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2018/11/28

死刑制度に関する会内勉強会第2弾
「アメリカの死刑を通じて考える日本の死刑」
実施報告

死刑廃止検討委員会

第1 はじめに

 当委員会は、2018年2月15日(木)18時から約2時間にわたって、教育文化会館403会議室において、「アメリカの死刑を通じて考える日本の死刑」と題する会内勉強会を実施いたしました。
 これは、日弁連が、2016年10月の福井の人権擁護大会において、2020年までに死刑制度廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言をしたことを受けて、当委員会でも死刑廃止総会決議を目指すこととし、そのための会内の議論を活発化させるべく企画した会内勉強会の第2弾です(第1弾は2017年11月30日に日弁連死刑廃止実現本部から弁護士の講師を招いて実施済みです)。

第2 講演について

 外部講師として田鎖麻衣子弁護士及び笹倉香奈教授の2人をお呼びして、それぞれ講演をしていただきました。

  1. 「運用から考える日本の死刑」
     日弁連死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部委員の田鎖麻衣子弁護士は、長年にわたって刑務所や拘置所に収容された人々の処遇の問題に関わり、死刑事件の弁護や死刑廃止運動にも携わってこられた方で、NPO法人監獄人権センターの事務局長や一橋大学の非常勤講師も務めておられます。
     標記の題名の講演では、殺人(未遂含む)被疑事件の約7割が不起訴で処理されていること、その理由として、嫌疑なし、嫌疑不十分、心神喪失などの他に親族間事案が多い(5割以上)ことが考えられること、親族間事案の場合、被害者遺族の多くは加害者遺族でもあり、それゆえ処罰感情が強くない場合も多いといった特殊性があること、などについての指摘がなされました。また、死刑確定者のうちどのような人が死刑執行されたのかについての情報がないことの指摘や、さらには、50年前の死刑に関する世論調査と比べると被害者・被害者遺族の被害感情の尊重や凶悪犯罪は許されるべきではないという理由で死刑に賛成する割合が増えているが、50年前に比べると死刑執行人数も大きく減少し、しかも親族間事案が増えてきている現状との関係からすると、前提としての死刑制度の存置を判断する基になる情報が十分に公表されていないのではないか、といった疑問が投げかけられました。
  2. 「死刑事件の手続保障について」
     甲南大学法学部の笹倉香奈教授は、刑事訴訟法の中でも冤罪、死刑・終身刑、科学的証拠などについて深く研究されていて、日本版イノセンス・プロジェクト「えん罪救済センター」の副代表や児童虐待(特に揺さぶられっ子症候群)と冤罪の問題に関連して「SBS検証プロジェクト」の共同代表も務めておられます。
     標記の題名の講演では、内閣府実施の世論調査において、死刑制度について死刑もやむを得ないと答えたもののうち約4割は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と答えていること、約3割7分が「仮釈放の無い終身刑が導入されれば死刑を廃止するのがよい」と答えていることなど、必ずしも世論の大半が死刑制度に諸手を挙げて賛成しているわけでは無いことが世論調査からも見えてくることの指摘がなされました。また、刑事研究者や実務家の間で死刑が特別な刑罰であること(生命を奪う不可逆的な刑罰であること)に鑑み死刑事件の「手続」に注目した議論が潮流になりつつあること、現行法の下では死刑事件についてほとんど手続上の考慮がないことなどの指摘がなされました。その上で、アメリカにおいて、死刑事件について適正手続がより手厚く保障されている状況(例えば、事実審理と量刑審理を分離して事実認定だけでは無く量刑についても誤判を防ぐようにしていること、一般情状についても広範な証拠調べをしていること、自動的な直接上訴制度など)についての説明がなされ、裁判員制度により一層死刑手続の適正さを確保する必要性が増していることについて指摘がなされました。

第3 パネルディスカッション

 講演の後は、清水彰副委員長をコーディネーターとして、2人の講師とパネルディスカッションを行いました。
 現在の死刑制度が、殺人事件の例で、起訴率3割、死刑になるのはさらにごく一部、死刑が確定してもいつ執行されるか分からず自然死も多い現状で、そもそも被害者感情の慰撫にどの程度寄与しているのか、適用基準や執行基準も明らかでは無く、被害者側からしても現状は問題だらけなのではないかといった点について議論が交わされました。
 また、死刑についてより慎重な手続を取り入れるといっても、行為責任主義、犯情が中心で一般情状は調整要素にすぎない日本の刑事裁判の現状では、量刑審理を分離しても意味が無いのではないか、なぜアメリカでは上手くいっているのかについて、人間の尊厳に敬意を払う視点の違いから適正手続保障に差が生じているのではないかといった点についても議論が交わされました。
 その後、会場からの質問を受けて、日本で死刑制度について議論が少ないことについて、情報の少なさや個の尊重の観点が弱いことなど、社会の根本的な考え方を変えていく必要のあることなどが述べられました。

第4 おわりに

 今回は会内勉強会とはいっても、死刑問題に関する第一人者である両先生を講師にお招きしたということで、当委員会と定期的な交流を始めた真宗大谷派の死刑制度問題班の方々や、声掛けをしたマスコミの方々にも参加をいただきました。
 今後も、会内議論を活発化しより深めていくために、会内勉強会等を企画しています。死刑の存置・廃止の立場に関わらず、ご参加いただきたいと思います。

以上