周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
労働問題について
第2、 今週のテーマ
パワハラ・セクハラについて
第3、 目次
(1) セクハラ・パワハラとはなにか?
(2) パワハラの具体例は,どのようなものがあるか?
(3) マタハラの具体例は,どのようなものがあるか?
(4) パワハラ・マタハラへの対処法
(5) パワハラ・マタハラも証拠が大事
放送日 | 2017年7月25日 |
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ゲスト | 桑島良彰 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
パワハラ,セクハラ,マタハラ、アカハラ |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
皆様が気になる法律のことについて、札幌弁護士会所属の弁護士がズバリ答えます。
今回は,先週に引き続き,労働問題に関するお話になります。労働問題の最終週となる今回は、さまざまなハラスメント行為にについてお話を聞いていきます。
今回のゲストは、札幌弁護士会に所属の桑島良彰(くわしま よしあき)さんです。
桑島:よろしくお願いします。
―桑島さんは、以前この番組に出演されたことがありますよね。今回は2回目ということで、またよろしくお願いします。
桑島:はい、前回は、労働問題全般についてお話をさせていただきました。もう、だいぶ前のことなので皆様忘れていらっしゃるのではないかと思います。
今回は,前回のお話しを前提に具体的なお話しができればと思っています。そのため,若干飛ばしてしまってわからないところもあるかもしれません。その時には,札幌弁護士会のホームページで「第7回知恵袋」を併せて御覧ください。
―たしかに,もう2年も前の話ですもんね。過去の放送分については,ユーチューブを利用して音声でも聞くこともできますので、ぜひ、札幌弁護士会のホームページで「第7回知恵袋」もお聞き下さい。
さて、今日は、「ハラスメント」についてお話いただくことになっています。
最近、ハラスメントという名称がつくことに関する報道などが、いろいろありますよね。
第1、 セクハラ・パワハラとはなにか?
桑島:はい、そうですね。セクハラ、パワハラは皆さんよく知っていらっしゃる話だと思いますが、最近大きく話題になったのは妊娠・出産された方に対する嫌がらせであるマタニティハラスメント、いわゆるマタハラですね。このほかに、「アカデミック・ハラスメント」の略称ですが「アカハラ」などがあることも知られるようになってきました。
今日は、具体例なども挙げながらお話できればと思っています。
―美容整形外科でのマタハラは話題になりましたよね。でも、あれって珍しい話なんじゃないですか?
桑島:たしかに、そう頻繁にあることではないと思います。ただ、世の中には実にたくさんの会社があってたくさんの方が働いていらっしゃいますので、確率は低くても、あのような被害にあってしまう方は一定の数いらっしゃいます。運が悪いと,自分にも降りかかってきてしまうことかもしれない,と思っていただいたほうがいいと思います。
―やっぱりいろんなことがあるんですね。ちゃんと知っておいたほうがよさそうです。
ところで、セクハラやパワハラにあってしまったら、どうしたらいいんでしたっけ。
桑島:はい。ハラスメントについては、セクハラ、パワハラ、マタハラ等、どの類型のハラスメントでも対応は大きく変わりません。基本的には、いやなことをやめてくださいと上司に訴える、弁護士を通じて会社に訴えるなどの方法が最初の対応策となります。
それでも収まらなかった場合や,それまでに行われたハラスメントがひどい場合には,損害賠償請求を訴訟等によって行うことになるでしょう。
具体的な対処や気を付けるべき点などについては、先ほどもお話しした以前の放送(知恵袋第7回)をご確認いただければと思います。
―そういえば、そうでしたね。最終的には訴訟や労働審判で慰謝料を払ってください、と請求することになるという話には覚えがあります。
桑島:はい。ただ、ハラスメントを原因として慰謝料の支払いを求められるとしても、どのぐらいのひどさだったら請求ができるのか、というところが大事です。
そこで,今回はまず,前回もお話したパワハラの例についてお話ししたいと思います。
第2、パワハラの具体例は,どのようなものがあるか?
―パワーハラスメント、上司に理不尽に怒られるとか絶対無理なノルマを課せられるとか、職場全体で無視されるなんていう例があるんでしたっけ。
桑島:はい、その通りです。
実際にあった例としては,市役所の職員さんがパワハラを受けて,うつ病になってしまい,最終的には自殺してしまったという残念な例があります。
具体的には、上司の方が、指導内容としては間違ったことはほとんどしていないものの,人前で大声を出して感情的,高圧的かつ攻撃的に叱責したこと,その際に,部下の個性や能力に関する配慮が小さく,叱責後に一切フォローしていない,という状況でした。
―人前でガンガン怒られるのはつらいですよね。それが正論だったとしてもやり方を考えてほしいって思います。
桑島:そうですね。これに加えて,この上司の叱責は正しいものの,市役所で定められている基準を満たしているクオリティの書面がその職員さんから出てきても,もっとよくすべきだ!ということで叱っていたという事情もありました。
これらを捉えて,判決では「典型的なパワハラである」とされています。
上司から理不尽に怒られる,無理なノルマを押し付けられるという類型での典型例だとされたようです。
―えー,ちゃんとやったのに,もっとやらないとだめだといってそんな叱り方をされていたんですか。それは大変ですよね。
桑島:そうですね。前にお話しした類型の中では,上司に理不尽に怒られる,無理なノルマを与えられる,という類型になるのだと思います。
―その件はとても大変なことをされていますが,それくらい大変な場合じゃないと損害賠償請求は認められないんでしょうか。
桑島:いえ、実際には、もっと軽い場合でも損害賠償請求は認められると思います。ただ、この例については判決で「典型的なパワーハラスメント」とされているので、裁判所の考えるパワハラってこんな感じなんだな、ということをわかっていただきたくて、ご紹介しました。
―なるほど、そうなんですね。怖いですが,実際に市役所の中でもこういうことってあるんですね~。
桑島:そうですね。最終的にはどの職場でも発生しうることなんだろうと思います。
さて,パワハラについては、これぐらいにして、次にマタハラの事案を1つご紹介したいと思います。
第3、マタハラの具体例は,どのようなものがあるか?
―次はマタハラですね。どんな感じなのかとても気になります。
桑島:はい、マタハラが認められた事案としては、幼稚園の園長さんが被害者の先生に対して,中絶を示唆して働き続けるように言ったりしてハラスメント行為を行った上,最終的には妊娠したことを理由に退職を強要したという例があります。
―ええ~!? 子どもの世話をする幼稚園でマタハラがあるんですか。
桑島:今回ご紹介する例は,そうなってしまったという例になります。
この例では,幼稚園の園長が妊娠した被害者に対して,避妊も含めた自己管理ができていないとして責める発言をしていました。また,被害者に対してまだ妊娠の機会はあるのではないか,と暗に中絶することを勧めたり,このように妊娠すること自体が幼稚園の先生として未熟で間違っているなどと非難したりしました。さらに,園長は,被害者の両親を問いただしたり,妊娠の事実を外に漏らさないように同僚に指示したりもしていました。
―しかもそれで親御さんを呼び出して、怒ったりしたということでしょうか。
桑島:そういうことになりますね。どうも,被害者は,まだ結婚していない状態で妊娠したという事情があったようで,その点が園長は気にいらなかったようです。
とはいえ,妊娠した方に対して、妊娠を理由に辞めさせようとする,まして,本人が中絶したいとも言っていないのに、休暇を取らせないために中絶をほのめかすなどというのはやってはいけない話ですね。
―そうですよね。これが幼稚園という子どもの成長に大きな影響を与える職場で行われているのはびっくりしました。
桑島:ちょっと信じられないですよね。
実は,この件はこれだけで終わりませんでした。このようなことがあったので被害者は無理をして出勤してしまい,最終的に流産してしまいました。それにもかかわらず,園長は流産した被害者にさらに退職を求め,最終的には解雇しました。
―え,流産してしまったんですか。しかも,そのあと解雇までしたのですか?
桑島:はい,そのような事実関係になっています。ここも,ちょっと信じがたいですよね。でも,判決で認められている以上,おそらく本当なんですよね・・・。
この件については,裁判所も不法行為が成立するとして,損害賠償請求を認めています。また,実は妊娠を理由にこの被害者をクビにしていたのですが,解雇についても無効だという結論となっています。
―それは当然ですよね。
桑島:はい。また,この例は,実は平成14年,いまから15年前に判決がなされています。
つまり,マタハラ自体は以前からずっとあったということだと思います。単純にそのような名前がついていなかっただけ,ということですね。
この時期にも男女雇用機会均等法はありましたので,判決ではハラスメントという言葉ではなく,男女雇用機会均等法に反する行為,とされています。
―たしかに,昔は寿退社が当然といわれる,みたいな話もあったと聞いたことがあります。
桑島:そんな時代もあったと聞きますね。今はさすがにそこまでいう会社はないでしょうが,やはりおかしなことをいう会社や上司はいつの時代でもあるものです。
マタハラについては女性であればだれもが直面する可能性のある問題ですので,気を付けていただければと思います。
第4、 パワハラ・マタハラへの対処法
―はい。ところで,当然,ここまでやられないと慰謝料がもらえないって話ではないですよね?
桑島:それは当然ですね。
マタハラにあたりうるのは,この例にあるように妊娠を理由として退職を求めるとか,あるいは,中絶を求めるとか,そういった行為だということだと思ってください。ここまでひどい事件になってしまっているなら,弁護士に頼んで相手を訴えるべきだと思います。
―たしかに,ここまでされたらそのように対応しないとだめですよね。
さて,ここまで2つの例を教えてもらえましたが,そろそろお時間のようです。最後にまとめていただけますでしょうか。
桑島:最近,パワハラやマタハラの相談は増えていると感じています。今日ご紹介したような例の一部に当てはまる状況であれば,弁護士にご相談いただければと思います。
ただ,やはりハラスメントのご相談にあたってはご本人の受け取り方の問題があります。とてもお辛いのはわかるのですが,裁判所に持ち込んだときには,賠償を認めるほどとまではいえないと言われてしまう,というアドバイスをせざるを得ない程度のこともあるので,この点はご理解いただければと思います。
―やっぱり多くなっているんですね。たしかに,自分がやられるととってもつらい分,冷静に判断ができないかもしれません。
第5、 パワハラ・マタハラも証拠が大事
桑島:はい,そういう例はありえるところです。
また,どうしてもハラスメントは密室で行われることが多く,証拠がないことが多いです。ハラスメントで訴えようとする場合には,対話の状況を録音するなどして,証拠を集めることも心がけていただく必要があります。
証拠が充実しているか、という点も,最終的に訴訟等を行うにあたっては大きなポイントになりますので,第7回の知恵袋も確認いただいて,対応していただければと思います。
それ以前に,まずはつらかったら弁護士に相談する,というのも手だと思います。
―はい,わかりました。さて,今回は,ハラスメントについて,札幌弁護士会の桑島良彰さんにお話しいただきました。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方,前回の放送を確認したいという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記、弁護士髙橋健太、弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士桑島良彰(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵里、弁護士山田敬純、弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年7月25日