周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
5月の月間テーマは、「不倫問題」です。
番組プロデューサーを兼ねる北山祐記弁護士と初登場の栗田みち子弁護士が、不倫問題の具体的事案をもとにして慰謝料請求権の消滅時効のお話を、わかりやすく解説していきます。不倫を「見て見ぬふり」をしていると請求権がなくなってしまう??、という重要なお話しですので、ぜひお聞きください。
5週間にわたってお送りする「不倫問題」大特集。
今回が、不倫問題の最終回です。
放送日 | 2017年5月30日 |
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ゲスト | 北山祐記弁護士、栗田みち子弁護士 |
今週の放送 キーワード |
不貞行為に基づく慰謝料請求権の時効、不倫の消滅時効、消滅時効の起算点、時効期間、除斥期間 |
―はい,今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に,弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間,役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
5月は5週連続で,不倫問題について取り上げていきます。
今回は最終回です。ゲストは今週も北山祐記(きたやま ゆうき)さんと栗田みち子(くりた みちこ)さんのお二人です。
栗田:よろしくお願いします。
北山:よろしくお願いします。
第1 慰謝料請求権の消滅時効について
北山:最終回は、ズバリ、「慰謝料請求権の消滅時効」です。時効の点は今度の民法改正でも変わるところですので、改正点についてもお話したいと思います。
―前回の連帯債務については民法が改正されそうだというお話がありましたね。法律の改正があると覚え直さなくてはいけないので大変ですね。
栗田:そうですね、私のような若手から、ベテランの先生まで、皆さん色々な研修や研究会に参加して勉強しているところです。正直私は法律の条文を覚えるのが一番苦手なので今から頭が重いです・・
―弁護士の方でも条文を覚えるのが苦手な方がいるんですね。
北山:ドラマとかだと弁護士が突然「日本国憲法第◯条!何人も~~!」とか言って、法律の条文をまるまるソラで言ったりしますけど、現実にはそんな場面見たことないですよ。
弁護士自身も、お客さんから様々な事件をお任せいただき、その中で、法律や人生を学ばせていただいていると考えています。
―じゃあ、「異議あり!」とかは?
栗田:それは言う人もいるかもしれませんが、大声で高らかに言うことはあまりないと思いますよ。ドラマやゲームでは白熱していますが、実際の裁判は案外淡々と進んでいきます。
北山:私は感覚的に「異議!」と言って、立ち上がり、それから異議の理由を考えています。脊髄反射運動みたいなもので、あまり思慮深く行動していません。
―なるほど。
では、本題に入っていきましょう。消滅時効でしたね。
北山:はい。今回も、前回お話しした山田さん夫婦と不倫相手の川江さんを例にして話を進めていこうと思います。
山田山夫さんと同僚の川江さんが10年間不倫関係にあり、それを知った山夫さんの妻の山子さんが川江さんに慰謝料請求をする、という場面です。
まず、基本的なことの確認からしましょう。栗田先生、不貞行為を原因とする慰謝料請求権の消滅時効期間は何年ですか?
栗田:はい、3年です。
―えっ、結構短いんですね。
北山:そうですね。一般的な債権は10年ですが、慰謝料請求権の場合はこれまでお話したとおり不法行為に基づく損害賠償請求権の一つですので、特別に3年間と定められています。
第2 消滅時効の起算点について
―でも、不倫相手の名前が分からなくて、そうこうしているうちに3年経ってしまったらもう時効です、というのは酷くないですか?
今回は川江さんが自ら山子さんにバラしてしまっていますが、たいていは不倫相手がどこの誰だか分からないですよね。
栗田:そんな場面も当然想定されています。
民法724条は、不法行為に基づく損害賠償請求権について「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間」と定められています。
今回の件では、山子さんが不倫の事実を知って、かつ、不倫相手が川江さんだということを知ったときから時効期間が始まります。
―今回みたいに不倫が10年続いているような場合にはどうなりますか?
北山:10年続いていても、それを知ったときから3年以内であれば時効期間はまだ未経過となります。
これに対して、山子さんが10年前からずっと知っていたけど黙っていた、という場合には、10年前から時効が始まっていますのですでに時効期間が経過してしまっています。こんなときは、山夫さんと川江さんが10年間継続して不倫していたことを一連の不法行為、これを継続的不法行為といいますが、一つの継続的不法行為と捉えて、不倫が終わったときからまだ3年経っていないから時効は完成していない!と頑張ったりもしますが、これが裁判所に認められるかは事件の内容によります。
―なるほど~。山子さんとしては、3年間我慢してしまうともう請求できなくなってしまうおそれがあるんですね・・
栗田:実は、山子さんが3年より前にあった不貞行為を捉えて慰謝料請求できることがありますよ。
―えっ、どうするんですか?
栗田:前回の例だと山子さんは山夫さんと離婚はせずに、川江さんだけに慰謝料請求しましたよね。ですが、山子さんが川江さんとの不貞が原因で山夫さんと離婚した場合、離婚自体によっても山子さんは精神的苦痛を受けるわけなので、「不貞が原因で離婚し、離婚によって精神的損害が発生した」と言えば、離婚成立が時効期間のスタートとなるわけです。
―不貞自体のショックというより、離婚のショックを問題にするわけですね。
北山:そうです。
ただ、この場合は消滅時効とは別に、「不貞行為の新鮮さ」の問題がありますよ。
例えば10年前にあった1回きりの不貞行為を山子さんが気付いていたにも関わらず黙認していたという場合には、10年後に離婚した際に山子さんが川江さんに「あんたのせいで離婚したのよ!」と言っても、川江さんから「それって私のせい?あなたは不貞に気付いていながらこれまで10年間離婚しなかったんでしょ?別の原因で離婚したんじゃないの?」と言い返されてしまうことがあります。
「賞味期限」のようなものと捉えていただくとわかりやすいかもしれません。
―消費期限切れで食べられない、とまではいかないけども、旨味は徐々に減っていっている、といったところでしょうか。
栗田:おお~うまいですね。
では私も賞味期限と消費期限の話で例えてみますと、時効期間は「開封後〇〇日以内にお召し上がりください」というのに似ています。時効期間が始まる「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったとき」というのは、パッケージから出して開封したとき、と考えることができますね。
第3 除斥期間について
栗田:
あともう一つ注意しなければいけない期間として「除斥期間」というのがありますよ。これは、たとえ損害及び加害者を知らないままでも、不法行為のときから20年経ってしまうと問答無用で権利が消滅するというものですので、これが消費期限に似ています。
パッケージから開けずに大事に保管していても、いつかは消費期限が来て食べられなくなってしまいますよね、そんなイメージでいていただければと思います。
―なるほど~期間のスタート地点や長さなど色々あるんですね。
北山:では、今までのお話をまとめましょう。
不貞が1回1回で分けられる場合、山子さんは山夫さんが不貞をしたということと、その相手が川江さんだということが分かったときから3年以内であれば、川江さんに対し不貞を理由とする慰謝料請求ができます。
ただし、不貞から20年経ってしまうと、山子さんは誰にも慰謝料請求できなくなります。
―不貞が継続的に続いていて1回1回で分けられない場合にはどうなりますか?
北山:不貞を一体のものとして考えて、不貞が終了し、かつ山子さんが不貞の存在と不貞の相手方を知ったときから3年以内であれば慰謝料請求できる、と考えることができます。
ただ、これは全ての場合でできるわけでないので注意してください。また、不貞関係が終了してから20年経過した後はやはり慰謝料請求できなくなります。
―最後は、不貞自体を問題にするのではなく、不貞を原因として離婚したことを問題にする場合がありました。
北山:はい。
その場合には、離婚したときから20年以内、かつ、山子さんが不貞相手が川江さんだと知ったときから3年以内であれば慰謝料請求できます。
ただ、不貞と離婚との間があまりに空いてしまうと、離婚の原因が不貞ではないのではないか、原因の一つとしても影響は小さいのではないかといった因果関係の問題が出てきます。
―なんだか複雑ですね・・難しいです。
栗田:網羅的に整理しようとするととても複雑になってしまいますが、それぞれの事案の結論は絞られていきますので、自分の場合はいつがリミットなのか気になる方は、弁護士の法律相談などを利用して確かめるのが良いかと思います。
北山:田島さん、一段落した感じになっていますが、まだまだ終わらないですよ。
―ええ~!もう覚えきれないです・・でも聞きたいです。
第4 示談した場合の消滅時効について
北山:今度は慰謝料の支払いの取決め、つまり示談をしたあとの話です。
例えば、山子さんが山夫さんと離婚することになり、山夫さんが山子さんに100万円の慰謝料を平成30年1月1日限り50万円、平成31年1月1日限り50万円の2回払いで払うことが決まったとします。
ですが山夫さんは平成30年1月1日になっても1円も払ってくれません。山子さんは山夫さんにメールで「払ってよ」と何度もお願いしてきたのですが、山夫さんは全く反応してくれません。
さて、そんな状態のまま平成33年1月下旬になってしまったとします。山子さんの権利は消滅時効にかかってしまっているのでしょうか?
―えっ、せっかく慰謝料を払う約束をしたのに、もしかしてまた消滅時効で請求できなくなってしまうんですか?
栗田:そうなんです・・時効期間というものは、カウンターリセットはするのですが、リセット後ずっと止まったままというものではなく再スタートします。なので、ぼやぼやしているとまた時効期間が経過してしまうんです。
―そうなんですか・・ということは、平成30年1月1日から3年経ったら消滅時効完成、となってしまうんでしょうか?
北山:原則はそうです。
ただ、時効期間がスタートするのは支払期限が来た日からですので、1回目の50万円については平成30年1月1日から3年、2回目は平成31年1月1日から3年で時効完成となります。平成33年1月下旬だと、1回目の方はもう3年経ってしまっていますが、2回目はまだ間に合いますよ。
―ん?原則は、というと例外はあるんですか?
第5 調停や裁判上での和解で合意した場合の消滅時効について
栗田:調停や裁判上の和解で合意した場合は、たとえ10年未満の短期の時効期間が定められているものでも特別に時効期間を10年とすると定められています。裁判所が関わった上できっちり決められたことなので、裁判外の合意よりも強い効力をもたせようという趣旨です。
離婚の場合、公正証書で合意したりすることが多いと思いますが、公正証書だと原則は3年のままですので、私は調停をお勧めしたりしています。
特に当事者双方に代理人が付いていないときは調停がおすすめです。調停だと調停委員や裁判官が調停調書の具体的な文言を考えてくれますし、実は、公正証書より調停の方が手数料が安いことが多いんですよ。当事者同士の話合いで解決しそうな場合でも、合意内容をきちんとした形にするためにあえて調停を申し立て、1回目の調停期日で調停成立、という方法を取ることができますよ。
―裁判所へ行く、というと私たちは大事(おおごと)だ!と思ってしまいますが、どんな感じなんですか?
北山:場所はもちろん裁判所ですが、おそらく皆さんが想像しているよりは柔らかい手続ですよ。まあ6畳くらいの部屋に入って、調停委員というおじさまおばさまから話を聞かれるので率直にお話をしてもらえば大丈夫です。1か月か1か月半くらいに1回の頻度で、半日くらい潰れますので有給を取れる方や平日にお休みがある方なら対応可能かと思います。
―なるほど、私もいつかのために覚えておきます。まあ、その日が来ない方が本当は良いんですが・・
栗田:そうですね、こんなに不倫があった後の話を長々しておいてなんですが、不倫はしないほうが良い!してはいけない!ということを一番お伝えしたいです。
北山:そうです。
離婚調停での交渉事は、本来5分と5分ですが、結局、不倫をした有責配偶者は互角の交渉事ができなくなります。慰謝料は少額だとしても、財産分与や親権の交渉では下手に出るほかなくなります。
「STOP THE 不倫!」、私たちが5週にわたってお伝えしてきたテーマです。
―えっ、そうだったんですか・・・。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士北山祐記、弁護士栗田みち子(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年5月30日