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日本人の8割以上が利用しているといわれるSNS(インターネット上の交流サイト)。友人同士や同じ趣味の仲間とつながりを持ち、気軽な交流を楽しんでいる方も多いことでしょう。しかしその一方、SNSの匿名性を悪用した誹謗中傷トラブルも少なくありません。万が一顔が見えない相手から誹謗中傷を受けてしまった場合、どのように対応すべきなのでしょうか。SNS時代の今こそ知っておきたい誹謗中傷対策について解説します。
どんな書き込みが「誹謗中傷」にあたるのか?
「誹謗中傷」とは、根拠のない悪口やデマを言いふらして特定の個人を傷つける行為を指します。正義感や義憤から「批判」をしたつもりでも、相手を貶めたり、社会的・精神的なダメージを負わせる発言は誹謗中傷と捉えられます。
インターネット上の誹謗中傷を放置しておくと、リツイート(再投稿)などによって拡散され、事実とは異なる憶測が広まって就職や結婚などに悪影響を及ぼしたり、自分だけでなく家族にも被害が及ぶ可能性もあります。
誹謗中傷の内容によっては刑事事件として警察に通報したり、民事事件として損害賠償訴訟を起こすことも可能です。
刑事事件になる誹謗中傷
- 名誉毀損(刑法230条1項)
- 侮辱罪(刑法231条)
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条前段、後段)
民事事件になる誹謗中傷
- プライバシー侵害
- 名誉棄損
刑事事件になる誹謗中傷
●名誉毀損(刑法230条1項)
不特定多数に対して、事実を示して相手の社会的評価を低下させる発言を書き込むこと。
「事実」とは、それが真実か否かに関わらず、客観的に見て相手の社会的評価を低下させるものであれば名誉毀損にあたります。
「A社の○○社長は反社会的勢力とつながりがある」
「□□部長と△△さんは不倫している」 など
●侮辱罪(刑法231条)
不特定多数に対して、事実を示さない抽象的な表現であっても、相手を侮辱する内容を書き込むこと。
従来の侮辱罪は極めて軽い刑罰でしたが、SNSの執拗な攻撃に耐えかねた被害者が自ら命を絶つ事件も起こるほどの深刻な状況を踏まえ、2022年7月より懲役刑(1年以内)、罰金刑(30万円以下)が課されるようになる形で厳罰化されました。
「ブス」「バカ」「死ね」「キモい」など
●信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条前段、後段)
会社や飲食店などの口コミサイトに嘘を書き込み、信用を低下させたり、業務を妨害すること。近年は新型コロナウイルスに関するデマで医療関係者や飲食店が被害を受けるケースも見られます。
「B社の商品には虫が混入している」
「Cクリニックはヤブ医者」
「D店の店員はコロナに感染している」 など
民事事件になる誹謗中傷
●プライバシー侵害
個人情報を相手の同意なく勝手に公開すること。プライバシー侵害には刑事罰がありませんが、不法行為(民法709条)として認められれば損害賠償請求ができます。
個人の名前や住所、電話番号、私生活情報をSNSや掲示板に書き込む
個人を特定できる写真を公開する
前科に関する事実を公表する など
●名誉棄損
誹謗中傷はどんなところで起きるのか?
匿名で投稿できるサイトは誹謗中傷が起こりやすい
匿名で投稿できる掲示板サイトや投稿サイト、ニュースサイトや地図サイトのコメント欄などは、誹謗中傷トラブルが後を絶ちません。特定の個人への悪口やプライバシーに関わる個人情報を拡散したり、会社やお店の信用失墜につながる悪評を書き込む事例が多く見られます。
最近は、Twitterで他人の中傷投稿に「いいね!」を付けたり、リツイート(再投稿)して拡散する行為も名誉毀損にあたると認定した裁判例がでるなど話題になりました。
写真や動画の不用意な公開がトラブルに発展することも
写真・動画系SNSでは、個人を特定できる写真や動画をアップする、コメント欄に嫌がらせを書き込むといったトラブルが多く見られます。
子連れの集まりで撮影した写真を 写真投稿型SNSにアップしたら「子どもが写っている写真を勝手に公開した」としてトラブルに発展したというケースも少なくありません。
偽アカウントによるなりすまし、無料通信アプリを巡るトラブル
他人の名前でアカウントを開設し、本人のふりをして悪質なコメントを書き込む「なりすまし」トラブルも多く見受けられます。投稿内容が名誉棄損、プライバシー侵害に該当する場合には、なりすましも当然違法な投稿となります。
無料通信アプリLINEアプリなどで暴言や中傷を受けた場合、個人やグループのやりとりは原則は「公然の場」とはいえないため、名誉毀損罪や侮辱罪に問うのは困難です。もっとも、グループの人数が20名を超えてくるようなケースやさらにそこから伝播していく蓋然性がある場合には名誉棄損に該当する可能性があります。
誹謗中傷を受けてしまったらどうすればいい?
証拠を保存する
今後の削除依頼や法的対応も想定して、投稿のURLやアドレスなどの情報を写真に撮って確実に残しておき、投稿内容の画面をスクリーンショットや動画で撮り、投稿の日時や内容を保存しておくことをおすすめします。
発信者に投稿の削除を依頼する
投稿した人物にDMやメールなどで連絡が取れる場合は、投稿の削除を求めてみるのも一つ方策とはなります。
しかし、発信者が削除に応じてくれない場合や、相手を刺激してかえって炎上してしまうリスクがあるため、慎重にやり取りする必要があります。
SNSや各サイトの運営会社に直接削除依頼をする
SNSやサイトの運営会社では投稿削除のガイドラインを定めているため、ガイドラインの内容に違反していることを主張して、問い合わせフォームや違反報告フォームから削除依頼することができます。
しかし投稿内容の違法性を判断するのは難しく、自分にとっては誹謗中傷でも客観的には認められないことも少なくありません。また、掲示板サイトなどでは一部削除申請を求めた内容自体が掲示板に投稿されてしまうサイトもあるため事前に確認が必要です。削除依頼の文面や頻度によってはスパムと認定され、削除依頼に応じてもらえないケースもあります。
発信者に対する法的措置を行う
上記の方法で解決しない場合、掲示板、SNSは匿名利用が多いことから、匿名の発信者の個人情報を特定して損害賠償請求を行うこともひとつの方法です。
誹謗中傷における損害賠償請求の流れ
1
SNSやサイトの運営会社へ発信者情報開示請求を行う
匿名の発信者を特定するためには、IPアドレス(インターネット接続の際に通信相手を識別するための番号)を知る必要があります。
IPアドレスがわかれば発信者が契約している通信会社を割り出すことができますが、個人情報に関わるため、運営会社が任意開示に応じるケースは少数です。
そのため、裁判所に発信者情報開示の仮処分を申し立てます。投稿内容が名誉棄損にあたるなど違法と評価された場合には、裁判所でIPアドレスの情報の開示を認める判断が出されます。
2
携帯キャリアなどの通信会社へ通信記録の保存請求を行う
IPアドレスが判明すると番号から発信者の利用した通信会社を特定可能です。もっとも、IPアドレスは投稿から約3〜6カ月で削除されてしまうケースが多いです。
そのため、IPアドレスから判明した通信会社に対して、通信記録の保存を請求する裁判手続きを行います。
3
通信会社へ発信者情報開示請求を行う
通信記録の保存とともに、通信会社に対して発信者情報(氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど)の開示請求を任意に請求します。
この時、通信会社から発信者には情報開示の申し立てがあったことが伝えられますが、発信者からは個人情報のため開示を拒否されることがほとんどです。
その場合、通信会社に対して発信者情報の開示を求める訴訟を行います。投稿が違法と認められれば、通信会社に対する訴訟において、発信者情報が開示されます。
そのうえで、発信者が特定できた後に、相手方に直接損害賠償請求の示談交渉または訴訟を起こします。
法改正により発信者情報開示請求の
手続きが簡略化されました
これまでは、インターネット上で誹謗中傷を行った加害者の情報を知るためには、SNSなどの運営会社と通信会社へそれぞれ裁判手続きを行う必要がありました。
しかし2022年10月1日、加害者の情報開示手続きを簡略化する「改正プロバイダー責任制限法」が施行されました。
これにより、SNSなどの運営会社に対して、一度の手続きでIPアドレスの開示命令、通信会社の情報の提供命令、IPアドレスの情報の保存命令(消去禁止命令)、開示がみとめられると通信会社への個人情報の開示命令が出るという新しい制度が創設され、発信者情報開示請求がスムーズに行えるようになりました。
誹謗中傷を受けた時はまず弁護士に相談を
どんな人物かわからない相手からの誹謗中傷は、精神的なダメージが大きいもの。「警察に捕まえてもらいたい」と考えるのも無理はありませんが、命に関わるような加害予告でない限り、匿名の発信者に対して警察が動けないケースも多いです。
また、加害者を特定するための発信者情報開示請求は裁判所を介して行うため、法律に関する専門知識が欠かせません。
さらに、発信者情報のカギとなるIPアドレスは投稿から3〜6カ月で削除されてしまうケースが多いため、対処が遅れると相手を特定できなくなってしまいます。
誹謗中傷の書き込みを見つけたら、できるだけ早く弁護士に相談するのが賢明です。
最近は「ネットの誹謗中傷や悪口を削除します」と宣伝する削除代行業者も増えていますが、弁護士以外の者による報酬を受領しての法律行為の交渉は違法であり(弁護士法第72条)、違法な業者によるトラブルも一定数あります。
「損害賠償請求までは考えていないが、悪意の書き込みを削除したい」という時も、まずは弁護士に相談してみましょう。
札幌弁護士会では、法律の専門家である弁護士が無料でご相談に応じる「法律相談センター」を開設しています。インターネット上の誹謗中傷トラブルをすみやかに解決するために、お電話または法律相談センター受付にてお気軽にお申し込みください。
提供/札幌弁護士会 企画制作/北海道新聞社営業局