周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
9月の月間テーマは「子どもの権利を守るために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「子どもの権利委員会」の精鋭4名が4週にわたり支援活動を説明していきます。
そして,9月の第2週目は,人前で話すことが苦手で,田島美穂MCと二人っきりの収録スタジオでも、とても緊張してしまったという平野美里弁護士です。
子どもの権利委員会が中心メンバーとなり運営している子どもシェルターレラピリカに入所した子どもの担当をする弁護士「コタン」の活動について,平野美里弁護士が丁寧に説明していきます。
ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年9月13日 |
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ゲスト | 平野美里弁護士 |
今週の放送 キーワード |
子ども,虐待,児童虐待,DV,シェルター,子どもシェルター,人権 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今回は,前回に引き続き,「子どもシェルターレラピリカについて」というテーマで放送します。
ゲストは札幌弁護士会に所属の平野美里(ひらのみさと)さんです。
平野:よろしくお願いします。
第1 子ども担当弁護士「コタン」の活動内容
— 先週の横山尚幸先生と同じく,平野さんも札幌弁護士会の子どもの権利委員会に所属していて,子どもシェルターレラピリカにかかわっているんですよね。
平野:はい。子どもの権利委員会には,弁護士に登録してからずっと所属しておりまして,子どもシェルターレラピリカには,レラピリカが設立した当初からかかわっています。
— 先週の横山先生からお話していただきましたが,子どもシェルターレラピリカでは,多くの弁護士の先生方がかかわっていて,子ども担当弁護士として,子ども一人に担当の弁護士がつくんですよね。
平野:はい。私は,これまで3人の子どもの担当弁護士となりました。
— コタンですね。
平野:そうです。子ども担当弁護士を略して,コタンです。
— 先週も少し聞きましたが,コタンはどのような活動をするのですか。
平野:担当する子どもがレラピリカに入所してから,退所するまでの間に,必要なことはなんでもします。どんな活動をするかはケースバイケースです。
ただ,どのケースでも行う大切な活動は,レラピリカに入所した子どもが,今度どこで生活をするかを考えて,それに向けた手続き等の支援をします。
第2 レラピリカに入所した後は?
— 先週,レラピリカに入所した後は,一人暮らしをしたり,自立援助ホームに入所したり,家族のもとに戻ったり,親戚の家に行ったりすると聞きました。
平野:そうです。ただ,レラピリカに入所する子どもの多くは,家族とうまくいっていないものですから,家族のもとに戻ったり,親戚の家に行くという選択肢があるケースは限られます。
— そうすると,一人暮らしか自立援助ホームに入所するかになりますね。
平野:そうなんです。退所先を決めると言っても,残念なことに選択肢は限られているのです。もっと受け入れ先が増えてくれればいいのですが。
— 子どもが安心して生活できる場ですね。増えてほしいですね。
ところで,どこを退所先とするかというのは,コタンが決めるのですか。
平野:いいえ。18歳,19歳の子どもたちですからね。最終的には子どもに決めてもらいます。
— 子どもが一人暮らしをしたいと言ったら,一人暮らしの方向で進めるのですか。
平野:いいえ。子どもの意思は最大限尊重しますが,なんでも子どもの意思で進めればよいということでもありません。一人暮らしは難しいかなと思われる子どももいます。子ども,スタッフ,コタンと担当理事,子どもにかかわるみんなで考えて,協議して,最終的に子どもに決めてもらいます。
— みんなで,子どもにとって一番いいと思う退所先を考えるのですね。
平野:はい。子どもの生活の状況を観察しながら,一人暮らしができるかとか集団生活ができるか等判断します。ただ,レラピリカでの滞在期間は,原則短期間ですから,その判断は難しいです。
— だいたい,2か月ぐらいの滞在期間だということですもんね。
平野:はい。目安ではありますが,ながーくいる場所ではないですから,少しずつ前に進んでもらいたいですからね。
短期間での退所先の判断は難しいですが,スタッフの方が,子どもの行動を観察して,いろんな話をしたりして,子どもの特徴をつかんだりしてくれていますので,本当に助かっています。
第3 親権者という壁
— 18歳とか19歳の子どもが一人暮らし・・できるものなんですね。
平野:私が,18歳19歳のときのことを思い起こせば,まだわからないことが多い中で,一人で生活を余儀なくされるなんてとても不安だろうなと思います。レラピリカを退所して,一人暮らししている子どもたち,すごいなと思います。
それに,未成年者ですから,いろんな手続きの関係で,親権者という大きな壁があるんです。
— 親権者という壁ですか。
平野:そうなんです。親権は,子どものための親の権利義務ですが,虐待されてきた子どもたちにとって,親権という権利を振りかざされると子どもたちは自由に行動することが困難になります。
賃貸借契約をするにも,親権者である親の同意がなく,保証人もいないとなると,不動産屋さんは契約してくれないのです。
— 親の同意がなかったら,契約できないのですか。
平野:いいえ。契約はできるんですが,親が同意していない場合には,契約を取り消されてしまうかもしれないので,いつ取り消されてしまうかわからない契約をするのは,不動産屋さんにとっては,危険なのです。
— そうなんですね。
平野:何とか事情を説明したりして,未成年者でも契約してくれる物件を探します。それに,保証人がいない場合,保証会社を利用するのですが,その際,緊急連絡先が必要になります。その緊急連絡先も親族でなければだめだと言われることもあって,第三者でもよいところを探します。
私が担当した子どもは,不動産屋さんが何とか物件を紹介してくれまして,私が緊急連絡先になって,契約することができました。
— コタンが,緊急連絡先になることもあるのですね。
平野:緊急連絡先になってくれるような大人がいないことが多く,保証人にはなれませんが,せめて,緊急連絡先になって契約をすることができればと思って,やっています。
第4 どうやって生活していくの?
— 無事,住むところが決まっても,どうやって生活していくんですか。レラピリカに入所している間,仕事はできないんですよね。
平野:そうなんです。レラピリカは体を休めてもらったり,安全を確保するところですから,外出はできなくて,仕事をしたり,探したりもできないんです。ですから,預金がなくて,一人暮らしをする子どもは,まずは,生活保護の申請をすることが多いです。
— 生活保護になってしまうのですね。
平野:もちろん,一人暮らしを始めてから,可能であれば仕事をしてもらいますけれども,まずは,生活できる場を作るのが先ですからね。
— こういうケースでも,生活保護支給の決定が出るんですね。
平野:いいえ,簡単に生活保護支給の決定が出るわけではありません。親がいれば,親に扶養義務がありますから,扶養してもらえないのかという話が出てきます。ですので,区役所に虐待等の事情を説明して,親から切り離して,決定をもらえるように掛け合います。
— 弁護士さんの出番ですね。
平野:はい。決定がもらえれば,転居費用や生活をするのに必要な什器備品代も申請して支給してもらいます。
— 生活するのに,冷蔵庫とか洗濯機とか必要ですもんね。
平野:そうなんです。家具家電もそうですが,ほとんど物を持たないまま出てきてしまう子どももいますので,衣類が必要な子どももいます。
— 着の身着のままで入所する子どももいるということですもんね。
平野:そうなんです。レラピリカに入所したときに,少し服をあげたりしますが,たくさんあげられるわけでもありませんので,衣服代を支給してもらえるのはとても助かります。
— そういえば,レラピリカに入所している間は,子どもは外出できないということですが,家具家電とかの買い物はどうするんですか。
平野:退所の準備のための買い物は,子どもを連れて行きます。やっぱり,子どもが使っていくものですから,自分で選びたいですからね。スタッフも手伝ってくれますが,コタンが買い物に付き添うんですよ。すごく何を買うかを決めるのに時間がかかる子どももいます。私は,ほぼ一日買い物に付き添ったことがあります。
— それは,大変ですね。
平野:体力が必要です。恥ずかしながら,運動不足の私には,なかなかつらかったです。
第5 レラピリカ退所後に困ったらどうすればいいの?
— 準備が整ったら,退所ですね。寂しくないですか。
平野:そうですね。でも,寂しいというよりも,やっと,子どもが普通に生活をしていけるんだといううれしい気持ちの方が大きいです。それと同時にやはり心配ですね。
— 心配ですよね。
平野:はい。やっぱり,退所後,わからないことや困ったことが出てくると思うんですよね。そんなときに,相談してくれればと思います。何ができるかわかりませんが,話をする相手がいるのといないのとでは違うと思うんです。ですから,入所期間中は,退所した後も,困ったら相談してみようという関係を作れればと思いながら,子どもと接しています。
— 子どものために,いろいろやってあげているんですから,信頼関係ありますよね。
平野:子どもに信頼されるというのは,簡単ではありません。これまで,たくさん傷つけられてきた子どもたちです。そもそもが,大人,人を信頼することが難しいんです。
どれほど苦しい思いをしてきたかは,その子にしかわかりません。どんなに話を聞いてあげても,わかることはできないのだと思います。
ですが,まずはたくさん子どもと接して,話を聴いてあげる。そして,一緒に考えてあげる。難しいですが,子どもとの関係が少しでも築けるようにと思って,根気強くかかわっているつもりです。
— 子どもとの接し方は,本当に難しいですよね。
退所した後は,子どもとかかわりはあるんですか。
平野:はい,ありますよ。ただ,どのようなかかわりをするかは決めていなくて,コタンに任せています。子どもから相談を受けているコタンもいれば,定期的に連絡して,近況を聞いたりするだけのコタンもいます。
— レラピリカに入所して,弁護士さんとかかわることができて,生活する場を確保できて,その後も,弁護士さんが相談にのってくれるなんて,すごく子どもにとって,いいですよね。
平野:そう思ってくれるといいですね。退所先については,入所中,子どもと一緒に,一生懸命考えて決めますが,本当に良かったのか,悩みはつきません。少しでも,子どもが,レラピリカに入所してよかったと思ってくれればいいなと思います。
— そうですね。レラピリカに入所する前とは違う形で,生活をする環境を作ることができたら,まずは一歩前進ですよね。
平野:はい。私が担当した子どもは,レラピリカに入所する前は,生活保護世帯の親のところにいて,一人暮らしをするお金を貯めることもできず,親から離れたくなったら,友人宅を転々とするといった不安定な生活をしていましたが,一人暮らしをする環境を作ることができたので,よかったかなと思います。
— レラピリカがなければできなかったことですね。シェルターはとっても必要な施設ですね。
平野:そうなんです。そのことが,18歳,19歳の子どもたちにもわかってもらいたいなと思うんですよね。
— それはどういうことですか。
平野:レラピリカに入所したら,場所の秘匿の関係等から,携帯電話を使うことはできません。先ほども話したように,外出もできません。
今の若い子どもたちは,携帯電話を使えない,友達と会うことができない環境で生活をすることができなくて,安定した生活を送ることよりも,友達との関係を重要視して,自分のことよりも友達との関係を優先してしまうんです。ですので,レラピリカの事務局に行くところがなくて困っていると相談があるんですが,携帯電話が使えないことを知ったら,やっぱりいいですとなってしまうんです。
— 確かに,今の子どもたちは,携帯電話なしで生活を送ることはできないでしょうね。
平野:そうなんです。携帯電話に対する執着は強いですよ。まずは,自分の体や心を大切にしてもらいたいんですが。
— 友人宅を転々としたりするような生活を送っていたら,ゆっくり休めないですし,トラブルになったりすることもあるでしょうからね。体も心も休まる環境を作ることが先決ですよね。
平野:おっしゃるとおりです。もっと自分を大切にしてほしいなと思います。
— コタンの活動を聞いてきましたが,弁護士と聞いたら思い浮かぶ仕事でないことが多いですね。一人でも多くの困っている子どもたちの助けになるといいですね。
子どもシェルターレラピリカについては,ホームページとブログもありますので,ぜひみてみてください。
さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士横山尚幸(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士平野美里(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年9月13日