周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
第2週は,先週に引き続き,中小企業の承継,すなわち中小企業の経営者が交代する
場面についてのお話しを伺います。
先週とは異なり,経営者の身内ではない第三者へ会社を承継させるための
手続や,かかる時間,費用などについてのお話です。
担当は先週に引き続き,札幌弁護士会の辰野真也さんです。
ぜひお聞き下さい。
放送日 | 2017年1月17日 |
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ゲスト | 辰野真也弁護士 |
今週の放送 キーワード |
弁護士,法律相談,中小企業,事業譲渡,会社分割,株式譲渡,企業承継,後継者 |
— 今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今回は,先週放送しましたテーマと同じ,「中小企業における企業の承継について」というテーマについて,別の角度からのお話を放送します。
ゲストは先週に引き続き,札幌弁護士会所属の辰野真也(たつのしんや)さんです。
辰野:よろしくお願いします。
— 辰野さんには先週も「中小企業における企業の承継について」というテーマのお話をお聞かせいただきましたが,今日も同じテーマなのですね。
辰野:そうですね。先週は,企業の承継,すなわち,その会社の経営者が替わるケースの内,社長の身内へ会社が引き継がれる場合の話をしました。社長が自分の息子に会社を継がせるとか,優秀な従業員に任せるという場合です。
— 今日は何が違うのでしょうか。
辰野:今日は,そういった社長の身内ではない会社外の人間,いわゆる第三者へ会社を引き継がせるときの注意点について,お話したいと思います。
第1 第三者へ会社を引き継がせるときの注意点
— 会社が,経営者の家族でも従業員でもない第三者の手に渡るというのは,どういうことなのでしょうか。
辰野:ずばり言ってしまえば,会社を売るということです。順調な会社を売る場合もあれば,危なくなった会社を売る場合もありますね。
— 注意すべき点としては,どのようなものがあるのでしょうか。
辰野:まずは,会社の状態がどのようなものでも同じなのですが,本当に会社を引き継いでくれる人を見つけるのは大変だ,ということです。
第2 会社の引き継ぎ先を探す方法
— 確かにそうでしょうね。会社を誰かに引き継がせたいと思っても,個人的なツテがなければ,どうやって見つければいいのでしょうか。弁護士さんに相談すれば,引き継いでもよいという人を紹介してくれるものですか。
辰野:その可能性もゼロではありませんが,現実的には,弁護士に相談してうまく見つかるケースは少ないと思います。
— では,どうやって探せばいいのでしょう。
辰野:選択肢はいくつかありますが,企業として付き合いのある銀行などの金融機関に相談し,紹介してもらうことが考えられます。
銀行は多くの会社にお金を貸していますから,類似の業者など,会社を引き継いでくれそうな別の会社や,社長さんを探してくれることが多いです。
同じように,会社で依頼している税理士さんに紹介を頼むケースも多いようです。
— 弁護士ではなく,銀行や税理士さんなのですね。
辰野:そうですね。第三者が会社を引き継ぐ,つまり買う以上は,売り手側と買い手側,その両方の懐事情や社風などを知っている人が紹介する方が,スムーズなのです。
— では,会社を引き継がせる人を探したければ,銀行か税理士さんに相談すればいいのですね。
辰野:銀行や税理士に相談すれば大丈夫,ということではなく,あくまでも選択肢の1つです。別の選択肢として,行政が行っている中小企業総合支援センターというものがあり,そこへ相談されるのも,非常に有効だと思います。
また,弁護士が,会社を引き継いでもよいという方を知っているというケースもあるでしょうから,弁護士がダメということではありません。
— 中小企業総合支援センターというものがあるのですか。
辰野:はい。経済産業省が実施する中小企業支援サービスの一環で,中小企業診断士等の専門家による支援が受けられます。無料相談もやっていますので,ここに相談すれば,様々なプロの話を聞くことができますし,そこで会社の買い手の紹介を受けられるケースも多いようです。
— そういう所へ相談すれば,すぐに会社を引き継いでくれる人が見つかるものですか。
辰野:いえ,基本的には,すぐには見つからないと思っていただきたいところです。候補者が見つかっても,実際に買ってくれるかどうかは別で,本当に会社を買ってもよいと言ってもらうのに数か月かかることもあります。もっと時間がかかってもおかしくありません。ですので,会社を承継させたいと思われたら,少しでも早い段階から動かれた方がよいと思います。
ただ,注意していただきたいのは,誰かに相談すると,会社を売りたがっているという噂が業界内に出回ってしまう可能性が高いということです。
— どうして噂が出回ってしまうのでしょうか。
辰野:そこは不思議なところで,銀行や税理士さんも守秘義務がありますし,どこからそんな情報が洩れるのかは謎です。従業員や出入り業者などが偶然話を聞いて,それを広めてしまうというようなこともあるかもしれません。いずれにせよ,現実的な話として,誰かに相談する以上,よほど気を付けない限り,噂が出回ってしまうということは,覚悟しなければなりません。
— それは困るという方もおられるでしょうね。
辰野:そうですね。会社が売りに出ているという噂は信用不安を引き起こすこともあり,そのような噂を流されるわけにはいかないということもあるでしょうから,難しいところです。
第3 会社の調査について
— 会社を引き継いでくれる人が見つかれば,あとはスムーズに進むものでしょうか。
辰野:いえ,そこからも大変です。
口約束で「引き継いでもいい」と言ってくれる候補者が見つかっても,本当に引き継いでくれるのかは分からず,なかなか安心できません。いざ話を詰めていくと「やっぱりやめる」といわれることもあります。
— ドタキャンするような人がいるのですか。
辰野:そうですね,会社を引き継ぐとなると経済的なリスクも大きいため,最終的に金額面でもめることもありますし,そもそもその会社が実際にどのような会社なのか,買う側も調査をしますので,その調査の結果,やはり買わないという話になることもあります。
— 会社の調査が行われるのですか。
辰野:必ずということはなく,企業の業態や規模,買い手と売り手の関係などによりますが,本当に買うかどうかは調査の後に決めるということがあるわけです。
会社の財務状態,会社が結んだ様々な契約関係,会社が雇っている従業員との労務関係,行政との許認可関係といったことに問題がないかを調べたり,実際の現場をみて企業運営上の問題点を探ったり,といった調査が行われることが一般的です。
— それは大変そうですね。
辰野:そうですね。
また,会社を承継したい,買いたいという人が自分で調査をすることもありますが,専門家を雇って調査をするケースもあり,そうすると,その調査のための時間や費用が生じます。
— 調査の専門家というのは,どのような人たちでしょうか。
辰野:これも様々ですが,我々弁護士はもちろん,公認会計士や税理士,中小企業診断士,経営コンサルタント等が調査にあたります。調査の規模や予算に応じてチームを組むこともあれば,1種類の専門家だけで行うこともあります。誰が調査しなければならないという決まりはなく,あくまでも買い手側の納得のためですからね。
— 調査には,どのくらいの費用や時間がかかるものですか。
辰野:それも様々で,会社の規模や,調査の範囲,どのくらいの手間がかかりそうか等の事情で変わってきます。ただ,まず費用の点からいうと,弁護士を雇った場合は,5万円や10万円程度で済むということはないと思います。私の個人的な感覚だと,専門家の調査を入れる場合は,どんなに安くても数十万円はかかるのかな,という感じです。ただ,予算を決めて,その範囲での調査を依頼することも可能です。
— 辰野さんも実際にそのような調査をされたことがあるのですか。
辰野:はい。1つのモデルをお話しますと,私は買い手側に雇われた専門家として,売り手側の会社の事務所に朝から晩まで滞在して,次々に書類を確認したり,コピーしたり,社員の方々のヒアリングをしたりして,売り手の会社に問題がないか調査します。株主総会や取締役会の議事録を読んだり,お店や事務所の契約書をみたり,実際の商品を確認したり,従業員や役員の話を聞いたりしていると,あっという間に時間が過ぎてゆきます。調査が1日で終わるケースもありますが,数日かかることもあります。対象会社が地方にある場合は,その会社の近くにホテルを取って,何日も通って調査を行うことになりますので,大変です。
— 調査を受ける側にとっても大変ですね。
辰野:そうなんです。調査は,我々専門家がふらっと会社にやってきて,ちょっと聞き取りをして終わる,というようなものではありません。
実際に調査に乗り込む前に,事前調査として色々な書類を用意していただくこともありますし,調査のための部屋の確保だったり,コピー機の手配だったり,やることはたくさんあります。調査されることを従業員に秘密にしている場合などは,我々がどんな服装で行くのか,何時に会社を訪問するのかなど,細かな打ち合わせも必要になります。
— 調査全体には,どのくらい時間がかかるのでしょうか。
辰野:はい。かなり範囲の小さい,簡易な調査を依頼したとしても,事前調査から,最終的な調査結果が出るまでだけで,数週間はみた方がよいと思います。それなりの調査ですと,月単位で時間がかかることもあります。
— それだけの費用と時間をかけたのに,会社を買うのをやめると言われてしまうこともあるのですか。
辰野:そうです。いざ専門家の調査を行うと,思っていた以上に問題が多いとか,思っていた以上に会社が危ないということが分かり,買い手側が値下げを求めてきたり,買うのをやめるということも,よくあります。
— 会社を引き継いでくれる人を見つけるだけでも大変なのに,いざ見つかっても本当に買うかどうかは調査をしてからということもあり,それには時間も費用もかかるということですから,会社を第三者に引き取ってもらうというのは本当に大変だということが,よく分かりました。
辰野:そうですね。危機的状況にある会社を売りたいという場合だと,調査はかなり厳しいものになり,売る側の負担はさらに大きくなります。
第4 企業を承継する方法について
— なるほど。ところで,第三者への会社の承継は要するに会社の売買のようなものだということでしたが,これも分かるようで分からない話です。何か物を売るのとは,わけが違いますよね。
辰野:そうですね。企業の承継をどのような方法で行うのかということは,実は非常に重要かつ複雑な問題で,事業そのものを売却する方法,株式を譲渡する方法,会社を分割する方法など,色々なやり方があります。
そのあたりは専門的なため今日はお話しませんが,極めて重要な問題ですので,あまり早い段階で決めつけることなく,弁護士をはじめとする法律専門家や,銀行の担当者などとよく相談していただきたいところです。ただ今日は,会社を売りたいと思っても相当時間がかかることがある,という点だけお伝えできればと思っています。
第5 契約書や覚書などの書面の作成を
— 比較的スムーズに企業承継ができるケースのお話もお聞きしたいのですが。
辰野:スムーズにいく例ですと,仲のよい同種の業者へ会社を承継させる場合があります。このときは,会社を承継する側もだいたい会社の内容は分かっていますし,業界の慣例などにも詳しく,リスクの把握が簡単ですので,わざわざ調査も行わず,単純に値段の話だけになることも多いです。
— そのようなときに注意することはありますか。
辰野:スムーズにいくように思えたのに,結果的に揉めてしまうことがあります。例えば,最初は1000万円で買うといってくれていたので,そのつもりで色々準備をして,もう会社の承継は後戻りができなくなったタイミングで,やっぱり500万円しか出せない,などといわれた場合です。
逆に,売る側が500万円で売るといっていたのに,いざ準備が進むと,もっと高く買ってほしいと思うようになり,1000万円じゃないと売らないなどといって,争いになることがあります。
— そんなことが認められるのですか。
辰野:もちろん,本当は,最初に取り交わした約束のとおりにしなければいけません。しかし,その約束が書面で残っていなければ,言った言わないの話になり,結局うやむやにされてしまうのです。
早い段階で,売り手と買い手の意思をしっかり書面で確認しておくことで,後のトラブルの多くを回避できます。
具体的には,承継のための話し合いの節目節目で,契約書や覚書といった書面を作成することで,よりスムーズに進むことが見込まれます。
— しかし契約書というと,なんだか大層というか,緊張しますね。
辰野:そうですね。契約書を作りましょう,というだけでイヤな顔をされるケースも多いとききます。
ただ,会社の承継という重要な場面ですから,そこはしっかりと進めていただきたいところです。
早くから弁護士が入っていればこんなに揉めなかったのに,というケースも見られますので,スムーズに進みそうに見えても,やはり早期に専門家の意見を聞いていただきたいと思いますね。
— なるほど。
辰野:色々とお話してきましたが,今日は,会社を第三者に承継させたいと思っても,みなさんが思っている以上に手間も時間もかかるということと,知り合いが買ってくれると言って,最初は順調に進みそうに思えても,なんだかんだで揉めごとになり,結局大変なことになるケースもあるということの,2つをご理解いただければと思います。
— よく分かりました。みなさん参考にして頂ければと思います。
本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上ですが,過去の放送分は,札幌弁護士会のホームページで見聞きすることができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマ ミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕、弁護士北山祐記、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士辰野真也(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士辰野真也(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<オンエア>
平成29年1月17日