周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
---|---|
放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
第3週は,債権回収の手段についてというテーマで,債権の回収の方法にどのようなものがあるかをご紹介するとともに,それぞれの方法のうち,どれを選択するのがよいのかについて,札幌弁護士会の村本耕大弁護士にお話しいただきます。
中小企業の経営者の方々だけでなく,一般の方にも役立つ内容となっておりますので,皆さんぜひお聞き下さい。
放送日 | 2017年1月24日 |
---|---|
ゲスト | 村本耕大弁護士 |
今週の放送 キーワード |
債権回収,経営者,個人事業主,売掛金,内容証明郵便,公正証書,債務名義,支払督促,少額訴訟,通常訴訟,和解 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で,中小企業経営者の方に役立つ知識について取り上げています。
第3週目のゲストは,札幌弁護士会に所属の村本耕大(むらもとこうた)さんです。
村本:よろしくお願いします。
第1 契約の履行確保の方法~公正証書の作成~
— 今回は,債権回収の手段についてという内容なのですが,まずは,村本さんの自己紹介をお願いします。
村本:私は弁護士になって今年で7年目の弁護士です。これまで会社からのご依頼の事件を比較的多く手掛けてきたこともあり,今回と次回の2回にわたって,会社や個人事業をされている方が直面する債権回収の手段というテーマでお話しさせていただくことになりました。もちろん,お金を貸したけど返ってこなくて困っているというような一般の方にとっても役に立つ知識になると思います。よろしくお願いします。
— では,内容証明郵便を出すなどして交渉を試みた結果,支払の約束がまとまった後は,どのようにしたらいいでしょうか。
村本:支払の約束を書面にして証拠を残すことが大切です。特に,①金額が大きい場合,②分割払いなどで支払期間が長期にわたる場合,③相手との信頼関係がない場合などには,一定の費用がかかりますが,公正証書の形にして支払いを約束させることが有効です。
— 公正証書というと,離婚や遺言の時に作成するというのは聞いたことがありますが,支払を約束するときにも使えるのですか。
村本:債務弁済契約公正証書といって,債務の発生と弁済を確認することを内容とする公正証書を作成することができます。
通常の貸金契約,売買契約,土地建物の賃貸借契約書等も公正証書にすることができるので,契約が守られるかどうか,心配なときには,将来の紛争を予防するために,あらかじめ公正証書を作成しておくことがおすすめです。
— では,公正証書を作成するメリットとはどのようなところにあるのでしょうか。
村本:公正証書の一番のメリットは,公正証書作成の際に,支払の約束を守らない時は強制執行されてもかまいませんよという文言を入れておけば,裁判手続を経ずに債務名義になるというところです。
— 「債務名義」という難しい言葉が出てきましたね(笑)。
どんな意味でしょうか?
村本:債務名義というのは,債権の存在,範囲などを法的に証明する書類で,強制執行の根拠になるものをいいます。要するに,債務名義がある場合には,相手が任意に支払いをしない時に,相手の不動産や預金などを差し押さえることができるということになります。
— なるほど,差押えされてしまうとなると,相手も公正証書で約束した支払いについては「きちんと払おう」という気持ちになりそうですね。ところで,公正証書というのはどのような手続きで作るのですか。
村本:公証役場というところに行って,公証人に公正証書の作成を依頼して行います。公証人は裁判官や検察官を退官された方が多いので,法律事務の経験が豊富な公証人に,契約に無効な内容がないかチェックを受けることができるという点もメリットですね。
— なるほど,それなら安心ですね。
では,話を戻しますが,相手と交渉した結果,残念ながら支払についての話がまとまらなかった場合はどうしたらいいでしょうか。
村本:その時には裁判所の手続きを利用することを検討したほうがいいと思います。大きく分けると,支払督促,少額訴訟,通常の訴訟提起の3つが考えられます。
第2 支払督促について
— なんだか難しそうな話になってきましたね。一つずつ順番に話を伺っていきます。まず,支払督促とはどのような制度なのでしょうか。
村本:支払督促というのは,相手の住所地の簡易裁判所の書記官に対して申立を行い,債務名義を取得する手続きです。この手続きの特徴は,書類のみで裁判所が審査を行って,支払督促状を相手方に送りますので,裁判のように審理のために裁判所に行く必要はありません。そして相手から異議の申し立てがなければ,仮執行宣言の申立という手続きを経て債務名義を取得することが出来ます。
また,最近はインターネットを利用したオンラインシステムでの申立ても出来るようになっています。この場合は東京簡易裁判所に申立を行うことになっています。
— 裁判手続もオンラインでできるものもあるのですね,全然知りませんでした。
支払督促手続きによって債務名義を取得できるということは,差押等ができるようになるということですよね。裁判所に行かなくても債務名義が得られるのであれば,すごく便利な制度ですね。
村本:そうですね。特に,日常的に多くの売掛先に対して請求をするような業務がある会社で使われていることが多いと思います。
— それであれば,弁護士の先生が支払督促手続を利用することは多いのではないですか。
村本:いいえ,弁護士が使うことは多くはありません。支払督促手続きは相手が争わない場合は,債務名義を取得できるのですが,相手が争ったときには通常の訴訟に移行することとなっています。弁護士に依頼されるケースは,支払い義務の有無やその金額などに争いがある場合が多いため,相手に争われて通常の訴訟に移行することが予想されるなら,却って最初から訴訟を提起したほうが早いということになるため,支払督促手続きが向いているケースは少ないです。
もっとも,相手が支払うと言っている場合で,早く債務名義を取得して,差押えをしたいという事情がある場合は有効な手段ですので,適した事案を見極めて活用することが大事ですね。
第3 少額訴訟について
— そうなんですね。では,次に,少額訴訟というのはどのような手続きなのでしょうか。
村本:少額訴訟は,すぐに取り調べのできる証拠に限定して,1回の期日で判決を出すことを原則にした訴訟手続のことをいいます。対象となる範囲は60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする訴えに限定されています。
— なるほど,これはどのような場合に用いられることが多いのですか。
村本:証拠の書類や証人の準備などが整っている場合で,お互いが第1回の期日での解決を望んでいるような場合が考えられます。
— 弁護士の先生が付く事件では,少額訴訟手続きを利用することは多くはないのですか。
村本:少額訴訟手続きは請求金額が60万円以下という限定があるので,そのような金額の請求であれば,弁護士費用やそのあとの差押手続きにかかる費用を考慮すると,却って費用倒れになってしまうような場合が多いので,弁護士に持ち込まれる事案では適したものは多くはありません。
また,少額訴訟手続きは,相手がもっとじっくり証拠を準備して裁判をしたいと考え,通常の訴訟に移行してほしいという申出を行った場合,通常の訴訟手続きに移行するということになっています。相手に弁護士が付いた場合,通常訴訟に移行してほしいという申出があることがほとんどですね。
— なるほど。それでは,最初から通常の訴訟をするよりも却って時間がかかってしまいますよね。それぞれの手続きの特徴を理解した上で,債権回収に適した手続きを選択することが大事ということですね。
では,最後に通常の訴訟手続きについてみていきたいと思います。まず,訴訟を起こすかどうかを判断するには,どのようなことがポイントになるのでしょうか。
村本:訴訟の最終的な目的は債権を回収することですので,メリットとデメリットを比較して,訴訟を起こした方がいいのかを,よく弁護士と相談することが必要ですね。
メリットとしては,まず,相手が訴訟手続きを無視することはできないということがあります。例えば相手が裁判所から送られてきた訴状を無視して知らんぷりをしていれば,こちら側の言い分だけを聞いて判決を出すということになるので,相手は訴訟で負けることになります。
そして判決は先ほど説明したような債務名義という性質を持ちますので,訴訟で負けてもそれを無視して支払いをしようとしない場合,相手方の財産に対して差押えをすることができます。
また,訴訟の過程では裁判所から和解を勧められることもあり,和解によって相手から任意に支払ってもらうことを期待できる場合もあります。
— 確かに裁判所から支払うように和解を勧められたら,観念して支払おうかなという考えになりそうですね。
では,デメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。
村本:デメリットとしては,まず時間がかかるということがあります。よく,期間はどれくらいかかりますかと聞かれることがありますが,相手の争い方にもよりますので,基準というものがなく,回答は難しいです。訴訟してすぐに相手が請求を認めて支払うといってくる場合や,相手が訴状をみた段階で,裁判手続きの外で和解をしましょうという話になるような事案をのぞけば,短くても半年以上かかるケースが多いですね。
また,これはさっきのメリットの裏返しですが,判決書自体はただの紙ですので,判決を取っても相手が支払おうとしないし,差し押さえる財産もないという場合には,結局お金を回収することができないことになります。
相手に資力がない場合に,お金を回収することが出来ないのは,支払督促や少額訴訟の場合も同様なのですが,弁護士費用をかけてまで訴訟をするとなると,相手に支払える資力がないことが最初から分かっているような場合には,費用倒れになる可能性が高いということになりますので,おすすめできませんね。
— なるほど,それではメリットとデメリットをよく考えた上で,弁護士の先生と相談して訴訟をするか決めることが大切ですね。
残念ながら本日はそろそろ時間が来てしまったようです。差押えの話は来週に続きます。
今日は債権回収の方法として,内容証明郵便,公正証書,支払督促,少額訴訟などの手続きについてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕,弁護士北山祐記,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年1月24日