周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
5月の月間テーマは、「不倫問題」です。はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやっ
番組プロデューサーを兼ねる北山祐記弁護士と初登場の栗田みち子弁護士が、不倫問題の具体的事案をもとにして金銭面(慰謝料等)のドロドロとした話を、ゴチャゴチャに解説していきます。
5週間にわたってお送りする「不倫問題」大特集。
今回は、第4週です。
ぜひお聞きください。
放送日 | 2017年5月23日 |
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ゲスト | 北山祐記弁護士、栗田みち子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
不貞行為をめぐる権利義務関係、共同不法行為、不真正連帯債務、不貞相手に対する求償、共同不法行為者間の求償、婚約破棄、民法改正 |
第1 不貞行為をめぐる権利義務関係
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
5月は5週連続で,不倫問題について取り上げていきます。
今回はその4回目で,引き続き、北山祐記(きたやま ゆうき)さんと栗田みち子(くりた みちこ)さんのダブルゲストにお話しいただきます。
栗田:よろしくお願いします。
4回目の今日は、一つの不倫をめぐるドロドロの法律関係についてお話ししたいと思います。
―うわ~最近流行った昼ドラですか?
栗田:いえいえ、現実の話です。
私は札幌弁護士会で女性弁護士だけが対応する「ほっとらいんぶ~け」という電話相談をしているのですが、不倫に関する相談は本当に多いんですよ・・不倫相手だという女性からの相談もありますが、案外、ダブル不倫の案件で、夫が不倫相手の女性の夫から慰謝料請求をされているので困っているという相談も多く寄せられます。
―ええーダブル不倫なんて、それこそドラマの世界のようですが・・人間関係が複雑そうですね。
栗田:そうですよね。
人間関係が複雑になるだけではなく、法律関係も複雑になります。
そこで、ちょっと一つの例を作って考えてみましょうか。
ダブル不倫だと、本当に登場人物が多すぎて、ラジオ放送ではこんがらがってしまうので、シングル不倫にしてみます。
―「シングル不倫」という言葉もあるのですね。
栗田:はい。
シングル不倫は被害者1名、加害者2名のパターンです。
しかし、その関係において、不倫相手が独身ではなく既婚者だと「ダブル不倫」、つまり被害者2名、加害者2名になるわけです。
北山:では、栗田さん、今日のお題「シングル不倫」の登場人物を紹介ください。
なお、プライバシーを保護するため、ここからは「音声は変えております。」
栗田:架空の話ですから、音声を変える必要はないです。
たとえば山田山夫さんと山子さん夫婦がいて、山夫さんの会社の同僚に川田川江さんという女性がいたとします。
北山:山と川って・・忍者が敵味方を区別する時の合い言葉ですね。
山夫さんが、午後5時の退社時間に「山」と叫び、川江さんが「川」と返せば、今日はデートの日になるわけですね。
栗田:違います。
国民的お茶の間アニメの一家も考えましたが問題が起きそうなのでここは無難に行ってみようかと・・。
―山夫さんと山子さん夫婦に川江さんが絡んでくる。
だいぶイメージが湧いてきました。
栗田:ありがとうございます。
川江さんは山夫さんが結婚していることは最初から分かっていたのですが、山夫さんから強くアプローチされ、「妻とは別れて君と結婚したい」とまで言われたので山夫さんと不倫関係になってしまいました。
北山:「妻とは別れる。」「妻とはもう終わってる。」というのは、よく出てくる口説き文句です。
口説かれた女性は、この言葉の意味を「もう日は暮れた。」くらいに解釈いただければいいと思います。「日が暮れたので、君が月明かりだ。」みたいな感じです。
―朝が来れば、奥さんの元に返っていくのですね。
栗田:はい。
実は山夫さんは山子さんともラブラブで一向に離婚なんてしないわけです。
不倫関係は10年続いて、花の20代だった川江さんは30代になり、どんどん婚期が遅れてしまいます。川江さんは痺れを切らして自ら山子さんに連絡して「山夫さんと別れて」と迫り、不倫が発覚してしまいました。
さて、誰が誰に慰謝料請求できるでしょうか?
―えーと、山子さんが、山夫さんと川江さんに請求できます。
第2 被害者が請求できる金額(共同不法行為と不真正連帯債務)
栗田:そうですね、正解です!
では仮に、被害者である山子さんが受けた精神的苦痛が100万円相当だったとします。山子さんは自分の夫である山夫さんと、浮気相手の川江さんにそれぞれいくらずつ請求できるでしょうか?
今回の例だと山夫さんと川江さんの間では山夫さんの方が大分悪いと思いますが、とりあえず分かりやすく二人の責任割合を5:5としてみます。
―ええと、全部で100万円、ってことは、2人でそれぞれ50万円ずつ?
栗田:うーん、残念、不正解です。実は、山夫さんにも川江さんにも100万円請求できるんです。
―ええ?そうなんですか?でも、それじゃあ2人から100万円ずつ貰ったら、貰い過ぎになっちゃいませんか?
栗田:そこはうまく出来てるんですよ、北山先生、解説をお願いします。
北山:全然、わかりません。数字が苦手なもので・・・。
栗田:まじめにやってください!
北山:はい。
まず、不貞というのは民法という法律の中の「不法行為」に当たるということなんです。
「違法行為」なら、分かりやすいのですが、法律の世界では、へんてこりんな言葉が良く出てきます。
不法行為とは、わかりやすい日本語でいうと「損害賠償しなければならないレベルの悪いこと」くらいの感じです。
物を盗んだり、壊してしまうこと、人に怪我をさせること、これらは全て通常、不法行為にあたり、損害を賠償しなければなりません。
息切れしてきたので、栗田さん、後はお願いします。
栗田:不貞とか不倫とかをすると、被害者の方にはかなりの精神的苦痛が発生するので、慰謝料請求権というのが発生するのです。
今回は、山夫さんと川江さんが共同して不法行為を行った、つまり、二人でやらかしたということになるので、2人はそれぞれ、山子さんが被った100万円分の損害全部を賠償する責任を負うことになっているんです。
―両方に請求して、両方回収できたら、合計200万円もらえるということですか?
栗田:そういうことでもないのです。
さきほど田島さんが仰ったみたいに2人に50万円ずつ請求、となると、山子さんが2人を相手に2回請求しなければならなくなって大変ですし、例えば川江さんに全然お金がない時などは山子さんが100万円全額を受け取ることができずに困ってしまいますよね。
なので、被害者のために、共同不法行為者の誰に対しても全額の賠償を求めることができるような仕組みになっているんです。これを「連帯」というんですが、今の判例では厳密には「不真正連帯債務」だと言われています。
―連帯債務は何となくわかりますが、「ふしんせい」とは何ですか?
北山:男性の私が「ふしんせい」と聞くと下ネタか、と思いましたが、法律の話でした。
「不真正連帯債務」というのは、真正ではない、つまり連帯債務の残念賞みたいなものです。
不倫事件の場合でいくと、通常の連帯債務と違って、求償出来る場面や求償できる金額に少し違いが出てきます。
第3 加害者間の関係(求償)
―「きゅうしょう・・」もう、何が何だか分からなくなってきました。
栗田:では、山子さんの例で続けてみましょう。
山子さんは、山夫さんとは離婚しないことにして、川江さんに100万円の慰謝料を請求しました。
川江さんは山夫さんとは結婚できないし、踏んだり蹴ったりで、「なんで私だけ払わないといけないのよ!」と思いました。
さて、川江さんは山子さんに対し「私は半分しか悪くないから50万円しか払わないわ!」と言えるでしょうか。
―えーと、これは先ほど教えてもらったところですよね、言えないです。
100万円払わなければなりません。
栗田:その通りです。
ですが、川江さんはお金がなかったので、とりあえず今払える分として80万円だけ支払いました。
山子さんは「20万円足りない!」と言ってさらに請求してきます。
しかし、川江さんは払えません。
ここで、川江さんはやっぱり「なんで私だけ・・」と思いました。「同じ加害者なのに、なんで山夫さんは1円も払わないでしかも離婚しないでいるんだろう」と怒ります。
川江さんにとっては、つい先日まで好きだった山夫さんですが、どんどん憎らしくなってきました。
北山:イイ感じにドロドロしてきましたね・・。
栗田:そこで、川江さんは山夫さんに何か請求したいと思います。
何ができるでしょうか?
北山:まずは、「私は全部ではないけど80万円払って、ちゃんと責任を果たしてるんだから、あなたも責任を果たして一部持ってよ!」ってところですよね。
栗田:これが「求償」なんですね。
―あ、やっと「きゅうしょう」がでてきましたね。
栗田:はい。
では次の質問です。80万円払った川江さんは山夫さんにいくら求償できるでしょうか?
―えーと、お互いの責任が5:5で、川江さんが80万円払ったから、半額の40万円?
北山:期待通りのお答えありがとうございます!
―えっ、正解ですか?やったあ。
北山:いいえ、残念ながら不正解なのですが、今田島さんが仰ったのが、完全な「連帯債務」ならというお話しなんです。
でも、不倫のような共同不法行為の場合は、完全でない「不真正連帯」なので、川江さんは自分の本来負担すべき50万円を超える金額を払わないと求償出来ないし、求償出来る金額も負担部分を超えた部分、つまり、既に払った80万円マイナス50万円の30万円しか求償できないんです。
だから、例えば50万円だけ払ったという場合は、山夫さんには1円も求償出来ず、山子さんからは「さらに50万円払え」と言われてしまいます。
―ええ!何だか悔しいですね。
第4 民法改正
栗田:そうですね、そこで、今後施行されると見込まれている新民法では、不真正連帯と完全な連帯を区別せず統一することになりました。
新民法の場合だと、川江さんは80万円払った場合にはその半分の40万円を山夫さんに対して求償出来るようになりましたし、負担部分を超えない、例えば20万円だけ払ったという段階でも半分の10万円を求償できるようになりました。
まあ、山子さんから「あと80万円払え」と言われるのは変わらないですが、それはやはり被害者保護のためには仕方ないことだと思います。
―そうなんですね。
でも、その方が公平な気がしますね。
栗田:そうですね、個人的には分かりやすくもなったし良いと思います。
第5 その他(婚約破棄,貞操侵害)
―でも、それでも川江さんが可哀想ですよね・・。不倫はいけないことですが、山夫さんに「妻と別れる」と騙されて、自分の青春を奪われて・・一番悪い山夫さんにもっと何か請求できないものでしょうか。
北山:なかなか難しい道ですが、婚約の不当破棄や貞操侵害を理由に慰謝料請求する、ということが考えられます。山夫さんと川江さんの責任割合を考えたときに山夫さんの責任が「著しく大きい」場合、などの要件を満たす必要がありますが、今回の例だと、認められる可能性はあります。ただ、慰謝料の金額としては山子さんが受け取れる金額よりも低額になると思われます。
今回の事例ですと、山夫さんの方が、川江さんよりも責任割合が相当高い事案なので、私なら、求償の部分で頑張る、あるいは、山夫さんへの求償権を放棄することで山子さんからの請求額を減額してもらうという和解を目指します。
―
そうなんですね、これで川江さんも少しは報われますね。
北山:
なお、川江さんは、もっと早くに山夫さんに見切りをつけるべきでした。
人生論になってしまいますが、報われない不倫を断ち切るという相談を持ちかけてくれれば、背中を押してくれる弁護士は多いと思いますよ。
―札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年5月23日