母さんから言われていたお兄さんとしては納得しにくいですよね。お母さんが亡くなる前に、お兄さんがお母さんの預金を引き出してもらってしまえばいいのではないですか。
阿部:お母さんの同意をちゃんと得た上で引き出すのであれば、お母さんの生前に贈与を受けたとみることができますね。この場合も、弟さんから返還を求められた場合には、お母さんの同意を得た上で引き出したことを証明する必要があります。
— お母さんの同意があったことを証明できないとどうなりますか。
阿部:相続財産を勝手に持ち出したということになりますので、弟さんが取得すべき分については弟さんに返さなければならないということになりますね。
第4 遺留分①~遺留分とは
— では、お母さんの同意があったことが証明できた場合には、弟さんには1円も払わなくてもよいということになりますか。
阿部:実は、そうはならないんです。相続人には、遺留分といって、少なくとも一定割合については相続を受ける権利があるので、この遺留分については弟さんに払わなくてはいけません。
— 遺留分というのはどれくらいあるのですか。
阿部:相続人がお子さんの場合には、法定相続分の2分の1です。今回のケースでいうと、弟さんの法定相続分は2分の1ですので、その2分の1、つまり遺産の4分の1が遺留分となります。
— 今回のケースでいうと、遺産が2000万円とのことでしたので、弟さんの遺留分はその4分の1、つまり500万円ということになるわけですか。
阿部:そういうことです。
第5 遺留分②~遺留分を無くしたい場合
— 亡くなった方がちゃんと遺言をしていたとしても、やっぱり遺留分はあるんですか。
阿部:ありますね。遺留分すらもらえなくなってしまうのは、重大な犯罪行為を行うなどの著しい非行があるとして、相続人から廃除する手続がとられた場合とか、遺言を書き換えるなどして不正に遺産を受け取ろうとした場合といった極めて例外的な場合だけですね。
— それでは遺留分をなくしてしまう方法は基本的にはないということですか。
阿部:そうですね。ただ、相続人以外の人に対する贈与の場合には、亡くなるより1年以上前の贈与であれば遺留分による取戻しの対象とはなりませんので、今回のケースでいえば、たとえばお兄さんの奥さんなどに贈与してしまえば、弟さんの遺留分をなくしてしまうことができますね。ただし、この場合には贈与税がかかってしまいます。
— どれくらいの贈与税がかかってしまうのですか。
阿部:今回のケースだと2000万円の贈与なので、お兄さんの奥さんに全部贈与するとなると、ざっと計算して約700万円の贈与税がかかってしまいます。
— 弟さんの遺留分よりも大きな金額になってしまうのですね。そうだとすると、相続人以外の人に贈与するというのもあまりいい方法ではないのですね。
阿部:まあ、そういうことになりますね。
第6 相続と税金
— ちなみに、今回のケースだと相続税はかからないのですか。
阿部:かからないです。今回のケースだと、相続人が2人なので、相続財産が4200万円以下であれば、相続税はかからないことになります。
— 相続税と贈与税では全然、税額が違うんですね。生前に贈与する場合であっても、相続人に対する贈与の場合には、贈与税ではなくて相続税になるのですか。
阿部:生前の贈与の場合には、相続人に対する贈与であっても原則として贈与税がかかります。ただし、贈与をした人が60歳以上で、贈与を受けた人が20歳以上の場合には、贈与を受けたその年に相続時精算課税制度という制度の適用を申請すると、贈与を受けた時点で贈与税を払うのではなく、贈与をした人が亡くなったときに相続税を払えば良いということになります。
— 難しい制度があるんですね。
阿部:そうですね。相続については税金の問題が発生することもしばしばありますね。
— 税金の問題についても弁護士さんにきけばいいのですか。
阿部:税金の専門家は税理士ですが、弁護士であっても相続に関連する税金の仕組みの概要についてはだいたいわかっているので、まずは弁護士に相談していただければと思います。
— なるほど。相続のことで迷ったら、まずは弁護士に相談ということでいいわけですね。
阿部:そういうことですね。相続の事件を担当していて思うことは、遺言さえしておけば避けられた紛争がとても多いということですね。人はかならずいつかは死ぬわけですから、遺言をしておくということはとても大切なことだと思いますね。遺言については、次回以降、2回にわたって、当事務所のエースである千崎が担当することとなりますので、どうぞご期待ください。
— 千崎さんのハードルをずいぶんとあげましたね。それでは次回をお楽しみに。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士阿部重成(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士阿部重成(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成27年10月13日