周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
第1週は、川島英雄弁護士が「よくある医療トラブルの相談」についてお話しします。
弁護士に相談するときのポイントについても触れているので、ぜひ、お聞きください。
放送日 | 2017年3月7日 |
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ゲスト | 川島英雄弁護士 |
今週の放送 キーワード |
医療事故,医療過誤,医療ミス,コミュニケーション,説明義務違反,訴訟,勝訴率,和解,相談,損害賠償 |
— はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
3月は第1週目から4週連続で,医療トラブルについて取り上げていきます。今回はその1回目で,ゲストは,弁護士の川島英雄さんに来ていただきました。川島さん,自己紹介をお願いします。
川島:はじめまして。川島です。
今日は,「医療過誤」とか「医療ミス」などといわれる,医療トラブルの相談についてお話ししたいと思ってきました。よろしくお願いします。
第1 医療過誤の相談で一番多い相談はコミュニケーションの問題
— よろしくお願いします。
医療ミスと聞くと,手術ミスのようなイメージがあるのですが,やっぱりそのような相談が多いんですか。
川島:もちろんそういう相談もありますが,実は,医療ミスではないかということで相談に来るケースの大半は,医学的なミスよりも,お医者さんと患者さんの間のコミュニケーションの問題であることが多いと感じます。
— え,そうなんですか?
川島:はい。相談に来たときには、もちろん医学的なミスを疑って来る場合が多いのですが,お話しを聞いてみると,お医者さんの説明が悪くて患者さんが全然理解できていないケースであったり,患者さんが初めからかなり大きな誤解をしているケースだったり,ということも珍しくはありません。
第2 医師は結果を出すことが仕事ではない
— 患者さんが誤解をしているケースというのは,どんな誤解をしているのでしょうか。
川島:典型的なのは,病院に行けば必ず病気を治してくれると思い込んでいることでしょうか。
— え!?だって,病院は病気を治してくれるところですよね?それが誤解なんですか?
川島:はい。病院やお医者さんの仕事は,病気を治すというとちょっと不正確で,病気が治るように最善の医療を施すことが仕事です。簡単にいえば,結果を出すことが求められているのではなくて,より良い結果を目指して最善の行為をすることが求められているということです。その時々で最善の努力をしてくれれば,仮に望ましい結果が出なかったとしても,それは医療ミスではないのです。
— なるほど。確かに私たち素人は,病院に行けば治ると思って行ってしまうから,治らないとついおかしいと思ってしまいがちですね。でもそれは,お医者さんに無理を求めているのかもしれないわけですね。
川島:そういうことになります。そういうケースは,医療ミスではないので,私たち弁護士も法律で助けてあげることはできません。実は,医療トラブルで相談に来られるケースの7割くらいは,このような相談なんですよ。
— そんなに多いんですか。
川島:はい。ただこれは,患者さん側が一方的に悪いというわけではないですよ。お医者さんや病院はこういうところだと,小学校や中学校などでみなさんに教えていれば,こんな誤解はもっと少なくなると思います。そういう機会がないことが問題なのだと思います。
第3 医療過誤の種類
— 知らないと損をするのですね。よく覚えておきます。
ところで,コミュニケーションの問題以外の相談はどんな相談があるのでしょうか。
川島:先ほど挙げていただいた手術ミスのようなものもありますし,他にも,入院中に容体が急変してしまったというケースや,検査をしていたのに病気を見落としたといったケース,さらにはごくたまにですけど、ガーゼを体内に置き忘れたなどの明らかなミスのケースなどもあります。それと,患者さんが誤解しているわけではなく,お医者さんの説明が悪いという場合には説明義務違反になるということもあります。
第4 医療過誤の裁判は勝つのが難しい?
— なるほど。ところで,医療過誤の裁判って,なかなか勝つのが難しいと聞くことがあるのですが、本当ですか。
川島:確かに,訴訟の統計を見てみると,医療訴訟は通常の訴訟に比べて,勝訴率が低いです。でも,だからといって,医療トラブルは泣き寝入りするしかないのかというと,実はそうでもありません。医療トラブルの場合,裁判の判決で決着をつける前に,示談や調停などの話し合いでの解決をすることも意外と多いですし,訴訟になってからも,裁判官の勧めで和解という話し合いによる解決手続で終わることが結構あります。ですので,勝訴率が低いからといって,初めからあきらめないでほしいと思います。
第5 医療トラブルに遭遇したら?
— 医療トラブルに遭遇してしまったら,どうしたらよいのでしょうか。
川島:まずはともかく,弁護士に相談してみてください。先ほど相談の7割がコミュニケーションの問題だと話しましたが,その医療トラブルがコミュニケーションの問題に過ぎないのか医療ミスなのかは,一般の方にはなかなか判断できることではありません。また,コミュニケーションの問題だとしても,患者さんの誤解ではなく,お医者さんの説明義務違反である可能性もあります。そういった判断を聞いてみるだけでも,意味があると思います。
第6 弁護士に相談するときのポイント
— 弁護士さんに相談するときのポイントはありますか。
川島:医療トラブルの場合はやや特殊な事件になるので,医学的な知識を持っている弁護士や,医療訴訟の経験がある弁護士の方が好ましいとは思います。でも,知識や経験がすべてではなくて,実は「やる気」や「熱意」もとても重要ではないかと思います。経験豊富だけどやる気が感じられない弁護士と、新人だけど熱意たっぷりの弁護士、どちらがよいかは何とも言い難いです。
— やる気のない弁護士さんには、依頼したくないですねえ。
川島:そうですよね。肝に銘じておきます(笑)。
ところで、弁護士に相談するときには,出来事をなるべく包み隠さず話すようにしてほしいです。弁護士は,有利不利を問わずなるべく詳しく事実関係を把握できた方が,先の見通しを立てやすくなるからです。たまに「それを先に言ってよ~」と思うこともありますよ。
— 人は不都合なことは話したくないものですが、弁護士さんには隠さない方がいいんですね。
川島:はい。ぜひ包み隠さず話してほしいと思います。
— 弁護士さんに相談するときの注意点は、ほかにもありますか。
川島:そうですね、医療トラブルを相談したい,解決したいと思った時には,何を目的にしているのか,優先順位を持っておいてほしいと思います。
— 優先順位ですか?
川島:はい。弁護士が裁判で解決できるのは、損害賠償というお金の形だけなのですが,医療トラブルに巻き込まれた方の大半は,お金が一番の目的ではありません。多くの場合は「真実を知りたい」ということが多いものです。もちろん、その逆に、被害に遭った以上はきちんと賠償を獲得できなければ意味がないと思う方もいます。まずは,何が一番の目的なのか,目指すべきものの優先順位をつけていただきたいです。
— なるほど。裁判で勝ってお金を高くとることだけが目的とは限らないわけですね。確かに,もし身近な人が亡くなってしまったら,賠償がどうというよりも,まずはなぜ亡くなってしまったのかを知りたくなりますよね。
川島:そういうことです。とはいえ,実は,優先順位が決まっていればそれでいいということでもないです。たとえ真実を知ることが最優先だとしても,裁判で勝ち目がなさそうなのに真実を知りたくて弁護士費用を支払うことが本当に必要かどうかは,よく考えてほしいです。弁護士費用も決して安いものではありませんから。
— 費用対効果をきちんと考えた方がよいということですね。
川島:はい。賠償を最優先に考えた場合も,思うような賠償がそう簡単に獲得できるわけではないので,同じく本当に弁護士に依頼して裁判まで進めるかどうかは,よく考えていただきたいと思います。結局,自分が優先順位をつけた目的に合わせて,弁護士に何を,どこまで依頼したいと考えるのか,そのためにどの程度まで費用をかけてもよいと考えるのか,それをよく考えていただきたいということです。弁護士への依頼も,ワンパターンではなく,いろいろな形が考えられますから。
— 今日はありがとうございました。
川島:ありがとうございました。
— 札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士川島英雄,弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士川島英雄(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士川島英雄(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年3月7日