周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
札幌弁護士会広報委員会が昨年7月からお送りしている「札幌弁護士会の知恵袋」。
11月の月間テーマは「弁護士になろう!」です。
札幌弁護士会のフレッシュな弁護士5名が、5週にわたり、弁護士になるまでの道のりや、それに対して札幌弁護士会でどのようなサポートをしているかについて説明していきます。
11月の最終週となる第5週目は、縄野歩弁護士に担当いただき、「弁護士の就職について」というテーマで、イソ弁とノキ弁の違いとは何か、就職活動はどのように行われるのかなどの他ではなかなか聞くことができない弁護士の就職事情について、実体験をもとにお話しいただいています。札幌弁護士会が弁護士の就職問題に対してどのような取り組みを行っているかについても紹介していますので、ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2016年11月29日 |
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ゲスト | 縄野歩弁護士 |
今週の放送 キーワード |
弁護士の就職、開業、給料、弁護士登録、即独、ボス弁、イソ弁、ノキ弁、経費、就職説明会、事務所訪問、就活応援パーティ、新人独立弁護士の支援制度 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は5週連続で、弁護士になるまでの一連の過程について取り上げています。
今回のゲストは、札幌弁護士会に所属の縄野歩(なわのあゆむ)さんです。
縄野:よろしくお願いします。
第1 弁護士になるまでと弁護士になってから
— 今回は、今月のテーマの最終回ということで、弁護士の就職問題という内容なのですが、まずは、縄野さんの自己紹介をお願いします。
縄野:私は弁護士になってもうすぐ5年になろうとしている弁護士です。札幌弁護士会の中では、まだかろうじて若手といえる位置にあります。
— 失礼ですが、若手といっても年齢は少し高めのような・・・(笑)
縄野:はい、現在41歳です。弁護士になったのは36歳の時です。
— それまでずっと司法試験の勉強をしていたのですか。
縄野:いいえ、私は10年ほど公務員をやっておりました。
学生の頃から弁護士という仕事に憧れをもっていまして、ロースクールから司法試験を受けるという制度になり、社会経験を積んだ私にも司法試験合格のチャンスが大きくなったことから一念発起して、ロースクールに進学しました。
— ずいぶん大胆なチャレンジをしたのですね。
縄野:はい、当時、既に妻も子供もいましたから、公務員を辞めて、司法試験にチャレンジすることには、周りからかなり反対されました。ただ、今やらないと一生後悔するという強い気持ちをもってロースクールで3年間学び、1回で司法試験に合格することができました。
— それは良かったですね。実際、弁護士になってみてどうですか。
縄野:組織で仕事をするのと、自分の名前で仕事をするのとでは責任感が全然違います。
組織で仕事をしていた時は、対外的には自分の名前は全く出てきませんでしたが、弁護士は、当然自分の名前を出して仕事をするので、責任感がともないます。やりがいもありすぎるくらいあります。
— どのようなとき弁護士になって良かったと思いますか。
縄野:依頼者の方から、「ありがとうございます。」、「話を聞いてもらって気持ちが楽になりました。」「今日はゆっくり眠れます。」なんてことを言われると、弁護士になって良かったと思います。もちろん全ての公務員がという意味ではないですが、私は、所属部署の関係もあり、公務員時代には感謝の言葉を言われたことなどありませんでしたから。
— それは嬉しいですよね。公務員を辞めてチャレンジした甲斐がありましたね。
縄野:そうですね。ただ、この職業は自分で稼がなければならない仕事です。ボーナスや退職金なんかもありません。公務員だと、毎月決まった給与が出ますし、福利厚生なんかも手厚いです。そういう意味では公務員も良かったなと思ってしまいます。
第2 弁護士の就職
— なるほど。
では、そういう話も出てきましのたで、そろそろ本日のテーマである弁護士の就職の話に入っていきましょう。
弁護士を知らない人は少ないと思いますが、弁護士がどのような働き方をしているのか、勤務しているのか、開業しているのか、給料制なのか、などについては良くわからないのが実情だと思います。
札幌弁護士会の司法修習生就職問題対応委員会に所属している縄野さん、「就職問題対応」ってことは、弁護士も就職ってするのですか。
弁護士になるとすぐに「縄野法律事務所」などと看板を出して開業するのが一般的だと思っていたのですが。
縄野:前回までの放送のとおり、司法試験に合格すると、司法修習生になり、約1年間、医師でいえばインターンのように実務の研修をします。その後2回試験という試験に合格して晴れて弁護士登録ができます。もちろん、弁護士登録さえすれば弁護士としての業務ができるので、即開業することも可能です。「即独立」するということで、略して「即独(そくどく)」といいます。しかし、大半の方は、弁護士事務所に就職して、そこで先輩弁護士の仕事の仕方を学びながらキャリアを積んでいくということになります。
第3 ボス弁,イソ弁,ノキ弁
— なるほど、弁護士も就職するのですね。
そういえば、ドラマなどで、「ボス弁」とか「イソ弁」とか出てくるのを見たことがありますが、あれって何ですか。
縄野:良い質問ですね~。
「ボス弁」は、自分で事務所を経営して、他の弁護士を使用する弁護士です。
「イソ弁」は、居候弁護士の略です。つまり、ボス弁に雇われて仕事をして、固定のお給料をもらう弁護士です。
これに対し、いわゆる「ノキ弁」という弁護士もいます。
— あ、それも名前だけは聞いたことがありますが、どういう意味ですか。
縄野:「ノキ弁」は軒下借り弁護士の略です。つまり、他の弁護士の事務所に机を置かせてもらっているだけで、固定のお給料はありません。ただ、少なくとも札幌では、文字どおり机を置くだけというケースは少なく、ノキ弁と一緒に事件をやり、事件ごとに報酬を払うというケースが多いです。
なので、「ボス弁」は、狭い意味では「イソ弁」を雇う弁護士を指しますが、広い意味では「ノキ弁」を置いている弁護士を含む場合もあります。
なお、ノキ弁は事務所に机を置いたり、設備を使用させてもらったりする代わりに、事務所に経費をおさめる場合もあります。
— なるほど。
「ボス弁」の立場で、携帯電話の使用料で例えると、定額料金が「イソ弁」、使った分だけ払うのが「ノキ弁」ということですか?
縄野:ややブラックな例えですが、わかりやすいですね(笑)。
司法修習生が弁護士になりたい場合、基本的に、「イソ弁」、「ノキ弁」、そして先ほどの「即独」の3つの中から選ぶことになります。
第4 弁護士の就職活動
— では、「イソ弁」が「ノキ弁」になりたい場合、いつから、どのように就職活動をするのですか。
縄野:毎年司法試験の合格発表が9月にあり、合格者は12月に司法修習生になります。
なかには合格発表直後から、また、早い方では合格発表前から就職活動をされている方もいらっしゃいます。札幌ですと、大半の方は、司法修習生になってから1月に開催される北海道弁護士会連合会というところが主催する「就職説明会」から就職活動がスタートします。当委員会は、この「就職説明会」の主催者側として様々なお手伝いをしています。
— この「就職説明会」というのはどのような雰囲気なのですか。
縄野:いわゆる民間企業の企業説明会と同じようなものだと思っていただくとイメージしやすいです。
新人弁護士を採用したいという法律事務所がブースを出し、司法修習生が興味のあるブースを回って、採用条件や、どのような事件を多く扱っているのかなど、就職にあたって知りたい情報を説明してもらいます。
採用予定の事務所側は、その司法修習生が今までどのようなキャリアを積んできたのか、どのような事件をやりたいのか、事務所のカラーに合うのかなど、を見極めていきます。
— なるほど。民間企業の企業説明会と同じようなものなのですね。ただ、そのブースで短時間話をしただけで、就職が決まるわけではないでしょうし、採用する側もされる側も決められませんよね。
縄野:そのとおりです。事務所によってではありますが、この就職説明会で事務所に興味を持った司法修習生に対して、次は事務所訪問をしてもらい、何度かの面接を経て内定に至るというパターンが多いと聞いています。
この就職説明会当日には、懇親会も開催されるのですが、その懇親会やその後の2次会で就職が決まったという司法修習生も現にいらっしゃいます。
— 説明会当日の懇親会で就職が決まってしまうのですか。おちおち飲んでもいられませんね。
縄野:そうですね。ただ、飲み会のような場でこそ、人となりが出て、コミュニケーション能力が計れるということで、採用に当たっては、昼間の面接より、飲み会での様子を重視するという弁護士もいらっしゃる、とも聞いています。
— なるほど。それも一理あるような気がしますね。
就職活動の話に戻しますが、その就職説明会をきっかけとして大方の就職は決まるのですか。
縄野:いいえ、そうではないのが実情です。
弁護士の数が増えているということはお聞きになっていると思いますが、就職したいと希望する司法修習生の数より、採用予定の事務所の数が少ないのが現状です。「就職説明会」で就職が決まらなかった司法修習生は、いろんな伝手やコネを総動員して就職先を探すことになります。
第5 弁護士の就職活動の実際
— 弁護士の就職活動も大変なのですね。ちなみに縄野さんはどのように就職活動をしたのですか。
縄野:私も「就職説明会」から就職活動をスタートさせました。たくさんのブースを回らせていただいたことを覚えています。私は学生の時から就職するなら公務員と考えていましたので、民間企業への就職活動はしたことがありませんでした。ですので、様々なブースを回ってお話を聞くというのはとても新鮮でした。
— 縄野さんはこの「就職説明会」で就職が決まったのですか。
縄野:いいえ、私は独自のルートで就職をしました。というのも、私がロースクールで教わった先生のところに就職することができました。
— ロースクールの先生ですか。
縄野:はい、ロースクールには実務家教員といって、弁護士や裁判官、検察官などが教員として教えに来ています。弁護士の実務家教員として来ていた先生に、「どこの事務所にも決まらなければ、ウチの事務所に来ていいぞ。」と言われまして。そのように言われて以降、就職活動自体辞めてしまいました。
— 確かに、就職活動をしなければどこにも決まりませんね。計画的に就職活動をしなかったということですか。
縄野:そういうことになりますね。
— 縄野さんは今でもその事務所に所属しているのですか。
縄野:はい、今も所属しております。
— ずいぶん居心地のいい事務所なのですね。縄野さんはその所属する事務所から給料をもらっているのですか。
縄野:いいえ、給料はもらっていません。先ほどの説明で言うと、「ノキ弁」です。私は事務所に就職した当初から給料をもらうという形ではありませんでした。
— 弁護士という職業は、基本的に独立開業するイメージでしたが、今日の話で少し印象が変わりました。
縄野:確かにそのようなイメージが強いと思います。しかし、事務所を構えるとなると、事務所の賃料、コピー機や電話機のリース代、事務員を雇えば人件費などなど、経費がかかってしまいます。その経費負担が大きく、独立開業に踏み切れない、もしくは複数人で共同事務所を開設するというかたちが最近多くなっている気がします。
第6 就職支援と即独
— 弁護士も、大変な時代なのですね。
話を戻して、弁護士の就職活動についてお聞きしていきます。司法修習生就職問題対応委員会では、先ほどの「就職説明会」以外に、就職活動の支援としてどのようなことをしているのですか。
縄野:1月に「就職説明会」を開催した後の6、7月頃に、札幌弁護士会主催で「就活応援パーティ」というものを実施しています。これは、その時点でまだ就職が決まっていない司法修習生と、採用を考えている事務所とのマッチングの機会を提供するものです。1月に開催される就職説明会よりは小規模なものですが、立食形式で、飲みながらざっくばらんにいろんな話をしてもらうという比較的カジュアルな就職活動の場を提供しております。
— なるほど、就職活動支援のためにいろいろなメニューを提供しているのですね。その「就活応援パーティ」で就職が決まる方もいるのですね。
縄野:もちろんいらっしゃいます。1月の「就職説明会」時点では採用を考えていなかった、という事務所が参加されることもありますので、「就職説明会」の時とは違った「出会い」が提供されることも多いです。
— 弁護士の就職の方法がわかってきました。
他に、委員会で行っていることはありますか。
縄野:札幌では人数は少ないですか、修習終了後に直ちに独立する「即独」も0ではありません。
もちろん、「即独」する方の中には、最初から独立開業する予定で、就職することは考えていない、という方もいらっしゃいます。
— 司法修習生として1年間実務の研修をしているといえども、いきなり独立開業というのはいろんな意味で不安がつきまとうものではないのでしょうか。
縄野:そうだと思います。なので、当委員会では、そのような新人独立弁護士の支援制度を設けており、希望があれば、支援をしております。
第7 委員会による即独新人弁護士支援
— 具体的には、どのような支援がなされるのでしょうか。
縄野:当委員会で選定したベテランの弁護士に指導委託をしまして、その指導弁護士と一緒に事件を数件こなしてもらうことで、実務の研鑽を積んでもらうということにしております。
— なるほど。ベテランの先生から仕事の仕方を学ぶことができ、また、質問等もできる環境づくりをしているのですね。
縄野:そのとおりです。新人弁護士のスキルアップに少しでも寄与できればと考えております。
弁護士がスキルアップすることは、その弁護士自身のためだけではなく、依頼者の方々のためにこそ必要だと思います。そのような観点から、当員会では、司法修習生の就職の支援だけではなく、すぐに独立開業した新人弁護士の支援も行っているところです。
— なるほど、単に、新人弁護士の就職支援にとどまらず、いろいろな活動をしているのですね。
縄野:そうですね。司法試験の合格者が少ない時代には、就職問題など存在しませんでした。
しかし、司法試験の合格者が増え、就職さえままならなくなってきた最近の弁護士業界事情特有の問題に対応しているのが私たちの委員会の活動ということになると思います。
— 今日は弁護士の就職活動という、一般的にはあまり知られていないことを聞くことができました。
そろそろ、お別れの時間がちかづいてきました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕、弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士縄野歩(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士縄野歩(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年11月29日