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2013/09/12

「法教育シンポジウムin札幌」開催の報告(その2)

法教育委員会

「法教育シンポジウムin札幌」開催の報告(その1)へ

平成25年8月25日、北海道経済センターにおいて、標記シンポジウムが開催されました。 「法教育シンポジウム」とは、法テラスが、法教育の更なる普及を図るため一昨年度から開催しているものであり、今年度は、札幌市において初めて開催されました。当会も主催団体の1つであり、法教育委員会でもプロジェクトチームを立ち上げて臨みましたので、報告いたします(3回にわけてご紹介します)。

法教育実践報告

札幌弁護士会によるジュニアロースクールの取り組み <報告者>
長尾美保子氏(札幌市立琴似中学校教諭)
小川和晃氏(札幌弁護士会教育委員会委員、弁護士)

「ジュニアロースクール札幌」は、北海道内の高校生の参加を募り、教員と弁護士とで授業と模擬裁判を実施しているもので、昨年度で9回目の開催となりました。長尾先生と小川委員は、昨年度のジュニアロースクールで婚約破棄をテーマにした授業を担当しました。

まず、小川委員から、授業風景を上映しながら、授業内容について解説がなされました。

授業で扱われた事案は、高校生の頃から交際している男女がおり、男性が、司法試験合格を目指して東京の大学に進学し、遠距離恋愛となってしまった、結婚の約束もしていたが、男性はロースクール在学中に他の女性と恋に落ちてしまい、交際している女性に別れを切り出す・・・というものでした。

授業の構成の前半は、まず、生徒たちに第一印象をワークシートに記入してもらい、発表してもらった後、グループに分けてグループごとに登場人物の役割を割り当て、グループ内で討論してもらいます。その後、グループごとに言い分を発表し、さらに、他のグループの言い分に反論をし、議論を深める、というものでした。

上映された授業風景を見ると、生徒たちは、登場人物になりきって、情感たっぷりに「今まで高校卒業してからの6年間の青春を返して。大学院まで支えてきたのは誰か思い出して。」(別れを切り出された女性役の男子生徒)、「大学院で直接一緒に過ごした自分の方が彼のことをよく知っている。」(大学院で出会った女性役の女子生徒)、などと役になりきって議論をしており、楽しんで取り組んでいる様子が伝わってきました。

生徒たちの議論の後は、小川委員による講義が行われていました。小川委員としては、生徒たちには、当事者の立場に立ち、特に別れを切り出された女性の立場に立って、約束を守られなかった人に生じる不利益を考えることで約束は守らなければならないということを感じて欲しかった、他方で、結婚は当事者の意思が尊重されなければならない、ということを知って欲しかった、と講義の際に意識していたことを説明しました。

そして、講義の後、グループごとに、男性は女性に対し婚約破棄について損害賠償をすべきか否かを議論してもらい、自分の感覚で考えてもうらように促したそうです。ここでも、「けじめつけるために払うべき。」「そもそも、この二人は婚約したとまではいえないのではないか。」など、生徒たちは、登場人物たちの立場に配慮し、自分なりに考えをもって発表を行っていたということでした。

最後に、小川委員から生徒たちに対し、婚約破棄についての裁判実務を紹介しました。生徒たちの議論の中では、損害賠償すべきという意見が圧倒的に多かったそうですが、裁判例の傾向からすれば、「婚約」といえるような確実な合意には至っていないと裁判所が判断する可能性がある、と教えたところ、生徒たちは驚いた反応を見せていたそうです。小川委員は、ご自身の解説を聞いて「損害賠償認められないの?」と感じた感覚や、グループで討論した時の自分の価値観も大切にして欲しいということを生徒たちに伝えて、授業を終了したということでした。

授業後のアンケートでは、参加した生徒全員が面白かったと回答し、視野が広がったという感想もあったそうです。小川委員は、自分の意見をもつこと、他の人の意見を聴くこと、議論することの大切さを知ってもらい、楽しみながら考えてもらいたいという目標をもってジュニアロースクールに臨んだとのことでしたが、その目標がまさに達成されたのではないでしょうか。上映された授業中の生徒たちの表情を見ていて、強く感じました。

今回の授業では、長尾先生の発案で婚約破棄をテーマとすることになったそうですが、長尾先生からは、恋愛のようなテーマなら、子どもたちが行き詰って、自分で考えることを放棄してしまう事態を避けられるだろうと考え選択したとのお話がありました。また、ロールプレイング型にしたことで、生徒たちが他の人の立場になって議論をする中で自分の意見をまとめていくこともできたのではないかと評価されていました。

長尾先生は、ご自身が授業担当者としてジュニアロースクールに参加することとなった経緯について、一昨年前から参加した法教育研究協議会で弁護士会の熱意に触れ、どのような子を育てたいか、ということを弁護士と話合うことは楽しいと感じたと説明されました。長尾先生には、かねてから、授業をとおして「子供の目がキラっと光る瞬間」を見たい、という思いがあり、今回、教員と弁護士のコラボレーションでそれを実現できた、心を開きあって本音を語り合って、いい時間だったなと子供たちが思える取り組みにかかわることができてよかったと感じたそうです。

法的な価値づけについては弁護士に任せられたので、安心して授業について意見出すことができた、ともおっしゃっていました。

弁護士による学校での法教育出前授業 <報告者>
渡辺真氏(北海道札幌月寒高等学校教諭)
石塚慶如氏(札幌弁護士会法教育委員会委員、弁護士)

法教育出前授業とは、学校から法教育についての授業をやって欲しいというオーダーを受け、その学校で授業を行うものです。昨年度、北海道札幌月寒高等学校で実施されました。

渡辺先生からは、自分は、どのように生きていったらよいかを自分で考えるよう丸投げされた世代であり、そのような考えについて学校で教育しなければならないのか、という思いもあり、法教育についての印象は、マイナスからのスタートであったとのお話がありました。そのような中で法教育の出前授業を弁護士に依頼したきっかけは、総合的な学習の時間で扱うテーマを社会科教員であるご自身と国語科の教員とで考えていた際に、法教育の授業であれば、教科横断的な授業実践が可能になるのではないか、例えば、架空の事件を設定して判決文を生徒に書かせれば、論理的思考、文章化の力の鍛錬になり現代文の学習に役立つのではないか、さらに、法的知識、憲法の知識が身につけば、社会科の学習としてもよいのではないか、という話が持ち上がったことにあるそうです。

第1回の出前授業は、2年生を対象に、表現の自由をテーマに、原発反対運動のために、ビラ禁止の貼り紙のあるマンションの各部屋の新聞受けにビラを入れたという事案を設定し、ビラまきとその規制についてディスカッションを行うという形で行われました。

表現の自由は憲法上非常に重要な権利であるにもかかわらず、高校生は表現の受け手になることが多く、自身が発信者になることをイメージしづらいことから、テーマとして選択したと説明されました。

事案を分かりやすくするよう、写真やセリフ入りの絵コンテを配布する工夫がなされていました。

また、ディスカッションは、「なぜビラまきをしたのでしょうか?」などと弁護士が質問し、生徒たちが意見を出し合うという形で実施され「何が正しいか」ではなく「どのように考えたらよいか」を主眼とした質問をするよう、意識されたそうです。

第2回の出前授業は、1年生を対象として実施され、テーマは「平等」でした。生徒たちに、不平等だと思うものを挙げてもらい、その中で、許せるもの、許せないものを分類するというディスカッションを行い、許されるか否かの違いを考えてもらった上で、差別をなくすためにはどうしたらよいかを更にディスカッションするという構成で行われました。

生徒たちは、どうしたら差別をなくすことができるか、という難しい問題について正面から向き合い、「問題を知ることから始めなければならない。」「差別をしてはいけないという意識生活することにより何かが変わるのではないか。」など意見を出し合っていたそうです。

渡辺先生曰く、出前授業は、一方的ではなく、2人の弁護士と約40人の生徒たちの間で双方向的に行われたということで、生徒たちの評判は良かったとのことでした。

今後の法教育授業のあり方としては、生きる力を育むために、自分のクラスや科目という枠を超えて一つのものを作り上げていくのがよいのではないか、生徒たちは至るところでルールに触れて生活しているので、法を当たり前に身近に転がっている問題として取り上げられるとよいのではないか、また、そのルールは誰が作ったのか、「守りなさい。」と言われるルールの作成に生徒がどのように関わったのかが学校内でもっと大事にされるべきではないか、との提案がありました。

石塚委員は、全国で同じような教育受けられるようにすることの必要性と、「対立と合意、効率と公正」という中学校で指導される法教育の概念と「幸福、正義、公正」という高校で指導される法教育の概念を断続させないよう成長過程に合わせて連続的な教材の提示をすることの必要性を指摘しました。今後は、全国どこででも、広範囲で利用可能な、そして授業を行う教員の負担がなるべく少なく済み、かつ、学習効果が上がるような教材の作成が必要であると説明されました。

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