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2018/11/28

死刑制度に関する会内勉強会第5弾実施報告
裁判員裁判の下での死刑弁護 -量刑誤判から死刑を考える-

死刑廃止検討委員会

第1 はじめに

 2018年9月4日(火)18時から約2時間にわたって、弁護士会館において、死刑制度に関する会内勉強会第5弾を実施いたしました。
 当委員会では、札幌弁護士会による、今年度内における、死刑制度の廃止を求める決議を採択することを目指しており、死刑制度に関する会内の議論をさらに盛り上げるべく、連続した勉強会等を企画しており、今回は会内勉強会の第5弾となります。

第2 勉強会について

  1.  今回の会内勉強会は、白鴎大学法学部教授の村岡啓一先生をお招きして、「裁判員裁判の下での死刑弁護―量刑誤判から死刑を考える―」をテーマにご講演いただきました。
     村岡先生は28期で、以前、当会に所属されており、実際に死刑事件の弁護も担当されております(「道庁職員夫婦強盗殺人事件」)。
     今回、台風21号が本州に上陸し、来札が危ぶまれましたが、幸い、村岡先生が乗られた飛行機は順調に運航し、今回の勉強会を実施することが出来ました。
  2.  死刑廃止を求める大きな理由の一つとして、「誤判」が挙げられています。
     誤判というと、多くの人は、いわゆる「えん罪」が頭に浮かぶのではないでしょうか。もちろん、事実認定を誤り、無実の人間が死刑に処せられることは絶対に許されることではありませんが、これに対しては、死刑存置派から、「目撃者が多数いる現行犯の場合など、絶対にえん罪の可能性がない死刑相当事件もあるのではないか。」との指摘がなされています。
     しかし、誤判とは、必ずしもえん罪のみではなく、いわゆる「量刑誤判」も含まれるのです。事実関係には争いが無いものの、様々な情状から、死刑を科すことが相当では無い事件について、死刑判断がされてしまうこと、これも明らかな誤判であり、このような量刑誤判の可能性がある以上、やはり死刑は廃止すべきではないでしょうか。
     今回の村岡先生のご講演は、このような観点から、死刑事件と量刑誤判について論じていただきました。
  3.  前半は、死刑が求刑された裁判員裁判の判決結果から、死刑と無期懲役刑との分岐点についてご講演をいただきました。
     我が国の刑事裁判においては、量刑の判断にあたって、行為責任主義ないし犯情主義が採られており、犯情(行為事情)が重視され、一般情状(行為者事情)が軽視されているのが現状であり、一般情状事実が争点化されない傾向があるとのことでした。
     死刑求刑事件においても同様であり、日本の刑事手続きにおいては、最初に死刑求刑事件であることが明らかにされないことから、被告人のライフストーリーが争点化されないまま審理が進められてしまっているとの指摘がございました。
     その結果、裁判員裁判における死刑か無期懲役かの分岐点は「犯情」にあり、一般情状は死刑回避の事情として機能していない、それどころか、死刑判決の判決文を読むと、逆に死刑を補強する事情として、被告人に不利な一般情状を付加しているように読めるとのことでした。
     平成27年の最高裁判決により、一審の裁判員裁判による死刑判決を破棄した高裁判決が支持され、死刑を回避する裁判員裁判や、死刑を破棄した高裁判決の増加が見られるものの、これらも結局は「犯情」に着目した判断であり、必ずしも行為者事情に着目したものでは無いとの現状が示されました。
     もっとも、村岡先生によると、判決書の表面ではなく、一枚めくったその下に希望があるのではないか、一般情状も判断の根拠、死刑回避の根拠に使われているのではないかとの意見を持っておられ、犯情中心の弁護から、行為者事情中心の弁護への転換を考えるべきとの指摘がございました。
  4.  事実関係に争いが無い事件において、量刑上、死刑か、無期懲役かを判断するにあたっては、明確な基準が示されているわけではなく、死刑と無期懲役の間のグラデーションを犯情で区別すると、量刑誤判が生じる可能性が否定できないことから、量刑誤判を防ぐためには、「行為主義→行為者主義」へ変わるべきであり、そのヒントとして、行為者主義へと変わったアメリカの現状について、後半のご講演をいただきました。
  5.  アメリカでも、死刑の存置、廃止を巡っては古くから争いがあり、死刑という刑罰は、合衆国憲法修正14条「デュープロセス」条項や、修正8条「残虐で異常な刑罰」にあたり違憲ではないかとの議論がされてきました。
     アメリカ連邦最高裁判所も、死刑について、合憲→違憲→合憲と判断を変えたり、また、州によって死刑存置や廃止に分かれており、アメリカにおいても、死刑廃止については国民の議論も含め、揺れ動いています。
     そして、アメリカでは、弁護士団体が、「恣意的な刑罰」や「過剰な刑罰」も、「残虐で異常な刑罰」にあたり違憲であると主張してきた結果、死刑存置州においても、極めて慎重な手続が取られているとのことでした。具体的には、死刑の減刑につながりうる証拠は事実上提出が無制限とされており、その反面、弁護人には、広範かつ多様な減刑証拠の調査義務が課され、かかる義務懈怠は効果的弁護が存在しなかったとして、判決の破棄事由になっているとのことでした。
     その制度的担保として、死刑弁護はチームで行い、減軽事由の調査を「減刑スペシャリスト」が担うこととされ、被告人の社会履歴や生活史などについて、3世代遡って調査するなど、行為者事情の徹底した調査が行われているとのことでした。
     そして、その弁護チームの費用については、それぞれの州が予算をつけないといけないため、死刑には多大なコストがかかることとなり、結果的に、死刑を廃止する州も出てきているとのことでした。
     このように、量刑誤判を防ぐために慎重な手続きを課すことは、結果的に死刑廃止につながりうるものであり、量刑誤判からの死刑廃止という、一つのアプローチが示されました。
  6. 第3 おわりに

     今回の村岡先生のご講演は、死刑廃止をテーマとしながらも、行為主義から行為者主義への情状弁護といった、刑事弁護全般につながる内容であり、大変勉強になるものでした。
     また、死刑事件における手厚い手続保障を求めることは、死刑存置につながるのではないかという疑問についても、手続保障にかかるコストが、結果的に死刑廃止につながっているとのことであり、死刑廃止に向けた一つのアプローチを示していただきました。

以上