周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
9月の月間テーマは「子どもの権利を守るために弁護士ができること」です。
札幌弁護士会「子どもの権利委員会」の精鋭4名が4週にわたり支援活動を説明していきます。
そして、9月の最終週は、 いっぱい噛んでしまい、収録後に「編集」という魔法をかけてもらった小林杜季子弁護士の登場です。
小林杜季子弁護士が、少年法の適用年齢引き下げ問題について、市民の皆さまに考えていただきたいと願って熱く語っていきますので、ぜひ、お聞きください。
また、平成29年2月18日(土)に開催される少年法適用年齢引き下げに関するシンポジウムについても告知していますので、興味のある方は、ぜひ御覧になってください。
放送日 | 2016年9月27日 |
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ゲスト | 小林杜季子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
18歳,少年法,適用年齢引き下げ,保護主義,可塑性 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
9月は子供の権利について取り上げることになります。
今回のテーマは少年法適用年齢引き下げについて,ゲストは札幌弁護士会に所属の弁護士小林杜季子(コバヤシトキコ)さんです。
第1 小林弁護士の経歴
小林:ご紹介にあずかりました札幌弁護士会子どもの権利委員会所属の小林杜季子です。どうぞよろしくお願いいたします。
— 小林さんは,子どもの権利委員会の活動は長いのですか。
小林:私は,子どもの権利委員会に所属しているのは,合計1年半ほどですが,弁護士になってから少年の付添人活動などは複数回行っております。
第2 少年法と法律上の“大人”
— 今日は,どのような話を聞かせてくださるのですか。
小林:はい,付添人活動の根拠になる少年法についてお話したいと思います。
早速ですが,大人って何歳からだと思いますか。
— 20歳で成人とされているので,20歳から大人と言えるのではないでしょうか。
小林:確かに,現在の民法の規定上はそうなりますね。
第3 社会生活上の“大人”
— では,ご自身がもう大人だなと思えたのは何歳くらいからですか?
小林:働き始めて,自分で生活をし始めたころかもしれません。
私も,昔は20歳になれば大人だと思っていましたが,実際に20歳になったころは大学生で,まだまだ子どもでした。大人になったと感じたのは,やはり働きき始めたころだったように思います。
私が20歳の自分を,子どもだと感じていたのは,まだまだ狭い世界しか知らず,何かに責任を負うという経験がなく,親の庇護のもと生活していたことが要因かな,と思っています。自分の行動に責任をもつ,と言っても,概念としてはわかっていても,実感がない人は多いように思います。
— そうですね。
第4 “大人”をめぐる法改正の動きについて
小林:一方で,2015年6月17日に選挙権年齢を20歳以上から,18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が成立し,実際に今年の参議院議員選挙では,18歳の未成年にも選挙権が与えられました。
この動きに伴って,自民党政務調査会は,昨年9月に「成年年齢に関する提言」を出し,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることや,少年法の適用年齢を満20歳未満から満18歳未満へ引き下げることの検討をすると発表しています。
実際にこのような法改正が行われた場合,大人としての実質が伴わないにもかかわらず,法的にのみ大人として取り扱われることになります。
— 18歳といえば,まだ高校生の子もいますし,大人と聞くと少し違和感があるかもしれません。
第5 少年法の適用年齢が引き下げられることの悪影響
小林:少年法の適用年齢が引き下げられると,18歳・19歳の子どもが,大人と同じ刑事手続を受けることになるのです。
これでは,18歳・19歳の子どもの立ち直りを阻害することになるのではないかと,危惧しています。
第6 少年法の適用年齢引下げにより少年法の適用外となる少年の実情
— でも,18歳・19歳では,善悪は判断できるのではないですか。
小林:確かに,善悪の判断をできる子もいるでしょう。
しかし,実際に付添人活動をしていると,18歳・19歳で,善悪の判断ができていても,つい犯罪行為をしてしまう子はとても多いです。
そして,どうして犯罪行為をしてしまったのかを聞くと,「なんとなく」や,「流されてしまった」と答える子が本当に多いのです。そのような子には,自分の行動がもたらす結果を想像することが苦手だったり,他人の気持ちを考えることが苦手な子が多くいます。また,悪い仲間とつるむようになったけれど,自分の力では抜け出せない子も多くいます。そのように,自分の力では,自分の置かれた環境を変えることができなくて,なし崩し的に悪いことに手を染めてしまう子もいるのです。
そのような子たちは,いままでその子にあわせた教育や精神的成長を促す機会に恵まれていなかったということがよくあります。
そのような子たちは,少年法を適用して,刑罰ではなく保護・教育をすることで,劇的に成長することがあります。
実際,私も付添人として担当した19歳の少年が,警察署の留置場にいるときには,ひらがなばかりで,表面だけ反省しているかのような反省文を書いていたのが,家庭裁判所調査官や保護者も含めた大人たちが,その子にとってどのような処分をすることが一番いいのか,を本気で考え,同時に少年に対しては,その子の学習進度に合った勉強をすることにより,やる気を見せるようになったのです。
— 実際にその子は,どうなったのですか。
小林:その子は,少年院に行きました。犯罪傾向が進んでいたので,少年院での教育はその子にとって必ずプラスになると信じています。
実は,少年院にいるその子から,お手紙がとどいたことがあるのです。その子からの手紙は,しっかりと漢字を使って大人顔負けの言葉づかいで時候の挨拶から始まっていました。
最初の反省文を見ているだけに,その成長に本当に驚いたものです。
実際に,その後少年院に会いに行くと,少し照れくさそうにしているものの,しっかりと挨拶をしてくれて,将来の希望を持って少年院での生活を送っていると話してくれました。
— では,少年法を適用することは,実際にそのような子たちに効果があるということなのですね。
小林:そうなのです。
子どもたちは,まだまだ成長途中にあって,社会についての十分な知識も,自分の環境を整えていく力もまだ未熟です。
そのような子たちには,大人が手を差し伸べてあげる必要性があるのです。
それが,少年法の理念でもあるのです。
第7 少年法が目指すもの
— 少年法の理念とはどのようなものですか。
小林:少年法1条には,「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定されています。
その前提にある考え方は,保護主義といって,少年には可塑性(成長によって人格が柔軟に変化する性質)があり,保護・教育によって立ち直りを図ろうとする考え方です。
つまり,少年は,まだまだ未熟で,保護・教育によって立ち直れる余地があるのであるから,刑罰ではなくて,保護処分によって立ち直りを図ろう!という考え方です。
— なるほど。少年法は刑罰ではないのですね。
小林さんは,18歳・19歳でもまだまだやり直しがきくとお考えなのですね。
小林:そうなのです。
20歳を超えても当然やり直しはきくと思いますが,19歳ではまだまだ教育で本人の立て直しを図ってあげるべきだと思っています。
第8 少年法の適用年齢引き下げの議論と少年犯罪に対する誤解
— では,なぜ少年法の適用年齢引き下げの議論が出ているのですか。
小林:そうですね。
少年法適用年齢引き下げの賛成論の根拠は,いくつか挙げられていますが,そのひとつは,少年事件が増加・凶悪化していること,が挙げられています。
少年犯罪は,増えていると思いますか?
— 最近,テレビとかで少年による事件を目にすることが多くなったように思います。
増えているのではないですか?
小林:実は,それは間違いなのです。
少年の検挙人数も,そのなかの殺人・傷害致死事件の件数も,数十年前に比べると激減しているのです。
— そうだったのですか!初めて知りました。
小林:少年が行ったセンセーショナルな事件が,メディアで取り上げられると,やはり印象には残りますから,その印象に引きずられてしまうのでしょうね。
このように,少年法適用年齢引き下げ賛成論の根拠について,ひとつひとつ検証していく必要があると考えています。
— 法律ですから,正しい情報に基づいて適切な判断を下してもらいたいものですね。
小林:そうなんです。
ただ,世間の声も当然無視できるものではないのです。
そこで,いままで少年法について考えたことのなかった人にも,正しい情報を共有してもらって,少年法について考えてもらいたいと思っています。
第9 正しく少年法を理解してもらうための取り組み
— 一般の市民の方は,どのように情報を手に入れたら良いのでしょうか。
すこし敷居も高いし,どうして良いのかわかりません。
小林:そうですよね。
そこで,札幌弁護士会子どもの権利委員会では,少年法適用年齢引き下げについてのシンポジウムを開催する予定です。
— いつ頃開催されるのでしょうか。
小林:平成29年2月18日(土)を予定しております。
— そのシンポジウムではどんなことをする予定ですか。
小林:はい。
少年事件手続きについて,どのような手続きを行っているのか,を知っていただきたいと思います。
また,実際に数多くの少年たちと触れ合ってきて,少年たちの実態を良く知る夜回り先生こと水谷修先生をお招きして講演会も行う予定になっています。
第10 終わりに
— 夜回り先生のお話は,ぜひ一度お聞きしたいですね。
では最後に,リスナーに向けてメッセージがあればどうぞ。
小林:子ども達はまだまだ未熟です。その未熟な子ども達に,十分な教育を与える前に,刑罰を与えてしまうのではなく,やり直しの機会を与えるのが少年法であり,18歳・19歳の子ども達もまだまだやり直しのきく歳であると思っています。
自分の子ども達は関係ない,とは思わず,この問題に興味を持っていただけたらありがたいです。
— そろそろ,お別れの時間がちかづいてきました。
今月は4回にわたって,子どもの権利についてお話していただきました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士小林杜季子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士小林杜季子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年9月27日