周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
第4週は,先週に引き続き,債権回収の手段についてというテーマで,札幌弁護士会の村本耕大弁護士が,債権の回収の方法をご紹介します。
今回は,差押えや仮差押えといった,一般の方には馴染みの薄いと思われる債権回収手続きについて,わかりやすくご説明します。
中小企業の経営者の方々だけでなく,一般の方にも役立つ内容となっておりますので,皆さんぜひお聞き下さい。
放送日 | 2017年1月31日 |
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ゲスト | 村本耕大弁護士 |
今週の放送 キーワード |
債権回収,債務名義,動産差押え,執行官,差押え禁止財産,不動産差押え,競売,抵当権,債権差押え,預金債権差押え,給与債権差押え,仮差押え,保証金,第三債務者,破産,一般債権者,配当 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で,中小企業経営者の方に役立つ知識について取り上げています。
第4週目のゲストは,先週に引き続き,札幌弁護士会に所属の村本耕大(むらもとこうた)さんです。
村本:よろしくお願いします。
— 今回は,前回に引き続き,債権回収の手段についてという内容なのですが,まずは,村本さんの自己紹介をお願いします。
村本:私は弁護士になって今年で7年目の弁護士です。これまで会社からのご依頼の事件を比較的多く手掛けてきたこともあり,会社や個人事業をされている方が直面する債権回収の手段というテーマでお話しさせていただいています。
今回は債権回収の手段のうち,差押手続,仮差押手続きについてお話をさせていただきます。
第1 財産の差押手続について
— さて,早速本日のテーマに入っていきたいと思います。前回のおさらいですが,判決や公正証書などの債務名義があるのに,相手が支払おうとしないという場合には,相手の財産を差押えることができるということですね。
差押えっていうと,私のイメージでは,怖い人が家の中に乗り込んできて,家中に差押と書いた札を貼り付けて,家具を根こそぎ持っていかれてしまうというようなイメージですが,実際はどうなんでしょうか。
村本:まず,差押えというのは,相手の財産を強制的にお金に換えて,そこから債権の回収を図る手続きをいいます。財産の種類としては大きく分けて,不動産,動産,債権などが考えられます。
今お話しされたのは家具,すなわち動産の差押手続きをイメージされたのだと思います。確かに動産を差押えようとする場合は,執行官という差押えの手続きを行う人が家の中に入って行って,価値のある財産がないかを確認して,ある場合は執行官が管理して,売ってしまうことになりますね。
— それではやっぱり,身ぐるみはがされてもっていかれてしまうってことですか。
村本:いいえ,差押禁止財産といって,生活に必要な家具等は差し押さえをすることができないと決まっておりますし,そもそも,通常の家具などの動産は実際には値段が付かなくて,差押えはできませんとなってしまうことがほとんどです。
一方で,会社や工場にある機械設備などは高価であることが多いので,差押えの対象になることも多いです。
— なるほど。それでは,高価な機械などを目的として動産の差押をするのは有効そうですが,一般の人を相手に家にある家具などを目的として,動産の差押をするのはあまり得策ではなさそうですね。
次に,不動産の差押手続きについて聞いていきますが,不動産の差押手続きでは具体的にはどのように不動産からお金を回収していくことになるのですか。
第2 不動産の差押について
村本:一般的には,動産の場合と同様に,相手の持っている不動産を強制的に競売(けいばい)にかけ,売却した代金の中から債権を回収するということになります。ちなみに私が今使った(けいばい)という言葉は法律用語で,一般に言う(きょうばい)と同じ意味です。
— 不動産だと価値が大きいので,高値で売れそうですから,差押えの対象としては魅力的ですよね。
村本:そのとおりです。また,動産の場合は相手が高価な動産を持っているかわからないことも多いですが,不動産だと相手の住所の土地や建物の登記を調べれば,差押えの対象になる不動産があるかを確認することが出来ます。
— では,不動産の差押をする上で,気を付けた方がいいことは何かありますか。
村本:まず,時間がかかるということです。不動産の競売は,裁判所が不動産の現況を調査し,価格の評価をした上で,期間を決めて入札の手続きを行うという流れで進みますので,最終的にお金を回収するまでは,1年程度の期間がかかることが多いです。
また,競売手続きにおいては,不動産に抵当権が付いている場合には,抵当権を付けている債権者に優先して売却代金を配当することになりますので,抵当権の金額を引いた余りからしか配当が受けられないことになってしまいます。抵当権が付いているかは不動産の登記を調べればわかるので,余りがでそうかどうか検討したうえで差押をする必要がありますね。
— そうなんですか,そうするとある程度時間がかかることを覚悟して申立をする必要があるんですね。
では,次に行きまして,債権の差押手続きというのはどのような手続きなのでしょうか。
第3 債権の差押について
村本:債権の差押とは,相手がほかの第三者に対して持っている債権を差し押さえて,そこから債権を回収するという方法です。たとえば,相手が100万円の銀行預金を持っているということは,100万円を銀行から払ってもらえる預金債権を持っているということですよね。その権利を差し押さえて,そこから100万円を回収してしまうのです。債権の種類としては,預金のほかにも,売掛金,貸付金債権,不動産の賃貸料などが考えられます。
— 相手が持っている債権から直接回収できるとなると,動産や不動産の時のように売却の手続きを取らなくていいので便利ですね。
村本:そうですね,手続きにかかる時間も短いので,一番簡便な手続きといえますね。
— では,債権の差押をする上で気を付けなければならないことはなんでしょうか。
村本:債権は形がない権利なので,差押えをする上では,権利の内容を特定する必要があります。例えば銀行預金だと,どこの銀行のどこの支店に預金があるか,売掛金だと誰に対するどのような売掛金があるかなどです。
このような情報は相手に聞いても教えてくれませんし,いざ差し押さえをしようと思ってからだと調べようがないことが多いので,日ごろから情報を集めておかないといけませんね。
— 債権回収のためには日ごろからの備え,つまり調査や情報収集が必要だということですね。
ちなみに,相手が個人で,会社勤めをしている場合,毎月の給与債権などは差押えの対象になるんでしょうか。
村本:もちろん給与債権も勤務先に対して給与を支払ってもらう権利ですので,差押えの対象になります。もっとも,給与の全額を差押できるとすると,相手も生活が立ちいかなくなってしまいますので,差押えできる範囲は給与の一定部分までと決まっています。
給与は相手が会社を辞めるまでは,毎月継続的に支払われますので,こちらが請求している金額が満たされるまで継続的に回収することができます。分割払いを受けるという感じに近いですね。
第4 仮差押について
— ところで,交渉,訴訟,差押えと,債権回収に関する手続きを見てきましたが,ずるいことを考える相手だと,訴訟をしている間に財産を親族の名義に変えてしまったり,銀行口座からお金を下ろして現金にして隠してしまったりする可能性があるんじゃないでしょうか。
村本:その通りです,相手に財産がなければ訴訟を起こしても債権回収ができなくなってしまうので,相手が財産を処分する危険性がある場合には,訴訟を起こす前に相手の財産を凍結する,仮差押えという手続きがあります。
— 仮差押えですか。差押えと名前が似ていますが,どのような手続きなのでしょうか。
村本:仮差押えというのは,将来差し押さえができる状態になったときに,差押えをする財産を対象として,相手がそれを処分する権利を奪っておく手続きです。差押えの時と同様に,動産,不動産,債権などを対象にすることが出来ます。
また,緊急性のある手続きなので,裁判所に必要な書類を提出したら,基本的に数日以内に仮差押えの決定がなされるという点も特徴です。
— では,どのような時に仮差押えができるのですか。
村本:まず,相手に対する売掛金が発生していることと,仮差押えをする必要性があることが条件です。仮差押えをする必要性というのは,相手の資金繰りが悪化しているなど,じっくり訴訟をしていては差押えをすることが困難になるおそれが具体化していることです。これらの事実を裏付ける証拠を裁判所に提出することになります。
そして,裁判所の仮差押命令を得るには,裁判所に保証金を積むことが必要です。
— 保証金ですか。売掛金を払っていないのは相手なのに,どうしてこちらが保証金を積まなければならないのですか。
村本:仮差押えは,売掛金を有している債権者の人の言い分だけを聞いて,裁判所が相手に財産を処分してはならないという命令を出す手続きなので,命令の内容が間違っていた場合,相手方が不測の損害を被ることがあるので,保証金を積むことを条件にしているんです。
— そうなんですか。ちなみに保証金の金額というのはいくらくらいになるのでしょうか。
村本:保証金の金額は裁判所の裁量で決まるので,一概にいくらとはいえませんが,売掛金の請求のために仮差押えをする場合だと,対象となる財産の2割から3割程度の金額になることが多いですね。
もちろんこの保証金は,そのあとの訴訟で勝訴した場合には全額戻ってきます。
第5 仮差押の方法について
— では,具体的にはどのようにして相手が財産を処分できないようにするのでしょうか。
村本:動産の場合は執行官が保管して,物理的に相手が処分できないようにします。不動産の場合は仮差押えの登記をすることになります。債権の場合は,相手が債権を持っている先,これを第三債務者といいますが,その人に対して,お金を支払ってはいけませんよ,という命令を裁判所から送ることで行われます。
— もし第三債務者が裁判所の命令を無視して,相手にお金を払ってしまったらどうなるのですか。
村本:その支払いは仮差押えをした債権者に対しては無効ということになるので,支払った第三債務者は二重に支払わなければいけないということになってしまいます。ですから,裁判所の命令は無視できないのです。
— なるほど,それであれば仮差押えの効果は大きいですね。
そうなりますと,相手が財産を処分する危険があるような場合は,仮差押え,訴訟,差押えという順番で債権回収することになるんですね。
村本:そのとおりです。もっとも,相手にしてみると,債権の仮差押がなされたら,取引先に裁判所からの通知が行くことになるので,信用不安を取引先に知られることになります。また,入ってくる予定の支払いが凍結されることで資金繰りの面でも大きなダメージが生じることが考えられます。
ですから,相手としてはすぐにでも仮差押えを取り下げて欲しいと考えて,すぐに代金を支払うから仮差押えを取り下げて欲しいと交渉をしてくる場合があります。そういう意味で,仮差押えは交渉を有利に進めることができるという効果もあり,個人的には大変有益な債権回収手段だと思います。
— なるほど,それは効果的な手段ですね。では,債権の仮差押えをすることにリスクはないのでしょうか。
村本:たとえば,仮差押えをきっかけに,相手が破産してしまうということになれば,仮差押えしかしてない段階だと,破産手続きの中で一般の債権者として配当を受けるしかなくなってしいます。ですから債権の仮差押えという方法は,交渉の強力な武器であるとともに,リスクがあるということにも気を付けなければなりません。
— そうなんですね,大変勉強になりました。
そろそろお別れの時間が近づいてきました。今日は債権回収の方法として,差押え,仮差押えなどの手続きについてお話を聞くことができました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(タシマミホ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士清水勝裕,弁護士北山祐記,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年1月31日