周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
11月の月間テーマは「弁護士になろう!」です。
札幌弁護士会のフレッシュな弁護士5名が、5週にわたり、弁護士になるまでの道のりや、それに対して札幌弁護士会でどのようなサポートをしているかについて説明していきます。
11月の第4週目は、佐々木泰平弁護士と馬場幸樹弁護士に担当いただき、「弁護修習について」というテーマで、司法修習のうち弁護修習ではどのようなことを学ぶのか、弁護修習中の印象に残ったことなどについて、具体的な体験をもとにお話しいただいています。
ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2016年11月22日 |
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ゲスト | 佐々木泰平弁護士、馬場幸樹弁護士 |
今週の放送 キーワード |
司法修習生,実務修習,弁護修習,配属地,指導担当,修習生の経験,修習で役立ったこと,修習で勉強しておくべきこと |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今回は,「弁護修習について」というテーマで放送します。
ゲストは札幌弁護士会に所属の佐々木泰平(ささきたいへい)さんと馬場幸樹(ばばこうき)さんです。
佐々木・馬場:よろしくお願いします。
第1 実務修習とは
— 今回は,司法修習生の弁護修習の内容についてのお話ということですが,まずは,お二人の自己紹介をお願いします。
佐々木:私は札幌弁護士会で修習委員会に所属しております佐々木泰平と申します。修習委員会というのは、修習生が実のある修習を行うことができるように、事務的な面や修習の内容の面など様々なサポートを行っている委員会です。今回は、修習生の弁護修習がどういうものかというのがテーマということですが、私は弁護士になって3年目で、比較的最近修習を経験していますので、当時のことを思い出しながらいろいろお話させていただきます。
馬場:同じく札幌弁護士会で修習委員会の委員をしています、馬場幸樹と申します。私も弁護士3年目で佐々木さんと同期ですので、今回はその時のことを振り返りながらお話させていただきます。よろしくお願いいたします。
— さて、前回に引き続き司法修習の内容についてということで、今回は実務修習のうちの弁護修習の内容を主なテーマとしてお話しいただくのですが、そもそも実務修習とはどのようなものなのか、簡単におさらいをしていただけますか。
馬場:実務修習は、全国各地に配属された修習生が、いくつかの班に分かれて、裁判所、検察庁、弁護士事務所に実際に行って仕事をするというものです。それぞれ2ヶ月ずつ修習することになっていて、修習生が自分で好きなプログラムを選択する選択修習も入れて8ヶ月間にわたります。
— 前回の放送で配属先がどのように決められるか菊地先生からお話しいただきましたが、お二人の配属先はどちらだったのでしょうか。
佐々木:二人とも札幌修習でした。
— そうすると、修習時代から色々交流があったのですか。
馬場:同じ修習地でも班が違ったので、そこまで多くはなかったですね。ただ、要所で顔を合わせる機会はあったので、近からず遠からず、といったところでしょうか。
佐々木:私が修習していたころは全体で60人弱の人数を4つの班に分けて修習していました。班をまたいで交流することも少なくなかったですね。
第2 修習中の法曹との交流について
— もちろん勉強が第一であるとは思いますが、修習生同士や修習で関わる弁護士や検事、裁判官の方々との交流も大事ですよね。
佐々木:はい、もちろん勉強が第一です(笑)真面目な話をすると、元々修習期間は2年間あったのですが、それが1年間になって、2年でやっていたことを1年でやるようになった関係で、修習の密度は上がっているのではないかと思います。
馬場:といっても勉強一辺倒というわけではなく、特に地元で就職したい人だと、飲み会が顔を覚えてもらう機会になったりもするので、そういった機会というのも大事ではありますね。
そういう場につきものなのが名刺交換ですが、修習生は、修習生になってはじめて名刺を作るという人も多くて、私もいくつかの業者を見比べて悩んだ覚えがあります。そうやって作った名刺を色々な人たちと交換して、つながりを広げていくんですね。
という具合に、修習生は、本格的に社会に出る前にもいろいろな経験をしています。他にも、札幌、旭川、釧路エリア全体を担当する指導教官の先生を巻き込んで旅行や飲み会をしたこともあります。ちなみに、完全に余談ですけど、中には修習中にプロポーズをするような輩もいますね。誰とは言いませんが、それこそ飲み会の席で暴露されて話題になっていた人がいたようないないような……。
佐々木:本当に誰なんでしょうね。そんな輩もいるんですね。全く記憶にございません(笑)それはさておき、修習生の就職活動については、次回の放送でその辺の話をメインテーマに取り上げますので、よろしければ次回もぜひご視聴ください。
第3 弁護修習について
— 修習生は勉強以外にもいろいろなことをされているんですね。では、修習生の雰囲気が何となく感じられたところで本題に入っていきたいと思いますが、弁護修習というのは具体的にどういったことをしているのでしょうか。
佐々木:弁護修習では実際に指導担当の先生が担当している事件について、指導担当の先生の指導・監督のもとで書面の起案や法律相談への同席、判例・文献の調査等をするなど、指導担当の先生と一緒に仕事をさせてもらえます。
馬場:実際に指導担当の先生が担当している事件を取り扱いますので、大げさではなく、本当に事務所ごとに内容はそれぞれですね。最低限全員に経験してほしいことは、前回の放送でお話があった導入修習でも扱いますし、刑事事件なんかは修習委員会で手配するなどして全員が被疑者との接見や刑事裁判を経験できるようにしています。
— たとえばお二人は、指導担当の先生のもとでどのようなことを経験されてきたのですか。
佐々木:私は交通事故の被害者側ですとか、デリバティブ取引のような投資をする際に自分の能力を超える金融商品を勧められて被害に遭ってしまう投資被害の事件を専門的にやっていらっしゃる先生が指導担当をしてくださいまして、普通では絶対に見ることができないようなかなり詳しいところまで経験することができました。特に交通事故の事件は実務に出てからも件数が少なくないので、現在でも修習時代にやったことを思い出しながら仕事をしたりしますね。
馬場:私を担当してくださった事務所では、色々な種類の事件があったので、満遍なく経験させていただいたのですが、修習中は離婚事件が多かったように思います。離婚事件はどんな弁護士でもできるといわれることがあって、簡単な事件だと思われている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、事件の根底にある人の感情的な部分を理解して調整を図るなど、法律的な面以外で考えなければならないところも多く、ある意味弁護士の力量が問われる事件ともいえるものです。そのような離婚事件を多く見ることができたというのは、とても貴重な経験だったと思います。
第4 弁護修習と実務
— 本当にそれぞれの事務所でやっていることがずいぶん違ってくるんですね。お二人が修習でやったことというのは今でもお仕事で役立っているとは思いますが、特にこれは役立っているということはありますか。
佐々木:おっしゃるとおり、基本的に修習でやったことはすべて身になっていますね。当時配られた冊子は今でも参照しますし、当時は意味がよくわからなかったことが、今になってそういうことかと納得するような経験も少なくないです。特にこれは役に立っているというのを挙げるのは難しいのですが、たとえば、法律相談で色々な依頼者の方がいらっしゃるわけですが、そういった依頼者とどのように話をするのかですとか、裁判の期日でどんなことを考えてどんなことを話すのかですとか、本には書いていないようなことが学べるところですかね。お昼ご飯ついでの雑談で指導担当の先生が今関心を持っている事柄や、事件の進行についてざっくばらんな議論をしたりというのも弁護修習だからこそできるのでしょうね。他にも、弁護士というのは仕事柄地方出張が少なくないのですが、その移動中でも色々な議論をしたりお話を聞かせてもらいました。馬場さんはどんなのがありますか。
馬場:今佐々木さんが言ったことにも多少関連するのですが、たとえば弁護士費用の話を切り出すタイミングですとか切り出し方ですかね。こういう話は中々表には出しにくいところだけに、そういったところを生で見て勉強できるというのは弁護修習ならではですね。本では絶対に勉強できないことですし。
佐々木:確かに報酬のことは、実務に出る前は弁護修習でしか勉強できないですよね。報酬の話は本題から少しそれますが、関心のある方もいらっしゃるでしょうから、補足ついでにお話ししますと、弁護士は事件の依頼を受けて処理をして、それに対して弁護士費用をもらうという仕事をしています。弁護士費用の決め方については、特に決まった基準があるわけではないので、自分で決めなければなりません。高すぎず安すぎず、正当な対価をいただくことで無責任な仕事は絶対できないという縛りができますから、弁護士費用をどう決めるのかというのは良くも悪くも非常に大切なことです。一方で、依頼者の側から見たら、弁護士費用は少ないに越したことはないですよね。
そう考えると、弁護士費用がこの金額になるという理由を、依頼者の方に誤解のないように説明して納得してもらうためには、弁護士の説明の仕方や話題の切り出し方も簡単ではなくて、場合によっては依頼者とトラブルになるような危険もないとはいえません。そんな中で、社会的に見て妥当な範囲を超えず、かつ変に卑屈になることもない範囲で、お互い気持ちよく報酬の話をするというのは、一朝一夕ではなかなかできないことです。そういった中々表には出しにくいところを生で見ることができるというのは、弁護修習ならではですね。ちなみに、私はつい依頼者にいい顔をしようとして低く報酬を設定しがちで、仕事に対する責任という点で悶々とすることもたまにあります。
第5 修習中の勉強の後悔や印象に残っていることについて
— お二人とも、本では学ぶことができない弁護士のノウハウを学んでこられたということですね。それでは、逆に修習の中で、もっとこういうところを勉強しておけばよかったということはありますか。
佐々木:私は、事務員さんがどういう仕事をしているのかというところを、もっとよく勉強してくればよかったと、未だにやや後悔しているところです。我々の仕事は事務作業がつきもので、たとえば提出する書類を準備して裁判所や検察庁などの窓口に提出しに行ったり、書類の郵送ですとか、依頼者から預かっているお金の管理、会計など、枚挙に暇がありません。
ただ、この辺のところはなかなか表には出てこないところで、私も実務に出てからわからないことに初めて気づくということばかりですね。事務所の事務員さんに聞いたり、各方面に直接問い合わせたりして、手探りしながらやっています。2ヶ月間という限られた時間でどこまで見ることができるかというのはありますが、やはりもっと積極的に事務員さんの仕事を見せてもらっていれば、ほんの少しでも楽になっていたのではないかな、と思いますね。
馬場:この点に関しては私も全くの同意見で、事務員さんの仕事はもっとよく見ておくべきだったと思っています。ただ、実際にどういうところが問題になるのかなどは、実務に出てからでないとわからないと思います。だから、もし将来弁護士になりたいという人がこの放送を聞いてくださっていたら、弁護修習の時には、とにかくえり好みせずに事務員さんの仕事もできるだけ多く見ていってほしいと思います。もちろん、弁護士業務をきちんと勉強していくのも大事なのですが、事務をおろそかにすると事件の処理ができませんから、同じくらい大切なことです。
余談ですが、修習生の中には、修習中に事務員さんと仲良くなりすぎて、結婚してしまう人もいますね。
佐々木:それは私ではないですよ。断じて。妻とは大学生時代からつきあっていましたから(笑)
— お二人の意見が一致しているところからも、弁護士業務にとって事務というのはとても大切なことだというのがよくわかりますね。ところで、弁護修習で色々な経験をされてきたお二人ですが、修習中の出来事で、特に印象に残ったことというのはありましたか。
佐々木:私は、交通事故の被害に遭って意識不明になってしまった方の病棟を訪れたことですね。自分が残り半年かそこらで修習を終えて弁護士になったら、そういう方々の想いをしっかりと受け止めて、代理人としての仕事をしていかなければならないんだ、と思うと、言葉にするのは難しいのですが、衝撃でしたね……。頭でわかっていることと、実際に肌で感じることは全く違いました。
馬場:私は、証人尋問の準備のために1泊2日で北見まで行ったことです。複数の関係者が北見にいたため出張したのですが、限られた時間の中で、複数の人から話を聞かなければならず準備が大変でした。関係者とは、事前に手紙のやりとりをしていて、事実経過について理解していたつもりになっていたのですが、実際に現場で話を聞いてみると、手紙に書かれていた事実を正確に把握できていなかったことに気づきました。この時の経験を踏まえて、今もできるだけ現場で話を聞くようにしています。
— 先ほどもお二人が話されていましたが、弁護修習は、それぞれの修習生ごとにいろんな経験ができるようになっているのですね。司法修習自体一般の人たちからすれば馴染みのないことなので、普段なかなか知る機会がないことをすることができて大変興味深いですね。さて,本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕、弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士佐々木泰平、弁護士馬場幸樹(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士佐々木泰平(札幌弁護士会)
弁護士馬場幸樹(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年11月22日