周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
3月の月間テーマは「ADR(札幌弁護士会紛争解決センター)」です。
札幌弁護士会でADRが開設されてから昨年で10年の節目を迎えましたが、ADRって一体何?何の略?と思っている方も多いと思います。
そんな皆様に、5週にわたりADRはどのような制度なのかを分かり易くお伝えしていきます。最後まで聞いていただけたら、あなたはADR「通」になること間違いありません。
5週目の今週は、今野佑一郎弁護士が労働ADRの活用について、具体的な事例や、手続きの流れなどについて説明していきます。ぜひお聞きください。
放送日 | 2016年3月29日 |
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ゲスト | 今野佑一郎弁護士 |
今週の放送 キーワード |
労働ADR、ADR、裁判、調停、残業代請求、解雇、慰謝料、セクハラ・パワハラ、職場環境、紛争解決センター、柔軟な解決、少額、使用者、労働者、早期解決、民事調停、調停前置主義 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今回も,「ADR」をテーマに放送します。
これまで,ADRの事例紹介や,医療,金融といった専門のADRについて放送してきました。今回は,労働分野のADRについて取り上げていきたいと思います。
ゲストは札幌弁護士会に所属の今野佑一郎(こんのゆういちろう)さんです。
今野:よろしくお願いします。
— 今回は,労働問題に関するADRという内容なのですが,まずは,今野さんの自己紹介をお願いします。
今野:私は札幌弁護士会で紛争解決センター運営委員会という委員会に所属していまして,今回ご紹介させていただく「労働ADR」の担当を担当しております。労働ADRは,札幌弁護士会で2年前くらいに立ち上げたもので,私自身,この制度の立ち上げにもかかわっていましたので,今回,出演させていただきました。
— 弁護士会では,ほかにどのような活動をされているのですか。
今野:労働に関する委員会にも所属しております。それと,札幌ローヤーズという野球部にも入っています。この間,ADRの紹介をさせていただいた山本先生も一緒なんです。
— 山本先生も野球部のことを話していましたね。
冬場も練習はしているんですか。
今野:冬場も室内での練習は定期的にやっているのですが,場所もスペースも限られてしまうので,なかなか難しいですね。自主トレに任されている部分が多いです。でも,もう少し暖かくなってくれば,グラウンドでの練習が始まります。
— まもなく4月ですけど,雪も残っていますし,暖かくなるには,もう少し時間がかかるかもしれないですね。
今野:雪がなくならないとさすがに練習は難しいですね。それまでは,自主トレに励みます。
— 自主トレをしているんですね。
今野:ご想像にお任せします。ただ,やる気はあります。
第1 労働ADRについて
— 今度は,野球部のお話も聞きたいですね。
それでは,本題に入っていきたいと思います。
今回は,ADRという紛争解決の手続きの中でも,「労働ADR」というテーマになっていますが,この「労働ADR」とは,これまで伺ってきたADRの手続きと何が異なるのでしょうか?
今野:はい。「労働ADR」という名前の通り,この手続きは,労働問題に特化したものとなっている点が大きく異なります。
札幌弁護士会では,医療問題に特化した「医療ADR」,金融トラブルに対応した「金融ADR」という専門のADRの手続きを準備していますが,専門ADRの3本の柱として,この労働ADRがあります。
雇用や労働に関するトラブルについて,労働問題について経験豊富な弁護士が中立的な立場で調停人として最適な紛争解決に向けて話し合いをしていきます。
また,事件の内容によっては,大学教授,研究者といった専門家も関与して,解決を図っていきます。
第2 代表的な労働問題について
— 労働や雇用に関する問題というと,最近は,残業代の請求とかテレビや新聞でみたりしますが,どういった問題があるのでしょうか。
今野:そうですね。サービス残業という言葉もよく耳にしますが,法律上,つまり,労働者の労働を規律する法律である労働基準法上は,サービス残業というものを基本的には想定していませんので,労働者の残業については,雇用主は,適正に残業代を支払わないといけないという立場にあります。残業代の請求については,まさに労働問題ですね。
そのほかにも,突然,上司から「もう会社に来なくていい」などと言われて,会社をクビになりましたという場合,解雇の問題となります。解雇も,雇用主の意向のみでできるものではないので,解雇が適切だったかどうかが問題になるケースも多いです。
— 残業代は,きちんと払ってもらえるものなんですね。よく聞く言葉ではありますけれど,実際に支払ってもらえるものかなどは,正直,よくわかっていないことの方が多いです。
今野:そうですね。法律上はきちんと整理されているのですが,複雑な部分もあるので,少し難しいかもしれません。もちろん,会社における立場や,仕事内容,手当の内容等によっても異なってくる点もありますので,まずは,法律相談から利用いただくところからでもよいかと思います。
— ほかには・・・あ,セクハラとか,パワハラっていうのも労働問題ですよね。
今野:そうですね。職場の懇親会で,上司から私生活についてしつこく聞かれるとか,プライベートの食事の誘いを断ったら,職場で仕事をたくさん押し付けられたとか。最近は,社会的にもセクハラやパワハラが認知されるようになってきましたが,それでも,労働問題の相談を受けていると,こういった内容はよく聞きます。
— 実際に問題となっているんですね。
今野:そうですね。多くの時間、職場で働いているとなれば,いろいろな問題が生じてしまうようです。
労働問題は,賃金を得るという点で日常生活の基盤に大きくかかわってくるものです。職場での問題が大きくなる前に,適切な解決に向けて話し合いを進めることは,労働者にとっても,会社側にとっても,有効な手段であると思います。
第3 労働問題の解決手段について
— 労働に関する問題,紛争が起きた場合には,解決のために,どのような手続きをとることができるのでしょうか。
今野:労働という問題に関していくと,当事者同士の話し合いのほか,労働委員会のあっせん,弁護士会の労働ADR,裁判所における調停,労働審判,そして,裁判を挙げることができます。
— 裁判となると手続きをとることも,なかなか難しそうに感じますね。
今野:そうですね。後でも少しふれますが,裁判手続きとなると,確かに,法的な主張や証拠の提出など,法律に従った厳格な手続きが要求されるという面はありますね。
— 今挙げていただいた中で,労働ADRというのは,どのようなものなのでしょうか。
今野:労働ADRは,労働問題について経験豊富な2名の弁護士が,労使双方の立場の調停人とかかわります。労働者側の代理人になることが多い弁護士と使用者側の代理人になることが多い弁護士がかかわります。ただ,どちらの弁護士も,中立的な立場から双方の言い分を十分に聞き,最適な紛争解決の道を探していく手続きです。この点は,一般のADRとも異なる点です。
— 労働者と使用者のそれぞれの立場について経験の豊富な調停員に関与してもらえるというのは,とても心強いですね。
今野:そうですね。
また,複雑な事件では,調停員である弁護士が,ADRを実施する日(実施日のことを期日と呼んでいるんですが,)の前に,事前面談を行って,請求や主張の問題点を整理して,期日に臨むこともあります。
問題の早期解決のためにも,争点を明確にして,話し合いを実効的にしていく手続きとなっています。
— 調停員である弁護士と事前に関与してもらえるというのは,法律について詳しくない私たちにとっても,安心して利用することができますね。
今野:そうですね。この点は,裁判手続きや労働審判手続き,あっせん手続きとも異なってくる部分ですね。
弁護士に依頼することが難しいという場合とか,請求する金額が大きくないという場合でもあきらめる必要はないですし,まずは利用してみるという選択ができると思います。
— 今月の給料が払われていないとかいう場合でも,利用していいんですかね。
今野:大丈夫です。むしろ,早い段階で話し合いの機会をもって,これからの仕事,職場環境が良好になるようにしていくことは,とても大切なんです。
— 確かにそうですね。職場の関係が悪くなると,朝も行きたくなくなっちゃいますもんね。
ところで,この労働ADRという手続きは,会社で働いている人,つまり労働者の方からしかできないのですか。というのも,会社を経営している人で,ちょっと従業員との間で問題が起きちゃったっている話を聞いたことがあったので。。。
今野:安心してください。可能です。
弁護士会の労働ADRは,労働者,従業員側からの申し立てだけではなく,会社,使用者側からの申し立ても可能な制度になっています。
従業員と,金銭トラブルが起きてしまったり,お金の関係で話し合いがまとまっていないという場合には,会社の方から,問題を適切に解決する手段として,手続きを利用していただけるとよいですね。会社にとっては,ほかにも従業員がいますし,問題が早期に,そしてきちんと解決するということは,職場の環境整備の点からも,大切ですね。
— なるほど。どんなことでも早いうちに,きちんと話し合うことが大事なんですね。
今野:そうですね。労働ADRは,話し合いを基本とする手続きですし,非公開の調停で,秘密が守られて解決を図ることができる手続きですので,手続きに参加することの負担も,ほかの手続きと比べると大きくはないです。
— 先程,「訴訟」とか「労働審判」などという言葉も出てきましたが,ほかの手続きは,労働ADRとは違うのですか。
今野:まず,訴訟についてですが,これは,証拠に基づいて最終的には判決という結論を出すための手続きになっています。手続きの内容や証拠の提出等についても,法律の手続きに従って,厳格に進めていくことになります。
残業代請求であれば,勤務実態や就業時間,解雇問題であれば会社の経営状況や解雇に至る経緯などについて,証拠に基づいて一つ一つ示していくことになります。もちろん,主張があれば反論もありますので,お互いの言い分をじっくりぶつけていくことにもなります。その意味では,時間がかかるという側面があることは確かですね。
— 「労働審判」とはどのようなものなのですか。
今野:労働審判は,平成18年から始まった比較的新しい手続きで,労働事件を専門に扱うものです。労働ADRのように労働者側と使用者側のそれぞれの審判員,そして裁判官である審判官が手続きを進めます。原則3回という期日での解決を目指すもので,訴訟手続きに比べると短期間の手続きとなっていますが,法的な主張や証拠の準備等は,裁判・訴訟の場合のように,法律の手続きに従って行うことが必要になります。
— 調停やあっせんとの比較ではどうでしょうか。
第4 労働ADRの特色について
今野:調停やあっせんは,ADRと似ていて話し合いでの解決を図る手続きではありますが,事案によっては,時間がかかるということもあるかと思います。
また,労働ADRの場合は,労働問題の経験豊富な弁護士がかかわりますので,裁判になった場合の見通しや,法律上の問題等についても,柔軟に対応できることがメリットといえます。
— そうすると,訴訟や調停よりも労働ADRを利用することの方が,メリットが大きいのでしょうか。
今野:早期の,そして,柔軟な対応,話し合いを実現するという点では,利用しやすい制度となっています。
ただ,事案によっては,訴訟による解決や,労働審判による解決を図る方が適切であるという場合もあるかと思います。すでにある程度話し合いをしているといような場合ですと,労働ADRの利用は適しているかもしれません。
実際には,争いとなっている点や,これまでの経緯,証拠となる資料等との関係から,手続きを選択していただくことがよいですね。
— 早期解決を図れるということですが,手続きとしてはどのくらい時間がかかるのですか。
今野:労働ADRでは,原則として3回の期日で紛争を解決しようというものになっています。期日の日程については,当事者双方の意向を聞いたうえで調整することになります。労働ADRは,手続き自体が柔軟に活用できるようになっていますので,当事者の調整がつけば,比較的短期間に期日を設けて話し合いを進めていくことになります。もちろん,調停を続けることで解決を図ることができる見込みがある場合には,4回目以降の期日を設けることもあります。
— いざ手続きをするとなっても,なかなか自分たちでやるとなると難しそうですし,きちんとできているか不安になるのですが,弁護士さんに聞いてもよいのでしょうか。
今野:労働ADRについては,相談前置主義と言いまして,申立をする前には,まずは,弁護士に相談することが必要となります。相談を受けた上で,弁護士に紹介状を書いてもらう必要があります。きちんとADRの手続きでの解決を図ることができる事案かどうかを法的視点で吟味するため、相談を事前に行うようにしています。
— 弁護士に依頼するということとは違うのですか。
今野:あくまで紹介状を書いてもらうことが必要ですので,手続き自体は弁護士に頼むことなく進めることができます。弁護士に依頼したうえで,手続きを利用することも当然できますが,特に,労働ADRは,申立後,事案の内容や法律上問題となる点がある場合には,弁護士である調停人が,利用者と面談をして,必要に応じて申立書の修正や補充をしたり,関係資料の持参をお願いしたりと,手続き内で利用者をサポートすることができるようになっています。
— なんだか私でも頑張れる気がしてきました。でも今のところ,私自身の労働問題は思いつかないですね(笑)
今野:労働問題は,意外と身近にあるんですよね。
残業代の請求を考えると,1日8時間を超えた労働や,休日の労働,午後10時から午前5時までの深夜労働となると,割増賃金として,1時間当たりの労務への対価が変わってきます。
— 複雑ですね。
今野:解雇の問題でも,解雇の理由が何かという点や,理由となっている事情が正しいのか,解雇をしないといけない事情の有無,ほかの選択肢がなかったかなど,有効な解雇といえるためには,様々な事情を考慮する必要があります。
— なるほど。
今野:セクハラやパワハラの問題については,実際にセクハラやパワハラといった行為があったかどうかという問題や,どういった対応をしなければならないか,また,一定の金銭を支払うとしても,その金額はどの程度が妥当かなど,なかなか悩ましい問題も含んでいますね。
— そうですね。ちょっと考えただけでも,いろんな問題点が出てくる気がします。
今野:労働ADRは,労働者と使用者の双方の言い分を聞きながら,専門家の関与の下で,話し合いを通じて,事案を把握し,双方の納得する解決の道を探していくことになります。法的な問題を含むものですので,法律的な視点も必要になってきます。
他方で,当事者の気持ちや,交渉経過等にも配慮して,柔軟性にも富んだ手続きにもなっています。
弁護士や学者などの専門家の関与のもとで,職場における解雇や賃金トラブル等の労働問題について,早期に柔軟な解決を図るための手続きですので,是非ともご活用いただければと思います。
— 労働問題というと,法律関係とかなかなか難しそうで,裁判が必要なんじゃないかと思っていましたが,話し合いを前提とするADRという手続きがあり,しかも弁護士さんが手続きをサポートしてくれるというのはありがたいですね。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士福田直之、弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士今野佑一郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士今野佑一郎(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年3月29日