周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
8月の月間テーマは「高齢者・障害者のために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「高齢者・障害者支援委員会」の精鋭5名が5週にわたり支援活動を説明していきます。
そして、8月の2週目は、 札幌弁護士会の自転車部・テニス部で、こんがり日焼け中の武野純一郎弁護士の登場です。
「精神保健福祉」というテーマで、詳しく、そして、分かりやすく、武野純一郎弁護士が熱く語ります。
ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2016年8月9日 |
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ゲスト | 武野純一郎弁護士 |
今週の放送 キーワード |
精神保健、精神科病院、退院請求、医療保護入院、措置入院、任意入院 |
– はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
8月は5週連続で、「高齢の方及び障害のある方への支援」について取り上げていきます。今回は、その2回目で、ゲストは、札幌弁護士会に所属の武野純一郎(たけのじゅんいちろう)さんです。
武野:よろしくお願いします。
– 早速ですが、自己紹介をお願いします。
武野:はい、弁護士になって3年目の武野純一郎です。
普段から体を動かすことが好きで、弁護士会では自転車部・テニス部に入っています。ただ、どちらも日に焼けるスポーツなので、夏は毎年黒くなってしまいます。
– 弁護士会には、自転車部というのもあるのですね。
武野:負けず嫌いのメンバーが揃っています。そのメンバーと走れるというのが部のいいところですね。一人で100 km走るのは結構辛いですが、メンバーで走ると先に行かれると悔しいので、必然的にペースも上がって、あっという間に走り切ってしまいます。
– なかなか辛そうですね。
武野:いや- ゆっくり走るときはゆっくり走るんですけど、キツいイメージがあるのか、新入部員がなかなか入ってこないんですよ。なのでいつまでも私が下っ端のままなのが残念ですね。
第1 精神疾患を患っている人数について
– さてそんな下っ端の武野さん、今日のテーマは「精神保健福祉」ということですが。
武野:今日は、精神科病院にかかる患者さんとその支援に関わる弁護士の仕事について、話をさせていただきに来ました。
早速ですが、田島さん、精神疾患を抱えている人が全国でどれくらいいるかご存じですか。
– うーん、あまりイメージが付かないですが。
武野:厚生労働省が公表している平成26年の推計では、392万人以上の方が、精神疾患を理由に医療機関を受診しているとされています。
– 392万人以上ですか。
武野:がんの患者さんについては、近年患者数が増えています。平成26年の推計の患者さんが年間300万人ちょっとという数字です。
がんと精神疾患は、全くタイプの異なる疾患ですが、精神疾患というものも決して珍しいものではありません。
– がん患者さんよりも多いんですか!?
武野:そうなんです。精神疾患の原因は、明確に分かっていないことが多いですが、いつ誰しもがかかってしまう可能性がある病気なんです。それと、がんが基本的にはリタイアした後の高齢の方に多い病気なのに対して、精神疾患は若いときや働き盛りになることが多いため、これから様々な人間関係やキャリアを作っていこうという時機に長期間入院してしまうようなことがあったら、その後の人生に与えるマイナスの影響はとても大きいんです。
– 他人事とはいえない気がしてきましたが、あんまり周りでは見かけないし聞かないような気がするんですけど…。
武野:たくさんの方が、ごく普通に地域で暮らしていて、みなさんと同じような、会社に行ったり学校に行ったり、といった生活をされていますよ。
ただ、一部の症状の重い方は、残念ながら入院を余儀なくされていて、精神疾患で入院している方は、全国で30万人以上います。実は、今でも日本国内の病院の全ベッド数の2割以上が精神科のベッドで、これは全世界の精神科のベッドの4分の1近くにあたるんですよ。
第2 強制入院について
– そんなに大勢の方が入院しているんですか。
武野:はい。さらに、その内の4割以上の方が、強制的に入院することを余儀なくされています。
– 「強制的に」というのはどういうことですか。
武野:本人が嫌だと言っても入院させられるということです。
強制的な入院には、医療保護入院や措置入院などといったものがあります。法律では、基本的に、国が指定した専門医が入院治療の必要があると判断すれば、強制的に入院させられる仕組みになっています。
– 病気を治す必要があるんなら、入院もやむを得ないのでしょうかね・・・。
武野:たしかに、入院が必要な場合も多いのですが、患者さんの自由と生活が大幅に奪われてしまうことを考えると、もっと通院中心の医療に変わるべきだと私は考えています。
– どういうときに入院の必要性があると判断されるのですか?
武野:自分や他人を傷つけるおそれがあったり、入院しなければ薬を飲まない場合等治療の必要性があるのに自分から入院できないといった場合などに、入院の必要性があると判断されます。ただ、法律の要件が大雑把なので、同じ症状でも精神科医によって意見が異なったりすることもあります。
– どういうところに入院するのですか。
武野:精神科病院のなかでも、閉鎖病棟と言われるところで入院することとなります。私も仕事で閉鎖病棟の中に入ることがあるのですが、病棟の出入り口に鍵がかかっていて、帰るときには職員さんに言って鍵を開けてもらえなければ帰れないという構造になっています。
また、拘束室というものもあって、病状の重い方が自傷行為等をしないために、手足をベッドに固定する設備もあります。以前見学にいって、先輩弁護士が固定されていたのですが、いくらがんばっても外れないようになっていました。
– 強制的に入院となった場合、すぐに帰れるのですか。
武野:もちろん、症状がすぐに治まれば、帰ることができますし、強制的な入院ではなく、自らの意思で入院する任意入院に切り替えることもできます。この任意入院になれば、閉鎖病棟から出て、鍵のかかっていない開放病棟に移れることもあります。
ただ、そんなに早く帰れないのも現実です。
統計では、1割ちょっとの人たちは1年以上の長期入院になっています。
精神疾患については、長期に亘って入院して、治療を余儀なくされることが多いですし、3年以上の長期に亘って、強制入院を余儀なくされている方もおられます。もしかしたら、今日このラジオを聴いている方や、そのご家族の中にもそういう方がおられるかも知れません。
– 長引く人が多いんですかね。
強制入院をやめるときの判断は誰が行うのですか?
武野:基本的には精神科医です。
実は、強制入院は、人の身柄を拘束して自由を奪うという点で、警察による逮捕などと共通するところがありますが、刑事手続には検察官や裁判官の判断が加わって、身柄を拘束する必要の無い人を拘束しないように判断を慎重にするための制度があるのに比べ、強制入院の制度にはそのような仕組みはないのが現状です。
厚生労働省は、入院の必要が無くなっているのに入院が続いている患者さんたちが7万人以上いるので減らさなければならないと言っていたのですが、10年かけてもなかなか減りませんでした。
第3 退院請求について
– なかなか減らなかったのですね。
ところで、入院に納得できず退院したいと思った場合は、どうすれば良いのですか?
武野:まずは主治医と相談していただきたいのですが、上手くいかない場合は、私たち弁護士の出番となります。
患者さんは、退院請求という手続を行うことができ、私たち弁護士を代理人として申し立てることができます。強制入院している患者さんの中には病院から外部との連絡を制限されている人もいるのですが、弁護士との連絡は制限できないことになっています。患者さん自身では上手く交渉や説明ができなかったり、退院に当たって心配事がある場合などに、弁護士に相談したり依頼して解決する権利が保障されているのです。
– 弁護士さんに頼んだら、どのような手順で進んでいくことになるのでしょうか。
武野:まず、病院に行って面会をして、ご本人から強制的に入院することになった経緯を聞きます。
その後、病院の方からお話を聞いて、現在のご本人の病状を聞きます。
– まず、聴き取りをするのですね。
武野:病院の方からお話を聞いて、ご本人は近いうちに退院できる見込みがあるときは、ご本人にそれを話して終わります。
患者さんたちが遠慮して言えなかったことや上手く言えなかったことなどを、弁護士が酌み取って整理して病院に伝えることで対話が生まれ、治療に前向きになったり、患者さんと病院のより良い関係が生まれる場合も多いと思います。
また、病院の方が、本人の退院後の生活について不安を覚えているから退院ができないという場合には、弁護士のほうでその不安を取り除くことを手伝います。
– 具体的にはどのようなことをしていただけるのですか。
武野:借金がある人は債務整理をしますし、自分でお金を管理できないという人は、保佐人といって、金銭管理をする人を付けることもあります。
また、退院できたとして、住む場所が無かったり、服薬をきちんと行えるか不安の残る人もいます。そういうときは、福祉の人と連携してグループホームを探したり、服薬のための訪問看護の体制を整えることもあります。
– それだけで、退院が認められるのですか。
武野:それだけ行えば、入院の必要性がないとして、退院できる場合もありますが、さほど多くはありません。
その場合、精神医療審査会というところで審査をしてもらうことになります。
– 精神医療審査会というのは?
武野:医療関係者、弁護士、精神保健福祉士などからなる、行政の機関で、強制的に入院している人について強制入院の必要性があるか否かの判断もしてくれます。
ここに申立てをおこなって、精神医療審査会が退院すべきだと判断した場合は、退院が認められることになります。
– どれくらい認められるものですか。
武野:残念ながら、申立てをしても退院が認められることはほとんどありません。
– あまり機能していないのですね。
武野:いえ、そうとも言い切れません。
警察が逮捕した人をさらに裁判にかけるのと同じで、主治医の考えひとつですべて決められるのではなく、第三者がチェックすること自体に意味があります。
そして、私たちが粘り強く患者さんに会いに行って、環境調整をしたり、退院請求を行う事は、より慎重に強制入院を判断してもらうことにつながると考えています。
ただ、日本の平均入院期間は9か月以上と突出していて、アメリカやフランスでは1週間以内ですし、先進諸国の入院は20日程度という統計もありますので、正直、何故これほどまでに長いのかなと疑問に思うこともあります。
強制入院は、日常の生活から引き離されるという点で、非常に制約が多いものですから、どうしても必要であれば入院するけれども、出来るだけ早く身柄の拘束から解放することが重要だと思っていますし、そのために働きかける必要があると思っています。
– でも、せっかく弁護士に頼んでも出られる可能性が低いのでは、お金の無駄にならないですか。
武野:この退院請求に関しては、日本中の弁護士がお金を出し合って、援助のための枠組みを作っています。お金がたくさんある人でなければ、基本的に援助が受けられますので、費用の心配はありません。
– もし、退院したいと思ったらどうすればいいのですか。
武野:前回も紹介がありましたが、札幌弁護士会には、「ホッと」という、高齢の方や障害のある方の相談窓口がありますので、まずはここに電話してください。
電話番号は011-242-4165です。
札幌や近郊の方で、退院や病院の対応の改善を希望される方は、こちらにお電話頂ければ、弁護士が病院まで出張して相談に乗ることができます。
一部の病院では、病棟内の公衆電話にステッカーが貼ってあるかと思います。そちらもご覧になってください。
札幌弁護士会では、引き続き福祉や医療機関とも共同して「病いがあっても地域で暮らしたい」人たちを支援して参ります。
– 精神保健福祉と弁護士の役割について、札幌弁護士会の武野純一郎弁護士からのご紹介でした。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士武野純一郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士武野純一郎(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年8月9日