周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
10月の月間テーマは「憲法公布70年に寄せて」です。
札幌弁護士会「憲法委員会」の精鋭3名が4週にわたり憲法や委員会での活動について説明していきます。
10月の第3週目も、第2週目に引き続き登場いただいた神保大地弁護士に担当いただいています。
神保大地弁護士は、現在、話題になっている緊急事態条項についてわかりやすく解説し、これから弁護士会としてどういった活動をしていく予定なのか等について、お話させていただいています。ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2016年10月18日 |
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ゲスト | 神保大地弁護士 |
今週の放送 キーワード |
①日本国憲法 ②公布70周年 ③安保関連法 ④自衛隊 |
— 今日も始まりました「札幌弁護士会の知恵袋」。
札幌弁護士会の弁護士が今日も熱く語ります。
今月は「憲法公布70周年に寄せて」と題して、札幌弁護士会憲法委員会の弁護士をゲストにお招きしています。
今日のゲストは神保大地(じんぼだいち)さんです。
神保:皆さんこんにちは。札幌弁護士会憲法委員会の神保大地です。宜しくお願いします。
第1 緊急事態条項って?
— さて、今年は日本国憲法公布から70周年を迎えることを記念して、全4回、札幌弁護士会憲法委員会の皆さんとともに憲法をめぐるホットな話題をお届けしていきます。
第3回目の今日は、最近、TVなどで耳にするようになった緊急事態条項(きんきゅうじたいじょうこう)について、札幌弁護士会がどのように考えていくのかということを聞いていきたいと思います。
神保さん、そもそも緊急事態条項ってなんですか?
神保:緊急事態条項って、耳慣れないですよねぇ。緊急事態条項っていうのは、ごくごく簡単にいえば、緊急の場合に備えておく決まりのことを言います。
もうちょっと細かくいえば、戦争のような非常事態には、いつもと違うやり方で政治をやっていくよって予め決めておくことをいいます。
— まだちょっと分かりませんね。もっと具体的には、どういうものなんですか?
神保:そうですね、例えば、突然どこかの国から攻められた場合に、それに備えた法律がないとしますよね。そうしたときに、のんびり国会で議論している余裕がなかったら、内閣が法律みたいなものを作っちゃって、先に行動をしちゃう、緊急の場合にはこういったことを認めましょうってことです。
普通は、内閣っていうのは、国会が作った法律に基づいて行動しなきゃいけないんですけど、緊急の場合には、国会が法律を作るのを待っていられないから、例外的に、内閣がいろいろやっちゃいましょう、っていうものです。
— なるほど、急がなきゃいけないときには、内閣でさっさと決めて、あれこれ行動しちゃいますよ、ってことですね。
神保:あぁ、そうです、そうです。
— 先ほどは、どこかに攻められたっていう戦争の場合を想定していましたけど、戦争の場合に限られるんですか?
神保:いえいえ、戦争には限られません。具体的な内容は、国によって様々なんです。例えば、ドイツは自然災害も含めていますけど、フランスは自然災害を含めていないです。ロシアは、憲法上は戦争に限られていますけど、法律上はテロとか技術的事故というのも含めています。
第2 緊急事態条項をつくる場所は様々
— いま、法律って話がありましたね。TVなんかでは、憲法にこの緊急事態に備えたきまりがないから入れるべきだって話がありましたけど、そもそも憲法に入れるものなんですか?
神保:これはもう、国によって様々なんですよね。憲法に緊急事態に備えたきまりがある国もあれば、法律にしかない国もあるし、憲法にも法律でも決めている国もあるんです。
例えば、ドイツとか韓国は憲法に書かれていますけど、フランスは、憲法にも法律にも緊急事態条項があるんですよね。イギリスはそもそも憲法がないし、アメリカも憲法じゃなくて法律で決めているんです。国によって様々ですね。
— なるほど。
で、札幌弁護士会としては、この緊急事態条項については、どのようなお立場なんでしょうか?
神保:実は、いまはまだ立場が決まっていないんですよ(笑)
これから、検討しますっていう段階なんです。ただ、近いうちに札幌弁護士会としての意見表明をしたいと思っています。
ちなみに、ほかの弁護士会などでは、すでに緊急事態条項に関わる意見を出しているところが結構あるんです。日本弁護士連合会、日弁連っていいますけど、ここでも意見表明をするための準備をしているんですよね。
— なるほど、すると、今回は、札幌弁護士会の意見そのものをお聞きするというよりも、緊急事態条項にまつわるいろいろな事情などを伺うということになりますね。
神保:はい、そうです。
第3 自然災害のために緊急事態条項は必要か
— では、日本で一番記憶に新しい緊急事態というと、東日本大震災だと思うんですが、こういう大規模な自然災害に備えて、緊急事態条項というのを、新たに作る必要はあるんでしょうか。
神保:さきほども言いましたように、札幌弁護士会としての意見というのは、まだありませんけど、ほかの地域の弁護士会では、この自然災害について意見表明をしているところが結構あるんですよね。
で、その結論としては、自然災害に備えるためには緊急事態条項は要らない、という結論ばかりなのです。
— それはなぜですか?
神保:よく言われているのは、自然災害のときには、緊急事態条項は必要じゃない、必要なのは事前の準備ということですね。
— 自然災害のときには必要じゃないっていうのはどういうことですか? 自然災害のときには、迅速に対応しないと被災者が困ってしまうような気がするのですが。
神保:そうですよね。自然災害のときには、被災者支援って一番大切ですよね。
でも、あれだけの被害がでた東日本大震災で、被災者支援のために何か新しい法律がすぐに必要だったかっていうと、ほとんどなかったんです。
実は、東日本大震災が発生したときも、国会はずっと開いていました。でも、東日本大震災が発生した直後の2011年3月に作った震災関連の法律はたった2つだけです。それも、選挙の期間に関する法律と国会議員の給料を減らす法律でした。それがないと被災地での救助・復興が進まないかって言ったらそうでもなさそうですね。
要するに被災直後に必要な法律は、いまの法律で十分だったということです。
— なるほど、国会が法律つくるのを待っていられない、って場合がなかったということですね。だから、東日本大震災のときのことを理由にして緊急事態条項が必要だとはいえないってことになるんですね。
神保:そうなんです、政府が2015年3月に発表した、危機管理組織の在り方についての報告書があるんですけど、そこには、日ごろから準備をしっかりやりましょうねって書いてあるけど、緊急事態条項については何も触れられていないんです。政府としても、東日本大震災を経験しても、緊急事態条項が必要だとは思っていないってことなんだと思いますね。
第4 緊急事態条項の怖いところ
— 自然災害については、分かりました。では、その他の場合は、どうなのでしょうか?
たとえば、フランスは、テロをきっかけに緊急事態条項を使っていると聞いたことがあるのですが。
神保:はい、実は、いまもまだフランスは緊急事態条項が適用されています。簡単に言えば、いまもまだ非常事態中ってことなんですね。ただ、実は、これが緊急事態条項の怖いところなんです。
— 怖いというのは、具体的にはどういうことなんでしょうか?
神保:緊急事態条項というのは、内閣がいろいろなきまりを自由に作れるようになるということで、内閣が力をもってしまうんですね。
これは、便利なように思えますが、歴史的には、この緊急事態条項のために、国民が大変な目に遭ったということも数多くあったのです。それを考えると、怖い、ともいえるんです。
— より具体的に教えてもらえますか?
神保:例えば、第二次世界大戦でユダヤ人を虐殺したことで有名なナチスドイツでは、大統領令という緊急事態条項があったのですが、これが反対派をつぶすために何度も使われてしまい、そのためにナチスドイツがやりたい放題できるようになってしまいました。
フランスでは、反乱があったので緊急事態条項を使うことになったのですが、反乱が収まったあともずっと緊急事態が続いた上に、出版の自由が制限されてしまうということがありました。
さらに、第二次世界大戦前の日本では、人権を侵害するということで国会で成立しなかった法案を、天皇の緊急勅令という緊急事態条項を使って成立させて、戦争に反対する人たちを大量に逮捕してしまうということがありました。
世界的にも歴史的にも、緊急事態条項というのは、政治をする人が好き勝手に使ってしまって、その結果国民が困ってしまうということがよくあったんですね。
戦争中の日本の憲法には、4つもの緊急事態条項がありましたが、戦後、国会で憲法について議論しているときに、緊急事態条項は国民にとって有害だから入れません、というやり取りがあったんです。だから、いまの憲法には、あえて緊急事態条項は入っていないといわれているんです。
第5 憲法の緊急事態に備えた条文
— でも、何か緊急に法律が必要になることってありうると思うんですけど、そういう場合はどうしようもないんですか?
神保:実は、いまの憲法は、緊急事態条項はないけど、緊急事態に備えた条文というのはあると言われているんです。たとえば、衆議院が解散していて衆議院議員がいなくても、参議院議員はいますので、緊急集会っていう会議を開いて法律みたいのを作れるんです。だから、国会議員がいつでも話し合うことが出来るって意味では、緊急事態に備えた条文ってことになるんでしょうね。
— なるほど、いまの憲法では内閣に自由にいろいろやってもらうんじゃなくて、できるだけ国会議員が会議を開いて緊急事態に対応することを目指しているといえるんですね。
神保:そういうふうにいえるんでしょうね。
— 冒頭に、札幌弁護士会ではこれから意見表明をする予定だとお聞きしましたが、いまの時点で決まっていることはあるんですか?
神保:まずは、いまお伝えしたような内容を、市民の方々と共有するために、お勉強会をすることにしました。10月21日(金)の18時から、札幌弁護士会館で行います。
講師は、兵庫県で阪神淡路大震災のころから災害対策の仕事をされてきた弁護士を予定しています。
もう一度説明してほしいという方、自分の想う疑問をぶつけてみたいという方、どのような思いで来ていただいてもOKです。ぜひお越しください。
— 多くの方が参加してくださるといいですね。
今月は、今年憲法公布70年を記念して、札幌弁護士会憲法委員会からゲストをお招きして、今ホットな憲法の議論や、弁護士会の取り組みについてお伝えしました。
神保さん、今日はありがとうございました。
神保:ありがとうございました。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士上田絵理, 弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士神保大地(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士神保大地(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年10月18日