周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
12月の月間テーマは「DVとセクシュアル・マイノリティ」です。
12月の最終週は,少しDV問題とは離れて,セクシュアル・マイノリティのカップル事情についてお話をします。ゲストは,第3週に引き続き須田布美子弁護士と,今回はゲイ当事者であり,ドラァグクィーンとしても活躍されているアンジーこと奥田さんをお招きしています。
東京都渋谷区で話題になった同性パートナーシップの認証制度や,同様の制度を札幌市に対して求めた活動などについてお話をして頂きます。ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2016年12月27日 |
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ゲスト | 須田布美子弁護士,ドラァグクィーン奥田 |
今週の放送 キーワード |
セクシュアル・マイノリティ,セクマイ,性的少数者,性的マイノリティ,レズビアン,ゲイ,トランスジェンダー,同性パートナーシップ,同性婚,多様性 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
12月は第2週目から3週連続で,セクシュアル・マイノリティについて取り上げていきます。今回はその3回目で,ゲストは,前回に引き続き弁護士の須田布美子さんと,LGBT当事者として奥田さんにも来ていただきました。奥田さん,自己紹介をお願いします。
奥田:はじめまして。奥田です。
私は,「ドメステックパートナー札幌」という,札幌市に対して,同性パートナーの認証制度を作ろうという呼びかけをした団体の,発起人の1人です。普段はLGBT講座などのお手伝いや,札幌でドラァグクィーンとして活動しています。宜しくお願いします。
第1 ドラァグクィーンとは
— よろしくお願いします。
まず,ドラァグクィーンってなんですか。
奥田:パフォーマンスとして女性の服装をすることですね。私は,いわゆる性同一性障害ではないので,女性になりたいわけではありません。しかし,ゲイの文化には,性別の境界線をなくそうとする文化があるんです。女性のパロディといったらわかりやすいでしょうか。
派手なお化粧をして,あえて女性の服装を選ぶというサブカルチャーの一種です。
— つまり,女性の格好はするけれども,女性になりたいわけではないと。
奥田:そうです。自分はゲイなので,恋愛対象は男性ですが,男性として男性を好きなんです。わかりやすいところでは,マツコ・デラックスさんやミッツマングローブさんは,ドラァグクィーンの一類型なので,女装はするけれども,性自認が女性というわけじゃないんですよね。
— なかなか難しいですね。
須田:そうですね。性自認の問題と,性的指向の問題は,きちんと分けて考えなくてはいけないんです。
例えば,戸籍上男性でも,性自認が女性の場合は,女性になろうとして女性の服装をしている人に対し,女装と言ったら怒られます。例えば,私は外見上,見るからに女性ですが,私に対して,「今日は素敵な女装ですね」とは言いませんよね。
— そうですね。言いません。
須田:それは私のことを女性だと思っているから,「女装」という言葉を使わないんです。ですから,戸籍上男性でも,自分は女性だと思って,自分の性自認に合った服装をしている人たちに対して,「素敵な女装ですね」と言ってはいけないんです。それは,「あなたは女性じゃない」と言っているのと同じなので。
— なるほど。傷つけてしまう可能性があるんですね。
須田:でも奥田さんは,性自認は男性ですから,「女装」という言葉を差別的に受け取りません。マツコ・デラックスも自分を「女装」といいますよね。
— そうですね。自分の性別をどう思っているかによって,違うんですね。
それから,さきほど,札幌市に対して,同性パートナーの認証制度を作ろうという呼びかけをしたという話がありましたね。それについておしえてください。
奥田:はい。私一人ではなく,ゲイ,レズビアン,トランスジェンダー当事者の活動家の皆さんや,今日も一緒に出演している須田さんをはじめとする弁護士さんたちにも協力してもらって,みんなでパートナーシップ制度を作るために活動していました。
第2 パートナーシップ制度とは
— 須田さんも一緒に活動されていたんですね。そのパートナーシップ制度って,そもそもどういうものなんですか。
須田:私たちが求めてきたパートナーシップ認証制度は,同性のカップルを社会の単位として公的に認める制度です。東京都渋谷区が始めたのが有名ですね。
— 結婚とは違うのですか。
須田:違います。結婚は法律でその条件が定められているので,同性のカップルが結婚できるようにするためには,国会で民法や戸籍法を改正する必要があり,とても大変な話です。でも,1つの地方自治体の中だけでカップルを認証するだけの話なら,条例や要綱といった地域のルールを変えるだけで,もう少し簡単に作れます。本当は,同性愛者も異性愛者と同じように結婚できるのが良いのでしょうが,すぐに法律を変えられるほどの国会での議論がなされていないので,まずは地元・札幌市でパートナーシップ制度を,と考えているわけです。
— パートナーとして認証されると,結婚しているのと同じ効果が生じるのですか。
須田:残念ながら,そうではありません。パートナーとして認証されても,当然に相続の権利は発生しませんし,同じ戸籍に入れるわけでもありません。実は法的な効果は薄いのです。それでも,その地域の人たちが,認証されたカップルを家族として認めるようになれば,現実に同性のカップルが困っていることが少しずつ解消されると思っています。
— 同性のカップルだと,どういうことが困るのですか。
奥田:一緒に部屋を借りられないとか,病気のときに家族じゃないと会いにくいとか,結婚式を挙げたりしても勤め先から結婚祝いがもらえないとか,そういうことでしょうか。
須田:奥田さんは若いからあまり気にならないかもしれませんが,年配になれば介護の問題も生じますよね。パートナーが認知症になったときに,自分との関係を病院や施設になんて説明をするのか,一緒に入れる施設はあるのか。あるいは自分が亡くなったときに,パートナーに財産を遺したいけれども,自分の家族と相続問題でもめないのか,とか。
第3 パートナーシップ制度による効用・メリット
— そういうことも,地域にカップルだと認証されることで,解消されるんでしょうか。
奥田:すべてうまくいくということではありませんが,例えば「一緒に住む部屋を借りられない」という問題では,札幌市から公的に認められた家族だよっていう証明があれば,地域の不動産屋さんや物件のオーナーさんも差別的な対応は取りにくくなりますよね。
須田:病院や介護の問題でも同じですよね。札幌市が公的に認証するということになれば,一応尊重されるために,同性のカップルが家族として暮らしやすくなると思います。
— なるほど。そういう制度は,全国にあるんですか。
須田:今のところ,東京都では渋谷区と世田谷区,東京以外では兵庫県宝塚市,沖縄県那覇市,三重県伊賀市では実施されていますね。全国的には50組以上のカップルが認証されています。
— それをもっと増やしていきたいということですね。
須田:はい。同性パートナーを認める制度ができるということは,直接的な効果だけではなく,社会が同性のカップルを認めていくことにつながるという間接的な効果があります。例えば,渋谷区が同性パートナーを認証する条例を作った後,保険会社が,ゲイやレズビアンのカップルでも,パートナーを死亡保険金の受取人に指定できるようにしましたよね。
— 死亡保険金の受取人って,誰でもなれるものじゃないんですか。
須田:誰でもなれるわけじゃありません。保険金詐欺がたくさん起きてしまうのは困りますから(笑)。基本的には相続人じゃないと,受取人に指定できないことが多いです。でも,渋谷区の条例が報道された後,パートナーだという証明があれば,受け取れるようにした会社がありました。
— 保険会社以外にも,渋谷区の条例制定後に変わったものがあるのですか。
奥田:携帯電話の家族割サービスも,同性のカップルが使えるようになりましたよね。
須田:航空会社も,マイルの共有を認めるようになりました。
— すごい。いろいろ変わっているんですね。
奥田:社会が,ゲイやレズビアンのカップルも,家族なんだって認め始めたということですよね。
第4 同性愛者の結婚の問題
— そうなると,じゃあどうして同性のカップルは結婚できないんでしょう。
須田:そこに不平等を感じる人たちはたくさんいます。実際に夫婦同然に長年暮らしているカップルもいるのに,法律的な問題になると,相続人にならないとか同じ戸籍に入れないとか,色々問題は生じますから。
— 相続や戸籍ですか。他に,どんな法的問題がありますか。
須田:子どもの問題は大きいですね。例えば,レズビアンやバイセクシャルの場合は,お子さんがいる方も珍しくないんです。結婚するまで自分のセクシャリティに気付かなくて,結婚して子育てをして,何か違う,どうして夫との関係に違和感があるんだろうとずっと苦しんで,そうかレズビアンだからだと気づいて離婚する人とか。
その人が,運命の女性と出会ったとしますよね。
— はい。
須田:そして,愛する女性は,自分の子どもを可愛がってくれます。だから,自分の愛する子どもと愛する女性とが,本当の親子になって欲しい。そこで,養子縁組を考えることもありますが,そうなると問題が生じます。
— どういう問題でしょうか。
須田:今,共同親権が認められるのは,結婚している夫婦だけなんです。それ以外は,父なり母なり,一人の親しか親権者になれないことになっています。
そして,養子縁組をすると,養親が親権者になるんです。そうするとどうなりますか。
— 実のお母さんが,親権を失うということですか。
須田:そうなんです。実のお母さんなのに親権者じゃなくなるのは,不自然ですよね。この問題は,男女のカップルだったら,結婚することによって解決できる問題です。
奥田:でも,同性のカップルだったら,結婚できないから,二人で一緒に親権者になることができないっていうことですよね。
須田:そうなんです。ですから,男女のカップルだけが結婚できて,結婚による法的効果を得られていて,同性のカップルにはそれが適用されないというのは,差別じゃないか,と考える人たちも多くいるんです。
— そうすると,ゲイやレズビアンの方たちは,みんな結婚したくてもできないんですね?
奥田:したくてもできないのは,そのとおりですが,みんながしたいかどうかは別の話です。けっこう,今の結婚制度のままなら使いたくないという人もいますし。
須田:結婚したらどちらかは名字を変えなくてはいけないとか,結婚による制約もありますからね。日本もフランスの「パックス」という制度のように,結婚の簡単バージョンができれば,ゲイやレズビアンのカップルだけじゃなく,今は籍を入れていない男女の事実婚カップルも,新しい結婚の制度は使いたいと思うかもしれませんね。
— なるほど。結婚という制度が,必ずしも昔からある伝統的な家族制度のままでなくてもいいということですね。そうすると,そもそも結婚ってなんだろうとか,家族ってなんだろうとか,考えてしまいますね。
須田:それって大事だと思うんですよ。固定観念に縛られず,いろんな夫婦があっていい,いろんな家族があっていいって思うことで,ゲイやレズビアンのカップルも社会に受け入れられるようになるでしょうし。
— そうすると,先ほどの同性パートナー制度をきっかけとして,社会が多様性を認めていくようになるといい,ということでしょうか。
須田:はい。多様性が認められれば,セクシャル・マイノリティも偏見をもたれず,差別されず,暮らしやすくなると思います。
— 奥田さんは,同性パートナー制度ができることに,何を期待されますか。
奥田:そうですね。
私たちにとって同性を愛することは異性愛者(ヘテロセクシャル)が異性を自然と好きになることと同じように自然なことなのです。なので,大好きな札幌で私たちも住居の面や医療の面など大切なパートナーとごく自然に差別や偏見のない暮らしができるようになってほしいと思います。それが札幌を始め,北海道内や全国的に影響していけば嬉しいです。
— 今日はありがとうございました。
奥田・須田:ありがとうございました。
— 札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<プロデューサー>
弁護士須田布美子,弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士須田布美子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士須田布美子(札幌弁護士会)
ドラァグクィーン奥田
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成28年12月27日