周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
放送日 | 2017年7月11日 |
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ゲスト | 畠山大地 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
解雇・地位確認・裁判・労働審判・金銭解決・厚生労働省・報告書 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談によせられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
今週は、前週に引き続き,労働問題についてお話いただく予定です。労働問題の第2週目は,「解雇」についてお話いただきたいと思います。
今回は、新しいゲストをお呼びしています。紹介します。
札幌弁護士会に所属の弁護士の畠山大地(はたけやまだいち)さんです。
畠山:はい,はじめまして,今日はよろしくお願いします。
―畑に山に大地なんて,何かすごい北海道っぽい名前ですね。
畠山:そうですね。よく言われます。実際,生れも育ちも札幌です。
今日は,広報委員会の怖い怖い番組プロデューサーの北山弁護士と,以前解雇についてこの番組で話をした桑島弁護士から、解雇について何か話してこいというお達しがあったので,急遽やってきました。
いや~、鬼プロデューサーによる原稿制作の追い込み方は尋常じゃなかったです。
―今日の放送が終われば、鬼プロデューサーから解放されるので、すっきりしますね。
ところで、以前,桑島さんが,第6回知恵袋で、アナウンサーが2回遅刻したら解雇された,という判例について紹介してくれたんですよね。
畠山:はい。
最高裁判所が、そのアナウンサーの解雇は無効と判断した事案ですよね。
解雇が裁判所で争われることは結構多いですね。
―裁判となると時間が掛かりそうですね。
いずれの結論になるにしても、人生の中で大切な時間ですから、早く良い結論が得られれば良いですね。
畠山:そうですよね。
大相撲の関取さんの解雇が無効と判断された事件も記憶に新しいところですが、力士として活躍できる年数も限られていますし、復活できるなら早く復活させてあげたいですよね。
第1、解雇無効時における金銭救済制度について
―そういえば,少し前ですけど,新聞で,解雇の金銭解決制度を新しく作る,なんていう記事を目にしましたよ。
畠山:厚生労働省の有識者検討会の報告書のことですね。
正確には,今年の5月に公表された,「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の報告書ですね。
―あ,きっとそれのことです。
詳しいことは忘れちゃいましたが,お金を払えば会社の思いどおりに解雇できる制度なんかできたら,自分もいつクビにされるか分からないって,みんな不安に感じちゃいますよね。
畠山:そこは誤解されがちなところなんですけど,報告書に書かれている解雇の金銭解決制度というのは,解雇が無効の場合を前提としたものなんですよ。
報告書の「はじめに」の箇所などでも,「解雇無効時における金銭救済制度」という表現がされています。
なので,お金を払いさえすれば誰でも何でも自由に有効に解雇できる,という話ではないんですよ。
―あ,そうなんですか。良かったですー。
第2、現在の解雇の金銭解決の方法について
畠山:解雇が無効のときの金銭解決っていうことでいうと,今の裁判実務だと,労働審判や訴訟で解雇が有効か無効か争われて,どうやら解雇は無効だということになっても,多くの場合は解決金の支払による解決がなされるので,実際に復職するケースというのは非常に少ないんですよね。
―そうなんですか。
確かに,一度解雇を言い渡されて,それが有効か無効かを裁判で争った相手のところで,もう一度働きたいという気持ちには,中々ならないですよね。
畠山:その人にとっては、居心地の良い職場ではないかもしれませんね。
そのような場合,復職する代わりに「解決金」というお金をもらって解決するという方法があるわけです。
―現在,畠山さんが言われたような解雇無効の場合の金銭解決の方法があるのに、なぜ、新しい制度を作る必要があるんでしょうか?
畠山:その点については報告書でも意見が分かれていて,現在,労働審判制度が実質的には解雇の金銭解決制度として有効に機能しているので,新たな制度は必要ないのではないか,という意見もあります。
他方で,現在行われている金銭解決というのは,働いていた人側と会社側の合意があることが前提となっているので,合意の成立が困難なケースについて,合意を必要としない金銭救済制度を作ることは,労働者保護の意義があるという意見もあります。
―なるほど。
労働審判や訴訟という制度だけでは、本質的な解決が得られない場合もあるということですか?
畠山:そうですね。
まあ,要するに,解雇無効時の金銭解決という制度を作れば,復職したくない,金銭解決を求めるという労働者のニーズに沿った解決がしやすくなるだろうということですね。
第3、解雇の金銭解決制度が新設された場合の復職の可否
―なんとなーく分かりましたけど,あくまでも復職したい!金銭解決は絶対嫌だ!という人も,きっと中にはいますよね。
この制度ができたら,復職ができなくなっちゃうんですか?
畠山:報告書を見る限り,その会社の労働者としての地位があることの確認を求める訴訟なども,これまでどおり可能であることを想定しているみたいですね。
ただ,一度は金銭の支払を求めたけれど,やっぱり復職したいかも,となった場合はどうなるのかなど,まだ整理できていない部分もあります。
―なるほどー。やっぱり,本人の希望に沿った解決ができるようになることが一番ですよねー。
その会社で働き続けたい人は働き続けられる、そして、新しい会社で新しい仕事を始めたい人は、解決金を受け取れるというように・・・。
畠山:そうですね。
僕も,もし制度が出来るとするならば、基本的には,田島さんが言われたように「働く人」の側に選択権がある制度にしなければならないと思います。
第4、解雇の金銭解決制度を会社側から申し立てることができるか
―会社側が、気に入らない従業員を「お前は首だ!」とか言って,クビにしたとして、それで,裁判所で争われた時になると,「ふっふっふ。解雇は無効かもしれないけど金銭解決制度を使います。」ということを会社の方から言って,結局,お金を払うことで、気に入らない従業員を追い出すことができる制度になってしまう可能性が残っているのでしょうか?
畠山:田島さん,良い質問ですね。
報告書ではその辺りのことも議論されていて,会社側からは金銭解決の制度を使えないということにするべきという意見が多数を占めています。
報告書では,会社側が使えるようにすることには「現状では容易でない課題があ」るというまとめ方がされていますね。
第5、解雇の金銭解決制度の行使方法
―そうなんですね。
これからも注目していきたいです。
ところで,働いていた人が新しい制度で金銭解決を求めたいときは,どうすれば良いんですか?
クビを言い渡された後,会社に電話して,「この解雇は無効なので,新しい制度に基づいてお金を払ってください」って言えば良いんですかね?
畠山:それも議論されているところですね。
例えば,労働者が,一度金銭支払を求めた後,じっくり考えたら,やっぱり復職したいと言って,金銭支払の請求を取り下げることができるか,といった問題が出てきます。
他方で,自由に取り下げることができるとすると,事件解決の方向性が見えなくなって、権利関係も不安定になってしまいますね。
―「働く人」の側もどこかで決断をする必要があるのかもしれないですね。
畠山:はい。
こうしたことから,一度、金銭の支払を請求したら取下げはできないとした上で,その請求の方法を裁判上に限るとか,裁判上でも裁判外でも良いけど,書面によって請求することに限るとか,そんな方向で議論されています。
―そうなんですね。
ともあれ,色々議論しているみたいなので,そんなに悪くない制度になりそう,ということなんですかね?
第6、解雇の金銭解決制度における金額の基準,上下限について
畠山:ただ,他にも課題は色々あるんですよ。
例えば,金銭解決の金額の基準を設定するかどうか,という議論がなされています。
―金額の基準ですか。
畠山:報告書では,裁判などにおける金銭の算定についてより予測しやすくすることが重要なので,具体的な金銭水準の基準を設定した方が良いだろうとなっていますね。
例えば,金額の上限と下限,つまりマックスのラインとミニマムのラインを設定することなどが考えられる,などとされています。
―金額の上限と下限を設定するんですか。
けど,予め上限が設定されちゃうと,会社側が,その程度の金額を支払えば済むのかと考えて,かえって不当な解雇を招いちゃうおそれもあるんじゃないですかね?
それに,働いていた人からしても,色々な事情を考慮したらもっと高い金額になるはずなのに,かえってそういう要素がばっさり切り捨てられちゃうことになりそうですよね。
畠山:そうですね。
いま田島さんが言われたようなことは報告書でも指摘されていて,上限を定めることに対しては消極的な意見も目立っています。
また,下限,つまり最低ラインを設定することに関しては,最低ラインが高くなりすぎると,中小企業では支払が難しくなり,折角の制度が機能しなくなるおそれがあるといった問題点が指摘されています。
―うーん。何だか難しいですねー。
けど,水準を定めたりしないと,新しい制度を作る意味があまりないような気もするんですけど,どうなんですかね?
畠山:そうですね。
新しい制度を作るからには,意義のあるものにしないといけないですよね。
他方で,さっきも言ったように,現在も,労働審判での解雇無効の金銭解決というのは,かなり有効に機能しているということも言われています。
また,新たな制度が導入されることで,現在の制度にどう影響するのか検討しないといけないですね。
―そうなんですか。
ともあれ,今後の議論の行方に注目しましょう,ということになりそうですね。
畠山:忘れてはいけないのは,無効な解雇がされた場合の労働者救済,という視点ですね。
例えば,解決金水準の最低ラインが低すぎると,かえって労働者に不利な制度になってしまいます。会社側が自由に使える制度になるとしたら,それも労働者保護に反してしまいますね。
第7、労働審判制度について
―出発点に立ち返りながら議論しないといけないですね。
というか,すいません,さっきから訴訟の他に労働審判っていうのが出てきてますけど,それって訴訟とは違うんですか?
以前の放送【第5回知恵袋】でも少し出てきてましたけど・・。
畠山:労働審判は訴訟とはまた違う制度ですね。
少しだけ説明すると,労働審判は,労働審判官っていう人が1名,労働審判員っていう人が2名,計3名の労働審判委員会によって審理されます。
労働審判官は,地方裁判所の裁判官が担当します。
労働審判員は,労働者側・使用者側それぞれの母体団体から選出された方が1名ずつですね。
原則3回以内の期日で解決がなされますし,多くの場合は1回目か2回目の期日で解決に至るので,申し立ててから数カ月程度で終わることもよくあります。
―ふーん,訴訟になると相当長くかかるということはよく聞きますけど,労働審判だと,わりと早く終わる可能性もあるんですね。
労働審判って,具体的にはどんなことをするんでしょうか?
畠山:解雇が有効か無効かが争われる事案であれば,通常は,話し合いによる解決が可能かどうかがまず検討されますね。
労働審判委員会が双方の言い分を聞いたり,疑問点を質問したりして,そこで得た感触を基にしつつ,金銭解決に応じる意思があるか,あるならどれくらいの金額なら応じられるかを当事者双方に聞いていきます。
―今の話だと,法廷で厳粛に手続を進める感じではなさそうですね。もう少しフランクな感じなんでしょうか。
畠山:そうですね。労働審判は,ラウンド法廷という,まるーい大きなテーブルをみんなで囲んで,非公開で審理を進めていきます。
大半のケースでは,労働審判員や審判官から,普通の会話のような感じで,事実関係などを当事者に質問したりしていきます。
逆に言うと,当事者本人にも来てもらわないといけないですね。
―なるほど。
それで,スムーズに金額の折合いがつけば,それで一件落着なんですね。
けど,金額の折合いがつかない場合はどうなるんですか?
畠山:労働審判員っていうのは,労働組合の人だったり,企業の人事担当者OBだったりして,労働問題の実際的なところに詳しい人たちなんです。
なので,そのような労働審判員と,普段は裁判官をやっている労働審判官から,解雇が有効か無効化の感触を明らかにしたり,事案の筋論みたいなものを話したりして,合意の形成が図られることもあります。
実際には,ほとんどのケースで話合いによる金銭解決がなされていますね。
どうしても話し合いがまとまらない場合は,労働審判委員会が労働審判を出します。
これに対してどちらかの当事者が異議を出すと,そのまま訴訟手続に移ってしまいます。
そうなると,解決するまで時間がかかる可能性が高まりますね。
―労働審判で充実した話し合いができれば,早い時期での解決の可能性が高まるんですね。
さて,今日は、かなり難しいお話しでしたが、解雇が無効であった場合の金銭解決について話していただきました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしまみほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士畠山大地(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士畠山大地(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年7月11日