周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
本年2月の月間テーマは「犯罪被害者への支援」です。
弁護士と聞くと被疑者・被告人の弁護というイメージが強いかもしれません。しかし、近年、犯罪の被害にあわれた方への諸制度が整備されつつあり、弁護士がより積極的に犯罪被害者への支援活動を行っています。
札幌弁護士会でも犯罪被害者支援委員会を中心とした弁護士が熱心に犯罪被害者の支援に取り組んでいます。
本日の出演者は大鹿祐太郎弁護士です。
今週は、犯罪被害者支援活動における制度的な問題点・課題を中心テーマとして、札幌弁護士会犯罪被害者支援委員会の委員長大鹿祐太郎さんが熱く解説していきますので、ぜひお聞き下さい。
放送日 | 2016年2月23日 |
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ゲスト | 大鹿祐太郎弁護士 |
今週の放送 キーワード |
犯罪被害者支援、課題、犯罪被害者給付金、重傷病給付金、被害者特定事項、犯罪被害者弁護ライン |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリと答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
今回は、札幌弁護士会に所属している大鹿祐太郎(オオシカユウタロウ)さんをゲストとしてお呼びしています。
大鹿:どうも、よろしくお願いします。
第1 犯罪被害者支援の課題
— 先週までのゲストの皆さんと同じく、大鹿さんも、札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会に所属していているのですか。
大鹿:はい。私は、平成14年に弁護士登録をしましたが、弁護士登録をしたときから現在までずっと犯罪被害者支援委員会に所属しています。今は委員長をやっています。
— この間お越しいただいた吉田さんが、上の方から「出ろ」と言われたからこの番組に出たとお話していましたが、「出ろ」と言ったのは・・・・
大鹿:私は悪くないです。私にラジオ出演をお願いした人が悪いのです。
— そうですか。さて、3回にわたって犯罪被害者支援をテーマにお話をいただきましたが,今回で犯罪被害者支援をテーマとしたお話は最後になります。今週はどのようなテーマになりますか。
大鹿:先週まで犯罪被害者支援の「現状」についてお話させていただきましたが,今回は,犯罪被害者支援の「課題」、これから取り組んで行かなければいけないことについてお話させていただこうと思います。色々な課題があるのですが今回は、①被害者が当事者でないこと、②経済的支援が不十分であること、③被害者情報の秘匿が不十分であること、の3点についてお話させていただきます。
— よろしくお願いします。
第2 被害者が当事者でないこと
大鹿:まず、被害者が当事者ではないことについてお話します。刑事裁判におけるそれぞれの役割をドラマや映画に例えると、主役は、被告人と検察官の2人になります。裁判官は監督、そして、被害者は脇役、せりふが1つしかない村人Aという感じです。それでも被害者参加制度が認められて舞台に立てるだけましなのかも知れません。被害者参加制度が認められる前はただの観客でしかありませんでした。
— 被害者が蚊帳の外という話は竹間さんのお話でもお聞きしました。しかし、村人Aですか・・・。被害者の扱いはそんなに酷いのですか。
大鹿:いいえ。例えば、遮へい措置といって、被告人から被害者が見えないように被害者の周りに壁を作ったりしてもらうなど、被害者に対してかなり配慮されています。扱いが酷いということはありません。ただ、法律上は脇役とされているので、主役と比べて、出来ることが少ないという意味です。
— 具体的には、どういうことが出来ないのですか。
大鹿:裁判員裁判というのは、裁判員の方の拘束時間を少なくするため、3日連続とか短期集中で裁判するのですが、その前に時間をかけて争点の整理をします。この手続のことを公判前整理手続というのですが、争点の整理をするのでとても重要な手続です。しかし、主役ではない被害者はこの手続に参加する権利がありません。
他にも、被害者は、証人に対して聞くことができる事項が制限されています。また、被害者が1回目の裁判結果に不満があったとしても、被害者自身で上の裁判所に対して2回目の裁判を求めることは出来ません。検察官に控訴をお願いするしかないのです。そして、2回目の裁判が開かれたとしても被害者が出来ることは殆どありません・・・主役である被告人や検察官と比べて、被害者の出来ることはあまりに少ないのです。
— 一番事件に関心を持っているはずの被害者が出来ることが限られているというのはおかしいですね。
大鹿:そのとおりです。ですから、今後被害者が出来ることが少しずつ増えていくよう制度や運用が変わっていけば良いなあと思っています。
次に、経済的支援が不十分であることについてお話させていただきます。
— はい。
第3 被害者への経済的支援が不十分であること
大鹿:ある人が、いわれのない因縁をつけられて一方的に殴られ、大怪我をしました。
その人は、怪我を治すために、病院で治療を受けなければなりません。
— はい。
大鹿:相手方から被害弁償を受けることができた場合は、そのお金で治療費を支払えば良いですね。
— はい。
大鹿:では、相手方に財産がなく、被害弁償を受けることができない場合は、どうすれば良いのでしょうか。
— 確か、以前の吉田さんのときに説明があったのですが、国から給付金を受けることができる制度があったと思います。それで治療費が支払われるのではないでしょうか。
大鹿:その通りです。犯罪被害者給付金という制度があって、療養期間が1ヶ月以上で、かつ、入院3日以上の重い怪我をした人の場合は、国から重傷病給付金の支給を受けることが出来ます。但し、この重傷病給付金は後払いでしかもらえないという問題があるのです。
— 後払いというのはどういう意味ですか。
大鹿:例えば交通事故の場合は、多くの場合、加害者の保険会社が病院に対して治療費を直接支払ってくれます。ですから、交通事故の被害者は自分で治療費を支払うことなく治療を受けることが出来るのです。これに対して、重傷病給付金の場合は、まず自分で治療費を病院に支払わなければなりません。自分で治療費を払って、その領収書をとっておいて、全部治療が終わったときにまとめて請求する、ということしか出来ないのです。
— そうすると、例えば1年間治療していた場合は、1年間は被害者がずっと赤字のまま自力で治療費を支払っていくしかない。1年経ってはじめて1年分の治療費が重傷病給付金として支払われるので、そこで初めて赤字がなくなるということなのですね。
大鹿:そのとおりです。最終的には治療費負担部分は支払ってもらえるので赤字はなくなるのですが、でも被害者が一番苦しいときって被害直後だと思うのです。
被害者は、怪我によって上手く働けず収入も減っている。今後も怪我が完治するか分からず少しでも生活費をとっておきたいと思っている。そんな状況の中で、治療費は後でまとめて払いますから、苦しいと思うけど治療が終わるまで自分で払ってね、というのはちょっとどうかと思うのです。
— 最後にまとめて払うのではなく、最初から病院に直接支払ってくれれば被害者の負担が減りますよね。
大鹿:そのとおりだと思います。
それと、重傷病給付金の支払対象となっているのは1年間の治療費だけです。1年よりも長期の治療をする必要がある場合は、全て自己負担で行わなければいけません。また、治療費と休業損害をあわせて120万円という上限もあります。
— 国から給付金が支給されるといっても、色々な制限があるのですね。
第4 被害者の情報秘匿
大鹿:そうなのです。ですからもっと早い段階で、十分な経済的支援を受けることが出来るような制度の見直しが必要だと思います。重傷病給付金の外に、遺族給付金と障害給付金というものもありますが今回は説明を割愛させていただきます。
次に、被害者の情報秘匿についてお話させていただきます。
ある女性が、夜道を歩いていたところ、見知らぬ男性から強姦されました。
このとき、事件にしなければ男性に名前を知られずにすむけれども、事件にした場合は男性に名前を知られる可能性があると言われたら、その女性は事件にすることを望むでしょうか。
— う~ん。とても難しい問題ですね。絶対に犯人を許せないと考えて名前を知られてでも事件にする人もいるかも知れませんし。それよりもこれ以上犯人と関わりを持ちたくないし逆恨みされるかもしれないから名前は隠したいと思う人もいるかもしれませんし。
大鹿:どちらの考え方もあり得ますよね。
今は、被害者特定事項の秘匿制度というものがあって、一定の条件を満たせば、被害者の氏名や住所などを裁判で隠すことが出来る制度があります。この制度によって、被告人や裁判を見にきた人に対して、被害者の氏名や住所を隠すことが出来ることになります。
— それでは、被告人に名前を知られずに事件にすることが出来るのですか。
大鹿:ただ、起訴状には原則被害者の実名を記載することとされていて、起訴状の謄本を被告人に送らなければならないことになっています。だから、被害者特定事項の秘匿制度で被害者の氏名住所が隠されたとしても、起訴状で被告人が被害者の名前を知ってしまうということがあり得ます。
起訴状に記載されている被害者の実名を隠すことが例外的に認められる場合もありますが、統一的な指針はなく、事案毎に判断されています。
— そうすると、名前が隠せる場合もあるし、名前が隠せない場合もあるし、どちらになるかは蓋を開けてみないと分からないという状態なのですね。
大鹿:そのとおりです。ですから、被害者を不安定な状況にしないためにも、何らかの法律的な整備がなされる必要があると思います。ただ、被告人が犯行を否定している事件でも被告人自身でなく弁護人が知れば足りると思いますし、百歩譲っても、被告人が犯行を認めている事件で、被害者の意思に反してまで被害者の実名を記載する必要はないのではないかと思っています。
他に、報道による被害者の実名報道の問題などもあります。
みなさん自身やみなさんの家族が殺害されたり、怪我したときは実名での報道を望むでしょうか。
— 殺され方にもよるのでしょうか。
大鹿:そうですね。例えば一方的なストーカー事件や強姦殺人だったらどうでしょうか。飛行機墜落事故で乗っていた人全員の名前が出る場合はどうでしょうか。
— ストーカー事件や強姦殺人は実名報道は嫌だと思います。飛行機事故は、関係者が安否を確認することもあるので仕方ないと思うかもしれません。
大鹿:色々な考え方があると思いますが、現在は、実名報道をするかどうかは報道機関の自主的判断に委ねられています。被害者の実名報道や、被害直後の取材について、こちらが申し訳なくなるくらい紳士的に配慮してくださる報道機関もありますが、そうではない報道機関もあり、やはり実名報道についても何らかのルールを定める必要があるのではないかと思っています。
— さて、そろそろお時間がきてしまいますが、最後に一言ありましたらどうぞ。
第5 犯罪被害者弁護ラインについて
大鹿:何度も繰り返して申し訳ないのですが、札幌弁護士会の犯罪被害者支援委員会では、「犯罪被害者弁護ライン」という無料の電話相談を行っています。毎週月曜日の午前10時30分から12時30分までと、水曜日の午後5時から7時までご相談を受け付けております。お電話番号は、札幌011-251-7822です。お電話での相談は無料ですので、気軽にご相談ください。
— ありがとうございました。札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士大鹿祐太郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士大鹿祐太郎(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年2月23日