周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
2月の月間テーマは「刑事弁護」です。
第3週は、「ある日突然,逮捕されてしまったら」というテーマで,逮捕されてしまったらどうすればよいのか,清平温子弁護士がわかりやすくご紹介します。
ぜひ,お聞きください。
放送日 | 2017年2月21日 |
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ゲスト | 清平温子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
逮捕、勾留、当番弁護 |
— はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送していきます。
今回は前回に引き続き、刑事弁護について取り上げることになります。
ゲストは札幌弁護士会に所属されている清平温子(きよひらあつこ)さんです。
よろしくお願いします。
清平:どうぞよろしくお願いします。
第1 逮捕の可能性は誰にもある
— 今月は、先週までの岡先生に続き、女性の弁護士さんが続きますが,最初に,清平さんの自己紹介をお願いいたします。
清平:はじめまして,弁護士の清平と申します。
私の出身地ですが,倶知安町生まれの札幌育ちです。
裁判所職員として約10年勤務した後に,弁護士を目指して司法試験を受験しました。
前職のときは,札幌市のほか,苫小牧市でも勤務していたことがあります。
— 裁判所で働いていらしたのに,どうして転職しようと思われたんでしょうか?
清平:前のお仕事もとてもやりがいのある仕事でしたが,裁判所は,公正中立な機関ですので,悩みを抱えてこられる方に対しても,立場上,中立的な立場でしかお話しをすることができません。そういった中で,もっと悩みを抱えて相談にこられる方の立場に立ったお仕事ができたらと思うようになり,弁護士の道を志すことにしました。
— そうだったんですね。
それでは,今週も刑事弁護について、引き続き伺っていきます。
本日のテーマは,「ある日突然,逮捕されてしまったら」というものです。
社会のルールを守って生活していれば,ある日突然,逮捕されるなんてことはないように思いますが,実際にはどうなんでしょうか。
清平:そうですね。多くの皆さんが,ご自分が逮捕されることなど考えたこともないと思いますが,社会のルールを守って生活をされている方でも,ある日,突然,逮捕されるという可能性はゼロではありません。
たとえば,日常生活で自動車を運転している方が,不注意で事故を起こし,相手方に重傷を負わせてしまったり,事故の相手方がお亡くなりになってしまった場合,「過失運転致死傷罪」という罪で逮捕される可能性があります。
また,交通事故を起こした時点でパニックになって,現場から逃走してしまった,などという場合には,「救護義務違反」,いわゆるひき逃げの罪も加わります。
ひき逃げの場合は、逮捕される可能性が相当高いです。
— 普段運転をしない人は逮捕される可能性はないでしょうか。
清平:そうとは言い切れないんですよね。
通勤ラッシュ時に,痴漢と間違われて警察に突き出されてしまう,ということがあるかもしれません。
他にも,過去にニュースにもなりましたが,パソコンの遠隔操作により,知らないうちに自分のパソコンが犯罪に利用されてしまい,無実の罪で逮捕されたという事件も実際に起きています。
ですから,普通に社会のルールを守ってまじめに生活をされている方でも,ある日突然,逮捕されてしまう可能性が全くないとは言い切れないと思います。
第2 逮捕の種類
— 恐ろしいですね。「現行犯逮捕」という言葉を聞いたことがありますが,逮捕には種類があるのでしょうか。
清平:逮捕には,大きく分けると,通常逮捕,緊急逮捕,現行犯逮捕の3つの種類があります。
通常逮捕は,警察などの捜査機関が,あらかじめ捜査した内容をもとに裁判所に逮捕状を請求し,裁判所から発付された逮捕状を持って,犯人と思われる人を逮捕するというものです。
— では,緊急逮捕や現行犯逮捕というのは,どういうものですか。
清平:緊急逮捕や現行犯逮捕というのは,いちいち裁判所に逮捕状を請求していられないような緊急事態に,例外的に認められるものです。
さきほどおっしゃっていた現行犯逮捕というのは,犯罪が行われたまさにそのとき,あるいは,その直後であれば,逮捕状がなくても,犯人を逮捕できるというものです。現行犯逮捕は,警察官でなくとも,一般市民も逮捕することができます。
— 一般市民による現行犯逮捕というのは,どういう場合に行われますか。
清平:コンビニ強盗をコンビニの店員さんが取り押さえたとか,痴漢を被害者や乗り合わせた人が取り押さえた,というような場合が典型かと思います。
第3 任意同行について
— テレビドラマなどで,「事件のことで話を聞きたいので,警察署まで同行願いますか」と聞かれている場面をみますが,それは逮捕とは違うんですか。
清平:そうですね。逮捕状を示されずに,警察署まで同行を求められる,いわゆる「任意同行」の場合は,警察官には,その方を逮捕したり,無理やり警察署に連れて行く権限はありませんので,警察署に行くか行かないかは,その方の自由な意思により決められることになります。
— 同行を求められて断わったら,不利に扱われたりしないですか。
清平:警察署への同行を断ったことだけを理由に,不利に扱われるということは考えがたいですが,疑いをかけられている罪について,身に覚えがあるのか,まったく身に覚えがないのかによっても,取るべき対応が変わってくると思いますので,その段階で,ご心配なことがあれば,札幌弁護士会では無料法律相談も行なっていますので,すぐに弁護士にご相談をいただければと思います。
第4 逮捕による身柄拘束期間
— では,本題ですが,ある日,突然逮捕されてしまったら,どうしたらよいのでしょうか。
逮捕というのはどれくらいの間,拘束されてしまうものなんですか。
清平:先ほど,一般市民による逮捕もあるとお話ししましたが,一般的には,警察官に逮捕されることが圧倒的に多いかと思います。
警察官による逮捕の場合,警察は,逮捕したときから48時間以内に,必要な証拠や書類をそろえて事件の捜査権を検察に引き渡す「送検(そうけん)」という手続をしなければなりません。
そして,「送検」を受けた検察は,送検から24時間以内に,①裁判所に勾留請求をするか,②裁判所に起訴するか,③釈放するか,の判断をしなければならないことになっています。
したがって,逮捕によって身柄を拘束できる期間は,48時間+24時間ですので,最大72時間ということになります。
第5 「勾留」とは?
— 今のお話しですと,72時間経っても,すぐに釈放されるとは限らないのですね。
清平:そのとおりです。
一般的には,検察は,72時間以内に,起訴をすべきか,不起訴にすべきかの判断を行なうことは困難であることを理由として,さらに引き続き身柄を拘束するための手続である「勾留」請求というものを,裁判所に対して行なうことが多いです。
— 「勾留」というのは,聞き慣れない言葉ですが,逮捕とは,別の手続なんですね。
清平:そうですね。
勾留というのは,簡単にいいますと,逮捕された被疑者を刑事施設で引き続き拘束することで、逃亡することや、証拠を隠滅されることを防ぐために行なわれる手続です。
— 具体的にはどのような手続になりますか。
清平:検察官が,裁判所に対して,引き続き被疑者を「勾留」させてほしいとお願いする勾留請求という手続を行ないます。
そして,実際に勾留するかどうかは,裁判所が判断することになります。
裁判所が勾留するかどうかを判断するにあたっては,裁判官が直接,被疑者に会って言い分を聞く「勾留質問」という手続が行なわれています。
— なるほど。では,勾留される前には一応,自分の言い分を述べる機会はあるのですね。
清平:そうですね。ただ,裁判官に対して「自分はやっていません」と主張したからといって,すぐに釈放されるとは限りません。
先ほどもお話しをしたように,勾留というのは,検察官が最終的に裁判所に起訴するのか,不起訴にするのかを決めるまでの間に,逃亡したり,証拠が隠滅されるのを防ぐための手続ですので,勾留するかどうかは,逃亡のおそれがあるか,証拠隠滅の危険性があるかなどを中心に判断されることになります。
一般的には,定まった住所があるか,定職に就いているか,身元引受人になってくれる家族がいるか,疑われている罪の重大さ,捜査がどこまで進んでいるか,といった事情が考慮されることになります。
— もし,勾留が認められてしまった場合は,何日間,身柄を拘束されることになるのですか。
清平:被疑者勾留の勾留期間は、原則として10日間です。検察官は、勾留の請求をした日から10日以内に事件を起訴しない場合には、直ちに被疑者を釈放しなければならないとされています。
ただし、やむを得ない事由があるときは、検察官の請求により、裁判官が更に10日間以内の延長を認めることがあります。
現実には、一度逮捕されてしまうと、合計20日間の勾留が認められてしまう場合が多いです。
第6 逮捕段階における家族等との連絡・面会について
— そうですか。一度逮捕されてしまうと,なかなか家に帰ることはできないのですね。
突然逮捕されてしまったら,家族や職場への連絡はできるのですか。
清平:通常逮捕の場合,警察官が逮捕状を持って自宅などにきて,逮捕ということになりますので,警察官の面前で,親族や知人に連絡することが許される場合もあります。
しかし,ひとたび逮捕され,留置場等に入ってしまうと,携帯電話などの連絡手段も取り上げられてしまいますので,本人が家族や職場に電話をかけることはできなくなります。
— 家族などが面会に行くことはできるのでしょうか。
清平:先ほどお話しをした「勾留」という段階になりますと,外部との交通を認めない「接見禁止」という決定が出ない限りは,家族や知人が面会することもできるようになります。
しかし,「逮捕」の段階では,家族や知人が面会することも許されないことが多いです。
第7 当番弁護士制度の活用
— そうなんですね。では,家族や知人が連絡を取りたい場合や,本人が家族や知人に連絡をしたい場合,どうしたらいいのでしょうか。
清平:「逮捕」や「勾留」で身柄を拘束された被疑者には,憲法34条で,弁護士を呼ぶ権利が保障されています。
もし,身近に知り合いの弁護士がいるという方は,留置施設の職員を通じて,知り合いの弁護士に連絡してもらうということもできます。
知り合いに弁護士がいないという場合,あるいは,弁護士の知り合いがいてもすぐには来てくれそうもないという場合には,「当番弁護士制度」というものが利用できます。
— 当番弁護士制度とは,どのようなものですか。
清平:当番弁護士制度とは,弁護士を呼びたくても呼べない方のために,日本弁護士連合会が1992年から全国的に導入した制度になります。被疑者として逮捕や勾留をされてしまった方から「弁護士を呼んでください」と要望があった場合,留置施設から地元の弁護士会に連絡が入り,おおむね24時間以内に当番に当たっている登録弁護士が留置施設まで来て面会し,様々なアドバイスをしてくれる制度です。
— 当番弁護士を頼むと費用がかかるのでしょうか。
清平:普通は弁護士を呼ぶと費用がかかるのが一般的が,当番弁護士は,最初の1回に限り,無料で弁護士を呼ぶことができます。その際の当番弁護士の派遣費用は,札幌の場合,札幌弁護士会が負担しています。
したがって,「逮捕」の段階は,最大で72時間ですから,その間に1回,無料で弁護士の派遣を受けることができるということになります。また,当番弁護士制度は,本人だけでなく,逮捕や勾留されてしまった方のご家族でも利用することができます。
「逮捕」段階だけでなく,「勾留」の段階に入ってからも,当番弁護士制度を利用することができますが,「勾留」段階の場合,罪の内容によっては,国選弁護人という人をつけることができます。
本日は,「逮捕」の段階を中心にお話しをさせていただきますので,この国選弁護人制度については,次回にまたあらためてお話しをしたいと思います。
— 当番弁護士はどのようなことをしてくれるのでしょうか。
清平:黙秘権などの権利の説明,取調べに対する対処法,仕事や生活上の急を要することについてのアドバイスなどを行ないます。
その際,当番弁護士と相談の上,そのまま自分の「弁護人」になってもらい,家族や職場への連絡をお願いしたり,不服がある場合の不服申立て手続等を依頼したりすることもできます。
具体的なアドバイスの内容とか依頼できる事柄については,前々回(第70回)の岡聖子(おかさとこ)弁護士のお話しの中でご紹介させていただきましたので,そちらもご参考にしていただけたらと思います。
— ある日突然逮捕されてしまったら,まずはパニックにならず,当番弁護士制度を利用するとよいということですね。
次週は,引き続き清平さんから,国選弁護人と私選弁護人の違いなどについて伺います。
本日は,どうもありがとうございました。
札幌弁護士会の知恵袋は,札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また,音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしまみほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士見野彰信、弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士清平温子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士清平温子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年2月21日