周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
2月の月間テーマは「刑事弁護」です。
第2週は、先週に引き続き岡聖子弁護士より、「刑事事件の弁護人は、一体どんな活動をするのか」ということをわかりやすくご紹介します。ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2017年2月14日 |
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ゲスト | 岡聖子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
刑事弁護、弁護人の活動、接見、被害者対応 |
第1、今週のゲストのご紹介
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
今月は4週連続で、刑事事件の弁護活動について取り上げていきます。
今週のゲストは先週に引き続き、札幌弁護士会に所属の岡聖子(おかさとこ)さんです。
岡:よろしくお願いします。
第2、刑事弁護人の具体的な活動内容について
— 先週は刑事裁判の基本原則をお話しいただきました。今週は、刑事弁護人の活動について、少し掘り下げた具体的な活動をご説明いただけるとのことでした。
岡:はい。弁護人の活動には、大きく分けると、裁判における活動と、それ以外の活動があります。裁判での弁護人の活動は、法廷ドラマやニュースでも時々取り上げられますので、何となくイメージがつきやすいかもしれませんね。簡単にいえば、検察官が提出する証拠や主張に反論したり、犯罪をしたと疑われている人の言い分を主張したり、証拠を提出したり、といったことをします。
— では、裁判以外での弁護人の活動というのは、どういったものがありますか?
岡:そうですね、一口で言えないほど多種多様ですが、まず基本となる活動は、犯罪をしたと疑いをかけられた本人と、会うことです。
— 本人と会う、というと……あの、よくテレビで見るような、穴のあいたアクリル板越しに面会をするのですか。
岡:本人が身柄を拘束されている場合は、そうですね。弁護人が、捕まっている人と会うことを、接見といいます。犯罪をしたと疑われている人にとって、弁護人は絶対的な味方です。事件について何でも相談できる相手です。そんな味方との接見は、とても大事なことと、法律上位置付けられています。たとえば、一般の方が、捕まっている人と面会するときは、かならず留置所や拘置所の職員が立ち会うことになっています。でも、弁護人が捕まっている人と接見する場合は、立会人はいません。ふたりっきりで会う権利が保障されています。
第3、弁護人の接見活動の意義
— それはどうしてですか?
岡:先程、弁護人は、事件について何でも相談できる味方だ、とお話ししましたよね。でも、もし、弁護人との接見に留置所や拘置所の職員が立ち会っていたら、警察にまだ話していない事情の内容や、取調べ中の出来事について相談したくても、話をしづらくなってしまいます。
— たしかに、立会人の目が気になって、深い相談ができなくなりそうです。
岡:だから弁護人と捕まっている人とは、人目を気にせず話す権利が、守られている訳です。
— なるほど。弁護人が捕まっている人とはじめて接見するときは、具体的に、どのような話をするのですか。
岡:まずは、弁護人が味方であることを説明します。そして、疑いをかけられている事件の内容と、被疑者の言い分を聞き、今後の手続きの流れを確認したり、黙秘権などの権利があることを説明したり、取調べを受けるにあたって注意すべき点を伝えたりします。さらに、現在の心配事を、聞いたりもします。
— 心配事、ですか。
岡:はい。多くの人は、ある日突然身柄を拘束されてしまいます。そのため、身の回りに関する困りごとを抱えていることが多いのです。着替えがないとか、仕事先に連絡したいとか、ペットの世話をどうしようとか。そういった心配事を聞き取り、のちほど家族や友人、仕事先に伝えるなどして、できるかぎり身柄拘束中の不安を取り除くのも、弁護人の役割に含まれるといえます。
— なるほど。それにしても、はじめての接見で、色々なことを話すのですね。
岡:そうなんです。捕まったばかりの人は、事件について誰とも相談ができず、今後自分がどうなるのか、取調べにどういう姿勢でのぞめばいいのか、分からないことだらけの状態です。ですから、弁護人がはじめて接見した際に、いろいろなアドバイスをする必要があるのです。そういう意味で、身柄を拘束されている人との初めての接見は、とても大事です。
— 弁護人は、本人が捕まっている間、何回も接見に行くのですか。
岡:基本的にはそうですね。留置所などに足を運んで、取調べの状況を聞いて、その都度打ち合わせをします。とくに、本人が「自分は犯罪をしていない」と主張している場合、足しげく接見をしに行くことになります。犯行を認めない人に対する取調べは、当然、厳しいものになります。自分を疑う人たちに囲まれ、長い時間質問を受けていると、心が折れてしまいがちです。精神的に追い詰められて、「やりました」と、言ってしまわないともかぎりません。ですから、弁護人は頻繁に本人に会いに行き、対応を話し合ったり、励ましたりするのです。
第4、身体拘束状態から早期に解放させることの意義
— 捕まっている人を孤立させない、ということも、弁護人の仕事なんですね。そのほか、弁護人は、どのような活動をするのですか。
岡:そうですね、身柄を拘束されている人を、なるべく早く釈放させるための活動も、弁護人の大事な仕事です。捕まった人は、身体拘束期間中、社会から切り離され、起床・就寝、食事や外部との交流など、厳しく規制される過酷な環境に置かれます。当然、捕まっている人は早く釈放されたいと考えますし、先程お話ししたように、精神的に追い詰められて、取調べで嘘の自白をしてしまう危険もあります。そこで、弁護人は、捕まっている人ができるかぎり早期に釈放されるよう、検察官や裁判所に働きかけたり、法律上の手続をとったりします。
— 犯罪をおかしたとされる人を釈放してしまうなんて怖い、という声もありそうですが……。
岡:うーん、一般の方の中には、そのような意見があるかもしれません。しかし、いくら社会から疑われていようとも、裁判で法的な結論が出るまでの間、その人は犯罪者として扱われるべきではありません。我々と同じ、一般市民として扱われるべきです。そうであれば、十分な理由や必要がないまま、身柄を拘束しつづけることは、あってはいけない、ということになります。
第5、弁護人が被害者への弁償を仲立ちする上で注意すること
— なるほど。そのほかには、どのような活動がありますか。
岡:被害者のいる事件で何より重要なのが、被害者の方への対応です。本人が被害者への謝罪や被害弁償を希望している場合、弁護人は本人に代わって被害者に接触し、やりとりをしていきます。
— 弁護人として被害者に接触しようとする際、気をつけていることはありますか。
岡:当然のことではありますが、被害者の方のお気持ちをよく考えることです。犯罪に巻き込まれた被害者の方の事件に対する考えは人それぞれで、損害を弁償してほしい、謝罪してほしいという気持ちを持っていることもあれば、加害者の名前も聞きたくない、弁護人を通してでも絶対に接触したくない、という思いを抱いている場合もあります。そのため、弁護人が被害者、特に一般個人の方に接触する際は、いきなり直接連絡するのではなく、事前に検察官や警察の担当者の方を通して、連絡をして良いか確認するのが一般的です。特に性犯罪など、加害者に強い嫌悪感、恐怖感を抱いている可能性が高い事案の場合には、被害者の方のご意向を確認するため、事前に検察官とよく打ち合わせをするなど、細心の注意を払います。
— 本人の謝罪の気持ちは、被害者の方に、どのように伝えるのですか。
岡:弁護人から被害者の方に、本人の謝罪の気持ちを率直に伝えます。場合によっては、本人が作成した手紙を渡すこともあります。被害者の方とお話しする際は、本人は反省している、と口先だけで言っても中々伝わりませんので、本人が今までどう生きて、どのような経緯(いきさつ)で犯罪をおかし、そしてどういう心境に至ったから謝罪したいと考えたのか、あらかじめ本人の了解をとったうえで、できるだけ正直に伝えるようにしています。
— 被害者の方には、許してもらえるのですか
岡:それは、中々難しいところです。被害者の方は、犯罪行為によって直接受けた被害のみならず、犯罪に巻き込まれたことによる恐怖、不快感、事件捜査に協力することで費やす労力・時間など、いろいろな迷惑をこうむっています。本人からの謝罪を受けたからといって、すぐに、許す、という心境にならない方も多くいらっしゃいます。本人からの謝罪の言葉を伝えにきた弁護人に対し、事件のせいでどれだけ大変な思いをしたか、どれだけ怒っているか、切々と訴える被害者の方もいます。
— 謝罪の気持ちを受け入れてもらえるとは限らないのですね。
岡:ええ。そのような場合、被害者の方のお気持ちを、本人に率直に伝えるようにしています。被害者が示してくださった怒りに接することで、あらためて自分のやったことに向き合い、反省を深める人もいます。
— 被害者の方のお気持ちに向き合うことは、自分の罪を受け止めることにもつながるのですね。
岡:はい。あと、本人が被害者への被害弁償を希望している場合には、同時に、被害弁償を進めていくことになります。被害弁償を申し出ると、被害者の方から、お金で解決するつもりか、とお叱りを受けることがあります。もちろん、犯罪被害は、本来お金で解決できるものではありません。被害者の方の多くは、できることなら犯罪が起きる前の状態に時間を巻き戻してほしい、という思いを持たれていることでしょう。しかし、それは現実には不可能です。せめてもの償いとしてお金を支払い、被害者の損失を埋める、それが被害弁償です。
— 被害弁償をした場合、刑事事件への影響はありますか。本人の刑が軽くなることは、あるのでしょうか。
岡:弁償した場合の刑事事件への影響は、事案によって異なりますが、一般的には、本人にとって有利な事情として考慮されます。特に、窃盗など、他人の財産に損害を与える犯罪の場合、被害者に弁償したことによって刑事処分が軽くなることがあります。ただ、お金を払ったからといって、刑事責任が当然にゼロになる、ということはありません。刑事処分にあたっては、本人が真剣に反省し、被害者の方に誠意をもって対応したかどうかということや、被害者の方の処罰感情がどう変化したかということなどが、併せて吟味されることになります。
— 様々な事情を考慮したうえで、刑罰が判断される、ということですね。弁護人からの被害弁償の申入れは、通常、被害者の方にどのように受け止められますか。
岡:それもまた、事件、事件によって異なります。被害弁償を受け取ってくれ、本人を「許す」と言ってくださる方もいます。他方で、弁償はしてもらいたいが、加害者の処分が軽くなるとしたら許せないから、刑事手続が終わるまで、被害弁償は受け取らない、という被害者の方もいます。
— それぞれのお考えがあるということですね。なお、被害者の立場から見て、刑事手続が終わらないうちに、弁護人を通じて被害弁償を受け取ることのメリットというのはありますか?
岡:そうですね。刑事手続が続いている間は、通常、加害者に弁護人がついており、被害弁償の話し合いも弁護人を通して行います。そのため、被害者が加害者と直接やりとりする必要はありません。しかし、刑事手続が終わってしまいますと、弁護人が外れてしまいますので、加害者に弁償をしてもらいたい場合は、被害者の方が加害者と直接交渉をしたり、民事の損害賠償請求を起こしたりする必要が出てきます。こういう直接交渉等を負担に感じる場合は、弁護人がついているうちに被害弁償を受け取るメリットがあるかと思います。
第6、その他、刑事弁護人の大切な役割
— わかりました。被害者対応についてはこの辺にするとして、ほかに弁護活動としてはどのようなものがありますか。
岡:はい。そのほか、弁護人の活動としては、犯罪をおかした人の社会復帰に向けた環境整備などがあります。犯罪をおかした人のなかには、家庭環境や友人関係などの人間関係が原因のひとつとなって、悪いことをするようになってしまった、という場合が少なくありません。また、住む場所がない、収入がない、などの理由から生活が荒れ果ててしまい、結果犯罪に走ってしまった、という人もいます。そのような場合、今までの環境を変えないと、裁判所から、また犯罪をするのではないか、と疑われてしまいます。そこで、弁護人は、本人の生活環境を整えたり、人間関係を修復したりする手助けをし、成果があった場合には、その成果を証拠とともに裁判所に提出します。もちろん、刑事事件という短期間の関わりのなかで、弁護人にできることには限りがあります。それでも、もう二度と犯罪をおかさないと本人が自信をもって誓い、刑事手続を機に人生の良くなかったところを変えていけるよう、少しでも手助けをすることができたら、と思って弁護に取り組んでいます。
— 札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしまみほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士岡聖子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士岡聖子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年2月14日
札幌弁護士会