周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
8月の月間テーマは「高齢者・障害者のために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「高齢者・障害者支援委員会」の精鋭5名が5週にわたり支援活動を説明していきます。
そして、8月の最終週は、 緊張の面持ちで三角山放送局のスタジオに登場した西田昌弘弁護士です。
高齢者社会の日本において大変皆様の関心の高い「成年後見制度」というテーマを、西田昌弘弁護士がわかりやすく説明していきます。
ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2016年8月30日 |
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ゲスト | 西田昌弘弁護士 |
今週の放送 キーワード |
成年後見,保佐,補助,本人の意思の尊重,権利擁護,後見人の報酬 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
8月は5週連続で,「高齢の方や障害のある方への支援」について取り上げていきます。今回は,その最終回で,札幌弁護士会所属の西田昌弘(にしだまさひろ)さんに成年後見制度について説明していただきます。よろしくお願いします。
第1 弁護士の自己紹介、委員会活動について
西田:どうぞ,よろしくお願いします。
— 早速ですが,自己紹介をお願いします。
西田:皆様,はじめまして。西田昌弘と申します。
— まずは西田さん自身のことを伺いますが,どのようなきっかけで弁護士を志したのですか。
西田:はい。学生時代に参加したダム問題のシンポジウムで,理不尽なことに立ち向かって活動されていた弁護士に感銘を受け,弁護士を志しました。
— 普段はどのようなお仕事をなさっているのですか。
西田:弁護士となってから現在までの間,成年後見業務のほか,相続・遺言(ゆいごん),交通事故,債務整理,離婚,労働問題,不動産の問題,刑事事件などの仕事をさせていただきました。
ご高齢の方や障害をお持ちの方に対し,よりよいサービスを提供できるように高齢者・障害者支援委員会に入り,委員会活動などを通じて日々精進しております。
— お仕事で気を付けていることなどがありますか。
西田:私は,依頼してくださった方のお話をよく聴いて,依頼してくださった方とともにより良いトラブルの解決を目指すことを心がけて仕事をしております。
— 委員会では,どのような活動を行っているのですか。
西田:後見に関する事例を集めたり分析したりして,弁護士向けに研修を行ったり,家庭裁判所と意見交換を行ったり,行政や関連機関に対して成年後見制度をより利用しやすい制度にするよう働きかけを行う,といった活動をしています。特に困難なケースについては委員会メンバーがチームで対応することもあります。医療で言うと,大学や大学病院のようなイメージでしょうか。
— 弁護士さんは,裁判をしているだけではないのですね…。
西田:そうなんですよ。
第2 成年後見制度とは
— では,さっそく,成年後見制度について説明していただけますか。
西田:はい。その前に,田島さんは,「成年後見制度」って,これまでに聞いたことがありましたか?
— はい。最近,耳にすることが多くなったような気がします。
西田:どのような制度だというイメージをお持ちですか?
— 認知症のお年寄りが使う制度,でしょうか…。
西田:そうですね。
たしかに認知症が進んで利用されるケースが多いのですが,交通事故で脳に障害を負ってしまった場合など,若い方でも,ある日突然,必要になることもあります。年齢や健康状態を問わず,ぜひ身近な問題として考えておいていただきたいです。
— 何のための制度なのでしょうか。
西田:成年後見制度は,認知症や統合失調症などの精神上の障害があるために自分の行為の結果が自分にとって有利か不利かを判断する能力がなかったり十分ではなかったりする方たちが利用します。そして,そのような人たちが,判断能力がある人たちと同じように生活を送ることができるよう支援してもらうための制度です。財産保護のための制度だという人もいるのですが,制度ができた経緯を考えれば,私たちの誰もが等しく「自分らしく生きる」ために作られた制度だという点のほうが強調されるべきだと思います。
ところで,田島さんにとって,日々の生活を送る上で最も大切だと考えていることは何ですか?
第3 自己決定権の尊重
— えっ,私ですか?ええと…。甘いもの,かな(笑)。
西田:それは,ものすごく大切ですね(笑)。
ちなみに,何がお好きなんですか?
— 誰が何と言おうと,チョコレートですね!
西田:では,あしたから甘いものは一切禁止と言われたら,どう思いますか?
— そんなの,絶対にイヤです!
西田:どうしてイヤなんですか?
— どうしてって言われても,そんなの他人にとやかく言われることじゃないですよね?自分が食べるものくらい,自分で決めさせてほしいです。
西田:いま,良いことを言いましたね。「自分のことは自分で決める」。これを「自己決定」と言います。私たちが個人として尊重され,自らが人生の主人公となって主体的に生きるために欠かせないものです。私たちは主体性を発揮するときに幸せだと感じられるのではないかと思います。
— 自己決定というのは,後見制度と何か関係があるのですか?
西田:はい。
成年後見制度ができる前の制度は,判断能力が不十分な人たちは半人前という扱いで,ひとりではきちんとできないから後見人が代わりに財産を保護してあげましょうという上から目線の発想でした。成年後見制度では,それまでの保護的な発想を改め,職務の指針として,ご本人の「意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と,法律に定めました。そして,自己決定権の尊重を基本的な考え方として採用しています。
ですから,周りが「ダメ」と言っているときに,あくまでご本人の「食べたい」という気持ちを出発点として寄り添って対応してくれるのが成年後見人です。
— 本人の意思を尊重すると言っても,判断能力がなくなっている人の意思というのは,どうやって尊重するのでしょうか?
西田:この制度で言う「判断能力」というのは,ある程度高度な能力なので,難しい契約書を読んだりはできなくても,様々な形で意思表明をできる利用者のほうが多いんです。ですから,コミュニケーションを図って意向を確認するのが基本です。
もちろん,いわゆる植物状態の方などについては,弁護士が支援をしたからといって喋れるようになるわけではありませんので,周りからいろいろな情報を集めて,その方の価値観などを吟味したりして,もし自ら意思表明ができたならどのように仰るだろうかとか,その方にとって最善の利益は何かということを基本に据えて考えて支援していきます。
第4 経験談
— 経験談があれば教えていただけますか。
西田:私が担当した中に,ご本人は何もしゃべれず,親族からご本人のこれまでの生活状況をお聞きすることもできなかったケースがありました。ご本人がどのようなことを望まれているのか明確にはわかりませんでしたが,まずは,自分がご本人の立場に置かれたら何を望むのかを想像して,たとえば,衣類や寝具のクリーニングはできるだけ小まめに行っていただき,散髪も月に一度の頻度で行ってもらう環境を整えたりしました。ときどき会いに行って穏やかな表情で過ごされているのを見ると,私としてもホッとします。引き続き関わっていく中でもっと理解を深められればと思っています。
第5 成年後見制度の利用件数
— へえー。そんなこともするんですね。
ちなみに,成年後見制度は,どのくらい利用されているのですか?
西田:最高裁判所の発表では,平成27年12月末日時点で,全国に19万人以上の利用者がいます。ちなみに,札幌家庭裁判所の管轄内では,合計4600人くらいの利用者がいます。
全体のおよそ8割が成年後見で,程度が軽いとされる保佐や補助の利用は少なかったのですが,最近,少しずつ増えてきています。成年後見は,ご本人の権利を奪ってしまう側面がありますので,私たちは,可能な限り,保佐や補助,あるいは別の解決方法を検討して薦めています。
第6 成年後見人に選ばれる人は
— 弁護士が成年後見人等に選ばれるケースは,多いのですか。
西田:最高裁判所の平成27年の統計では,親族以外の第三者が成年後見人等になった割合が7割を超えていて,弁護士は2割以上となっています。札幌家庭裁判所では,もっと多くて3割以上となっています。
— ご本人の意思を尊重するのが大切ということなら,弁護士よりも家族が後見人になるほうが良いのではないでしょうか?
西田:もちろん,ずっと身近に接してきた家族が一番の理解者だというケースが多いのですが,本人の意向を上手に酌み取れるということと,適切に対処して支援できるということは別問題といえます。公的サービスに頼るといった事務手続が苦手な方や,こまめに帳簿を付けるのが苦手な方などもいらっしゃいます。また,家族関係が円満ではないため家族のうちのどなたかを選ぶことができないケースも結構あります。家庭裁判所では,そうした諸々の事情を総合的に検討して,最適な人を選びます。遺産分割の協議をしなければならないなど法的なトラブルを抱えたケースが弁護士の専門性が発揮される典型ですが,ご本人を中心に,ご家族や,近隣の方や,福祉や医療などの専門職や,様々な人たちが知恵を寄せ合って,ともにより良い支援を作り上げてゆくのがベストだと思います。
第7 成年後見人の報酬
— なるほど~。
でも,弁護士さんは,お金がかかりますよね。成年後見人の報酬はいくらぐらいかかるのでしょうか。
西田:成年後見人の報酬金額は,申立てごとに家庭裁判所が決めるのですが,東京家庭裁判所の基準では,基本報酬の目安は月額2万円で,事情により上下します。札幌家庭裁判所も似通った基準だと思いますが公表されていません。
— 月2万円も払えないという人も多いと思うのですが。
西田:報酬の額は,ご本人が払える範囲内で決められます。また,報酬が払えなさそうな人だから弁護士などの専門職を成年後見人にしないという運用にはなっていません。国のほうでも,資産や収入がなくても安心して制度を利用して支援が受けられるようにと改革が進められています。それはつまり,成年後見制度が,資産のある人のための財産保護の制度にとどまらず,全ての人たちが生き生きと暮らすために必要な,権利擁護の制度だからなんです。
第8 権利擁護とは
— 権利擁護っていうのは,どのような意味ですか?
西田:権利擁護は,アドボカシー(advocacy)の訳語なんですが,歌い手さんのことをボーカル(vocal)と言うように,もともとは声を上げるというような意味合いの言葉です。ご本人が自分ひとりでは上手く言えない声を拾い上げて希望を叶え,利益を実現していくことが,権利擁護です。
ご本人が上手く伝えられなかったり,物事を整理して考えるのが苦手だったりする状況であれば,ご本人なりの考えをしっかり表明できるように,たとえば,イラストを使ってコミュニケーションを図るなど,環境を整えて援助することも求められます。
— そんなふうに関わってもらえると,心強いですね。
西田:それから,仮に短絡的でナンセンスだと思えるような要望が出てきたとしても,一方的に間違いと決めつけるようなことはせず,その言葉が出てきた背景事情を探ったり,誤解をときほぐしたりする必要もあるでしょう。ただ,どうにも折り合いが付かなくて,ご本人の健康に害が出そうなときなどは,やむをえず成年後見人の意見を押し通させてもらいます。
— なかなか難しそうですね…。
西田:はい。雲をつかむような状態に陥ってしまうことも多く,正直,日々悩みながら支援に当たっています。
— 最近は,どのような悩みがありましたか?
西田:そうですね。ある方が,肥満体質なのに甘いお菓子が大好きでして,本人の希望と健康面との板挟みになってしまいました。
— えっ!?甘いものは大切なんですよね!
西田:ものすごく大切ですね(笑)。
— さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士西田昌弘(札幌弁護士会)
弁護士堺洋一郎(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士西田昌弘(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年8月30日