周波数 | 三角山放送局 76.2MHz「トークinクローゼット」内コーナー |
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放送時間 | 毎週火曜日 AM 9:15~ |
個人情報の保護について
第2、目次
(1)個人情報の保護というテーマが選ばれた理由について
(2)個人情報保護法の概略について
(3)個人情報とは?
放送日 | 2017年11月7日 |
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ゲスト | 大野昇平 弁護士 |
今週の放送 キーワード |
個人情報保護法、概要、法改正、個人情報、個人識別符合、個人情報取扱事業者 |
―はい、今週も「札幌弁護士会の知恵袋」の時間がやって参りました。
札幌弁護士会の法律相談に寄せられる皆様の質問に、弁護士がズバリ答えます。
毎週火曜日の午前9時15分から15分間、役立つ情報を月替わりのテーマで放送します。
今月は「個人情報の保護について」というテーマで放送します。ゲストは、札幌弁護士会所属の大野昇平さんです。
大野:よろしくお願いします。
―大野さんは今回初出演ということで、簡単に自己紹介をお願いします。
大野:はい、札幌弁護士会に所属しております弁護士の大野昇平と申します。今年から札幌弁護士会の広報委員会に所属している関係で、この番組へ出演させて頂くことになりました。今月は私と、広報委員会の先輩弁護士である川島英雄先生の二人で担当させて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。
―よろしくお願いいたします。
第1、個人情報の保護というテーマが選ばれた理由について
―では、早速ですが、本題に入っていきたいと思います。今月のテーマは、個人情報の保護についてということですが、このテーマが選ばれたということは、法律相談の中で個人情報の保護に関する相談が多いからなのでしょうか。
大野:あくまで私について言えば、個人情報の取り扱いを中心にした法律相談を受けることはあまり多くはありません。たまに、顧問先の医療機関から個人情報にかかる情報について開示を求められたがどのように対応したらよいか相談を受けたり、契約書の中で個人情報保護について条項を入れるときに意識することがある程度で、実はあまり扱うことが多くはないですね。
―他の弁護士の方についても、個人情報保護に関する相談は少ない傾向にあるのでしょうか。
大野:弁護士によっては多く相談を受けているということもあるかもしれませんので、このテーマのもう一人の担当者である川島先生には、川島先生が担当する回で聞いてみてください。
―分かりました。川島先生にはその機会に伺うとして、少なくとも大野さんはそれ程接することが多くない分野なのですね。では、なぜ今回このテーマを選ばれたのでしょうか。
大野:個人情報の取り扱いに関しての法律といえば、「個人情報保護法」という法律を皆さん一度は耳にしたことがあると思います。正式な名称は、「個人情報の保護に関する法律」というものです。田島さんも聞いたことはありますよね。
―そうですね。個人情報保護法という名称は何度も聞いたことがありますね。
大野:この個人情報保護法は、2003年(平成15年)に制定された比較的新しい法律ですが、2015年に初めて大きな改正がなされ、その改正法が今年の5月30日に全面施行されました。その意味で、個人情報保護法が改めて注目されている時期にあると考えられるため、個人情報保護法という法律について、今回の改正内容にも少し触れつつ、取り上げることにしました。
―なるほど。改正によって注目されている時期であることから、取り上げてみようということですね。
大野:はい。ただ、実際には、先ほど個人情報保護に関する法律相談を受けることがそれ程多くないと言ったことにも関連するんですが、この番組を担当するというお話があった際に、どうせなら少し時間を取って勉強してみようという気持ちもあって、自分のためにテーマ設定をした面が強いかもしれません。こんなこと言ってよいのかわからないですけど。
―正直なお答えですね。でも、確かに個人情報保護法という名称はよく耳にしますが、その中にどのようなことが定められているかは知らないですね。一言で言うのも難しいとは思うのですが、一言で言うとどういうことを定めた法律なのでしょうか。
第2、個人情報保護法の概略について
大野:確かに、一言で述べるのは大変難しいのですが、法律の概略を知りたい場合には、その法律の第1条を読めば理解できることになっていますので、少し長いですが、読んでみます。
―はい。お願いします。
大野:第1条は、「この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに」とここで一旦切りましょうか。
―まだ続くのですね。
大野:はい、まだ半分くらいです。今読んだ部分から、この法律は個人情報の取扱いについての基本的な事柄を定めるもので、それに関する国や地方公共団体の責任についても規定しているということが分かりますね。
―内容はまでは、分かりませんが、どうやらそのようなことが定められているようですね。
大野:ええ。そこまで確認した上で、続きを読みますが、「個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」という内容になっています。
―長いですし、耳で聞いただけでは分かりにくく感じます。
大野:そうですよね。
一つの大きなポイントは、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としている部分だと思います。要するに、個人情報保護法を一言で言えば、個人情報を取り扱う事業者が守らなければならない義務を定めているということになります。
―個人情報を取り扱う事業者というのは、会社や先ほどお話されていた医療機関とかのことでしょうか。
大野:その通りです。ただ、少しややこしいのですが、正確に言えば医療機関はその運営主体がどこかによって個人情報保護法ではない法律が適用される場面が出てきます。
―どういうことでしょうか。
大野:医療機関は、民間のものもあれば、市立や県立といった地方自治体の運営するものもありますし、独立行政法人が運営するものもありますよね。個人情報保護法の一部の規定は運営主体の違いに影響を受けず全てに適用されますが、情報を扱う事業者の義務を定めている中核部分について言えば、民間が運営するものにしか適用されないことになっているんです。
―そうすると、民間以外の事業者には個人情報保護に関する義務は課せられていないのですか。
大野:いえ、もちろん、その場合の対応はされています。地方自治体が運営する場合には、その地方の個人情報保護条例の対象となりますし、独立行政法人が運営するものであれば、独立行政法人向けの個人情報保護法が適用されるということで、義務を課せられる対象によってそれぞれ異なる規律が適用されるという複雑な構造になっています。
―そうなのですね。ということは、個人情報保護法は個人情報を取り扱う民間企業の遵守すべき義務を定めたものと理解すればよいのですね。
大野:先ほど述べたように、一部の規定は官民問わず適用されるのでややこしいのですが、基本的にはそのように理解して頂いて構わないと思います。この点について詳しくは次回の放送で触れたいと思っています。
―そうですか。ところで、私たちも普段、個人情報という言葉を使いますが、どこまでの範囲の情報が個人情報に含まれるのか、その点は明確に定められているのでしょうか。
第3、個人情報とは?
大野:明確に定められていてほしいのですが、残念ながら、これも明確ではないんですよね。
個人情報保護法の第2条に「個人情報」の定義が定められているのですが、生存する個人に関する情報であることが前提で、一つは、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等によって特定の個人を識別することができるもの、もう一つは、個人識別符合が含まれるもの、とされています。
―これも、条文だけだとよく分かりませんね。具体的に説明して頂けますか。
大野:はい。
まず、個人情報保護法の対象となる個人情報は、生存している個人に関するものである必要があるということで、例えば、亡くなった方の訃報として、新聞によっては、その方の経歴等を詳しく紹介する場合がありますよね。
―はい、かなり詳しく紹介されているのを見たことがありますね。
大野:そこでは氏名・生年月日はもちろん経歴等も記載されることで特定の個人を識別できるため、個人情報に該当するはずなのですが、生存している方の情報ではないため、個人情報保護法上は個人情報にはならないのです。
―なるほど、これは分かりやすいですね。それから、先ほどの個人情報の定義の中で聞き慣れない言葉があったと思うのですが、何とか符合・・・。
大野:個人識別符合のことですね。
―ああ、それです、個人識別符合。難しい言葉ですね。
大野:はい。
この個人識別符合の定義は今回の改正法で新設されたものです。まず、符合とは、文字や番号、記号のことを指していますが、これはすんなり分かりますよね。
―はい、符合という言葉から想像できます。
大野:その上で、個人識別符合は大きく二つに分けられています。一つは、DNAを構成する塩基配列や人の容貌、指紋といった人の身体の特徴を、コンピュターで用いるために変換した符合のことで、例えば、人の容貌について言うと、最近普及している人の顔の認証装置に用いるために、顔の骨格や皮膚の色、目・鼻・口等の位置・形状から抽出した特徴に関する情報がこれに該当することになります。
―確かに、顔認証装置に含まれている情報を利用すれば、誰がどこにいついたのかを把握することも可能でしょうから、個人情報として保護してほしい気持ちになりますね。
大野:そうですよね。
次に、個人識別符合の二つめの類型ですが、これは分かりやすくて、例えばパスポートの番号や運転免許証の番号、マイナンバーといった個人ごとに割り当てられている符合を含む情報のことです。
―確かに、それらの公的な書類に記載されている情報が勝手に利用されたら大変なことになることは容易に想像できますね。
ここまで伺って、先ほど大野さんは個人情報の意義について明確に規定されているわけではないと仰っていましたが、明確に定められているように思いますが。
大野:確かに今述べたところからすると、個人情報に該当するかどうかは明確に思われるかもしれませんが、難しいのは、特定の個人を識別することができるものかどうかの判断に関して、「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるもの」も特定の個人を識別することができるものに含まれ、個人情報に該当するという点です。
―具体的にはどのようなことでしょうか。
大野:例えば、ある会社が多くの社員について効率的に管理できるように社員番号をそれぞれの社員に付しているとします。その場合、社員番号のみをまとめた書類だけを見ると氏名も生年月日もその他の情報も出ていないのですから、特定の個人を特定することはできないのは明らかです。
―そうですね。
大野:しかし、その社員番号の羅列された書類と、別に用意されている社員の氏名やその他の情報が記載された台帳とを付き合わせることができるとしたらどうでしょうか。
―二つを合わせれば、社員番号も特定の個人を特定できる情報といえそうですね。
大野:二つの書類を照合できる環境にある人にとってはそうですよね。
このように、保有する情報に接することができる人物の存否や、情報にアクセスするためのセキュリティがどのように構築されているか、あるいは、当該情報の内容や利活用の方法等を検討しなければ、個人情報に該当するのかどうか判断できないという側面があるので、明確に定められているわけではないということです。
―そもそも個人情報に該当するかどうかについて判断するのでも大変ということなのですね。
さて、本日の札幌弁護士会の知恵袋は以上になります。
今回は、個人情報保護法の適用対象となる個人情報の範囲を中心にお話頂きましたが、次回は今回に引き続き大野昇平弁護士を迎えて、個人情報保護法についてお話頂きたいと思います。
札幌弁護士会の知恵袋は、札幌弁護士会のホームページで過去の放送分をテキストで見ることができます。また、音声でも聞くことができます。今日の放送で聞き漏らした部分があるという方はぜひチェックしてください。
進行は田島美穂(たしま みほ)でした。
制作・著作
<エグゼクティブプロデューサー>
弁護士坂口唯彦(札幌弁護士会)
<プロデューサー>
弁護士北山祐記,弁護士髙橋健太,弁護士村本耕大(札幌弁護士会)
杉澤洋輝(三角山放送局)
<脚本>
弁護士大野昇平(札幌弁護士会)
<出演>
番組MC 田島美穂(三角山放送局)
ゲスト 弁護士大野昇平(札幌弁護士会)
<監修>
弁護士上田絵理,弁護士山田敬純,弁護士佐藤敬治(札幌弁護士会)
<初回オンエア>
平成29年11月7日